七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 5話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 5話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」5話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 5話

「あらあら、このおもちゃはもう飽きましたか?」

 侍女の一人が、私がぽいっと投げたおもちゃを拾って持ってくる。一応握ってはみるものの、すぐにまたぽいっと投げた。そして、最近では簡単にできるようになった寝返りをし、うつ伏せになって手足を動かしてみる。手足はわしゃわしゃ動くだけで、一切前に進まない。

(うーん、ハイハイにはまだ遠く及ばずね……)

 ハイハイできるようになったら少し行動範囲が広がるだろうと思うのに、思ったようにハイハイにはならず苦戦中である。

(今日はママも忙しいみたいだし、お兄様たちも会いに来てくれないし、暇だわ)

 ママは今日お茶会を開いているらしい。主催側のようなのでバタバタして忙しく、朝見たきりで会えていない。少し不貞腐れた気持ちでうつ伏せのまま動かなくなっていると、侍女が心配顔で様子を窺ってきた。

「お嬢様、大人しくなってしまいましたねぇ。お眠……というわけではないようですし」
「……」
「少し気分転換にお散歩と言いたいところですが、まだ外出許可も出ていませんしねぇ」
「……」
「――あ、そうだ、こういうのはどうでしょう! お部屋をお散歩するというのは! お嬢様の部屋は広いので、いつもは入らない隣の衣裳部屋なんかも紹介しちゃいますよ! どうですか?」
「……えう!」
「行きますか!」
「えう!」

(衣裳部屋! 実は気になっていたの!)

 喃語で返事しながら、気分が急上昇した。
 私の行動が許可されている範囲は、ミリディアナの専用部屋だけだった。専用の部屋といっても、一番広いこの部屋と、その続き部屋にある専用バスルーム、そして他にも二つ続き部屋があり、それらをまとめてすべてが私の部屋らしい。私が生まれてからこれまでに、この部屋とバスルームだけしか行ったことがないため、侍女がよく服を持ってきたりする隣の続き部屋が気になっていたのだ。

「それでは、参りましょうかー」

 侍女は私を抱き上げ、芝居がかった咳をする。

「コホン、えー、では、まずはおなじみ、この部屋はメインルームですね。今はお嬢様のベッドがおいてあったり、おもちゃが置いてあったりします。お嬢様が口に入れたりして危ない小さなものなどは置かないようにしていますし、家具も今は少なめです。あ、でもこれなんか、お嬢様は初めてみるんじゃないですか?」

 侍女は説明しながら部屋を歩き回り、壁に花と蔦柄の綺麗な細工模様のある部分を指した。この侍女は説明相手が赤ちゃんだということをお構いなしに話す、侍女の中でもおしゃべり好きな子である。

「これなんだと思いますか? じゃじゃーん」

 細工模様の壁をこじ開けると、そこから大きな姿鏡が表れた。

「正解は、鏡でした!」

(鏡! この世界で初めて見た!)

「お嬢様は初めてみますよね! ほら、ここに写っているのは、お嬢様ですよー。なんてかわいいんでしょう!」
「う?」

 まじまじと自分を見る。侍女に抱かれたミリディアナが、こちらを見ていた。

(あれ? ママと同じ目、同じ髪色だ)

 まだ髪は短いが、虹色に輝く綺麗なプラチナシルバーに、オパールのように輝く緑瞳である。完全に母譲りだ。

(シオンお兄様の瞳だけママ譲りで、他のお兄様たちはパパ譲り金髪青目だから、私もてっきり金髪青目だと思ってた。それに私のお顔ったら本当にかわいいかも)

 兄たちや両親、侍女たちは、親バカというか身内バカというか、身内だからこそ可愛いと言ってくれていると理解していたが、それを抜きにしても可愛い顔をしていると思う。髪色や瞳だけでなく、顔も母似のように見える。

(もしかして、将来は絶世の美女!?)

