七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 176話 アルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 176話 アルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」176話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 176話 アルト視点

 本日、アルトは南公の娘ウェリーナとデートの予定である。
 バチスタ公爵家の帝都にある屋敷。外から見ても豪奢な作りの屋敷の前に、ウェリーナが立っていた。少しツンとしているが、今日が楽しみだったのか、表情は明るく嬉しいのが隠しきれていない。俺が事前に指定した通り、歩きやすいブーツを履いてはいるが。

「侍女は一緒に行かないのですか?」
「え? 使用人がいるのでしょう?」

 確かに今日の目的地には使用人も用意している。そう言った。言ったが。普通、令嬢がデートとはいえ外に行くなら、侍女は連れてくるべきである。以前街でお茶した時も侍女はいたはずだが。
 ディアルドではないし、俺はあまり厳しくない方だと思うが、妹が兄弟でもない男と出かける時に侍女もいない、というのは、いかがなものかと思う。もしこれが俺の妹なら指導しているところだが。ミリィはそういうところはちゃんとしている。

「では護衛は?」
「アルトさまが馬に乗せてくださると聞いたのですけれど?」

 確かに、今日は馬車ではなく、馬で移動する。俺の前にウェリーナを乗せると伝えていた。けれど、そうではない。護衛はウェリーナを守るためにいる。細かく言うなら、俺からも守る護衛はいるのが普通だと思うが。ここもウェリーナが俺の妹なら指導したい点である。

 なんだろう、この子。警戒心なさすぎやしないか。俺が言うのもなんだが、不安になるレベル。よく今まで俺みたいなのに付け込まれなかったものだと呆れる。
 とはいえ、今日は護衛はいない方が都合がいいので、目を瞑るが。

 ウェリーナを馬に乗せ、俺も同じ馬の後ろに乗る。そしてゆっくりと走り出す。ウェリーナは最初は馬上を怖がっていたが、それを表に出さないよう必死に取り繕う姿が可愛いものだ。怖いなら怖いと言っていいのに。
 しばらくすると慣れだしたのか、話しかけても反応が返ってくるようになった。

「風が気持ちいいでしょう」
「そうね!」
「普段は馬には乗りませんか? 馬車の方が多いのかな」
「馬は危ないもの。今日はアルトさまが守ってくださるものね!」
「もちろんですよ」

 うーん、話した感じは悪い子ではない。それと子供っぽい。大人な体つきと美貌を持っているが、よく考えれば年齢はうちのミリィの一つ上だった。まだ子供である。ふむ、予定より少し年齢を下に対処するような路線に変更したほうがよさそうだ。

 ちらっとこちらを見てくるので笑い返すと、それだけなのに、ぷいっと明後日の方向を見て顔を隠すが、隠せていない頬が赤い。やはり子供である。反応が可愛い。

 それから目的地に着くと、ウェリーナは頬を上気させて喜んでいた。そこは一面がラベンダー畑である。今日は貸し切りにしているので邪魔は入らない。いつも彼女たちのデートで来ているので、勝手知ったるものである。

「ウェリーナ嬢はラベンダーが好きそうだと思いまして。気に入ったかな?」
「ええ! なかなかいいと思うわ!」
「それはよかった。お手をどうぞ」

 手を差し出すと、ウェリーナは少しツンとして手を乗せた。しかし歩き出すと、俺と触れている手を見ては嬉しそうにする。それからラベンダー畑を歩き、ラベンダー畑にポツンと立つ二階建ての可愛い作りの洋館に入る。

「ここでお茶にしましょう。席は外に用意しているのでラベンダーも楽しめますよ」
「いいわ」
「あそこに東屋が見えますか? お茶の後はあそこに行きましょう」
「ええ!」

 少し丘になっている場所に、白い柱とアーチ状の屋根が絵になる東屋があるのだ。
 洋館では雇っていた使用人たちがお茶とお菓子を用意してくれる。ウェリーナは楽しんでくれたようで、始終ご機嫌だった。

「普段、こういったところには行かないのですか?」
「行かないわ。いつもは街のカフェに行くか買い物を楽しむわ」

 こういう会話からも、普段の生活が窺える。侍女を伴っていたとしても、令嬢一人で行ける場所は限られる。それこそカフェか買い物か友人宅くらいだろう。他の場所に行くには、父や兄に連れて行ってもらうか、男の友人に連れて行ってもらうか。ただ男の友人と二人っきりとなると他人の目もあるし、そうそうできない。友人が少ないというウェリーナは、そういった場にはほとんど行けていないのは想像できる。唯一の肉親である父と兄はウェリーナに興味はないというし、今日を本当に楽しみにしていたのだろう。

