七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編3話 カイル視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編3話 カイル視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」続編3話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 続編3話 カイル視点

 カイルとミリィの結婚から三か月が経過した。

 結婚後もカイルの朝は早い。日の出とともに目が覚めると、ミリィが同じタイミングで起きる気配がする。どうやらミリィは、隣で寝ている人の起きるタイミングで一緒に起きる習慣ができているらしい。今までどの兄と寝ても、兄は違えど兄と同じタイミングで目が覚めると言っていたからだ。とはいえ、カイルと同じ時間に起きても早すぎると思うのだが、近くに誰もいないと眠れないミリィは一緒に起きるのである。

 寝起きのミリィは可愛い。ぽやっとした幼さの残る表情でカイルを見てくる。その愛らしい口に口づけをすると、だんだんと覚醒したミリィが笑うのだ。

「おはよう、カイル」
「おはよう、ミリィ」

 この後、カイルは剣の訓練や体を動かすために近くの訓練場へ向かう。ミリィは着替えて、部屋で柔軟をしたり筋トレしたりするらしい。幼いころから体が強くないミリィは、こうやって体を動かして元気を保とうとしているという。いつも思うが、ミリィは努力家である。

 カイルが訓練場から戻り着替えると、ちょうどドレスに着替えたミリィが同じ時間にやってくるので、一緒に朝食をする。

「今日はディアルドが会いに来てくれる予定なの。カイルも一緒に会う?」
「いや、俺はその時間会議があるから。ミリィはディアルドと楽しむといいよ」

 相変わらず、ミリィの兄たちは、それぞれがミリィに会いにやってくる。それはもう、結婚前と変わらぬ溺愛ぶりである。その兄たちは、いまだカイルを見ると嫌そうな顔をする。まだまだ妹を奪った男という枠から外されておらず、ミリィに分からないように嫌味を言われることも多々ある。まあ、さらっと流すけれども。

 兄だけではない。元トウエイワイド帝国の皇女で、ラウ公爵の令息ルーカスの夫人であるモニカなんかも、よくミリィに会いに来ては、カイルを見ると早くどこかへ行け、ミリィとの時間を邪魔するな、という視線を投げてくる。よく考えれば、元はモニカはミリィの命を狙っていたはずなのに、正直納得いかないが、ミリィがモニカと仲が良いため何も言えない。

 別のある日、カイルの執務室にやってきたミリィは、カイルに笑いかけただけで部屋をキョロキョロと見渡している。

「エメルー」

 立っていたエメルに近づくと、エメルに抱き着いた。どうしてエメルに行くんだ? ミリィの後ろからやってきた、ミリィの側近シシィが困惑顔でミリィを見ている。

「どうしました?」
「もう限界なの。ちょっとだけ、ソファーに付き合って?」
「いいですけれど……眠いのですね?」

 書類を持ったままのエメルはソファーに座ると、エメルの膝と膝の間にミリィは座った。そして後ろを向いてエメルに抱き着くと、目を瞑る。

「……どうしてエメルなんだ?」
「カイルはお仕事でしょ……」

 すぐにミリィの寝息が聞こえだす。
 エメルがシシィを向いて口を開く。

「シシィ、ミリィのこの後の予定は何ですか?」
「あと四十分ほどしたら、皇妃陛下のお茶会へ出かける予定です」
「わかりました。シシィは準備だけお願いします。三十分ほど寝かせますので」

 シシィは頷くと、ミリィの執務室へ戻っていく。
 カイルはシシィからエメルに視線を移すと、エメルが疑いの目をカイルに向けているのに気づく。

「なんだ?」
「ちゃんと夜、ミリィを寝かせていますか?」
「……」
「まさかカイルさまの体力に合わせて、ミリィに付き合わせていませんよね?」
「……加減している」

 昨日だって、かなり加減したつもりだったが。エメルの目が痛い。

「ではさらに加減してください。いいですか、ミリィはこんなに体が小さいのですよ。小さいころに比べて強くなったとはいえ、せっかく今のところ元気で結婚生活を送っているのに、今に体調を崩します」
「……分かった、気を付ける」

 と、ミリィの兄に睨まれては、こう答えるしかない。だがミリィの寝顔を見ていると、確かに疲れが見えるかもしれない。もう少し加減しようと反省する。

 その日の夜、ちゃんと反省して今日は寝るだけにしようとベッドでミリィと横になると、ミリィが不思議そうな顔をしている。

「……今日はミリィが眠そうだったから、止めておこうかと思って」
「そうなの? じゃあ、キスだけしてくれる?」

 なんだ、この可愛い生き物は。もちろん喜んで口づけするのだが、あまり深くキスをすると、その先も求めてしまいそうになる。

「もう寝ようか。これ以上は止められなくなるから」
「ふふふ、そうね。お休み、カイル」

 ミリィはカイルの頬にキスをすると、いつものようにすぐに寝入った。その寝顔が可愛らしく、いつまでも見ることができる。

 結婚する前、それもダルディエ邸に出禁になる前は、ときどきダルディエ邸へ行ってミリィと寝て寝顔を見るのが楽しみだった。いつか毎日この寝顔を見ることができることを願っていたが、その願いが叶った今、毎日どれだけ見ていても飽きない。それどころか、日々ミリィへの愛しさが増していくのである。

