七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 179話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 179話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」179話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 179話

「あのね、渡したいのは、ナナの涙なの」
「ナナって猫の?」
「うん。使い方はあとで説明するわね」

 私の部屋ではカナンが仕事をしていたけれど、カナンにナナの涙が欲しいとお願いする。衣裳部屋の鍵付きのところで、カナンに保管を頼んでいるのだ。カイルを連れて衣裳部屋に入る。鍵を取り出したカナンに、ナナの涙を保管している扉を開けてもらう。そこにはナナの涙が入った小瓶がずらりと並んでいた。侍女たちには、ナナがあくびをして流した涙を小瓶に取っておくようお願いしている。その変わった指示に侍女たちは不思議な顔をするが、それを仕事の一種としてとらえているので、誰も何も言って来ない。侍女の中で事情を知っているのはカナンだけなのだ。

「これがナナの涙?」
「うん。透明で綺麗でしょう。説明はあっちでするわね。椅子に座りましょう」

 衣裳部屋から出て、部屋のソファーに座る。しかもまたカイルの足と足の間だ。後ろから私の顔に顔をくっつけて来るので、話しずらい。私たちのためにお茶を用意してくれたカナンは、また仕事に戻り、部屋で手際よく動いている。私は持っていた涙の小瓶を見せながら話す。

「これは内緒の話なの。パパとお兄さまたちとネロしか知らないから、カイルお兄さまも絶対に誰にも言わないでね?」
「うん。わかった」
「うちに先祖返りの一角と三尾と恐竜がいるでしょう。実はナナも先祖返りなの」
「うん、そうだと思っていたよ」
「え? 本当?」
「こんなに大きい猫、普通はいないからね」

 カイルがちらっとナナを見る。

「あのね、ナナが先祖返りなのも内緒なの。特にアカリエル公爵家には言ったら駄目なの」
「大丈夫、言わないよ」
「うん。それでね、先祖返りって、普通の動物より力が強かったりとか、走るのが速かったりとかするでしょう。ナナの場合はね、涙に特殊な力があってね、傷に付けると傷が治るの」
「傷が治る?」
「傷が治るなんて知ったら、アカリエル公爵もナナを欲しがるかもしれないでしょう? ナナはミリィの子なの。絶対あげないもん」

 カイルは私の手から小瓶を受け取ると、よく見る。見た目はただの水にしか見えない。

「できればこれは使わないで済むなら、それがいいのだけれど。カイルお兄さまは狙われているのだもの。万が一のために持っていて。でもこれありきで傷なんて作ってはだめだからね! 傷は負わずに済むほうがいいの。あくまでもこれは万が一だからね!」

 くすっとカイルは笑うと、私のこめかみにキスをする。

「分かっているよ。できる限り、ミリィに心配かけないよう努力する」
「そうして! もう、シオンったら、何度かこれ使っているのよ。どんな怪我をしたのか怖くて聞けないのだけれど。たまにもう一個くれ、って言いに来るの。実験みたいに使っているみたいで、心配だわ。万が一のために使うものなのに。あ、シオンが言っていたけれど、飲んでも効能があるって言っていたわ」
「飲むの?」
「普通は怪我とか傷の部分に塗ると治るのだと思うのだけれど、飲んでも治ったって言っていたわ。もう本当、実験みたいよね」

