七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 183話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 183話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」183話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 183話

 皇妃宮にて、いつものようににこやかに出迎えてくれたティアママは、最初は近況を聞いてきた。

「呼び出してごめんなさいね、ミリディアナがアカリエル邸にいるとは知らなかったの。エメル以外ダルディエの子供たちが不在なのですってね」
「そうなのです。エメルも夜遅くに帰宅していると聞いていますわ。カイルお兄さまもお忙しいのでしょう?」
「そうみたいなの。よかったら、ここの帰りにカイルのところへ顔を出してあげてくれないかしら。あなたが行くときっと疲れも吹き飛ぶわ」
「はい、少しだけ伺ってみます」

 それから別の軽い話題を話し終えると、ティアママが本題を切り出した。ティアママが侍女に指示すると、侍女が箱を二つ持ってくる。

「先日、昔の宝箱の整理をしていてね。ここに嫁いできた時にザクラシアから持ってきたアクセサリーを見つけたの。ミリディアナに似合うと思うのよ」

 侍女が一つ目の箱を開いて見せる。薄いピンクの大きな宝石がいくつか付いている豪奢なネックレスだ。見せてくれたそれを、今度は侍女が私の首に付けてくれる。そして別の侍女が持ってきた鏡を見る。箱にある時のイメージとは違い、実際に付けてみると今着ている白を基調としたドレスに合う。

「うん、思った通りね! すごく綺麗だわ! この宝石ね、ザクラシア女神の薔薇という名が付いているのよ。ザクラシア王国では薄桃色の綺麗な薔薇が名産なの」
「素敵ですわ。宝石の中が動かさなくてもキラキラしていますわ」
「あら、やっぱりミリディアナも見えるのね。そのキラキラね、普通の人には見えないのよ。神瞳の人だけに見えるの」
「そうなのですか!?」
「普通は知られていないのだけれど、ザクラシアの王城に隠されている地下があってね、そこだけで取れる宝石なの。ミリディアナに差し上げるわ。貰ってちょうだい」

 ひぇ!? それって、国宝級の宝石ではないの!? しかもさらっと隠れた地下の話をしたな。私が聞いてはいけない話ではないの? もらえるわけないだろう。

「嬉しいのですが、いただけませんわ! とても大切なものでしょう?」
「大切だからこそ、ミリディアナにもらってほしいのよ。こんなに似合っているもの。これ少し可愛い作りでしょう。もうわたくしには若すぎてしまって。付けない人が持っているより、ミリディアナに使ってもらった方がいいのよ」

 えー。確かに可愛い作りではあるが、いつまでも若々しいティアママがそれ言います? ティアママも似合うのに。

「それとね、こっちも見て頂戴」

 侍女が二つ目の箱を開けて中を見せる。大きくて緑のキラキラした宝石が綺麗な耳飾りである。私が今していた耳飾りを断りを入れて外され、代わりに緑の宝石の耳飾りを付けられた。

「似合うわ! ミリディアナの目と同じ色で素敵よ。この石はザクラシア女神の瞳という名が付いているの。わたくしもいくつかこの宝石を使ったネックレスと耳飾りを持っているのだけれど、これも可愛い作りだから、ミリディアナに似合うと思って」
「こ、これも王宮の地下で取れるのでしょうか」
「そうなのよ! ザクラシアでも王族しか付けないけれど、グラルスティールではもっと付ける人がいないから珍しいのよ。それにね、これはメナルティのものなの。あの子が輿入れの時に持って来たものでね」

 なんだと。さらにすごいものを装着させられた気がする。メナルティとはカイルの本当の母で、ティアママの妹である。

「あの子のものは全部わたくしが預かっているのだけれど、これはミリディアナにあげてもいいと思うのよね」

 あ、やっぱり、これも私にくださるのですか。これも絶対国宝級では?

「わたくしが貰っていいのでしょうか……。いつかカイルお兄さまの妃にお渡ししたほうがいいのでは?」
「あら、それはミリディアナでしょう?」
「え?」
「あの子がミリディアナ以外の子を娶るとは思えないのだけれど」
「……」

 あの宮廷舞踏会でのカイルの嘘の婚約発言は皇帝夫妻もいた会場なので、当然知っているだろう。それに間違いなく、カイルの裏部屋での求婚にハイテンションだったママがティアママと話題にしていることだろう。ただティアママ自身に何かを言われたことがないので、実は良くは思っていないと思っていたのだが、違うのだろうか。

「あの……ティアママはわたくしとカイルお兄さまとの結婚は反対では?」
「いやだ、どうしてそんなふうに思ったの? わたくしは大賛成よ!」

 えー……なんだか、表情がうちのママに似ているのだが。

「今までミリディアナを本当の娘のようだと思っていたけれど、それが本当の娘になるのよ! 素敵だわ! フローリアから聞いたのだけれど、裏部屋でカイルが求婚したのも素敵だったのですってね! 見たかったわぁ」

