七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 187話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 187話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」187話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 187話

 夜中にノアを見た気がした、その次の日。オーロラの起きる気配で目が覚める。お互いまだ寝ぼけ眼のままベッドでぐだぐだしていた。オーロラに抱き着いてオーロラの頬を触りながら、何かそういえば話すことがあったような、と思い出す。

「オーロラ、昨日の夜中にね、ベッドの横にノアが立っていた気がするの」
「ノアお兄さまが?」
「うーん、夢だったのかしら……」

 がばっとオーロラが起き上がる。顔は嬉しさが隠しきれていない。

「ノアお兄さまが帰ってきたんだわ!」

 オーロラはパタパタと部屋を出て行ってしまった。なんだろう、天恵かなにかでノアがいるのを確認したのだろうか。オーロラが嬉しそうだったので何よりである。

 私はいつもどおり運動用の服に着替えて柔軟体操をし、部屋でドレスに着替えて朝食に向かうと、そこにはオーロラとノアがテーブルに着いていた。

「よかった、お姉さま! 今呼びに行こうとしていたのよ」
「ちょうどよかったのね。ノア、久しぶりね」
「ええ」

 三人で朝食を始める。

「ノアだけ帝都に? レオは?」
「レオはまだアカリエル領です。私は用事があって急きょ帝都へ」
「そうなの。でもノアだけでも顔が見れてよかったわね、オーロラ。いつも寂しかったものね」
「うん! オーロラもう嬉しすぎて!」

 見ていれば分かる。オーロラはノアから目を離さないのだ。ノアへの愛しさが溢れている。

「ノアはもしかして、ミリィがアカリエル邸に泊まっているとは知らなかったの?」
「そうなんです……。母上はそういったこと連絡してくれなくて」
「ううん、昨日は申し訳なかったと思ったの。せっかくオーロラに会いに行ったらミリィがいて邪魔しちゃったんでしょう」
「いえ、謝るのは私のほうで……」

 なぜかノアの顔がほんのり赤い。なんでだ?

「どうしてノアが謝るの?」
「いや、あの」

 どういえばいいのか困っているようである。

「オーロラ分かるわ。ミリィお姉さまの色気に当てられたのでしょう? ノアお兄さまったら、すごく純情なの」
「オーロラ!?」

 色気? 昨日の寝間着は色気のある恰好ではなかった。胸が見えるような首元ではないので、どう間違っても胸は見えない。お腹が見えないよう上下をリボンで繋げていた。ノースリーブも普段からドレスではノースリーブみたいなものであるし、恥ずかしいと思う部分ではない。足は膝丈で短くはないし。あれ、足かな? 足を見せるのがあまりよくないからか? 膝下の足が見えていたのがよくなかったのだろうか。もしかしたら寝ている間に膝丈のゴムが少し上に上がっていたのかもしれない。

「昨日のミリィ、色気のある部分なんてあった? 足が少し見えていたのかしら?」
「ミリィお姉さまはいつも色気がすごいわよ。寝起きとかオーロラいつもドキドキするもん。抱き着くと柔らかいし」
「……えっとぉ、それは、ノアがミリィの体を触ったってこと?」
「触っていませんよ!?」

 じゃあ何だ。オーロラだって寝起きはいつも可愛い。普段だって可愛いけれど。
 ノアは焦った表情になっている。

「ノア、はっきり言ってくれないと分からないわ」
「いえ、その……昨夜、夜中に帝都に着きまして。オーロラのベッドで一緒に寝ようと思ったら、ミリィがいまして。あんな姿見てしまい、申し訳ないと」
「あんな姿って何かしら? 具体的に言ってみて?」
「いや、あの、寝間着といいますか」
「うん、寝間着着ていたわね」
「はい……」
「……え!? 終わり!?」

 ただの寝間着をあんな姿と言われたら、こっちはどうすればいいんだ。

「それのどこにノアが恥ずかしがる要素があるの? オーロラだって同じ寝間着を着ていたでしょう」
「オーロラはオーロラですし」

 なんだそれは。意味不明。

「お姉さま、ノアお兄さまは、ドレスでもない薄手の寝間着姿のお姉さまを見ただけでも、許可なく見てはいけないものを見てしまった! って恥ずかしがる純情な男なの」
「オーロラ、ちょっと黙って!?」

