七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 209話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 209話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」209話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 209話

 すっかり春めいた頃、アルトの結婚式があった。南部のバチスタ領で行い、私ももちろん、ディアルドの妻ユフィーナを除く家族全員が参加した。ユフィーナは身重でお腹が大きいので、参加を見送ったのだ。カイルも皇族代表でやってきた。余談だが、アルトとウェリーナの婚約は、戦争のすぐあとにしたのである。一般的には私のように婚約から結婚式までは一年以上空けるものだが、アルトの場合、すでにバチスタ公爵としての仕事を開始しており、いろいろと夫婦でないとできないことも多く、婚約から一年を待たずに結婚となったのである。

 ウェリーナのウェディングドレス姿は本当に綺麗だった。アルトと美男美女のカップルである。学園で見ていた時よりも美しさに磨きがかかり、アルトにたくさん愛されているのだろうと思う。

 ちなみに、冬休みの後に南部入りしたアルトの生活は、殺人的に忙しかったらしい。バチスタ公爵としての仕事、南部騎士団の団長としての仕事、それに結婚式の準備など全て同時進行である。そんな中、ウェリーナに割ける時間がほとんどないため、ウェリーナも忙しくさせようと思い立ったという。

 今までウェリーナは公爵令嬢として暮らすだけだったが、バチスタ公爵家の女主人となるのだから、屋敷の管理や使用人の管理を任せようと思ったのだという。もちろん最初からすべてを任せることはなく、少しずつ教えては実践してもらうの繰り返し。ただそれがよかったらしい。アルトの役に立てるとウェリーナは張り切り、頑張ってくれているという。

 だが最初の人事だけはアルトが全て処理したという。というのも、使用人は元々いた人を半分以上辞めさせたらしいのだ。前公爵時代から雇われていたものは、横領や屋敷の備品を盗んだりということが横行していたらしい。アルトは家の中で気が抜けないのは困ると、最初から全て教育のし直しだと言っていた。けれど、そういったこともアルトがウェリーナに教え、ウェリーナが管理を頑張り、そしてアルトがそれを褒めて甘やかしてあげると、ウェリーナは可愛く喜ぶとアルトは言っていた。アルトたちの仲は上手くいっているようで妹としても嬉しい。

 またアルトといえば、アルトが捕まえたスヴェニア男爵であるが、帝都へ移送される中、彼は逃げて川に飛び込んだと聞いていた。それから彼の捜索をする騎士達がずっと探していたが見つからず、彼の生命は絶望的かもしれないと思っていた。ところが、先日彼が見つかったのである。ある村の住民が、川の近くで倒れている彼を見つけ、保護していたという。保護された彼は、記憶が無くなっていたらしい。カイルの部下が確かめに行ったけれど、やはり記憶がないのは間違いないという。

 本来であれば、見つかったのなら当初の通り牢へ連れて行くべきであろうが、記憶のない彼に罰を与えても意味がないからと、カイルは彼をそのまま村の住民にしておくと言っていた。もし記憶が戻るなら、再び何かしらの企みを起こす可能性があり、また彼は出自の懸念もあるため、村の中に住民に紛れた監視を置くとは言っていたけれど。大変なことを起こした彼だけれど、彼にはこのまま村で平穏に生きていって欲しいと思う。記憶が無くても生まれ変わったと思えば、まだ人生はやり直しができると思うのだ。

 そして社交界シーズンが終わりを告げる頃、ディアルドの妻ユフィーナが長男を生んだ。私はダルディエ領まで急いで帰ったくらい生まれてくるのが楽しみだった。すごく可愛い、女の子のような男の子である。ディアルドに似ていると思っていると、ママがディアルドの赤ちゃんの頃にそっくりだと嬉しそうに微笑んでいた。ママは初孫にとても喜んでいたが、ママが全然おばあちゃんには見えない。ママが生んだと言ってもおかしくないくらい、いまだママが若すぎる謎。ティアママも若いので、若く見える家系かもしれない。とにかく赤ちゃんが可愛くて、ずっと見ていたかったけれど、結婚式の準備が滞ってしまうので、私は帝都へ戻った。

 夏休みの間はずっと家と皇太子宮を行ったり来たりしていた。結婚式に招待する面々は他国の王族が名を連ね、招待客を覚える必要があるし、私が何かを決めるというより、決まったことを覚えることが多いのだ。ただそういったやりとりをする場所は皇太子宮である必要はないが、カイルがこうでもしないと会う時間がないと言うので、いつもカイルの執務室で物事を決めたりしていた。カイルは私以上に普段の執務もあるので忙しいのだ。

 時々、その合間の重要なことを決めたりしない時を狙い、オーロラを皇太子宮に一緒に連れて行くこともある。というのも、オーロラがエメルに会いたがるからだ。オーロラは絶賛エメルにアタック中なのである。ただオーロラには、オーロラに近づく男を許さない兄が二人いるので、私は隠れ蓑である。オーロラにはいったんダルディエ邸に遊びに来てもらい、そこから一緒に皇太子宮へ行くのだ。これって、ノアやレオにばれたら怒られるのは私なのでは、と思いはするが、あんなに可愛いオーロラに懇願されれば叶えてあげたいと思うのだ。それに恋は楽しいもの。私も小さいころから、好みの人を付け回していた記憶がある。あれ、そう言葉にすると、私って危ない人みたいだな。