 そっとミリィの頬に手をやると、ミリィは無意識にカイルの手に顔をすり寄せる。その仕草に愛しさが溢れる。カイルはそっとミリィを抱きしめた。やっと手に入れたこの愛しい存在を、絶対に離しはしないと改めて思うのだった。

 別のある日。順調に執務が進み、少しだけミリィと一緒にいれる時間ができたと思ってミリィの執務室へやってきたカイルは、バルトの膝に乗るミリィからにこやかな笑顔を向けられた。少し離れた場所で、シシィがなぜかバルトを変なものを見る目つきで見ている。

「これはこれは、カイルさま。ごきげんよう」
「バルト。今日は来る予定だったかな」
「予定はなくても、妹に会いに来るのは何も問題ないですよね。ね、ミリィ」
「うん!」

 ミリィは嬉しそうにバルトの頬にキスをしている。

「バルトにお願いしたいことがあったの!」
「何? 何でも言って」

 ミリィがバルトの耳にこそこそと話をすると、バルトは、はははと笑って答える。

「そんなの、お安い御用だよ。たくさん買って送ってあげる」
「ありがとう!」

 なぜ聞こえないように話をする? 少しむっとしながら口を開く。

「……なんです? ミリィ、欲しいものがあるのなら、俺が買ってあげるのに」
「ええ? うーん、皇室の予算で買うのはちょっと……ミリィはバルトに買ってもらうからいいの」
「どうして? 少しくらい高価なものでもいいんだよ」
「高くはないけれど……」

 ミリィはちらっとシシィを見て、言えない、という表情をする。気になるではないか。

「カイルさまは気にしなくていいですよ。昔から俺やアルトが買ってあげていたものですし。今度から定期的に送ってあげるよ」
「本当!? 嬉しい!」

 ミリィは自身の頬をバルトの頬に付ける。何をそんなに喜ぶものなんだ? お菓子か? ミリィはカイルにほとんど物をねだったりしない。するとすれば、お菓子が多いのだが、それ以外にミリィが欲しがるものとは。考えれば考えるほど分からなくて悔しい。

 それからもバルトは居座り続け、結局カイルはミリィと二人で時間を過ごすことができなかった。

 その日の夜、何をバルトにお願いしたのか聞くと、まさかの恋愛本だった。

「せっかくミリィ専用の図書室があるのだもの。好きな本で埋め尽くしたくて」

 そうだった。ミリィはああいう本が好きなのだった。しかし恋愛本は人気があるわりには、普通は隠れて読むような本なのである。あの場にシシィがいたので、口に出せなかったのだと理解はするが。なぜバルトには頼めて、俺には頼んでくれないんだ。

「だって、ここで買ったものって、あとで財務部に見られちゃうでしょう? 皇太子妃があんなの読んでる! って噂になっても困るもの。バルトやアルトはミリィの好みが分かっているから、選んでくれるものに間違いないし」
「財務部に見られない方法もあるから、そんなに気にしなくていいのに」
「そうなの?」
「じゃあ、何か別で欲しいものはない? 何でも買ってあげるよ」
「うーん……お菓子とか?」
「やっぱりお菓子なんだね……ネックレスとか指輪とか宝石は? ドレスでもいいし、もっと高価なものでもいいよ」
「ネックレスや指輪はいっぱい持っているもの。ママやティアママがくれるし、ジュードやディアルドもくれるし、パパもくれるし」
「……そうだよね」
「ドレスはジュードがデザイン料とか言って、いつも無料で作ってくれるし」
「そうだね……」

 ミリィはジュードのレックス商会で雇っているアンとよくやり取りをしている。アンは有名な仕立て屋で国で一番の忙しさを誇っているだろう。最近はミリィが着ていたチェック柄のドレスやスカートの長いウェディングドレスが大流行りしていて、レックス商会はますます大繁盛らしい。それにも増して、ミリィはアンと定期的に新しい思付きを形にしており、いまやミリィは流行の最先端である。ミリィの活躍により、懐が潤っているジュードだが、たとえそれがなくとも、ジュードはミリィに貢ぐ癖がある。定期的にミリィの元に現れては、宝石やら帽子やら靴やらを贈り物として持参してくることが多い。だからミリィに必要な物は大抵揃っていて、ゆえにミリィはあまり物を欲しがらないのである。とはいえ、なんだろう、すごく悔しいのはなぜだろうか。

「じゃあ、屋敷とかどうかな。少し郊外に二人で避暑に使う別邸みたいなものは?」
「ミリィ、ダルディエ領に家持ってる。七歳か八歳の頃にパパがくれたの。でも今は使っていなくって。もったいないと思うの」
「……」

