七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編7話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編7話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」続編7話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編7話

 三尾を探し出してから三日後。私とカイルはダルディエ領へ向かっている。やはり道中雪が積もっていて、予定通りには進まなかったけれど、それを想定して早めに出発しているため、ダルディエ領には想定内の日程で付いた。一日は休憩する時間がありそうだ。二日後に国境を超える予定である。

「エラルド!」

 よたよたとゆっくり歩いてくる赤ん坊は、ディアルドの息子であるエラルドである。一歳になり、愛らしさ全開のエラルドを抱き上げる。赤ん坊の成長は早い。少し見ない間に、いつのまにか歩き出している。きゃっきゃと笑うエラルドが可愛い。

 ダルディエ邸で一日ゆっくりと休憩し、ザクラシアとの国境を跨いだ。国境のザクラシア王国側では、予定通りザクラシア王国から準備された最新の馬ソリが待っていた。私とカイル、両親とディアルドに別れて王都までの道を進む。

「本当に暖かいね」
「そうでしょう」

 外は雪が積もり、空からも雪がチラついているというのに、私もカイルも薄着にならないと暑い。着こんでいる護衛などを見ると、しっかり寒そうだから、やはりこれは恩恵の影響である。
 途中、宿に泊まりながらザクラシア王都の王宮へ入る。普通であれば三日後の式典までは国王に会えないものだが、私やカイル、両親やディアルドは先に国王シオンと会えることになっていた。

 かしこまる必要のない家族だけでシオンと会う。私はシオンに駆け寄った。

「シオン!」
「ミリィ」

 いつものように私を抱き上げて、頬にキスをくれる。私もキスを返して抱き着いた。

「会いたかった!」
「俺も」

 顔をあげるとパパとママとディアルドが近くに立っていた。そうだった、みんなも久しぶりのシオンである。一時間は話せるというので、お菓子とお茶を楽しみながら、近況を伝え合う。けれど、やはり忙しいのか、話すことができたのは一時間だけだった。

 私とカイルに用意された部屋で二人でくつろぎながら、口を開いた。

「やっぱりシオンは国王なのね。あんな忙しそうなシオン、見たことがないわ」
「式典前だから忙しいんだよ。きっとその合間にミリィと会う時間も作ってくれると思う」
「そうだといいのだけれど」

 カイルは私の膝に頭を乗せてソファーに寝転がっている。今日は他に何かが予定されているわけではないので、服が崩れてもいいのだ。カイルの髪の毛を触りながら、髪質が気持ちいいなと思う。

「この後、温泉にママと行くの。シオンが用意してくれて。男性用も使っていいって言っていたわ」
「俺はいいよ。一人でバスタブに浸かるのがちょうどいい。でもミリィとなら温泉に入ってもいいけれど」
「カイルとはもう一緒にお風呂に入りません。イタズラするもの」

 前に懇願されて一度だけ一緒に入ったことがあるが、もうあんな恥ずかしい目にはあいたくない。思い出しただけでも恥ずかしすぎる。

「ええー。そう言わず。あんなミリィをまた見たい」
「絶対駄目! あんなこと、ベッドだけにして!?」
「ベッドならたっぷりミリィを乱していいんだね。今日楽しみだなぁ」
「ち、違うの! そういう意味じゃないぃぃ」

 いつも口でもカイルに弄ばれている気がして悔しい。ベッドでもカイルに勝てるわけがなく、いつも体の芯までぐずぐずに甘くとろかされるのだ。
 結局、ママと温泉に入った後、思った通りカイルに甘く愛されるのだった。

 次の日、カイルと二人でザクラシアの王宮を高官に案内されていた。王宮には来賓が泊まる区画があるらしいが、私たちはシオンが特別にシオンたちに近い部屋を与えられていた。このあたりには、他の国外の王侯貴族もいない。幼い時に来た時は一部の部屋に閉じ込められていただけなので、ほとんど始めて見るところばかりである。調度品がどれもこれも金ピカで派手である。ただ歴史的な価値があるのは分かる。

「こちらの一階の外にはお出にならないでください。鍵がかかってはいますが、危険ですので」
「何が危険ですの?」
「番犬がおります」
「番犬? ああ、あれかしら」

 窓の外、少し離れた場所に犬がいる。それが、こちらを見るとトテトテとゆっくり歩いてくる。あれ、なんだろう。見たことがある。そうだ、以前ザクラシアに来たときに見た犬だ。そういえば、ネロが番犬だと言っていたな、と記憶を思い出す。
 私は窓の鍵を開けると、外に出た。