 夏休みも終わると、私は二十歳になった。
 あっという間に時間は過ぎ、秋の終わりごろにバルトの結婚式があった。バルトの結婚式はトリットリア領の邸宅で行われた。妻となるルビーのウェディングドレス姿は女神のようだった。レックス商会のアンに仕立てを頼んでいたというが、美人のルビーをさらに美しく引き立てていた。ルビーとバルトも美男美女夫婦である。家族全員で参加し、アルトはルビーの親友であるウェリーナも妻として連れてきていた。カイルも皇族として参加してくれている。

 バルトはすでにルビーの父の跡を引き継ぎしているらしく、トリットリア領の運営や南部騎士団の副団長として忙しくしているらしい。アルトとバルトは、結婚後もずっと近くにいるようだ。やっぱりあの二人は二人でいるのを見るとしっくりくる。

 そのバルトの結婚式で少し辛そうにしていたジュードの妻でありオクスロード伯爵でもあるエレーネは、なんと妊娠していたらしい。つわりがあるらしく大変そうであるが、喜ばしいことである。ということは、来年また赤ちゃんが生まれるのか、と今から楽しみで仕方がない。

 そして冬休みとなり、私は一時的にダルディエ領へ戻ってきていた。仕事で用事のあったジュードも一緒である。ディアルドの長男である赤ちゃんと遊んでいた時、訃報が入った。ザクラシア王であるヴィラルが崩御したというのである。私より二つ年上だったので、若干二十二才だった。突然の悲報に、胸が詰まる思いがする。

 訃報は実はまだ公にされていない情報であった。ではなぜ公にされていない情報を知ることになったかというと、ママの弟シャイロからの遣いがシオンへ伝えにやってきたからである。

 なぜシオンにそれを伝えるのか。そう思っていると、シオンがとんでもないことを言い出した。ヴィラルの亡き後の王としてシオンが立つというのである。実は前々から打診されていたという。なぜシオンなのか。シャイロが王位継承権は一番高かったはずである。しかしシオンは詳しく話してはくれず、とりあえずザクラシアへ行くと言う。

 私は動揺してしまい、行ってほしくないという思いでシオンに抱き着いた。

「ザクラシアは遠いわ! あそこは会話もできないのよ」

 いつもシオンと心の中で会話ができているのに、ザクラシアではそれもできなくなる。国境が境界線になっているからだ。

「分かってる。時々は帰ってくるから」
「帰ってこられるの? 国王になるのよね?」
「俺が帰ると言ったら帰るから心配するな」

 そう言われると、シオンならそうしそうな気がする。

「執務なんかはシャイロに押し付ければいいし」
「ええ!? だったらシャイロさまが即位すればいいのに。シオンがいないなんて、話せないなんて寂しい」
「シャイロの王家嫌いは筋金入りだからな。国王だけは絶対御免だと泣いて俺に言うんだぞ」
「な、泣いて言うの?」
「シャイロは前は万が一の場合、一度は即位するのは我慢するとか言っていたんだがな」
「……シオンったら、もしかして最近ザクラシアに行ったのね?」
「夏に少しな。その頃すでにヴィラルは危なかった。ヴィラルは小さい時に毒を摂取していただろう。その後遺症がずっと続いていたようでな」
「……そうなのね」

 ヴィラルが私に求婚した時には元気そうに見えていたのに。そう見えるよう振る舞っていたのかもしれない。ヴィラルは王だったから、自分の弱いところを見せるわけにはいかなかっただろう。そんなヴィラルを思い、心が痛くなる。

 シオンの頬に手をあてた。このシオンの顔は、もう行くことを決めている顔だ。こうなったら、私が何を言っても聞いてくれないだろう。ああ、寂しいなぁ。

「もう話すことも、できなくなるのね」

 我慢しようとしても、声が震えてしまう。私の目に盛り上がる涙を、シオンが指の腹で拭いた。

「まだ約束はできないが、もしかしたら、話はできるかもしれない」
「……え?」
「この前シャイロに聞いた話でな。即位の時に神に関する儀式がいくつかあるらしいんだが、その時にまあ色々とあるらしくてな。神と交渉次第でどうにかなるかも」
「神と交渉? それって危なくないの? シオンの命や寿命が危なくなるようなことはしないで」
「そこまではしない。だから心配するな。言っただろう、約束はできないことだと」
「うん……」

 やっぱり行くのだな。その意思を強く感じる。

「どちらにしても、ミリィの結婚式には一度戻るから」
「……本当?」
「ああ、約束する」

 シオンは頬にキスをして私を抱きしめてくれる。ああ、それぞれみんな大人になっていくんだな、と寂しがるだけではだめだと思う。

 シオンは慌ただしくザクラシアへ旅立っていった。

 冬休みが開けると、私はジュードと共に帝都へ戻った。結婚式まであと三か月だった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。