七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 208話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 208話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」208話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 208話

 初春、私とカイルの婚約お披露目が行われる宮廷舞踏会の日となった。

 私が着ているドレスは全体的にラベンダー色である。ドレスの上半身にはアンが渾身の刺繍をしており、豪華ですごく上品な出来である。そして耳飾りには、ザクラシア女神の瞳という名の緑の宝石が付いたものを装着している。これはカイルの産みの母メナルティが使っていたもので、以前ティアママに頂いたものなのだ。カイルはそれを見て、嬉しそうに私に似合ってると言ってくれた。

 目の前には宮廷舞踏会の会場へ入る扉があり、私の隣で礼服に身を包んだカイルが口を開いた。

「緊張している?」
「うん……」
「俺が傍にいるから、俺を頼って。それに家族以外はみんなナナだと思えばいいよ」
「ええ? そんなの、可愛いくて笑っちゃうわ」

 ふふふと笑いあっていると、扉が開かれる。カイルの助言通り、家族以外はみんなナナだと思うようにしながら大きな拍手と共に入場する。私たちの婚約に関する皇帝陛下の口上が終わると、たくさんの拍手を貰い、私たちは最初のダンスを踊るのである。私とカイルは二人で前に出ると、音楽と共に踊り出した。

「ふふふ、カイルお兄さまが変なことを言うから。ナナがいっぱーい」
「ミリィは想像力が豊かだからね。この方が楽しくていいでしょう」

 みなが注目する中のダンスのため、本来なら緊張しそうなものだが、ドレスの貴婦人の頭や礼服を着た男性の頭がナナになってしまっている。いくらナナだと思うようにしたとはいえ、私は自分を洗脳する才能があったのだろうか。ときどき人間の顔が見えると思うと、それはみんな家族だった。今日は両親も兄たちも全員揃っている。

 ダンスが終わると拍手が沸き起こり、それから他の人たちがダンスを踊り出す。私たちはというと、周りにたくさんの人たちが集まり、お祝いの言葉を貰うのである。ひっきりなしに人が集まるのですごく大変だが、今日は主役なためなかなか休むことはできない。

 どれだけの時間を人と会話したのか分からない頃、側に控えていたエメルが近づいてきた。少し休憩の時間を入れてくれるらしい。エメルやソロソがまだまだ集まろうとする人たちを留めておいてくれている。たくさんは休めないが、少しだけ端に寄って私とカイルは小さな声で話をしだした。

「ミリィ、いったん裏に休憩行こうか? ここでは休めないから」
「ううん、大丈夫よ」
「話している間、ずっと笑っていなくてもいいんだよ。疲れるでしょう」
「カイルお兄さまみたいに無表情をするってことよね。でもミリィは無表情をずっとするのも疲れちゃうのだもの」
「俺のは無表情が固定されているらしいから。ミリィは笑顔と無表情を使い分けて、疲れないようにすればいいんだよ」

 カイルは普段は無表情が普通の顔である。まったく笑わないというのは有名な話である。カイルも慣れているとはいえ、ひっきりなしに来る話し相手に疲れてきているのだろう。少し眉間にしわが寄ってきている。カイルはそうなると怖そうというか不機嫌そうに見えるのだ。だから私はカイルの眉間のしわを指の腹で伸ばす。

「今日ミリィがずっと笑っているのは無理しているのじゃないの。みんなナナに見えて可愛くて」
「ああ、まだナナに見えていたんだ」

 カイルが何かを思い出したように笑う。

「ダンスの後くらいに話をした相手に、ミリィはナナって言っていたよ」
「……嘘よね?」
「言っていたんだよ」

 くすくす笑われ、逆に私は青くなる。その時、少し離れたところでキャーと歓喜の声がしたような気がしたが、それどころではない。

「わ、笑いごとではないわ!? ミリィったら失礼すぎる!」
「いいよ、相手も不思議な顔をしただけだったし」
「みんなナナに見えてしまって。カイルお兄さまが相手の名前を呼んでくれるから、ああその人なんだ、って判断していたの……」
「うん、そうだと思って名前を呼ぶようにしたんだよ」
「ええ!? どうしよう、ナナに見えないようにしてえ」
「もういいんじゃないかな。面白……、俺が補うから大丈夫だよ」
「今、面白いって言った!?」
「言っていないよ、可愛いって言ったんだよ」

 いや、言ったよね!? カイルはまた笑いながら、私を宥めるように頬にキスをする。その時、またキャーと悲鳴が上がった。

「何かしら?」
「さぁ?」

 その少しの休憩の後、また私たちは集まる人たちの相手をするために戻るのだった。

 その日はたくさんの人と話をしたので、家に帰ったら泥のように眠った。ちなみに、途中で悲鳴が上がったのは、笑わないカイルが笑っていたので、その笑顔を見た女性たちの歓喜の悲鳴だったらしい。またその後上がった悲鳴も、いつも冷静なカイルが私にキスをしたのを見てショックの悲鳴が上がったという。すべて見ていたモニカが教えてくれた。怖いとか冷たいとか言われているカイルだが、やはりあの美貌である。あらためて人気なのだと実感する。

 婚約のお披露目が終わると、次に私にあるのは結婚式だが、結婚式は約一年程後である。今度は皇室としての結婚となるので、衣装などは全て皇室が準備するのだが、もちろん打ち合わせばかりである。だからなかなか忙しい。本当であれば、結婚式の衣装もアンに頼みたかったのだが、皇室が代々利用している仕立て屋があり、わがままは言えなかった。けれど、衣装などは少しくらいなら希望は言えるとのことで、対処してもらえそうな範囲で好みを伝えている。

 私の婚約お披露目の舞踏会のすぐあとに、モニカとルーカスの婚約が正式に決まった。モニカの実家、つまりトウエイワイド帝国からモニカの兄もやってきたという。エグゼはモニカの婚約が受け入れられないらしく、時々モニカ無しでうちに来ては、ナナと戯れて帰る。ただの現実逃避である。しかし、いつもモニカにくっついているエグゼは、モニカが結婚してからもくっついて回るわけにはいくまい。

 と思っていたら、エグゼはいつの間にかジュードの商会の従業員になっていた。トウエイワイド帝国内でのエグゼの立ち位置は弱いらしく、皇族とはいえ国に帰るよりモニカの住む国にいたいという。それに、エグゼはトウエイワイド帝国やその近隣国の言葉が話せるらしく、ジュードはエグゼは交渉などするのに向いていると最近育てだしたのである。トウエイワイド帝国の商品は馴染みは少ないけれど、見た目が可愛いものが多く、ジュードのレックス商会でも少し扱っているが人気があるという。エグゼはあの美貌もあるし、いろんなところで使えそうだとジュードはいい拾い物をしたと言っていた。モニカの結婚式は私のように一年ほど先である。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。