 ニヤニヤと妄想が膨らんでいたところで、侍女は鏡の扉を閉めた。

「鏡はこのくらいにして、次に行きましょうか!」
「うぇっあぁぁ」

(え、ちょっと待って、もう少し鏡が見たいー)

 赤ん坊の難解な喃語を肯定と受け取ったらしい。侍女は問答無用で次へ案内する。

「はい、ここにはおもちゃがたくさん入っていますねー。これはいつも見てますから、説明はいいですよね。ではお隣のバスルームへいきましょう」

 バスルームには猫足が可愛い大きな湯舟が置いてあるが、普段私はそれを使っていない。まだ小さいうちは、ということだろうが、百センチほどの陶器の桶のようなものを湯舟替わりに使っている。驚くべきなのは、湯舟しかないのに部屋が広すぎることだ。

「お嬢様はまだこの浴槽は使ったことがないですよね。一人でお座りできるようになるまでは、まだ使用したらダメだそうです。これはいつもお嬢様に使っている石鹸です。いい匂いでしょう? この石鹸、赤ちゃんの肌質に合うという最高級石鹸なんですよ!」

(ほお、最高級とな。確かにムダにニオイがきつくないし、私も気に入ってますよ)

「ここも、これ以上は説明するところがないので、次のお部屋にいきましょう!」

 いよいよ衣裳部屋ですか!? とウキウキしていたところで、侍女はその部屋とは別の部屋の前へ行き、扉に手をかけた。

「衣裳部屋はもう少しお待ちいただいて、先にこちらの部屋を案内しますね。お嬢様はまだ使わないと思いますが」

 扉の先には、メインルームより少し小さな部屋に、キングサイズほどのベッドで、しかも可愛い装飾が付いてお姫様ベッドといえるようなものが存在感満載で鎮座していた。

(あれ? ベッドはメインルームにあるよね? 柵のあるベビーベッドだけど)

「はい、こちらはベッドルームです。このベッドは近い将来、お嬢様が寝るベッドですよ。今はまだ落ちたら危ないので、この部屋は使いませんが」

(なるほど、そういうことでしたか。でも大きすぎないかい? 大の大人が三人は寝れそうですけど)

「さて、次はお待ちかね! 衣裳部屋へ行きましょうか!」

(行きましょう! 行きましょう!)

 衣裳部屋へ入ると、そこにはずらりと小さな洋服が整理整頓されて並んでいた。本来であれば、大人の衣装が並べられるであろう、というサイズのクローゼットが壁際全てにあり、そのほとんどがすでに赤ちゃんの服でうまっていて空きがない。

(ちょっと待て。もしかしないでも、これ全て私の服!? 多すぎない!? どおりで、一日何回も着替えさせられるし、いつも見たことない服ばかり着せられると思った! まさか一度着た服は二度と着ないのだろうか……)

「可愛い服がいっぱいでしょう! あ、これなんて、お嬢様にとても似合いますね!」

 淡い紫の服をとり、私の前に合わせる。

「赤ちゃんが生まれてみると、女の子だったでしょう。奥様や旦那様が大喜びでたくさん服を買われたんですよ。今回も男の子だろう、とみなさま思っていたので、青色や緑色の服などが多く準備されていたんですが、全部総入れ替えしたんです」

 確かに六人も男の子ばかりとなれば、次も男の子だと思うのも仕方がない。
 部屋には大きな鏡や、もっと年を重ねてから使うのであろうと思われる化粧台などもある。

「そうそう、女の子と分かってからは、急いでお嬢さまのこの部屋も準備したんですよ。最初はエメル様の部屋の隣にお部屋が作られていたのですが、お嬢さまということであれば将来ドレスがたくさん必要ですし、こちらの部屋を修繕して、衣裳部屋も広く作られたんです。お嬢様が生まれたばかりの時は、まだこの部屋でなく、臨時でエメル様の隣の部屋にいたのですよ、覚えてますか? って、覚えてませんよねえ」

 衣裳部屋を広く、と言うが、この衣裳部屋、メインルームとほぼ広さ同じではないだろうか。そんなにドレスが必要なのか?

(私の衣裳部屋でこれだから、ママの衣裳部屋ってどうなってるんだろう……。ちょっと恐ろしい)

 何やら侍女がまだペラペラとおしゃべりしていたが、さすがに異常に部屋が広いこと、ドレスとかお茶会とか侍女とか、私がお嬢様ということとか、そろそろ置かれている状況の把握と整理がしたい、そんな気持ちを強く感じるのであった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。