「あ! 危ないですよ!」

 異様に慌てた高官を無視する。

「おいで! 久しぶりね!」

 犬は尻尾をぶんぶん振って、私の手に頭を押し付ける。なでろ、ということだろう。うーん、可愛い。

「ええ!? どうなっている?」

 なぜかこちらに来ようとせず、恐怖と困惑を混ぜた様な顔の高官はカーテンに隠れている。カイルは私に近づいて首を傾げた。

「これが番犬?」

 カイルを見ると、犬が少しピリッとする。

「あ、駄目でしょう。ピリピリしては」

 犬はちらっとカイルを見て、私を見て、ピリピリを止める。

「うん、いい子ね」

 いつの間にか、犬が二匹増えて三匹になっていた。それぞれ撫でてやると、お腹を見せて喜んでいる。可愛い。これが本当に番犬をできているのだろうか。人懐っこすぎる。

「どうなっているの?」

 私の後ろではシャイロが頭を抱えていた。案内していた高官が呼んできたらしい。

「シャイロさま」
「ええ? おかしいな、何でそんなにミリディアナさまに服従しているのでしょう?」
「前から人懐っこい子たちよ?」
「そんなバカな。……前っていつですか?」
「わたくしが誘拐された時」
「ああ、あの時。……おかしいですね、私にも懐かないのに」
「シャイロさま、いじめてないですよね?」
「私の方がいじめられる側ですよ。とにかく、この窓を閉めさせていただけませんか? 危ないので」
「分かったわ。またね」

 犬にさよならすると、部屋に入る。シャイロは窓を閉めると、鍵を閉めて溜息をついた。

「疑問ばかりですが、とにかく、一階の窓は開けないでいただけますか。死人がでます」

 死人なんて大げさな。けれど、シャイロの顔が本気だったので、頷いておく。

「それにしても、どういうことでしょう。やはり規格外の兄がいれば、妹も同様なのか」

 なんだか失礼なことをブツブツ言っている。

「そういえば、明日の午前中に陛下の時間ができます。というか作ったのですけれどね、そこでミリディアナさまとお話されたいそうです」
「本当!? 嬉しい! 分かりました!」
「そこでたぶん……いや、見てもらった方が早いですね」

 シャイロが何かを言いかけて止める。なんだろう、あ、それより聞きたいことがあったのだ。

「シャイロさま、ここ一年どうですか。気温は」
「……ああ、そうですね、ミリディアナさまは知っているのでした。大丈夫ですよ、陛下が即位して、安定しています」

 シャイロが微笑んだので、ほっとする。前王ヴィラルの時は、年々下がっていたという温度。神の恩恵に頼って生きている国民から、暗君と揶揄されていたそうだ。シオンが即位して、その気温が下がることが止められたなら、シオンが少なくとも暗君とは言われないだろうと思うのだ。兄がそんな嫌な呼び名で陰口を叩かれるのは辛い。だから少しだけ安心した。

 次の日、シオンの約束の時間にカイルと部屋を訪問する。その時はシオンとカイルとの三人なので、私はシオンの膝に乗って話をしていた。少しカイルの目がジト目になっている気がするが、無視である。今はシオンに甘える時間なのだ。

「こっちで怪我とかしてないよね?」
「してない」
「危ないことは? 神と危険なやり取りをしていない?」
「まあ、大丈夫だろ」

 なんだ、その微妙な反応。気になるな。

「そうだ、実はシオンに贈り物があるのよ。あとで部屋に連れてくるわね」
「何?」
「さっき寝ていたから起こさなかったの。三尾でね、まだ赤ちゃんなの」
「……本当?」
「うん。シオンは三尾が好きでしょう。前にミリィのところに赤ちゃんの三尾がいるって話をしたでしょう。実は三尾っぽいな、って思っていた化石があってね。孵化したらやっぱり三尾だったの。一匹だけなんだけれど、可愛がってくれる?」

 シオンは私の頬にキスをする。喜んでくれているみたいだ。

「ありがとう。大事にする」
「うん。それでね、庭に犬がいるでしょう。番犬って言っている子たち。ちょっとピリピリするでしょう? 三尾と仲良くできるかしら。まだ赤ちゃんだし、いじめないでほしいの」
「ミリィ、もしかしてあの犬触った?」
「うん、昨日ね」
「……なるほどな。シャイロが変なことをブツブツ言っていたのは、それか。あれ、ミリィにはピリピリしないんだな?」
「うん。お腹見せてたよ。可愛いかった」
「あれを可愛いというのは、ミリィともう一人くらいだな」
「もう一人?」
「今後宮にいるやつ」
「後宮? それって、シオンの後宮?」
「まあ、そうなるな?」

