七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 166話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 166話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」166話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 166話

 宮廷舞踏会の会場入口で、私とルーカスは招待状を見せる。

「ルーカス・ル・ラウ公爵令息、ならびにミリディアナ・ルカルエム・ル・ダルディエ公爵令嬢」

 高々といつものように紹介され、私たちは会場入りする。

「今日、ミリィの兄上たちは?」
「みんな参加するわ。シオン以外は先に来ているはずよ」

 そのシオンの名前が呼ばれた。一緒に来ている令嬢の名前も読み上げられる。私たちのように入口で読み上げられたのだ。

「……シオンさんが連れてきた令嬢、美人だけどすごく背が高いな」
「うん、気にしないであげて」

 シオンの相手の令嬢は、うちの影の一人である。しかも男だが、女顔なので家で見た時はまったく違和感がなかった。影の方はしばらくシオンと共にいて、そのうち姿を消すことにしているという。まあ、シオンの招待状さえ本物なら、同伴者はわりと簡単に入れるのだ。だからたまに高級娼婦を連れてくる人もいるくらいである。

「おっと……やばい」
「どうしたの?」
「殿下がすごく睨んでた。ミリィ、殿下には俺と来ること言った?」
「ううん?」
「わぁ……俺、生きて帰れるかな」
「やあね、そんな大げさな。カイルお兄さまは少し無表情なだけよ」
「そう思っているの、ミリィだけだからね?」

 少し呆れた表情のルーカスを見ていると、後ろから声を掛けられる。

「あなたたち、ものすごく目立っているわよ」
「モニカ! わあ、そのドレス、すごく綺麗! 似合ってるわ」

 前世の和服のような赤と黒を基調とした柄に、胸元から下はスカートがドレスのように広がっていてすごく妖艶である。同伴はエグゼでこちらは黒を基調とした、変わった衣装である。トウエイワイド帝国で着る礼服のようなものだろう。

 モニカには今日はルーカスを同伴とすることを言ってあり、嫌がってはいたが他の男どもよりマシだと言っていた。最近は私が学園でルーカスと話すので、モニカも時々はルーカスと話すようになってきたのだ。

「ありがと。ミリィもすごく綺麗よ。ただそこかしこで噂になっているわ」
「噂って?」
「いつも兄を同伴にしていたミリィが、同じ家格のルーカスを同伴にしているからではないかしら。なぜかルーカスも人気があるみたいね、あっちで悔しがっている令嬢がいたわよ」
「なぜかって……」
「いい、勘違いしないでちょうだい。今日はミリィが親切心でルーカスの同伴をしてあげているの。ミリィに恋なんかしたら、息の根を止めるわよ」
「なんでお前の周りって、こんなのしかいないわけ……」

 ルーカスはげんなりとした表情でつぶやく。うーん、モニカのこういうところ、私は可愛いと思うのだけれどね?

 それからモニカとは別れ、ルーカスと一緒に知り合いと話をしたり、舞踏会なのでダンスしたりして楽しみ、少し休憩しようと会場の端へ移動している時だった。

「ミリディアナ嬢、久しいな」

 前からやってきたのはザクラシア王国の国王ヴィラルと、母の同腹の弟であるシャイロだった。

「ザクラシア国王さま、お久しぶりでございます」

 ルーカスとお辞儀をして顔を上げた。
 ヴィラルはすっかり大人の男となっていた。優しい瞳はそのままだが、毒を食らっていたとは思えないほど健康そうで、背が高くていい男になっている。ママの背が高いのは血筋かもしれない。柔和な笑顔を向けて、ヴィラルは口を開く。

「美しく成長されたな。見違えるようだ。君と過ごしたあの時の夢を今でも見る」
「お褒めいただき光栄ですわ。わたくしもあの懐かしい時をよく思い出します」

 今は他人の目がある。だから懐かしくとも昔の話題は出せないし、この場で思い出を多く語ることはできない。それでも互いの目の奥に、視線をかわすことで言葉に表せない意思が通じ合った気がする。

「ミリディアナ嬢、後でまた話をさせてくれはしないか。昔の思い出がまだ話し足りないのだ」
「ええ、喜んでお受けしますわ」

 では後程、とヴィラルは去っていく。

「ミリィ、ザクラシア国王と知り合いだったの!?」
「うん、小さいころに少しね。従兄妹だもの」
「あ、そういえばそうか」

 それから予定通り会場の端でルーカスと休憩しながら、招待客の人たちを見る。

「あそこの人たち、どこの国の人?」

 日に焼けたような肌色の人たちがいる。前世でいうアラビア人のような、ミステリアスな雰囲気で、服装も変わっていた。

「ああ、あれはウェルド王国だな。確か姫と王子が来ていると聞いたけれど。たぶん、姫は皇太子殿下の婚約者候補だと思うよ」

 あれがウェルド人か、と観察する。ウェルド王国については少し勉強したくらいで知識が少ないが、一夫多妻制のお国柄で、現在では王子や姫が三十人ほどいるはずだ。グラルスティール帝国の南にはウロ王国があり、そのさらに南にウェルド王国はある。

「あの方が姫かしら? とても綺麗な方ね」

 少し化粧は濃いが、ああいう化粧をする国柄なのだろう。まだ若く、私と同じ位の年齢だと思うが、目鼻立ちがはっきりしていて、かなりの美女である。
 ちょうどカイルとウェルドの姫が話をしていた。現在お見合い中のような感じかもしれない。

