七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編5話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編5話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」続編5話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編5話

 冬のグラルスティール帝国の帝都でも雪は降る。ダルティエ領とまでは言わないけれど、三センチ程度であれば積もることがある。そんな雪が積もっているある日、私は暖炉の前で三尾のルルとネネ、そして猫のナナとゆったりとくつろいでいた。数か月前に拾ってきた三尾の卵から孵したルルとネネは、少しだけ大きくなっているが、まだ子供でやんちゃ盛りである。おもちゃを転がして飛び跳ねていた。

「もうそのおもちゃもボロボロね。新調したほうがよさそうだわ」

 ルルとネネが口ですぐにおもちゃを引っ張り合いするので、あっという間にボロボロになるのだ。

「明日、ジュードさまをお呼びしますか?」
「そうね。別件もあるし、日程の調整をシシィにお願いしてくれる?」
「かしこまりました」
「あと、カナンももう下がっていいのよ。カイルを待つ必要はないわ。今日もありがとう」
「はい。では失礼します」

 侍女のカナンを下がらせる。カイルは緊急で皇太子宮を出ており、いつ帰ってくるのか分からない。床に敷いたモフモフのカーペットの上で横になり、ナナを撫でる。ナナは大きな欠伸をして、私が撫でるのを気持ちよさそうにしていた。

「ごめん、遅くなったね」

 カイルが部屋に戻ってきた。私は起き上がる。

「お帰りなさい。思ったより早かったのね。もう大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。というか俺が出るまでもなかった。騒ぎすぎだ」

 不機嫌な顔をしているカイルは、私の口にキスをする。

「唇が冷たい。風邪ひく前に早く温まらないと。お風呂に入ってきた方がいいわ」
「そうだね、すぐに入ってくるから、待ってて」

 カイルは部屋を出ていく。

 最近とある貴族の一族と別の貴族の一族が揉め事を起こしているのだが、その関係で今日の夕方、皇宮内で騒ぎがあったらしい。本来ならカイルが出る幕ではないのだが、家格が上同士の争いで、止める者が躊躇するわけなのだ。明日は休みなカイルが手早く今日の仕事を終わらせたのに、その後に起きた事件である。カイルが不機嫌なのも仕方がないだろう。

 カイルがお風呂から上がってきてソファーに座る。私はカイルの後ろへ移動し、カイルの髪の毛をタオルでふいてあげる。お風呂で温まってきたようで、体がホカホカしていた。

「明日は休めそう?」
「絶対休む。午後からのミリィとお忍びの予定を邪魔させはしない」
「ふふ、よかった」

 私も楽しみにしていたお忍びデートである。カイルと結婚してから十か月が経過していた。カイルも私も顔が割れているので、デートはもっぱらお忍びである。

「髪はもういいよ。こっちにおいで」
「うん」

 カイルの前に回ると、カイルの膝に座った。さっそくカイルは口づけをしてくる。カイルが満足するまでしばらく口づけに応える。そしてやっと口を離した。

「ああ、やっと人心地ついたな」
「今日もお疲れ様、カイル」

 カイルの固めていない髪を触る。そして目をじっと見ていると、暖炉の光に反射してキラキラと光って見える。

「やっぱりカイルの瞳は綺麗ね」
「ミリィだって同じ瞳でしょう。すごく綺麗だ」

 お互いを褒め合ってしまい、一緒に笑う。カイルも私も緑色の神瞳なので、宝石のようにキラキラと光るのだ。

「あと十日で出発ね。今年はダルディエ領までの道は雪がすごいって聞いているわ」
「そうだね。ミリィは必ず厚着をするんだよ」
「うん。でも途中から薄着も必要よ。ザクラシアへ行ったら、ミリィもカイルも少し暑く感じると思うわ」

 実はもうすぐザクラシア王国へ、グラルスティール帝国の皇太子夫妻として向かうことになっている。シオンがザクラシア王となって、もうすぐ一年。式典があるとのことで、各国の王侯貴族も招かれている。その招かれている者たちは、普通はザクラシア王国では寒いのだが、私とカイルは母たちがザクラシアの王族で、特別性の恩恵を持ち、それが遺伝されている。なので、ザクラシア王国では、薄着でも温かく感じるのだ。

「ミリィは以前に恩恵を体験しているのだったね」
「そうなの。カイルは初めてでしょう。思ったより暖かくてびっくりすると思うわ」

 今回はダルディエ領の国境まで行き、そこから国境を超えると、ザクラシア王国の迎えが待っていることになっている。ちなみに、ダルディエ家からは両親と兄代表でディアルドが参加する。ママもディアルドも恩恵の影響がある人たちだ。

「きっと前回みたいにパパだけ寒い思いをするのよ。可哀そうだわ」
「前回は急いで旅支度をしたから大変だったのではないかな。今回は準備をする時間もあるし、ザクラシアから恩恵のない人用の馬ソリも出すって聞いているよ。きっと暖かい仕様になっているはずだと思う」
「そうなの? だったら安心ね。前回はミリィがパパの湯たんぽになったのよ。でも今回は馬ソリが一緒ではないだろうし、どうしようと思っていたの」