 なんと! 後宮といえば、いわゆるハーレムではないか。えええ!? 驚きである。恋愛的な話があるのか? 話が聞きたい。シオンのそういった話は聞いたことがないので、少しニヤニヤしてしまう。

「それって、どういう……」
「何しているの!?」

 詳しく話を聞き出そうとしたとき、部屋の扉が開いて美少女が立っていた。十六才前後に見える。しかも私とママとティアママでしか見たことのない姿。私とは顔立ちは似ていないが、神髪神瞳である。そしてなんだか、気配に違和感がある。モニカといる時のような感覚。シオンはというと、その美少女を見て舌打ちした。おい、シオン、それは失礼すぎるぞ。
 美少女は私たちの目の前まで歩いてくると、怒りの形相で人差し指を私に向けた。

「私のシオンに何しているの!? 離れなさい!」
「ミリィは俺の妹だ」
「はぁあ!? 妹?」
「いいか、俺の妹に何かしてみろ。一生目を合わさない。口も利かない。いない者として扱う。一生好きになんてならない」
「な、な、なっ」

 美少女はわなわなと震えて、怒りで口も利けなくなっている。

「……シオン、もしかして、この子って神かしら」
「……分かるのか」
「モニカと似た感覚がするの」

 どんな感覚かと言われても説明しずらい。私にはモニカと違って、神の頃の記憶がない。ただモニカが神だと分かるように、この子からもそれを感じるのだ。そして、ザクラシア王国で神といえば、女神ザクラシア。モニカは名前は何と言っていただろうか。

「あ、そうだ。ザクラフィーだわ」

 怒りの形相の美少女が、私の言葉に反応した。怪訝そうに私を見ると、信じられないものを見たような顔をした。

「まさか、カルフィノス?」
「やっぱりそうなのね。ザクラフィーは遊戯中なの?」
「……そうよ。そういえば、ずっといないと思っていたけれど、カルフィノスも遊戯中なの?」
「そうなの。でもカルフィノスの記憶がなくて」
「ばかね、そういうことするのよ、あんたは」
「ウィタノスにも似たようなことを言われたわ」
「ウィタノス!? いるの!? どこ!? あいつ、ねちっこいから嫌いよ!」

 ねちっこい。何をしたんだ、モニカ。

「ここにはいないわ」
「そうなの!?」

 ふーと息を吐いている。

「あ、それより! どういうこと!? 私のシオンの妹なんて! いい加減離れたら!?」

 私とザクラフィーのやり取りを見守っていたシオンが、また舌打ちをする。私はシオンの耳に口を近づけて、こそこそとあることを言ってみた。
 そして、シオンが口を開く。

「……俺は妹を愛でないといけない病だ」
「はぁ!?」

 第三者として、成り行きを見ながら紅茶を飲んでいたカイルが、シオンの言葉を聞いて、ザクラフィーの大声と同時にむせた。

「俺は妹を愛でないといけない病だ」
「二度も言わんでいいわ! そんな病気があるわけないでしょう!」
「ある」
「あるのよ」
「そんなわけ……」
「ある」
「あるの」
「……」

 ザクラフィーは少し動揺と困惑を混ぜた顔で、成り行きを見ているだけの、見知らぬはずのカイルに顔を向けた。カイルは無表情で頷く。

「嘘でしょ!? 人間って、なんて不憫なの!?」
「そうでしょう。人間って大変なの。一人ひとり持っている病気が違うから。でもザクラフィーなら、シオンのために我慢できるのではなくて?」
「いや、私は……」
「たった数日よ。式典が終わったら、わたくし帰ってしまうもの」
「……」
「その数日の間に、シオンの病気を快復させなきゃいけないの。でも、妹だから、シオンにザクラフィーのいいところ、あとでシオンに教えておくわね。シオンが好きになってくれるかも?」
「し、仕方がないわね! ちょっとの間だけだから! いいこと、ちゃんと私をアピールしておくのよ!」

