七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編6話 カイル視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編6話 カイル視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」続編6話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編6話 カイル視点

 式典出席のためにザクラシア王国へ出発する予定の三日前、ミリィが急きょ出かけたいと言い出した。目的は三尾の卵探しである。その探したい理由を聞き、カイルはミリィを馬の前に乗せ、変装した護衛と影を連れて帝都郊外の山の中へやってきていた。カイルとミリィもカツラと眼鏡で変装をしている。

「この先だと思う」

 ミリィが山の茂みの奥を指す。さすがに馬は入れないので、そこで馬を降り、歩いてミリィが指し示す場所へ移動する。少し雪が積もっているので、ミリィが転ばぬよう手で支えながら歩いていると、ミリィの足が止まった。

「これだわ!」

 それは卵型の岩だった。ミリィが動物遣いという天恵を持つと知ってから、一度三尾の卵を探しに行ったことがある。その時に見つけた卵と同じくらいの大きさである。

「この大きさなら、ルルとネネの時と同じで三尾かもしれないね」
「ミリィもそう思うわ」

 卵から何が生まれるのか、判断するには今のところは卵の大きさで予測するしかないらしい。前回探しに行った時の卵から生まれたのは、三尾のルルとネネだった。ミリィはその時、猫のナナの時と大きさが同じくらいだと言っていたから、猫かもしれないと言っていたが、実際は三尾だった。

「孵化するわね」
「いいよ」

 ミリィが卵に触ると、外側のゴツゴツとした岩くずがポロポロと取れだし、滑らかな卵が現れる。そして卵にヒビが入り、中から出てきたものは。

「わぁぁ! 可愛い!」

 三つの尻尾を持つ犬っころが現れた。狼の三尾である。まだ目が開いていない。ミリィは歓喜の表情で三尾を抱き上げる。

「可愛いー! 可愛いー!」

 ミリィはメロメロである。

「良かったね、目当ての三尾で」
「うん! これはシオンが喜ぶわ!」

 この三尾はシオンの贈り物にする予定なのだ。ミリィは一人ザクラシア王国にいるシオンがずっと気になっていて、シオンが少しでも寂しくないように、三尾を贈りたいと言い出したのだ。ミリィの願いは叶えてあげたいので、急きょではあるが、今日こうして探しにやってきたのである。

「カイル、探しに連れてきてくれて、ありがとう!」
「どういたしまして。ミリィが喜んでくれて嬉しいよ」
「さっそく、ご飯をあげなきゃ」
「そうだね、ここは寒いし、移動しようか」

 卵がある場所についてはミリィが予測していたので、実は近くの宿を予約してある。泊りはしないが、体を一度温める必要があるし、ミリィが三尾に食事もさせたいと言っていたからだ。

 馬を止めているところまで戻り、馬に乗って宿へ移動する。予定通りの宿の部屋に入ると、先に入っていたカナンが待っていた。

「お帰りなさいませ、妃殿下。三尾でしたか?」
「三尾だったわ! 見て、カナン。可愛いでしょう!」

 カナンは三尾を見てふっと笑う。

「すぐに三尾の食事を用意します」
「ありがとう!」

 手際よくカナンが三尾の食事を準備する。そしてカナンはミリィから三尾を受け取った。

「三尾には私が食べさせますから、妃殿下はすぐに暖炉の前へ。お茶とお菓子を準備していますから、温まりながらゆっくりしてください」
「ええ? ミリィが三尾の食事を……」
「駄目です。風邪を引いてしまいますから、今すぐに暖炉の前へ」
「……はぁい」

 カナン強い。ミリィはしぶしぶ暖炉の前へ移動する。カイルも一緒に移動し、暖炉の前の椅子に座る。

「すぐに見つかってよかったわ。確かにカナンの言う通り、風邪を引いてしまったらザクラシアへ行けなくなるものね」
「そうだね。ミリィ、お菓子より先に紅茶を飲んで温まって」

 お菓子好きなミリィがさっそくお菓子ばかり食べるので、温かい飲み物の存在を思い出させる。ミリィは慌てて紅茶を飲みだした。

 それからゆっくりと休んで人心地つき、ミリィの膝の上では、食事を済ませた三尾が寝ている。ミリィが三尾を優しい目をしながら撫でていた。そんなミリィの肩を抱き寄せてミリィを見ていたカイルは、ミリィが顔を上げて次に発した言葉にギョッとした。

「カイルはザクラシア王になりたいと思ったりする?」
「思わないよ!? どうして急にそんなことを!?」

 てっきり三尾のことを考えていると思っていたので驚く。

「カイルも神瞳だもの。シオンが王になったように、カイルもザクラシアなら王になることはできるでしょう?」
「……俺はザクラシア王になりたいと思わないよ。我が国の皇太子というだけで精一杯だ」
「本当?」
「本当。俺はこの国の皇太子で、ミリィは俺の妃。これが変わることはないよ」
「……うん」

 少しほっとした顔で笑顔を向けるミリィ。カイルはそんなミリィの口に軽くキスをすると、ミリィを抱きしめた。

 ミリィのこういう質問は、今に始まったことではない。結婚してから、時々、カイルがドキっとする質問をしてくるのだ。「お腹が痛いことはない?」や「体でどこか痛いところはない?」という体調に関する質問から、「馬から落ちたら危ないから受け身を取る練習をしてる?」や「階段で後ろから押されたら危ないから、二歩に一度は後ろを振り返ってる?」という謎の質問、今日のように「ザクラシア王になりたい?」や「皇太子を辞めたい?」というものまで。

 果てには「死にたいと思う?」と聞かれ、そんなわけないだろうと、その質問にちょっと泣きそうになったが、ミリィの質問に一貫性がなく、最初はなぜそんな質問をするのかよく分からなかった。だが、やっと最近分かってきた。要は、カイルがミリィから離れないかが不安なのだ。死やそれ以外の理由で、カイルがミリィの傍からいなくなる要素を見つけてきては、カイルが離れたりしないか確認しているのである。

 カイルがミリィから離れるわけがないのに。やっと手に入れたミリィを生涯手放しはしない。けれど、確かに病気や怪我、事故、またカイルは暗殺などにも、注意を向けなければならないことはある。ミリィが不安がるといけないから、カイルはミリィのためにも自分を大事にしなければならないと改めて思う。年をとって孫ができるまで、元気で過ごしてミリィを隣でずっと見ていきたい。

「ミリィ、俺はミリィの傍にずっといる。俺がおじいちゃんになってミリィがおばあちゃんになるまで。絶対に離さないからね」
「……うん。ずっと一緒にいてね。約束よ」
「うん。約束する」

 これからもミリィは不安を見つけてきては質問をするのだろう。カイルはそんなミリィが愛しい。でも不安にさせたいわけではないから、ずっと一緒にいるのだと、何度も伝えようと思うのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。