七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 2話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 2話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」2話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 2話

 ――いたい、イタイ、痛い!

 はっと私の目が覚めると、あたりは何やら騒々しかった。
 ここはどこだろう。周りに人の気配や話し声は感じているが、目がぼやけて誰が近くにいるのかが分からない。そして何より、体が全身痛いような気がする。自分の体ではないような感覚に涙が出てくる。

 実際に私は泣いていた。かなり大泣きの部類に入るだろう。
 それもそのはず、いきなり結婚式で撃たれたのだ。その時の初めての感覚、貫通した時の強烈な痛み。
 ここは病院なのだろうか、だったら早く痛み止めでも打ってくれないだろうか。そして寝てしまえば、この全身の痛みからは解放されるだろう。

 そうこうしているうちに、私はまた眠りについた。

 ――そして。

 私はただいま全身運動中である。というか、床に横になり手足をばたばたと動かしている。いや違うな、どちらかというと勝手に手足が動いてるというか。たぶんこれは赤ちゃん特有の反射の動きではないだろうか。

 そう、私は赤ちゃんになっていた。どうやら転生したらしい。
 椿としての人生は、あの結婚式で終わってしまったのだ。ウィタノスに撃たれて。

 あの時代に、一般市民が撃たれて死ぬなんてこと、なかなかないと思う。春貴には可哀そうなことした。まさか新婦が結婚式で死ぬなんて思ってもみなかっただろう。

 それに弟の蓮が最後に青い顔をしていたのを思い出す。もう慰めてあげられないから、どうにか自力で立ち直ってくれるといいのだけれど。

 あの結婚式にはいなかったが、実は姉の蘭がアメリカからリモートで結婚式に参加していたのだ。第一子を数日前に産んだばかりで、体調を考えて今回の結婚式はリモートでと前々から決めていたのだが、たぶんリモートで繋がっていたはずだから、やっぱり私の殺された瞬間は見られているだろう。

 両親はすでに亡くなっておらず近しい親戚もいなくて、唯一の肉親が三人の姉弟だったから、あんな死に際を見せてしまい、トラウマになっていなければいいと思う。どちらにしても、すでに生まれ変わった身としては、もうどうしようもない。

 転生してから一ヶ月が経とうとしていた。
 初めて目が覚めた時、椿が銃で胸を撃たれたから痛いのだと思っていたが、実は生まれたての体で初めて体を動かしたから痛いのだと後から気づいた。生まれてすぐは目がぼやけて何がなにやら分からず、誰が近くにいるのかも分からないので恐怖だったが、次第に目はクリアになっていき、今では普通に見えている。

「さ、お嬢様、おむつを替えましょうね」

 お仕着せ、つまりメイド服のようなものを着た侍女がニコニコしてやってくる。彼女は私専属の侍女の一人らしい。他にもよく見る顔の侍女が三人いる。

(おむつ……あああ、他人に下の世話をしてもらうなんて、恥ずかしすぎる)

 まだこの行いに慣れないのは、椿としての記憶や思考があるから仕方ないことだろう。そう、なぜか椿としての記憶があるのだ。普通、生まれ変わったら、そういうものはリセットされるものではないのだろうか。

 そして、もう一つ疑問がある。

(どうして言葉がわかるのだろう?)

 どうやらここは、日本ではない。侍女の顔や髪色などを見る限り、どう見ても外国の人だ。言葉も日本語ではなく、ましてや英語でもない。では何語なのかと聞かれれると分からないのだが、間違いなく知らない言葉であるにも関わらず、なぜか理解できる謎。

 とはいえ、言葉を聞いていても分からないものもある。固有名詞なんかがそう。例えば、「ダルディエ」という言葉を時々聞くのだが、最初は何なのか分からなかった。侍女たちの話を盗み聞いているうちに、それがこの家のことを指すことが分かったのだ。そうやって、なぜか理解できる言葉を利用して、いつも会話を盗み聞きするのが今の日課だ。

「ミリディアナちゃんはどう? 起きているかしら」
「奥様。起きておられますよ。とてもご機嫌でいらっしゃいます」

(――きゃー! でた! 麗しのママ!)

 手足をわしゃわしゃと動かしながら、歓喜を表してみる。椿、もといミリディアナは私の名前である。
 ママは優雅な動作で私を抱えると、女神のように微笑みながら私を見ている。なんて美人! こんな美しい人、見たことがない! 彼女が私の母親だと知った時は、こんな美女の娘に生まれるなんて、私のミリディアナとしての人生の運を、全てここで使い切ったのではないかと思ったものだ。

 ところがだ、まだまだこれは序の口、もっと私の琴線に触れる人が現われたのだが、とにかくママをどれだけ眺めても見飽きない。美人は三日で飽きるとか言ったバカは、どこのどいつだ?

