七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 210話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 210話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」210話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 210話

 シオンがザクラシアへ発って一ヶ月が経過したころ、帝都でエメルと二人でベッドで寝る準備をしつつ、今日あったことを話していた。

「それでね、カイルお兄さまのカツラと眼鏡の作成を依頼していたのだけれど、今日届いたの。明日持って行くわね。ミリィとお揃いなの」
「カツラは何色にしたのですか?」
「蜂蜜色と茶色の二種類よ。やっぱりお忍びデートなら民に紛れそうな色がいいと思って」

 グラルスティール帝国の中では、蜂蜜色や茶色の髪色が多いので、そういった他の人に紛れそうな色がお忍びには持ってこいなのだ。今から結婚後に遊びに行けるように準備しているのである。

「そうですね、いい色だと思いますよ」
「エメルも作る? ノアやレオに見つからずにオーロラとデートができるかも」
「……ミリィ、私はオーロラとは付き合っていませんよ」
「でもオーロラのこと可愛いと思っているよね。ミリィわかるもん」
「もちろん可愛いですけれど……年が離れていますしね。妹みたいなものですよ」

 オーロラは分かりやすくエメルにアタック中なのだが、エメルはオーロラを可愛がってはいるものの、確かに私に対応するのと似ている。まだ妹の域からでないというか。オーロラとエメルは知り合って一年と少し。オーロラはまだ十五才で学園にも通っていない。エメルがオーロラに対し躊躇するのも理解できる。だが。

「オーロラって美少女でしょう。学園に行ったら、すごく人気になると思うわ。今はノアやレオががっちりガードしているけれど、オーロラがエメルに会いに行っているみたいに、兄にも気づかれない抜け道があると思うの。エメル、オーロラを取られたくないなら、ちゃんと捕まえておかなきゃ」
「……ミリィはどうしてそう恋愛に関することに積極的なんですか」
「恋愛は楽しいもの! 好きな人がいるのってドキドキするでしょう。エメルだって、前に付き合っている女性いたよね? もうお別れしたのでしょう?」
「……何で知っているんですか……付き合っていたのって、すごく短い期間ですよ」
「ミリィ、自分じゃない人のそういうのはピンとくるの! 大丈夫、オーロラには言わないわ!」
「お願いしますね……」

 エメルは小さなため息を付く。私の頬にキスをした後エメルがそのまま寝る体制に入ったので、私はエメルにくっついて目を瞑った時。

(ミリィ)

 私は瞑った目を見開いた。

(シオン?)
(聞こえたみたいだな)

 寝つきの良い私が目を開けたままで、エメルは不思議そうな顔をする。

「ミリィ?」
「エメル! 今シオンの声がしたの!」
「え?」

(グラルスティールに帰ってきたの!?)
(いや、今ザクラシアの王宮)
(え?)
(今日、即位したから。神とやりとりして、話ができるようになった)

「え!?」
「どうしました?」
「シオンが今日即位したのですって」
「……え!?」

 エメルも私も睡眠どころではない。思わずベッドから起き上がってしまう。今のところ、ザクラシア前王のヴィラルが亡くなったことも、まだ公になっていないはずである。

(シオン、ザクラシア王になったの?)
(そう。まあ俺は何も変わらないけれど。この後また色々あるから、とりあえずミリィと話せるのか確認しただけだから。もう今日は止めるからな)
(あ、待って待って! ミリィからも話したらシオンと繋がる?)
(繋がる。今まで通りだから、心配するな。じゃあ、また連絡する)
(うん! 絶対してね!)
(ああ)

 シオンとの心の声の通信が切れる。私はエメルに向き合うと、エメルに抱き着いた。

「今まで通り、シオンと連絡つくのですって! 嬉しいー!」
「……どうなっているのでしょう。もうシオン兄上の声は聞こえないのですか?」
「もう切れちゃった。忙しそうだったわ。ミリィと話せるのか確認しただけみたい」
「今日即位したと言っていましたね。ということは、たぶんザクラシア前王が亡くなったこともそろそろ公にするのでしょう」
「……ミリィの結婚式に来られるかしら」
「シオン兄上が来ると言ったのですから必ず来ますよ。ただ兄は兄でもザクラシア王として来るのなら、肩書が変わりますからね。そのあたりは確認して明日調整します」
「うん、お願いします。えへへ、シオンと連絡できるの諦めてたから、嬉しすぎて今日寝られないかも」

 なんてことはない。数秒後に爆睡だった。

 それから一ヶ月以上時が過ぎ、モニカと待ち合わせていたカフェへやってきた。ここはジュードのレックス商会がやっている、貴族の貴婦人がターゲットになっているカフェである。ジュードにお願いして、一番広くて眺めのいい二階の席を予約していたのだ。帝都は春間近で、今日は特に暖かい日だった。

「ミリィ」
「待たせちゃった? ごめんね、モニカ、ルーカス」
「そんなに待っていないわ。そのドレスいいじゃない、似合っているわ」
「モニカも! その髪型、可愛い感じにしたのね! すごく可愛い!」