 今まで楽しませていたが、これから暗い話をすることになる。せっかく楽しそうなのに不憫だとは思うが、こちらも事情があるので容赦はできない。

「そろそろ東屋に行ってみましょうか。あそこからの景色もすばらしいよ」
「ええ!」

 またウェリーナの手をとり、東屋へ向かう。

「失礼するね」
「え!?」

 東屋に付くと、俺はウェリーナを抱えた。驚いて俺にしがみ付くウェリーナに笑いかける。

「東屋には椅子が一つしかないんだ」
「あの、でも」
「大丈夫。ウェリーナ嬢は俺の膝に乗ればいいんだよ」

 ウェリーナは強気の表情を脱ぎ捨て、混乱して顔を赤くしている。
 否定される前に椅子に座ると、膝にウェリーナを横向きに乗せた。これで顔がよく見える。硬直して体を硬くするウェリーナに苦笑した。

「そんなに怖がらないで。俺の右手がウェリーナ嬢の腰を支えているでしょう。落とさないよ」

 まあ、そんなこと気にしてはいないだろうけれど。真っ赤な顔を見れば、それどころではないのは丸わかりである。

「怖ければ、俺の左手に手を乗せて」

 左手を差し出すと、おずおずと右手を差し出してきた。でも体がまだ硬い。緊張しているのは分かる。

「緊張を解いて欲しいな。ウェリーナ嬢の美しい顔が強張っているよ。ほら、こっち見て」

 ゆっくりとこちらを見るウェリーナ嬢に笑いかけ、握っていた手に口づけを落とすと、さらに顔を赤くしてしまった。あれ、逆効果だった。まったく話さなくなったし、少し落ち着くのを待ったほうがいいかもしれない。

 何も話さずにウェリーナの手の甲を撫でながら、ラベンダー畑にそよ風が流れるのを楽しむ。

「こんなこと、いつもしてらっしゃるの?」

 おっと、落ち着いたかな。顔色が少し赤いくらいまでに戻っている。

「こんなことって?」
「分かっているでしょ! 膝に女性を乗せることよ!」
「どうだろうね? ウェリーナ嬢は嫌だった?」
「い、嫌とは言っていないわ!」

 ウェリーナの腰に置いていた手を上げ、ウェリーナの顔の横に手を添える。びくっとウェリーナは体を動かすが、逃げようとはしない。手の指を少しずらし、ウェリーナの首をなぞると、俺と繋いでいる手をぎゅっと握りしめる。少し潤みだしている瞳を見ていると、俺の内に嗜虐心が沸き上がる。

 ああ、ここでもっと泣かせたいと思うけれど。今日は他の意味で泣かせる予定である。顔の横にやっていた手を腰へ戻すと、笑みを浮かべた。

「確かに可愛い子は膝に乗せたいと思うかな。近くで顔が見える」
「や、やっぱり! たくさん膝に乗せているのでしょ!」
「たくさんかは分からないな。ただ可能な限り、膝に乗せたい子はいるよ」
「誰ですの!」
「俺の妹。ミリィだよ」

 するとウェリーナの嫉妬の表情が怒りの表情へ変わっていく。

「あ、あの妹のどこが可愛いの!? 私とどう違うの!?」
「ミリィの可愛いところはいっぱいあるよ。全てが愛しい」
「全てだなんて! そんなはずない、人は普通欠点だってあるでしょう? 嫌いに思う部分もあるでしょう?」
「ミリィに欠点なんて思いつかないけれど、たとえ欠点があっても、そういうところも愛しいと思うよ」

 怒りが爆発したのか、俺と握っていた左手を振り放した。

「欠点さえ愛しいって何!? じゃあ、あの子があの子でさえあれば、愛される存在だというの? 私は? 私だって……お父様に愛されたいのに」

 かかった。

「そのお父様って? 南公のことではないよね?」

 びくっとしてこちらを見た。

「南公はミリィに興味はないはずだ。お父様とは誰のことを言っているの?」
「わ、私は、誰も」
「お父様は誰? カルフィノスの兄弟かな?」

 ウェリーナは驚きの表情を浮かべた。

「……どうして」
「知っているよ。ミリィがカルフィノスだってことは。今遊戯中だってことも。ウェリーナ嬢は神の子なんだね?」

 少し間を空けて、ウェリーナは力なくこくりと頭を下げ肯定する。

「話をしてくれないかな? ウェリーナ嬢のこと」

 怒りだった表情が、だんだんと悲しみの表情になり、目に涙が盛り上がる。その涙を指の腹でなぞると、ウェリーナがこちらを見た。

「包み隠さず全てを話して。お願いだよ」

 ウェリーナはぽつりぽつりと話をし出した。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。