七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 1話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 1話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」1話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 1話

 人生のクライマックスといえば、結婚式をその一つととらえる人もいるだろう。

 まさに今、私、椿はそのクライマックスの真っただ中だった。
 結婚式場のチャペルのバージンロードを歩いた後、神父に問いかけられている場面である。

「はい、誓います」

 新郎の春貴がそう答え、横にいる私にそっと笑いかける。
 ここにくるまで、紆余曲折あった。だからこそ、こういう日を迎えられたことに感慨深いものがある。

「……汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」

 神父の問いに、私もそう答える。声が震えるのは感動で泣きそうになっているからだ。
 そのまま流れで指輪交換をする。二人で選んだ指輪がお互いの左手薬指にあるのを見て、これから春貴と本当に家族になるのだと実感が沸いてくる。

 春貴とは幼なじみで、昔から家族のように連絡を取り合っていたものの、お互いに違う恋人がいたこともあり、家族のように仲がよいけれど家族になりえないものだと思っていた。だからこそこれから家族になるという現実に不思議だと思いつつも、すごく幸せだと心から思う。

「それでは誓いのキスを」

 春貴が私のベールを上げる。ゆっくりと春貴の顔が近づき、私が目を閉じた後、すぐに唇に暖かい感触があった。キスを受け、じっとしているが、疑問がふつふつと。

(……キス長くない?)

 どこか焦った気持ちで招待客がいない側の片目を開けると、どこかいたずらっぽい瞳をした春貴がこちらを見ている。

(ちょっと! わかってて長くキスしてるな!? 蓮もいるのに、恥ずかしいからやめて――)

 蓮は私の弟だ。家族にキスを見られるのは、結婚式とはいえど、恥ずかしいと感じるのは私だけだろうか。
 私の無言の抗議に観念したように、春貴は唇を離す。
 祝福の拍手が聞こえる中、「ごめん、恥ずかしがる椿がかわいくて」と小声で春貴が言うものだから、そういうセリフを言われ慣れていないので、さらに恥ずかしさが募る。それでも何はともあれ、幸せがすぎるというものだ。

 その時だった。チャペルの入り口の扉が音を立てて開いた。
 春貴や私、他の誰もが現状に似合わない音の方向に視線を向ける。

(ん? 次は結婚証明書にサインする場面じゃなかった?)

 退場はもう少し先だから、まだその扉が開くはずはないのだが。
 皆の視線の先、その開いた扉の前に一人、人が立っている。逆光で誰だか分からないが、靴の踵の音を大きく響かせながら、その人はゆっくりと前へ歩いている。

 すごく綺麗な女の人だった。細身で全身黒の上品なレースドレスが良く似合っている。

「椿の知っている人?」

 困惑気味な声で春貴が聞いてくるところを見ると、春貴の知人ではないらしい。
 私は首をふった。
 私の知人でもない。だから招待客でもないはずだが。

(知っている人ではない。……だけど)

 顔は知らないのだ。初めて見る顔だ。
 だが、どこか頭の奥でズキっと何かが響く。彼女を知らないはずなのに、何かが確実に警告を鳴らしている。

 ――あれはキケンだ。

「二九年ぶりね、カルフィノス。結婚おめでとう」

 鈴が鳴るような心地いい声とともに、女は微笑んだ。

 ああ、その声が恐ろしい。
 聞いたことのない声、だけどどこか懐かしい。

 さすがに彼女が招かれざる客だと気づいた式場のスタッフたちが、彼女に近づいていく。彼女は新郎新婦から目を離さないまま、スタッフに近づくな、とでもいうように、左手を彼らに向ける。その向けた手には、日本では馴染みのない銃が握られていた。

 どこか現実味のないその銃に戸惑って立ち止まったスタッフを見向きもせず、彼女は、さらにゆっくりと一歩、一歩と前へ進む。

「今回はなかなかあなたを見つけられなくて、こんなに時間がかかってしまったけれど、この日に間に合ってよかった」
「……ウィタノス」

 自然と私の口から声が出た。
 そう、思い出した。彼女はウィタノス、そして私はカルフィノス。
 それしか思い出せないが、それが二人の名前だということは分かる。

「思い出してくれたようね、よかったわ。これで終止符を打てる。ね、カルフィノス? また私の勝ち。これで八九戦八二勝六敗一引分よ」

 ウィタノスが高揚した顔で嬉しそうに微笑む。そしてスタッフに向いていた銃が、ゆっくりと私へ向けられる。

(そうか、私はまた殺されるのか)

 何も分からないのに、ストンと落ちるかのように納得できる事実。それを肯定するかのように、私の左胸に衝撃が響き、純白のドレスに赤いシミが広がっていく。

「椿!」

 崩れ行く私をとっさに支えた春貴は、どうにかしてその血を止めようと、必死に押さえている。どこか、それを遠くに感じながら、私はウィタノスに目を向けた。
 ウィタノスは銃口をウィタノス自身の頭に向けていた。これからウィタノス自身も死にゆこうとする行為だというのに、すごく幸せそうな表情。

 ウィタノスは銃声を鳴らす。その音さえ、すでに私の耳には入らないが、ウィタノスが倒れゆくのを見て、すでにもうウィタノスに息はないのだろうと察した。
 真っ青な顔で私の側に膝をつき、何かを言っている弟の蓮が視界に入るが、もう、声を出す力さえない。

 私の瞳から一筋の涙が流れ行き、私は瞳を閉じた。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。