七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 199話 ネロ視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 199話 ネロ視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」199話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 199話 ネロ視点

 ウェルド王国の第四王子から第二王子が黒幕と知らされて以降、ウロ王国の王子と王女が捕らわれている城を調査した。この城はウロ王国の公爵家の持ち物で、公爵は普段から王家に忠実な家柄らしいが、一人息子を人質にされ秘密裏に王家の王子と王女を誘拐することを手伝った。城にいたはずの公爵の私兵は全て城の地下牢へ閉じ込められ、現在城を守っている兵はウロの騎士服を着たウェルドの兵士たちだ。

 城の内部の地図を手に入れ、ネロとシオンで何度か城の内部調査も行っており、王子と王女が監禁されている場所とウェルドの第二王子がいる場所は把握している。ウェルドの第四王子とは違い、第二王子は今のところ影を持っている様子がない。

 今日の夜に城へ侵入し、王子と王女を救出する手はずになっている。その準備のためにネロはシオンの目立つ金髪の髪を染粉で染めるのを手伝っている最中だ。今日一日はシオンの髪色は黒になる予定である。

「それにしても、坊ちゃんが王子と王女を救出すると言い出すとは思わなかったなぁ。ウロの王子と王女なんて放っておいて、ウェルドの第二王子だけ対処するのかと思ったのに」

 ウロからすれば大事な王子と王女だろうが、こちらからすれば、あの王子と王女が誘拐されたせいで戦争をするはめになっている。誘拐はウェルド王国とウロ王国の問題だ。グラルスティール帝国としては巻き込まれただけでいい迷惑なのである。カイル皇太子なんかはできれば王子や王女は助けられたら助けて、ウロへ恩を売り有利な交渉に使いたいと思っているようだが、シオンはそういうタイプではない。自分の気持ちが一番で、今回は特に黒幕の第二王子に頭にきているはずなのだ。だから第二王子だけを対処すると言い出すと思っていたのに。

「……ミリィが、ミリィのように助けてくれる兄のいない王女が可哀そうだとこの前言っていたから」

 兄はいるが、王女と一緒に捕まってしまっている。

「それって、お嬢は助けてやってっていう意味で言ったんじゃないと思うよ?」

 お嬢はシオンが危ない事をするのを嫌う。止めはしないが、怪我などすると敏感に反応する。その危険を伴うことをしやすいシオンに、他人を助けてまで危ないことをしろとお嬢が言うことは絶対にない。

「分かっている。城を調査して行けそうだと判断しただけだ。お前も問題ないと言っただろう」
「うん、まあそれはね。ただ意外だなぁと思っただけだよ。よし、いいかな。あとは乾かそうね」

 シオンの髪を染め終わると、仰向けに寝かせる。ある程度乾くまでこの状態である。

「せっかく助けるならさぁ、王女可愛いといいね!」
「何で?」
「だって助けた王女が助けた人を好きになるなんて、物語でありがちじゃない?」
「興味ない」

 まあ、シオンはそうだろうけれど。

「坊ちゃんはさぁ、お嬢さえいればいいんだろうけれど。お嬢が結婚したらどうするの? 坊ちゃん一人になっちゃうよ? ここいらでもう一人くらい大事な女の子作っておくのもいいと思うけれどね」
「……」

 まあ、シオンはお嬢が結婚などと、考えたくはないだろうけれどね。

「あと、あの話どうするの? ザクラシアの次期王の勧誘の件」
「……」

 シオンは内密にシャイロから次期王とならないか相談されている。お嬢を狙っていたメレソォ公爵を対処するために先日ザクラシアへ行った際、その後始末をシャイロに頼んだ時に勧誘されたのだ。メレソォ公爵は生きているが、今後王位につくことは絶望的だろう。いまだザクラシア王には男児の子はいないし、そうなると現在次期王になれる人物は王位につきたくないシャイロだけしかいないのだ。

 あれ、即答しないところを見ると、少し考えているのかな? 次期王にはならないとすぐに言うかと思ったけれど。ああ、もしかして。

「坊ちゃんが次期王にならないなら、お嬢がまた狙われる可能性を考えている?」

 お嬢が神髪神瞳に関係のない、ただのザクラシア王家の血筋であるだけだったらよかったのだが。お嬢が狙われるくらいなら、シオンは自分がザクラシアへ行くことを考えるだろう。