 あれ、そう言われると、それが一般的かもと思い直した。寝間着なんて異性には見せないものだ。家族でもない人のを見れば、そう思ってしまうものかもしれない。

「なるほど、少し理解できたわ。ノア、ミリィのことは気にしないで。ノアはオーロラの兄ですもの。ミリィの兄とまではいかなくても、兄に準ずるものと見ているし、寝間着見られたからって結婚してと迫ったりしないわよ」
「いえ、さすがに結婚を迫るとまでは思っていませんが……一応謝らせてください。申し訳ありません」
「いいえ、お気になさらず」

 ノアは真面目だなぁ。それにしても。
 なんだか可笑しい。笑ってしまいそうだ。

「んふっふふふふ」
「お姉さま?」

 ふふふふと笑いながら、涙まで出てきた。

「ごめんね、だって可笑しくって! オーロラ、ノアって学園で四天王だったの知っている?」
「四天王?」

 四天王とは学園の生徒たちが勝手に付ける四人の男性のことだ。かっこいいのが大前提で、それに頭が良いとか、剣術が強いとか、そういったものの総合評価で付くのだ。同じ学年などではなく、在籍している生徒から選ばれるが、当然非公式である。生徒たちがそれを勝手に付けて楽しんでいるだけだ。

「そう! 誰がかっこいいかとか、そういったことで付けられるのだけれど。ミリィが五年生の時の四天王の一人がノアだったの。しかも氷の貴公子とか呼ばれてて」
「ええ!? 何それ、オーロラ聞いていないわ!」
「いいよ、聞かなくて……」

 ノアは手で目を覆い恥ずかしがっている。
 ちなみに、私が五年生の時の四天王にはルーカスとレオも入っていた。

「ノアったら、いつも冷静だから氷って付いたと思うのだけれど。普段女の子に優しいでしょう。エスコートも素敵だし、寄ってくる女の子って多いのではないかと思うの。なのに寝間着だけでそんなふうに赤くなるなんて、意外性がね! 笑ってごめんね、ノア」
「いいですよ……」
「やっぱり兄弟って違うのねぇ。レオは女の子に対して結構軽めでしょう。うちのお兄さまたちもそのあたりはバラバラだわ」
「レオは軽すぎるのですよ」

 ノアは手を戻し、少し赤い顔で溜息をついている。

 使用人がノアに近づき、声をかける。

「オキシパル伯爵の朝食ですが、こちらにお呼びしてもよろしいですか?」
「ああ、うん、いいよ」

 使用人が離れていくのを見ながら、ノアに声をかける。

「ノア、オキシパル伯爵って」
「ああ、昨日一緒に帝都入りしたのですよ。今日だけうちに泊まっていまして」

 ええ!? オキシパル伯爵って、あのオキシパル伯爵よね!? 一度見て一目ぼれして、それ以降一度も会えなかったあの?

 もしかして、食事を一緒にするの!? どうしよう、緊張する!
 オキシパル伯爵が部屋へ入室してきた。記憶通りの冷たい印象。

「おはようございます、オキシパル伯爵。こちらダルディエ公爵家のミリディアナ嬢です」
「はじめまして、オキシパル伯爵。お会いできて光栄ですわ」
「……北公の? ほう」

 目がキラっと光ったように見える。

「その北公の令嬢がなぜここに?」
「オーロラと仲が良いので、遊びに来ているのですわ」
「オーロラと? お前の婚約者候補ではないのか?」
「違いますよ」

 オキシパル伯爵とノアは仲がよさそうである。
 ただ、まだ私はオキシパル伯爵に様子を観察されている。
 私はというと、好きだったオキシパル伯爵に会えたのに、そんなにドキドキしない。あれ?

 その後、そんなに話題も弾むことはなく、オキシパル伯爵はちゃっちゃと朝食を済ませ、部屋を退出していった。もしオキシパル伯爵に会えたら、好きなタイプくらい聞こうと思っていたのに、いざ会ってみれば、そんな気にもならなかった。オキシパル伯爵は好みであることは間違いないのだけれど。おかしいな?

 結局、朝食以来オキシパル伯爵は見かけなかった。邸を出たらしい。オキシパル伯爵と一緒にいられたのは、ほんの少しの時間だけであった。けれど、特に残念とも思っていない自分に首を傾げる。あんなに会いたかったはずなのに、その気持ちはどこへいったのだろう。

 その後、オーロラが大好きな兄とラブラブな時間を過ごしている間、私は読書をしたりして過ごす。ノアが帰ってきたのは一時的なものらしいが、それでも兄に会えたオーロラが羨ましくなっていた。私もエメルやカイルには会ってはいるものの、他の兄にも会いたいし、また寂しい気持ちがぶり返してきている。