「そういえば、ルーカスはお見合い話って来てる?」
「来てる来てる大量に。あの釣書の束を見るのも嫌だ」
「ああ、釣書って、誇張されているわよねぇ。ルーカスは次期公爵だもの、絶対に結婚相手が必要でしょう。大変ね」
「何言っているんだよ、ミリィもお見合い話来てるのだろう?」
「来てるって聞いているけれど、お兄さまたちが釣書は見なくていいって言うの。だから見たことない」
「ああ、うん。想像はつく」
「それに、ミリィのことは結婚しなくてもジュードが一生面倒見てくれるんですって! だからルーカスとは違って、結婚しなくてもいいのよ」
「もう何て返せばいいか分からんわ」

 それからルーカスは一度席を外す。トイレに行くようだった。
 ルーカスは今日は私を同伴にしたけれど、いつまでも友達を同伴にして舞踏会に出かける立場ではないことは本人も分かっているだろう。一番いいのは、テイラー学園で相手を見つけることだが、これまでのルーカスを見ている限り、そんな相手がいるようには見えない。

(……そういえば、モニカならどうかしら)

 モニカはカイルとは性格が合わないようなので、カイルとくっつけるのは諦めた。だったらルーカスはどうだろうと思う。ルーカスはああ見えて面倒見がいいし、モニカも最近ルーカスと話すこともあるので、将来的には無きにしも非ずである。うん、なかなかいい案な気がしてきた。

「さっきの男は婚約者か?」

 考え事をしていて、目の前に立つ男に気づくのが遅れてしまった。前を向くと、見知らぬ男が立っていた。

(ウェルド王国の人?)

 さきほど見たウェルド王国の人と同じような恰好をしている。口の周りやアゴに髭を綺麗に短く揃え、口角を上げてこちらを見ている姿は、野性的な雰囲気と育ちの良さが合わさっている。またすごく顔が整っている。

(すごいイケメンが来た)

 甘い顔とはこういうことを言うのか。
 驚いて声を出せないでいると、ウェルド人が口を開いた。

「もしや、口が利けないのではあるまいな?」
「あ、いえ、失礼いたしました。……えっと」
「アフレイム・フロウ・ライーナ・ウェルドだ。そなたは?」

 ウェルド、ということは王族である。つまりウェルド王子だ。

「わたくしはミリディアナ・ルカルエム・ル・ダルディエと申します。お会いできて光栄ですわ。先ほどのご質問ですが、わたくしの同伴者は婚約者ではありません」
「ほう、それはよかった」
「え……」

 ウェルド王子は私の腰を抱き寄せた。突然すぎて目を丸くするしかない。

「ミリディアナ、そなたを気に入った。私の六人目の妻にしてやろう」
「え? なにを」
「光栄だろう。心配するな、私は妻は公平に愛するのでな」

 いや、もうどこから突っ込めばいいか分からん。

「えっと……そうですね、たしかに光栄なことではありますが、わたくしには務まりませんわ」
「心配するな。私が妻に求めるのは大したことではない。ただ私に向かって微笑んでいればよい」

 こいつ、どうしてくれよう。話が通じる気がしない。シオンを呼ぶか? とも思うが、相手は王族である。死傷事件にでもなったらマズイ。

「その手を離せ。ミリディアナ嬢が困っているだろう」

 そこに入ったのはザクラシア王ヴィラルだった。さっと私の手を握って、ウェルド王子の手から助け出してくれた。

「ザクラシア王」

 ウェルド王子が片眉を上げる。相変わらず笑みを浮かべたままだ。

「困っているわけないだろう。私の妻になれるのだぞ」
「ミリディアナ嬢はウェルド王子の妻にはならない。彼女は私の妻になる」

 ――は?

 今度はヴィラルが何かぶっこんできた。
 ヴィラルは私に向き合うと、真剣な面持ちで告げた。

「のちに話そうと思っていたが、ここで話そう。ミリディアナ嬢、私の妻になってほしい」

 いやいやいや、ヴィラルは子供いるのじゃなかったか? ということは奥さんいるだろうに! あ、そういえば、ザクラシア王家も一夫多妻制だった。

 もう周りはみんな遠巻きに見ております。それはもう驚きと面白いものを見ている表情で。少し冷や汗が出だした。やばい、ぶっ倒れていいでしょうか。

「わ、わたくしは」
「ミリディアナ嬢は私の婚約者になる予定だ」

 第三者の声が後ろからした。よく聞く大好きな兄の声。

「カ、カイルお兄さま?」

 ヴィラルが握っていた私の手を引き離し、カイルは私の肩を寄せた。

「悪いが、これは内内に決まっている話だ。ザクラシア王とウェルド王子には遠慮してもらおう」

 どういうこと? 私、いつの間にカイルの婚約者になっていたの!? 気づかぬ間に周りに兄たちが揃っていた。みな驚愕と困惑、そして少しの怒りをはらんでいる。

(シオン! 知っていたの?)
(知らない! そんな話はないはずだ!)

 どういうことだろう。完全に混乱である。

「失礼する」

 カイルが私を連れてその場を離れる。その間、周りの視線がすごく痛かった。できれば気を失って、注目されていることに気づきたくなかった。なぜ、私は、今気を失っていないのだろう。コルセットをしていないからか! そんなどうでもいいことだけが、現実を逃避するように頭を駆け巡るのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。