「……ミリィが狙われる可能性はまだあるだろう」
「まぁね。やっぱりこの前、メレソォ公爵は完全に始末しておけばよかったね。シャイロは今のところ悪意はなさそうだけれどねぇ。今後は分からないしねぇ」
「だから俺が見張っているのが確実だろう」
「でもザクラシアは国境で会話が遮断されちゃうじゃない。話せないとお嬢が泣くよ?」

 坊ちゃんとお嬢の心の中での会話だ。今でも毎日会話しているようである。

「……時々俺が帰ればいい」
「まあ、坊ちゃんがいいなら、それでもいいけれどね」

 本当にそれでいいのか。お嬢よりも会話ができなくて辛くなるのはシオンだと思う。お嬢は周りに他にも兄がいるが、シオンがザクラシアへ行くとしたら一人である。

 ネロはそれ以上シオンに何も言わなかった。

 そして夜、城へ侵入する予定の時刻。
 ウロの上層部と連絡をしており、今日の作戦を実行する部隊が到着していた。王子と王女を救出しても、引き渡す人間がいないとどうしようもないのでウロへも連絡しておいたのである。すると潜入をぜひやらせてくれとウロの上層部が言うので、色々と手伝ってもらうことにしたのだ。

「念を押すが、足手まといになりすぎるなら置いていくからな」
「き、気を付けます」

 ウロの騎士たちは、二手に分かれている。一つは表で騒ぐ部隊。そしてその騒ぎに乗じてネロたちと侵入する部隊である。
 ネロたちグラルスティール帝国側はシオンとネロと複数の影の少数部隊だ。ただネロたちは王子と王女を救出するのはついでであり、他に目的があるのだが。今回はネロたちだけは仮面をかぶっている。念のためだ。

 城の裏手では、潜入する部隊が息をひそめていた。その時、城の反対側で騒ぎが起きているのが聞こえてくる。ウロ王国の部隊が予定通り表を攻撃して注意を引いている。

 影が一人抜け出すと、城壁の下に立った。ネロが走り、その勢いのまま壁の下にいる仲間の構えた手に乗ると、仲間の腕のバネを利用して壁に垂直に飛び上がった。そして城壁のてっぺんに指を引っかけて全体重を支え、さっと城壁の中へ入る。そして表の騒ぎに注意していてネロに気づいていない見張りを倒すと、ネロは城壁に縄を垂らした。シオンや他の影、そしてウロの侵入部隊が縄を登る。

 全員壁を登りきると、縄を回収し、予定通りの道順で城の中を進む。いい感じに表の騒ぎに兵士が向かっているようで、行く手に兵士が少ない。王子と王女が監禁されているのは、牢屋などではなく、城の一室で見張りが立っている。音もなく見張りに近づき、ネロとシオンで二人の見張りを倒す。そして鍵を壊して部屋へ入ると、驚いた表情の王子と王女が扉を向いていた。

「王子殿下、王女殿下! ご無事ですか!」

 扉の中に入ったウロ王国の騎士たちが小さな声で二人に声を掛けると、王子と王女は歓喜の表情になった。

「助けに来てくれたのか!」
「もちろんでございます!」

 王子は屈強そうで腕っぷしが強そうだ。王女もドレスを着ていても分かるくらい体格のいい女性である。いい筋肉をしていそうだ。

「なんか思い描いていたのと違うね?」

 ネロはシオンに小さな声で言った。誘拐されたと聞いて、弱そうな王子と王女を想像していたのだが。

「こちらは?」

 仮面をかぶったネロたちが異様に映ったのだろう。王子と王女が怪訝な顔をしている。

「グラルスティール帝国の方々です。お二人の居場所を突き止めたのも彼らなのです」
「何? それは感謝する」
「俺たちに感謝はいらない。それよりも、お前たちが我々に与えた影響は分かっているか?」
「……公爵から話を聞いている。すまない、私たちのせいで戦争になっていると」