 あんなにプルプル震えるパパは可哀そうすぎる。

 それから明日のお忍びデートの話を少しして、三尾の二匹とナナを部屋の外へ出す。それからベッドに向かうと、寝間着を着ていた私をカイルは脱がせだした。明日は午前中は部屋でゆっくりの予定だから、これから互いを求めあうのである。

 カイルは口づけをして、また口を離す。

「ミリィ、ザクラシアでは少しの間でも俺から離れては駄目だよ」
「どうして?」
「ミリィはすごく可愛いから。ミリィは自分がもっと魅力的だってことを理解していないと駄目だよ。ザクラシア王国では、他国の人たちが大勢集まる。みんな俺のミリィを欲しがるに決まっているんだ。だから俺から離れるのは禁止だからね」
「ミリィよりも、カイルの方が魅力的だと思うのだけれど」
「ありがとう。だけど、気にするところはそこじゃない。俺から離れるのは禁止。分かった?」
「分かったわ」
「いい子だね」

 それからカイルと甘い夜を過ごすのだった。

 その次の日。のんびりと遅くに起き出した私たちは、昼過ぎから予定通り変装してデートに出かけた。二人共蜂蜜色のカツラを装着し、眼鏡をかける。恰好はちょっと裕福な商家の夫婦をイメージしたお忍び服である。デートとして向かったのは植物園である。巨大な温室の建物で、夫婦や恋人たちの定番デートスポットだ。風邪を引くといけないからと、室内であるここでデートをすることになったのだが、帝都にあるのに実は私は初めて訪れる場所だったので楽しみだった。

 植物園はダルディエ邸にある温室とは違い、いろんな国の植物を国ごとに分けた区画があり、珍しい植物が多い。カイルと手を繋ぎながら、楽しく見学をする。また、ある囲いの中には、鳥が放し飼いになっており、そこにも珍しい鳥が多くいた。水の上を進む鳥がたくさんいる区画でカイルと鳥を見ていたところ、だんだんと鳥が集まってくるではないか。

「……ミリィを見ているね」
「……うん。つ、次に行こう!」

 その場を早々に離れた。近くにいる鳥や動物にじーと見られることはあるが、こんなに集まってくる現象は初めてで、ちょっとだけ怖かった。これも動物遣いの力だろうか。気づかなかったことにしよう。

 それからまた植物園をうろついていると、小さな男の子が泣いてウロウロしているのに気づく。明らかに国外の子供で、泣きながら叫んでいる言葉も国外のものだった。カイルと顔を見合わせ、その男の子に近づく。

「どうしたの? 迷子かしら?」

 男の子は私の言葉に気づくと、スカートに抱き着いてきた。

「パパと姉さまがいないの! 二人共迷子になっちゃった!」

 迷子は君ではなくパパと姉の方なのか。その言葉が可愛くて笑ってしまいそうになりながら、カイルを見た。

「この子、パパとお姉さまとはぐれたみたい。カイルはこの子の言葉がどこの国のか分かる?」
「いや。でもウェルド王国よりさらに南の国の言葉だろうね。ちょっと俺ではどこの国かまでは分からないな」

 私はどこの国の言葉でも分かる能力があるけれど、さすがに初めて聞く言語だと、聞けるし話せるけれど、私も国名までは分からない。

「カイル、一緒に捜してあげたいのだけれど、いいかしら」
「いいよ」

 カイルが笑みを浮かべる。

「私たちも一緒にパパとお姉さまを捜してあげるわ。だから泣かないで」
「ほ、ほんとう?」
「ええ」

 少しほっとした表情の男の子を、カイルは抱き上げて肩車をした。そして男の子の両手をカイルが手で支えてあげる。

「あら、いいわね! これなら、高いところからパパとお姉さまを捜せるわ!」
「う、うん!」

 笑って言うと、男の子からも笑みが返ってくる。それから男の子の家族捜しを始める。この植物園はなかなか広いので捜すのは大変かと思っていたけれど、しばらくすると必死に男の子を捜していた男の子の父と姉が見つかり、男の子は笑顔で去っていった。後に、その男の子の父が、とある国の外交官で皇太子妃として会うことになるのだが、それはまた別の話である。

 そしてまたデートを再開し、夕方前に場所を植物園から移動する。そしてちょうど夕焼けが沈みそうな時間。帝都の端にある丘の上でカイルと夕日が沈むのを見ていた。

「素敵! ここは帝都が一望できるのね。夕日が帝都をさらに綺麗にしているわ」
「この丘は皇室の持ち物だからね。夕日も帝都の景色も独り占めできるんだ」
「贅沢な光景だわ。こんな素敵なところに連れてきてくれてありがとう」
「ミリィが喜ぶなら、また連れてくるからね」

 私が風邪をひかないようにと、外套を追加され、外套ごとカイルが私を抱き寄せる。陽が沈むのを眺めながら、カイルとこんなに綺麗な光景を一緒に見れることに、幸せを噛みしめるのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。