 やはりママと姉妹なだけある。反応が似ている。

「わたくしは、カイルお兄さまが言っている妹としての愛と女性としての愛の区別がまだ分からなくて。可愛がってくださっているのは分かるのです。わたくしもカイルお兄さまを愛していますわ。けれどお兄さまの愛、それは妹としてではないのか、本当に女性としてなのか。わたくしも今までカイルお兄さまを兄として見てきましたから、急に男性として考えてくれと言われても混乱してしまってよく分からないのです」

 ティアママは私の両手を優しくつかんだ。

「ミリディアナ、わたくしはあなたに感謝しているのです。カイルが幼いころから厳しくしすぎてしまって、気付いたらあの子は笑わない子になっていました。けれどあなたと会って、妹になってくれて、ようやくあの子は心から笑えるようになったのです。確かにあの子は最初は妹としてだけあなたを愛していたでしょう。でも今は妹としてでも愛し、女性としてでも愛しているのだわ。それをわざわざ区別はしなくていいのではないかしら。両方の思いが混在しているのよ」
「そう、なので、しょうか……」

 混在していてもいいのか? 友達と結婚するみないな感じだろうか。友情もあり愛情もあるというような。そういえば、私は前世では幼なじみと結婚したのだった。あれは最初は友情で家族愛で、その後愛情になったのだっけ。

「ミリディアナは、カイルが他の女性と結婚してもいいと思っているの?」
「……わたくしよりカイルお兄さまに似合う女性はいっぱいいますもの」

 カイルの妃、それは皇太子妃になるということだ。立場上、公務やいろんな責任のある執務もあるだろう。だからカイルと肩を並べて歩いていける女性が、その立場に相応しいのではないかと思うのだ。両親や兄たちに甘えてばかりで、兄たちに会えないだけで寂しくて泣いている私には務まらないのではないかと思ってしまう。

「そう……。わたくしはミリディアナがどうしても嫌なら、無理にカイルと結婚しなくてもいいと思うわ。やっぱり結婚は好きな人とするのが幸せだと思うから」

 王侯貴族の結婚で恋愛結婚は少ない。けれどティアママもうちのママも、愛する人と結婚した人である。言葉が重い。

「ただ、ミリディアナはそれで本当に後悔しないかしら」
「え?」
「もしカイルが他の女性と結婚したとするわね。そうなったら、もう二度とカイルとは今のような接し方はできないでしょう」
「……どういう意味ですか?」
「ミリディアナの兄たちは、カイルとは違って本当の兄でしょう。だからきっと結婚後も今までどおり、ミリディアナに愛情を向けてくれるわ。けれど、カイルは実際には兄ではなく従兄妹。カイルが結婚したら、ミリディアナを今までのように抱きしめたりキスしたり抱き上げたりはできなくなる。せいぜい手にキスするくらいでしょう。たとえカイルがしたくとも、周りが許さないわ」
「……」

 そんなこと、考えたこともなかった。ずっとカイルも私を可愛がってくれると思っていた。けれど確かによく考えてみれば、妻がいるのに従兄妹を抱きしめるのはおかしいかもしれない。本当の妹ならできる。けれど従兄妹ならできない。
 なんだろう、心にずしりと見えない枷が付いた気がした。

「脅しているわけではないの。ただこういう現実も知っておかなければ、後から気づいては遅いでしょう? ゆっくり考えればいいわ。カイルの周りでは結婚を急かしているものもいるようだけれど、あの子のことだもの、そういうことも分かった上で待っているのだから。ミリディアナが結論を出すまで、のらりくらりとかわすでしょう」

 ティアママは優しく言うが、そんなに時間はないのだろう。皇帝の子はカイルのみだ。だから皇帝の隠された弟もカイルを狙っているのだし、跡継ぎのいない今をカイルの周りが焦っていることも分かる。
 確かにゆっくりと考えればいいと甘えていた。考えすぎると意味が分からなくなって混乱するから、少しずつ前に進めれば、と思っていた。でも私に残された考える時間は、そんなにないのだ。

 そんな私の崩れ落ちそうな気持ちに気づいたのだろう、ティアママが優しく背中を撫でた。

「ごめんなさいね、今日はここまでにしましょう。無理をしないでゆっくり考えて頂戴。また遊びにいらっしゃい」
「……はい、ティアママ」

 結局貰うことになった宝石は、ティアママがダルディエ邸へ送ってくれるという。乗ってきたアカリエル家の馬車に乗り、今度は皇太子宮を目指す。馬車に乗っている間、気持ちが動揺したままで、カナンが心配そうに私を見ていた。

 泣き出したい気持ちだったけれど、少し落ち着いてきた。とにかく今はさっきの話を考えるのを止めよう。家に帰ってから考えることにし、これから愛しの兄たちに会うのだ。嬉しい気持ちを思い出す。