 ママはすごく不思議な瞳をしている。色は緑なのだが、角度が変わるたびにキラキラと光るのだ。前世でオパールのペンダントを持っていたが、そのような輝きといえばわかってもらえるだろうか。
 髪の色も不思議で、全体的にプラチナシルバーであるが、光の加減で虹色に見える時がある。貝殻の光沢のように遊色がすごく綺麗で、前世ではあまり見たことないと思う。

「母上。ぼくの妹は元気にしていますか」
「ええ、さきほど起きたばかりのようですから、今なら抱っこできますよ」

 頬を上気させて小走りで近寄ってくる子供は、私の一番下の兄のエメルだ。私の手にエメルの指を近づけてきたので、ギュッとそれを握ってあげると嬉しそうにしてくれるから、こっちも嬉しくなる。

「抱っこしたいです」

 ママがそっと私をエメルに抱かせてあげる。エメルの頬は緩みっぱなしだ。

(うんうん、分かるよー。妹って可愛いよね! でもね、君もめちゃくちゃかわいいからね!?)

 私からすれば、エメルのほうがかわいい。だって、自分の顔って見ることができないから分からないのだ。

 バタン!

 バタバタと大きい足音を立てながら、誰かがこちらへ近づいてくる。その足音は複数だ。

「こら! シオン、アルト、バルト! ミリィがまだ寝てるかもしれないのだから、大きい音をたてるなと言っただろう!」
「朝なんだから、起きてるって! ほら! エメルがもう抱っこしてる! 次俺ね」
「あっ!」

 エメルから私を奪ったのは、エメルの上の兄で双子の一人、アルトだ。可哀そうに、エメルは小さな悲鳴だけ上げて、あとは兄にされるがままだ。うん、弟って、扱いぞんざいになるよね。

「まあ、アルト、ミリディアナちゃんはまだ赤ちゃんですから、もう少し優しく扱わないとダメですよ」
「もちろんですよ、母上。すごくすごく優しくします。次バルト抱っこする?」

 バルトはアルトの双子の弟だ。
 
「うん。はー、まだちっちゃいな。俺の妹はかわいい。あ! シオン、まだ抱っこしたばかりだったのに!」

 少し抱っこして、すぐ次の兄に奪われたバルトは抗議する。

「もう俺の番だよ」

 今、私を抱っこしているのはシオンだ。そしてシオンの横で妹を覗き込んでいるのは、その上の兄、ジュードだ。ジュードはどっからどう見てもママ似の超絶美人なのに、これで男とか言われてもなかなか信じられない。だけど、兄の中で一番厳しい発言が多いのは、美しい顔に似合わずジュードだったりする。先ほどシオン達が大きい音を立てたことを叱っていたのも、このジュードだ。

(あれ、もう一人いないな)

 もう一人兄がいるのだ。この家の子供は、兄が六人、妹が一人の計七人である。前世が日本人の私からすると、かなりの大家族だと思わずにはいられない。

「にぎやかだな。ミリィは起きてた?」

 最後の兄の登場だ。この家の長兄ディアルドである。ディアルドは妹の頬っぺたをなでまわし、ふっと笑う。

「この感触くせになるな」
「わかります。足の裏もなかなかいいですよ」

 兄たちにもみくちゃにされ、そろそろ解放してほしい、とうんざりしてきたところに、真打ち登場! である。娘の琴線触れまくりのパパだ。

「ディアルド、ジュード。もう訓練が始まる時間だろう。食事はしたのか」
「父上。はい、朝食は済みました」
「だったら、先に訓練場に向かいなさい。私も後で行く」
「はい」

 ディアルドとジュードは私の額にキスし、それそれ出かけていく。

「シオン、ミリディアナをこちらに」
「はい」

 シオンはパパに私を預ける。

(わーパパ、本当にかっこいい! めちゃくちゃ好み! いいな、ママ、こんなパパと結婚できて!)

 パパはミリディアナ、というより、椿の好みど真ん中である。
 パパは金髪に青目で、その瞳の鋭いこと! たいていの人は、その眼力にビビること間違いなし。眼力だけじゃない、なんというか、全体的に迫力のある強面なのだ。だけどすごく男前。

 これは私の偏見だが、どこか犯罪を顔色変えずにして涼しい顔してそうな、マフィアのドン! のようなイメージなのだ。もちろん、それはイメージなだけだが、椿のころに悪い男にばかり惹かれていた記憶がうずくんですよ。椿の好みドストライク!

「今日は三人は、午前は勉強か?」

 シオン、アルト、バルトは少し嫌そうな顔をしている。

「今日は家庭教師の日です。もう先生来てるのかな?」
「昨日から泊まってるって聞いたよ」
「俺、昨日の夜に見た」
「もう始まる時間ではないか? 準備にいったらどうだ」
「……はーい」

 しぶしぶ三人が部屋を出ていくと、やっと私の近くへ来れたエメルが妹の手をぎゅっと握ってくる。そんなエメルを微笑ましそうに、ママが頭を撫でた。

「ミリディアナがかわいいか?」
「はい、父上。ミリィは本当にかわいいです。ぼく、ずっと弟か妹が欲しかったから、本当にうれしいんです。父上、母上、ミリィをぼくにくれて、ありがとうございます」

 エメルは本当に素直で良い子だ。

 この家に生まれて一か月。まだ私の生活稼働区域は、今いるこの部屋だけという狭い範囲だけだが、すごく平和で安心できるところだということだけは分かった。
 この先どういった未来が待っているのか、たくさんの楽しみだけが私の胸を占めていた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。