七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 3話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 3話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」3話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 3話

 心地いい揺れが眠りを誘ってからどれくらい寝ていたのか、目が覚めた私は少しだけ顔を上げる。眠りについた時と同様、兄ジュードに抱かれたままであった。

(まだいたのね、ジュードお兄様ったら。訓練に行かなくて大丈夫なのかな)

 確か私がウトウトしていた時、ジュードは立ってゆっくり揺れながら私をあやしていたが、いまだに立ったまま揺れている。疲れないのだろうか。

「あうー」
「うん? 起きたかな、ミリィ」

 私は現在生まれて三か月。そろそろ首が座りそうではあるが、まだゆらゆらと不安定に頭が揺れて心もとない。少しだけ頭を上げて頑張ってみたものの、すぐにジュードの肩にコテっと頭を預けた。

「無理しなくていいよ、ミリィ。頭が重いなら、兄様に預けていなさい」

 ジュードは私の背中をポンポンとリズムを打ちながら、自身の頬を妹の頭にくっつけている。
 ジュードはかなり私を溺愛している。私が観察するに、兄弟の中ではジュードとエメルが特に妹にご執心だ。一番上の兄ディアルドとジュードは、何の訓練かは分からないが、いつも訓練場に出かけているのは知っている。しかし、ジュードはちょいちょい抜け出しては、私を愛でに来ているのだ。

「兄さま、ミリィは起きていますか」

 こっそりと部屋に入り、小さな声で発したのはエメルだ。エメルは普段家庭教師から勉強を学んでいるようだが、休憩になると私にいつも会いにやってくる。

「ちょうど起きたばかりだよ。抱っこする?」
「はい」
「じゃあ座ろうか」

 エメルは言葉遣いがとても丁寧だが、実は四才だ。椿の知っている四才とは違い、大人びた口調ではあるが、体格は四才のそれと大差ないため、いくら赤ん坊で小さい妹といえど、立ったままで抱くのは不安定で危ない。だからエメルの場合、いつも座っての抱っこである。

「今日も大きくなってますね、ミリィは。毎日の成長がすごいなぁ」
「そうだね。よく喃語を話すようになったし、さっき一生懸命頭を上げてたから、首が座るのももうすぐだと思うよ」
「楽しみです。僕、毎日どれだけミリィを見てても飽きないです。すっごく可愛くて、お兄様の気持ちが分かりました」
「うん? 俺の気持ち?」
「いつも僕をかわいいって言っていたでしょう?」
「今もかわいいって思ってるよ」

 ジュードはエメルも溺愛しているのだ。もし椿が生きていた日本であれば、スマホを片手に、弟と妹の写真を撮りまくっていただろう。

「それなんですけれど、僕も弟か妹ができたら、可愛いと思うのかな? って思ってました。けれどすぐに分かりました。ミリィが生まれてから、毎日かわいいって思う気持ちが大きくなっていくんです」

 エメルは私の頬にキスをする。

「僕、最近心配なことがあるんです」
「どうした?」
「こんなに可愛いミリィだから、みんなが欲しいって思うんじゃないかって。僕の妹なのに、僕から悪い人たちが奪っていくんじゃないかって」

(エメル、可愛いすぎるのはお前だ)

 内心、悶絶気味の私をよそに、ジュードが真剣に頷いている。

「わかるよ。うちの弟妹はみんなかわいいからね。誰もが欲しくなるのは、当然だ」

 兄バカだ。

「だけどね、エメル。心配は無用だよ。そんなときのために、兄様は剣術を訓練しているし、武術にも励んでいるからね。エメルもミリィも、俺が守るから任せなさい」

(ジュードお兄様、かっこいいこと言う! どうみても美少女にしか見えないから、お姉様って感じだけど!)

「……兄さまはかっこいいですね。僕、剣術苦手ですけれど、僕もミリィを守れるように強くなりたいです」
「エメルは妹思いの良い兄だね。エメルは努力家だから、その気持ちがあれば、剣の腕も強くなれるよ」
「はい! 頑張ります」

(なんて良い兄弟なの。うちの兄たちは)

 何とも和む時間だった。

 そして、さらに一か月後。私に事件が起きる。
 アルト、バルトの双子の兄が、妹をくすぐって遊んでいた。

「こんな赤ちゃんでも、くすぐるとこそばゆいんだな!」
「笑ってるじゃん! 面白いか、そうかー」

(や、やめて! 首とか脇とか、私弱いんだから! 面白いから笑っているんじゃないの! というか、こんな小さな赤ん坊にくすぐりはまだダメでしょ!)

 右脇をくすぐられて、そちらへ反応しながら笑う妹を見ると、笑いがつられるらしい。双子はクスクス笑いながら、さらにくすぐるという悪循環。

(そ、そろそろやめてくれないかしら、この悪ガキども……)

「なんだかミリィの顔、真っ赤になってない? そろそろ止めたら」

 双子の上から妹をのぞいて声をかけたのは、双子の兄のシオンだ。双子とは一つしか年が変わらないからか、双子にとっては兄というより友だちに近いように見える。

「あれま、本当だ」
「首と脇はもうやめておく? 足の裏ならどう」

(だから止めれって! このバカ双子!)

 さすがに妹が怒っていることを感知したのか、双子はそれ以上くすぐることはなかった。そして、シオンが私の脇をかかえ、立ち上がる。

「重くなったな。首が座ったことだし、少しは散歩に連れ出してもいいかな」
「さっき母上に同じこと聞いたら、まだダメだって言ってた」
「まだダメなのか」

 シオンは器用に片眉を上げる。
 私の兄たちは、父譲りの綺麗な金髪だ。ただ瞳の色は、シオンだけは母譲りのオパールのように輝く緑色である。他の兄たちは、父譲りの空色に近い青目だ。

 オパールのように輝く瞳を見るのが好きな私は、シオンの瞳をじっと見るのが趣味だった。兄弟の中ではシオンが一番パパ似で、椿の好みドストライクだったため、シオンの顔をガン見するのは日課となっていた。シオンは現在七才と幼いながらも、その鋭い瞳は将来アブナイ青年になってくれるのではないかと、期待大である。

(……イケメン)

 内心つぶやきながら、うっとりとシオンを眺めていた私は、シオンの言葉に固まった。

「いけめん? いけめんって何?」

 ――え? 今、何と?

 そんな内心の焦りはおくびにも出さず、私はきょとんとした表情をシオンに向ける。

「何いけめんって?」
「いや、今ミリィがそう言ったから」
「言ってないよ」
「言ったんだって」
「は? 赤ちゃんだよ、言えないよ」
「でも言ったし」
「……まさか心の声の話? 聴こえたの?」
「うん。ほら、ミリィ、もう一回『いけめん』って言ってみて」

 いやいやいや、そんな、この状況で言うわけないでしょう!
 私は必死に無心を心掛け、根性できょとん顔を貫いた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。