 ドアをバンと強く閉めてザクラフィーは去っていった。

「ミリィは神の記憶がないから、ザクラフィーのいいところなんて知らないのだけれど」

 しれっと言う私にシオンが笑う。

「俺は妹を愛でないといけない病だったのか」
「だって! あれじゃあ、せっかくのシオン補充時間が奪われちゃうもの!」
「まあ、似たようなものだな。その病気」

 シオンの言葉に、なぜかカイルが頷いている。

「でも、どうしてザクラフィーがいるの?」
「即位の時に神とのやり取りがある。最近はザクラフィーではなく双子の兄とやらが代理でいたはずなんだが、何を思ったのかザクラフィーが顔を出したんだ。そして懐かれた」
「懐かれた……」
「そこで交渉して、天恵でミリィとのやり取りができるようにしてもらったんだが、代わりにザクラフィーがこの世界に降りてきた」

 なんだか、すごいことになっている。

「ミリィとのやり取りのせいで、面倒なことになっているの?」
「いや。そういうわけではない。勝手に俺の妻になるとか言っているだけだ」
「妻! それで後宮なのね」
「煩い女だが、言い聞かせれば今みたいに聞くからな」
「……騙しやすいと?」
「そうとも言う」

 さっきの子供だましのような話を半分本気で信じたくらいだ。モニカも変な話を時々信じている時があるし、神って騙されやすいのだろうか。あれ、私も神だったな。つまり騙されやすい? いや、そんなことないよね?

「後宮にはどれくらい女の人がいるの?」
「ザクラフィーだけだな」
「ザクラフィーだけなの!?」

 後宮なのに。もっと女の人がいると思っていた。

「……ミリィはザクラフィーのこと覚えていないし、何とも言えないけれど。シオンがザクラフィーを嫌いでないなら、仲良くしてくれると嬉しいな。あの子、シオンが好きでしょう。きっと敵にはならないと思うの。ザクラシアにはシオンの味方がどれくらいいるのか分からないし、ミリィも近くにいないから。シオンが一人にならないか心配なの」
「……だから三尾を連れてきてくれたのか」
「うん。シオン寂しいでしょう。もっとザクラシアが近かったらよかったなぁ。そしたら、ミリィが会いに行けるのに」

 シオンの頬に頬を付ける。シオンはあまり本音を口にしないけれど、家族も近くにいないシオンが、まったく寂しくないはずがないのだ。

「……味方はいるから心配するな。ミリィの言うとおり、ザクラフィーとも仲良くなれるよう努力する」
「無理して仲良くしてと言っているのではないからね」
「俺が無理に仲良くすると思うか?」
「……思わない」
「そうだろう」

 そうだった、シオンは嫌なことはしない人だった。でも気が向いたらザクラフィーと仲良くしてくれるということだ。シオンの周りに味方が増えると嬉しい。シオンが寂しい思いをしないでくれるといい。

 それからたっぷりシオンと話をして、いっぱい抱きしめてもらって、その日は別れた。明日は式典に参加するのである。
 その日の夜。カイルとベッドに入りながら、ふとカイルに質問をしてみた。

「カイルは第二皇太子妃を迎える?」
「は!?」

 グラルスティール帝国の皇族のみは、第三皇妃まで迎えることができるのである。世継ぎ問題があるからね。まあ政治的な話も絡むだろうが。カイルの父であるルイパパは、カイルの本当の母であるメナルティを第二皇妃として迎えている。ちなみに、貴族は一夫一妻制だ。私と結婚する前、カイルは私以外に妃を迎えないとは言っていたけれど、それはあの時の話である。やはり情勢が変われば、話は変わってくると思うのだ。

「もしそうなら、ミリィも覚悟が必要だし、早めに言ってね」
「迎えないよ! 何で急にそんな話!? 誰かに何か言われたの? 誰? 帰ったら、そいつの息の根を止めてやる」
「違うわ。今日シオンと後宮の話をして、皇族はそういえば三人まで妻を迎えることができたなって思い出したの」
「俺はミリィ以外いらないよ! 他の女性に興味があるように見えた!?」
「ううん。見えないけれど」
「いい、俺の妃はミリィだけだからね。他にはいらない。ミリィ以外に興味もない」
「うん」

 急に変なことを言い出した私をカイルは心配そうに見ている。そんなカイルに心配かけさせてはいけないと、私は笑ってカイルの口にキスをした。

「お休み、カイル」
「……お休み、ミリィ」

 私は別にカイルの浮気とかを心配しているわけではない。カイルからは愛情を感じるし、カイルの言う通り、私にしか興味はないのも分かる。けれど、周りはどうだろうか。カイルは立場がある。本人がいらぬと言っても、どうしようもない時もあるのだ。

 寝る前に変なことを考えてしまった。少しもやもやとする頭に残るその考えを、無理やり外に出す。明日はシオンの大事な式典なのだ。寝不足で出席するわけにはいかない。私は目を瞑るのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。