 皇太子宮に入ると、その一階でちょうどエメルとソロソが二階への階段を上がるところだった。

「エメル!」

 私が小走りで近づくと、エメルは持っていた書類や本をソロソの持ち物の上に乗せた。

「ちょっ!」

 ソロソの小さな悲鳴が聞こえながらエメルに抱き着くと、エメルがぎゅうぎゅうに抱きしめてくれる。

「エメルに会いたかったの! 寂しかったぁ」
「私もですよ。ミリィ、顔を見せてください」

 顔を上げるとおでこにキスをくれる。そして私を抱き上げた。私は愛が溢れてエメルの顔中にキスをする。

「なんですか? 十年ぶりの再会ですか?」

 ソロソのつぶやきは無視である。気持ち的には、それくらい久しぶりにエメルに会った気がする。カナンとアナンは待合室で待ってもらい、私はエメルに抱かれて執務室へ向かった。

「カイルさまー、愛しの姫ですよー」

 ソロソの軽口にカイルが顔をあげ、笑みを浮かべた。席を立ってこちらへやってくる。ティアママの言うように、やはり忙しいのだろう。あまり顔色が良くない。

「ミリィ、いらっしゃい」
「カイルお兄さま、会いたかったわ」

 カイルは私に手を差し出してくる。おいで、ということだろう。けれど、今はエメルにくっついていたい。

「もうちょっと待ってね? ミリィ、今エメルを補充中なの」
「俺もミリィを補充したいのだが」
「もうちょっと待ってね」
「……」

 エメルと離れるもんか、とでもいうように、エメルの頬に私の頬を付ける。ここ数日の寂しさを埋め、今後の兄のいない生活のためにエメル補充が必要なのである。

「ミリィはいつもはカイルさまにべったりなのに、今日はエメルにべったりなんですね」

 ソロソが首を傾げながら言う。

「だって、いつもはカイルお兄さまに会いに来ているのだもの」
「今日は?」
「今日はエメルとカイルお兄さまに会いに来たの。先にエメルに会ったから、エメルにべったりするの。カイルお兄さまは後でね」

 ようやくカイルの両手が下へ落ちて、エメルに愚痴る。

「俺が先に会いたかった」
「すみません。ミリィが満足するまで待ってください」

 カイルはため息を付き、執務の続きをするために机に向かう。エメルはソファーに座ると、私の背中をぽんぽんとリズムを取り出した。私は赤ん坊か、と内心突っ込むが、それが心地いいので何も言わない。もうすぐ十九才となるのに、なんという子供だろうか。けれど兄には甘えていいのだ。だから会える時にたくさん甘えておくのだ。そう考えているうちに、だんだんと落ち着いてきた。
 顔を上げると、エメルが笑みを浮かべた。

「顔色が戻りましたね。さきほど会った時は少し青かったですよ」
「そうなの? お兄さまの誰にも会えなくて、寂しくていっぱいいっぱいだったからかな」

 そんなことを話していると、いつの間にかカイルがそばに立っていた。

「そろそろ俺の番かな?」
「うん」

 カイルがエメルの隣に座ったので、一度立ってカイルの膝に乗る。カイルが頬にキスしてくれて、私はその後カイルに抱き着き横を向いて肩辺りに耳を付けた。カイルの心臓の音が落ち着く。
 エメルが心配そうに私の頬を撫でながら口を開いた。

「アカリエル公爵家で辛い思いをしているわけではないですよね?」
「ううん、よくしてもらっているわ。オーロラともずっと一緒にいるし」
「ならいいのですけれど。もう少し、今日のようにここに来てもいいのですよ?」
「うん……でもオーロラに悪いもの」
「どうしてオーロラ嬢に悪いのです?」
「だってオーロラだって、お兄さまに会いたくて我慢しているのに。ミリィだけ会いに行ったらずるいでしょう? 今日は用事があったから来られたけれど」
「用事ですか?」
「うん、ティアママに呼ばれて。ティアママが帰りにこっちに寄って帰りなさいって」

 はっと顔を上げる。

「そういえば、カイルお兄さま、今日ティアママに耳飾りを頂いたの。本当にいただいていいのか、カイルお兄さまは嫌じゃないかしら?」
「どうして俺が嫌がるの? 母上がくれたのでしょう? 貰っておけばいいよ」
「でも……耳飾りはメナルティさまのものらしいの。勝手に頂いて怒らない?」

 カイルは少しだけ目を見開き、ふわっと笑った。

「なるほど、ミリィが気にする必要はないよ。俺もミリィが貰ってくれると嬉しい」
「そう? ありがとう」
「母上がミリィに似合うと思ったのだろう。今度その耳飾りをしているところを見せて欲しいな」
「うん」

 カイルはまったく怒ってなさそうである。よかった。

「先ほどの話だが。オーロラ嬢に悪いということなら、ここに一緒に連れてきたらどう? エメルやソロソがいるし、実際の兄とは違うだろうけれど、初めてのところに来るだけでも楽しめるのではないかな?」
「え? いいの? オーロラ連れてきても?」
「いいよ。オーロラ嬢の兄たちまで連れてこられたら困るけれどね。オーロラ嬢だけなら」
「ありがとう! オーロラに話してみるわ!」

 カイルに抱き着く。嬉しい。それならオーロラも楽しめるだろうし、私も兄に会ってしまう罪悪感から逃れられる。カイルは良い事いうなあ! 嬉しくなって、顔を上げてカイルの頬にキスをするのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。