 今日の私とモニカの恰好はお揃い、とは言わないが、二人共チェック柄である。以前まだ戦争前にアンたちに作ってもらったチェック柄の布を使ったお出かけ用のドレスだ。私は春っぽく黄色と黄緑と白のチェックで、全身がチェック柄ではなくスカートの半分以上をチェックにし、変わった形のデザインになっている。髪にも同じ柄のリボンをして全体的に統一した。モニカは赤と赤に近いピンク、そして黒とグレイを合わせたチェックで、モニカも全身にチェック柄を入れるのではなく、部分的に使うデザインにしている。もちろんアン作だ。それにモニカは珍しく可愛い感じの髪型にしていて、すごく可愛い。

「ミリィが可愛い髪型もいいよってすすめるから、してみたの」
「うん、思った通り似合ってる! ね、ルーカス」
「ん。可愛い。モニカはいつも可愛いよ」
「……ルーカス、外ではそういうこと言うの、止めてくれないかしら……」

 モニカは恥ずかしそうに言うのが、本当に可愛い。ルーカスとモニカの仲は順調のようである。私たちはお茶とお茶菓子を注文し、おしゃべりに花を咲かせる。

「ミリィはここに来てよかったのか? 結婚式まであと十日だろ? 今が一番忙しい時じゃないの」
「もうだいたい調整は終わっているもの。ルーカスたちの結婚式だってあと一ヶ月後でしょう? 準備は順調?」
「それが聞いてくれる!? わたくしのお兄様が……」

 モニカの実家であるトウエイワイド帝国の兄たちが口出ししてくるらしい。モニカはぷんぷんしている。兄たちなんて、跪いて言うこと聞いていればいいのよー! というモニカの怒りを、ルーカスが落ち着かせている。本当にいい夫婦になりそうだ。

「あ、そうだ、それでね、今日話したいことがあったのだけれど、結婚後にモニカが遊びに来る時は、ここに来てほしいの」

 私は簡単な地図を渡した。皇宮の中にあるいくつかの宮殿のうちの一つである。

「ここが皇太子妃宮なの?」
「そうなの。というよりね、皇太子宮と皇太子妃宮は同じ宮殿なの。この前引っ越ししたのよ」
「皇太子宮と一緒?」
「そうなの、ミリィも知らなかったのだけれど、婚約した後くらいからこの宮殿を改装していたらしくて。こっちの入り口から入ると皇太子宮、こっちから入ると皇太子妃宮になっているの」

 二十日ほど前、いきなりカイルが引越しをすると言い出した。カイルがいた皇太子宮を離れ、違う宮殿に引っ越すなんて、なぜ今頃? と思っていたが、なんと私と住む宮殿だったのである。前の皇太子宮より三倍ほど広く、一階と二階が執務や仕事に関係する部屋、三階と四階が私たちの住居やプライベートの部屋となっていた。三階と四階には他人が簡単には入れない作りになっている。一階と二階はちょうど半分が皇太子宮で残り半分が皇太子妃宮なのだが、入口がそれぞれ違うので、互いの客が中で会わない造りとなっている。ただ、私とカイルの執務室の間には通路があり、私たちは簡単に行き来できるのだ。

 結婚したら拠点とする宮殿が違うと思っていたので驚いた。というより、よくこれが国に許されたと思う。前にカイルが私をできるだけ傍におくと言っていたのを思い出す。きっとそのころからこういう想定をしていたのかもしれない。私としては、カイルの近くにいられるので嬉しいが。

「この宮殿の区画に入るのって厳しくてね。今はまだモニカはトウエイワイド帝国の皇女でしょう。ルーカスと正式に結婚して夫婦になるまで、少し手続きとか多くなると思うの。ルーカスと結婚して、この国の人になったら、そこまで厳しくなくなるわ」
「分かったわ。どちらにしても、結婚するまでは色々と忙しいから、そんなに会いに行けないと思うの。それにしても、何なのあの男。どこまでわたくしのミリィを独り占めする気かしら。宮殿くらい離れておけばいいのに!」
「ミリィは離れていないほうがいいー。知ってる? 結婚したら、ミリィと一緒に住むお兄さまがいないの! 寂しくなっちゃう……」
「それはそうでしょうよ。わたくしだってエグゼは近くにいなくなるのよ。もうエグゼったら毎日泣いて湿っぽくって」
「ああ、うん。時々一人でナナに会いに来て、ナナに慰められているわよ」
「あの子ったら、いつまで迷惑かける気かしら」
「うちはいいのよ。ただ、結婚したらナナも皇太子妃宮へ連れて行くの。だからエグゼは簡単にはナナに会えなくなるのよ。なんだが可哀そうで」
「いいのよ、放っておいて頂戴。あの子のぐじぐじに付き合っていると、こちらにまでキノコが生えちゃうわ」
「キノコが生えるの?」
「……トウエイワイドでは、そういう言い回しをするのよ」

 へえ、面白い。今度使ってみよう。

 そんなこんなで久しぶりに楽しく話ができた。
 のちに知ったが、この時着ていたチェック柄の服はしっかり周りに見られていたらしい。私の専属仕立て屋としてアンはすでに有名となっており、チェック柄の服が流行り出すのは、もう少し先の話である。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。