 つまり屋敷はいらないということか。何であればミリィは喜んで受け取ってくれるのか。

「……物じゃないと駄目?」
「うん?」
「ミリィ、動物が好きなのだけれど……」
「ああ、いいよ。猫とか犬が欲しい?」

 ミリィは、ぱあっと笑顔になる。

「三尾! ミリィは三尾と生活したいな!」
「三尾? うーん、でも三尾は北部騎士団か西部騎士団にしかいないはずだけれど」
「……ミリィって、もしかしてカイルに秘密教えていなかった?」
「秘密って?」
「……どうしよう。もうカイルと結婚したし、言っていいかな? 誰かお兄さまに確認したほうがいいかしら……」
「え!? そんな秘密があるの!?」

 ミリィのことは大抵知っていると思っていたのに、まだ知らないことがあったとは、ものすごくショックである。

「……絶対に誰にも言わないでね? でないと、ミリィ攫われちゃうかも」
「は!? 攫われるって!? あ、あれかな、ミリィが神だとかいう話は知っているよ!?」
「ううん、それじゃないの」
「ミリィが攫われるほどの秘密って何!?」

 それからミリィが動物遣いという天恵持ちだということを、初めて知らされるのである。

「まさかそんな天恵を持っていたとは……でも、攫われるって?」
「しばらくは戦争もないと思うし、大丈夫かなって思うのだけれど。アカリエル公爵家って、天恵一族でしょう。動物遣いを持つ人って少ないから貴重なんですって。しかもミリィは化石の卵を見つけられるから。もしアカリエル公爵家にミリィの天恵がバレていたら、今頃ミリィはノアかレオと結婚していたかも?」
「……ミリィ、アカリエル公爵家の人たちと仲がいいよね?」
「うん。でも結婚はちょっと違うかなぁって。天恵を持つのは仕方がないけれど、その力のせいで結婚が決まるのは嫌なの。でもノアやレオやオーロラとは仲がいいのよ。それとこれとは別の話というか」
「……ミリィの天恵は絶対に誰にも言わない。俺のミリィを取られたらたまらないよ」

 もしそうなったら、全面戦争である。

「ふふ、ミリィもカイルからは離れないもの! ずっと一緒にいてね」
「もちろんだよ。絶対に離さないからね」

 ああもう、困った。アカリエル公爵家とはいい関係でいるのだが、少し警戒するべきか。

「それでね、三尾が欲しい件だけれど」
「うん」
「ミリィは化石の卵を見つけられるって言ったでしょう。あと卵も孵せるのだけれど。実はね、卵の気配がちらほらと」
「……ちらほら?」
「ミリィね、昔反省したの。恐竜の卵、勝手に孵しちゃったから。だから、それ以降は卵の気配を感じても見ないフリというか、気づかないフリをしていたの。でもここで飼っていいなら、その卵の気配のところに行ってみたいなぁって。もちろん、カイルも一緒に来て? アカリエル公爵家にバレないように、影とかも連れて行けば大丈夫じゃない?」
「なるほど……でも、卵が三尾とは限らないんじゃない? 恐竜だったら、どうするの?」
「それはね、大きさで判断すればいいと思うの。恐竜の卵って、大きかったから。ナナの時がこれくらい。一角の時がこれくらい? 三尾はナナより成獣は同じか小さいくらいでしょう。だからナナくらいの大きさの卵を見つければいいのではないかと思って」

 ミリィは卵の大きさを身振りで表現する。

「前に南部騎士団へ行った時に感じた気配が二つと、ダルディエ領への行き来で感じる気配が三つ。あとはシオンと旅行に行った時に感じたものもあるのだけれど、あれはいまいち場所を覚えていないなぁ」
「……いいよ、三尾の卵を捜しに行こう。それであったら飼っていいよ」
「やったぁ! ありがとう、カイル!」

 ミリィが抱き着いてきたので、抱きしめる。
 ミリィが動物好きなのは知っている。ナナをとても可愛がっているし、以前戦争の時に連れていた三尾も可愛がっていた。それに三尾ならば、大きくなれば護衛にもなるだろう。

 思っていたのとは違うおねだりだけれども、ミリィが喜ぶことが一番いい。その嬉しそうな顔を独り占めできて大満足のカイルだった。しかしその後、少しだけ部屋を離れて戻って来てみると、ミリィは嬉しそうに空中を見ていた。

(ああ、これは、シオンと話をしているな)

 ザクラシア王となったシオンと遠く離れているが、それでもこうやって時々シオンと心の中で会話している。シオンは口数が少ないが、ミリィを溺愛しているのは間違いない。いつも勝手に動き回るシオンが、ミリィのことになるとミリィのことを一番に考える。なぜあのシオンが妹から離れてまでザクラシア王になったのか分からないが、カイルは実はミリィのためではないかと推測していた。ザクラシア王国が以前ミリィを狙っていたことは知っているし、そういったものからミリィを守るためにザクラシア王になったのではないかと思うのだ。

 カイルはこうやって楽しそうにシオンと話すミリィを邪魔したりはしない。ミリィを取られた気分になるのは仕方がないが、それでもシオンがミリィを大事にしているのは分かる。

 そうなのだ、ミリィの兄たちはみなミリィを溺愛し、大事にしている。結婚する前もした後も、生涯ミリィの兄たちには勝てそうにないと思いながら、嬉しそうに笑うミリィを見て、カイルも幸せを感じるのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。