 公爵とは、この城の持ち主のことだろう。

「分かっているならいい。感謝していると言うなら、国同士の話し合いで誠意を見せてもらいたいものだな」
「心得た」

 ウロの王子は屈強そうな体格に似合わず誘拐される愚鈍のようだが、人間はできているようである。

「いつまでも話していても仕方がない。すぐに逃げるぞ」

 来た道を見張りに気を付けながら戻る。そして逃げる城壁の位置だけ行きとは場所を変えた。行きで倒した見張りをそこに置いてきたからである。殺してはいないので、早ければ起きている可能性もある。城壁の上の見張りを倒し、城壁に縄を垂らす。

「こ、これを降りるの?」

 姫は自分で城壁を降りることに青い顔をしている。シオンが溜息を付いて王女を抱えた。

「きゃっ」
「大人しくしてろよ。振り落とすぞ」

 シオンは王女を抱えたまま片手で縄を降りだした。さすが鍛えているシオンである。さすがにネロでは王女を抱えたまま降りるのは辛い。シオンは地面に着くと、王女を降ろした。ネロが地面に最後に降りた時には、王女の視線はシオンから外れていなかった。目がキラキラしていないか? あれれ、物語が始まるのかな? と思いたいが、シオンはまったく王女を気にもしていない。

 それから城を離れ、一定の距離のところにまで逃げると、そこには馬が隠してあった。ウロの騎士たちは王女と王子を連れてウロの王都まで逃げる予定である。ネロとシオンはまだ用事があるので、彼らとはそこで別れた。

 ネロとシオンはまた城へ戻ってくると、仲間に合図を送る。すると城の城壁から縄が降りてきた。さきほど侵入した時に、数名仲間の影が中に残っていたのである。

 一度目の侵入では素人がいたから時間がかかったが、今度は楽に侵入すると城の中へ進んでいく。最初の侵入で表で騒いでいたウロの騎士たちもすでに撤収したようだ。これも予定通りである。今頃ウェルドの第二王子は、ウロの王子と王女に逃げられたことを知って怒っていることだろう。

 この城にはウェルドの人間以外に、城の持ち主である公爵、その一人息子、そして地下に閉じ込められている公爵の私兵がいるだけだ。公爵は息子が第二王子に捕らわれているために第二王子のいいなりになっている。シオンやネロからするなら、公爵やその息子を助ける義理はない。しかし、今度も次いでとばかりに、彼らに逃げる手段、もしくはウェルドと戦う手段くらい与えてあげるつもりで動いている。

 シオンとネロは他の影の仲間とは二手に分かれている。影の仲間は、地下に捕らえられている公爵の私兵たちを逃がす予定だ。公爵とその息子をどうするかは、その公爵の私兵たちに任せるつもりである。そしてシオンとネロは外から第二王子がいる部屋へ近づいていた。多少見張りはいるが、影らしく見えなくなればいいので難しくはない。その技をシオンも習得しているので、難なく第二王子のいる部屋の窓へ到達し、窓から中を覗く。

「……やっぱり第二王子は怒っているようだねぇ。それはそうか、王子と王女が逃げてしまったんだから」

 怒れる第二王子が、部下と思わしき人たちに怒鳴り散らしている。

 これからの予定としては、地下に捕らえられている私兵が逃げる混乱に乗じて、ネロたちが多少第二王子を痛めつける。その際に『第四王子』の名をわざと多く口にすることで、この作戦があたかも第四王子によるものと印象づけさせる。ウロ王国の王子と王女が逃げてしまったので、ウロ王国の騎士が大勢ここへやってくるのも時間の問題であることは第二王子も分かるだろう。第二王子がこの拠点から逃げて、こちらの思惑通り第四王子とつぶし合ってくれるといいのだが。第四王子から情報を貰ったとはいえ、ネロたちが第四王子の手のひらで踊らされるだけというのも癪であるのだから。

 仲間の影からの合図がきた。地下に捕えていた私兵たちを逃がしたようだ。

「じゃあ行きますか、坊ちゃん」
「ああ」

 ネロはシオンと共に第二王子の前に出ていくのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。