 ナナの体から出たものとはいえ、よく分からない液体を躊躇せず飲めるものである。そういう思いっきりの良さのあるシオンに飽きれてしまう。

「だいたい使い方は分かった。こんな大事なもの、ありがとう」
「いいの。カイルお兄さまだもの」

 カイルに何かあったら怖い。けれど、ナナの涙が無くて大変なことになるくらいなら、持っていて使ってほしいのだ。

 部屋の扉が開き、エメルがやってきた。

「説明は終わりましたか? カイルさまはそろそろ行きませんと」
「少しくらい遅れてもいいだろう。もう少しミリィといたい」

 困った顔をしてエメルはため息ついた。

「もう少しだけですよ?」

 エメルはまた部屋から出ていく。

「夜会遅れていいの?」
「遅れてでも行けば文句は言われない」

 まあ、皇太子が顔を出しさえすれば、主催の顔が立つ夜会もある。

「またミリィの口にキスしたいなぁ」

 カイルが耳元で小さい声で言う。

「え!?」

 また急に。少し恥ずかしくなる。

「先日したでしょう?」
「またしたいものなの」
「……してもいいわよ?」
「え?」

 何を驚くのか。ここは外でもないし、部屋にはカナンがいるだけである。

「口にだよ?」
「うん」
「カナンがいるよ?」

 カナンしかいないではないか。

「いつもカナンがいても頬にキスするでしょう?」
「それは頬だからね?」
「口でもいいのではないの?」

 カイルが少し困惑の顔をする。

「えーと、ミリィ? もしかして、エメルや他の兄上たちの前でも俺が口にキスしてもいいのかな?」
「いいわよ。最初に口にしてって言った時も、エメルはいたでしょう」
「ああ、そういえば」
「口にキスして、って言ってキスしたの、カイルお兄さまだけだったけれど」
「……え!? 他の兄上たちにも言ったの!?」
「言ったわ。みんな妹には口にはしないって、断られちゃった」
「……まともな兄上たちで助かるよ」

 カイルは盛大なため息を付いている。

「ミリィ、もう兄上たちにそんなこと言ったら駄目だよ」
「……言ったら駄目?」
「駄目」
「……分かったわ」
「……大丈夫かな、心配だな」
「もうお兄さまたちに口にキスしてって言わないわ。約束する」
「……じゃあ、口にキスするのは、今後一生俺だけにしてくれる?」
「ええ? それは約束できないわ。ミリィがカイルお兄さまと結婚しない可能性もあるでしょう?」
「どうして!? 俺と結婚して欲しいんだよ」
「うーん……」

 私とカイルは実際には婚約していない。それに、いまだカイルの言う愛が妹に対するものだけでなく、本当に女性に対するものなのか検証できていない。また私のカイルに対する愛は兄としてのものなはずである。だから結婚と言われても、まだよく分からないでいた。

「じゃあ、当分は、カイルお兄さまとだけにするわ?」
「何で疑問形なの……。それに当分って何? 俺は一生がいい」
「お兄さまだって、他の人と結婚する可能性があるでしょう。婚約者、早く作るように言われているのでしょう?」

 私とカイルは婚約するのか。それが正式に決まらない限り、カイルが私に求婚していることなどお構いなしに、たぶんカイルの周りの人たちは、カイルが正式に誰かと婚約するまでカイルに別の婚約者候補を送りつけているはずである。

「……言われているけれど、俺の妃は俺が決める。俺はミリィしか考えていない」

 ああ、堂々巡りになってきた。まだカイルと私の気持ちを見極めている段階で、求婚に対する返事ができようもない。だから私も破るかもしれない約束をするわけにはいかない。けれどカイルの機嫌が少し悪くなってきている。さて、どうしよう。

 さっと後ろを向き、カイルの口に触れるだけのキスをする。かっと赤くなるカイルに笑ってしまう。やはりこちらからのキスには赤くなるのだ。私も今は漏れなく赤くなっているだろうけれど。口にキスするのって恥ずかしい。いつか頬にキスされる時のように、恥ずかしくなくなる時がくるのだろうか。

「どうして」
「……一瞬だけ口が触れるくらいなら、ミリィにもできそうだと思って。……でも恥ずかしい」
「……ミリィは、本当にいつもずるいよ」

 カイルは手の甲で口を覆う。カナンはというと、一生懸命私のネックレスの宝石を磨いていた。今のを見ていなかったようだ。見ていたとしても、四六時中頬にキスされる私を見ているので、なんとも思わないだろうが。

「そういえば、カイルお兄さまは口にキスするの、見られたくないの? さっき驚いていたわよね」
「うん。カナンにも兄上たちにも、他の誰にも見られたくない」
「他の人は分かるけれど、カナンやお兄さまたちも駄目なの?」
「ミリィの顔を見られたくないんだ。頬にキスするのとは違う顔をしているよ。他の人に見られたくない」

 どんな顔だ。不細工な顔か? さーと顔の血が引くのが分かる。

「ああ、そんな顔しないで。可愛すぎるってこと。瞳とかうるうるだからね。俺だけが見られる顔にしておきたいんだ」
「うるうる?」

 なんだろう。涙かな? 勝手に出てくるのだ。

「だから、口にキスするのは二人だけの時に」
「分かったわ」

 別に変な顔でないなら、カナンや兄たちに見られてもいいと思うのだが。しかしカイルが希望するので、それでいいかと思う。それなら約束できるし。

 それからもう少しだけ一緒に話をしていたが、エメルがやってきて強制的にカイルを連れて行った。その後私は食事をして、卒業試験の勉強を始める。もうすぐ本番なのだ。カナンも一緒に机に付く。アナンは自室で勉強をしているだろう。三人で必ず合格するのだと、試験までの残り僅かの時間を頑張るのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。