 もうすぐアカリエル邸へやってきて一ヶ月近く経つ。そろそろジュードが帝都に戻ってくるのではと連絡を待っているのだが、まだ来ない。ため息をついてしまう。

 その日の夜、オーロラと寝たがるノアとオーロラの取り合いをした。

「ノア、ミリィはオーロラがいないと寝られないの! オーロラはあげないわ!」
「困ります! 私は帝都に数日しか滞在できないのですよ? オーロラと寝るのを楽しみにしていたのに」
「二人共、喧嘩しないで。いい案があるわ。三人で寝ればいいのではないかしら」
「それいいわね! そうしましょう」
「いやいや、だめでしょう! ミリィは妹ではないのですよ!?」

 ノアは常識人だなぁ。結局その日、ノアはしぶしぶオーロラを譲ってくれた。
 そして次の日。ついにダルディエ邸から迎えがやってきたのである。

「シオン!」
「ミリィ」

 走ってシオンに抱き着いた。シオンがぎゅうっと抱きしめてくれ、顔を上げると抱き上げてくれる。シオンに会えて嬉しすぎて、顔中にキスをする。涙まで出てきた。

「会いたかったの! 寂しかったの!」
「遅くなってごめん。泣くな」
「うー……もうミリィを寂しくしないで」
「悪かった」

 涙が止まらないので、シオンの肩に頭を付けて泣く。シオンは私が落ち着くまで頭を撫で続けた。

 今日はこのままシオンと共に帰れるという。使用人が帰りの支度をしている間、やっと涙が止まった私の涙の痕をシオンが指でぬぐっていた。

「シオンが迎えに来るとは思わなかった。ジュードが来ると思っていたのだけれど」
「ジュードは明後日帝都に着くらしい」
「そうなのね。ザクラシアの件はもう大丈夫?」
「ほぼな。ミリィの誘拐に動いていたやつらは分かっている分は全部片付けた。まあ、まだ警戒はしたほうがいいだろうが、前ほどではない」
「よかった。シオンありがとう」
「ああ」
「……怪我はしていないよね?」
「してない」

 ホッとする。

「帰ったら、ミリィはしばらくシオンにくっついて回るからね」
「いいよ」

 ああ、嬉しい。大好きなシオンが帰ってきた。これからは一緒にいられると思うと、嬉しさがあふれる。

 それからシオンと共にダルディエ邸に帰宅する。帰った途端、猫のナナが飛びかかってきた。ナナは私より大きいので、ナナを支えられず後ろに倒れそうになったところを、とっさにシオンが私を支えてくれる。

「ナナただいま。ごめんね、寂しかったでしょう」

 ナナに顔を付ける。ナナの寂しかった気持ちと会えて嬉しい気持ちが伝わってくる。寂しい思いをさせて、可哀そうなことをしてしまったと思う。それからナナは私から離れなくなってしまった。元々私にくっついて移動する子だけれど、今は片時も離れたくないみたいだ。だから、シオンにくっつく私、私にくっつくナナという構図が出来上がっている。

 ソファーでシオンと並んで座りながら話をする。ナナは私の膝に頭を乗せ、私はナナを撫でながら口を開いた。

「ザクラシアの件が大丈夫なら、ミリィはもう出かけてもいいの? シオンとお出かけしたい」
「まだ駄目だ。スヴェニア男爵の件が残っているだろう」

 そうだった。まだスヴェニア男爵の件が残っていたのだった。もうしばらく大人しくしておくべきなのだろう。仕方がない。シオンと共に影も戻ってきたし、シオンも傍にいるから寂しくない。前より気持ちは楽だ。出かけられなくても、まだ我慢くらいできる。

「……スヴェニア男爵は、南にいるのだったな……」

 思案気に言うシオンにどきっとする。スヴェニア男爵を追って、南へ行くことを考えているのだろうか。

「シオン、ミリィは大丈夫! お出かけなんてしなくていいもの! 影もシオンも家にいるし、ここならスヴェニア男爵が襲って来てもシオンが守ってくれるものね!」

 シオンがまたいなくなるのは嫌だ。スヴェニア男爵が襲ってくるかもしれないことよりも、そちらのほうが今の私には怖かった。やっと兄に会える生活に戻れたのに、また会えない生活に戻るのは辛い。

「……そうだな、ミリィは俺が傍にいるから大丈夫だ」

 私の肩を寄せて頬にキスをくれるシオンに、ほっとする。よかった、スヴェニア男爵を追おうとはしないようだ。それでも心細くて、シオンに抱き着くのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。