七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 206話 ディアルド視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 206話 ディアルド視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」206話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 206話 ディアルド視点

 ディアルドが執務室から出て階段を降りていると、邸の出入り口でミリィが背中を向けて下を向き、自分の顔を押さえているのに気づいた。

「ミリィ? どうしたの?」

 はっと顔を上げたミリィがディアルドに顔を向ける。その顔が少し赤く染まっていた。

「ディアルド。何でもないの。今エメルとカイルお兄さまが帝都に帰っていったわ。お見送りしていたのよ」

 ミリィに近づくと、その頬を触る。

「何かあった? 顔が赤いけれど」
「え!? そう? ……ちょっと恥ずかしいのを思い出して……何でもないの」

 ミリィは恥ずかしそうにうつむき、自分の頬を触っている。何があったんだ? 怪訝な面持ちでミリィの顔を上向かせる。顔はまだ赤いものの、きょとんとこちらを見るミリィは可愛いけれど、それどころではない。これはカイルと何かあったに違いない。

「恥ずかしいって、何があったの?」
「え!? 何もないよ」

 そんなはずない。視線が泳いでいる。ディアルドはミリィが逃げないように抱き上げた。

「ディアルド?」
「談話室に行こうか」
「うん?」

 まったく抵抗もしないミリィを連れて談話室へ入ると、そこには珍しくエメル以外の兄妹全員が揃っていた。ただ昨日ミリィの結婚が決まったからか、みな表情がどことなく暗い。

「あれ? みんないる。珍しいー」

 兄たちが揃って嬉しいのか、ミリィはニコニコとしている。双子が二人用のソファー、シオンが一人用のソファー、ジュードが二人用のソファーに座っていたので、ディアルドはジュードの横に座り、膝にミリィを横向きに乗せた。

「それで、ミリィ。さっき恥ずかしがっていた理由を言ってごらん?」
「え!?」

 もうその話は終わったと思っていたのだろう、慌てた顔でディアルドを見ている。しかも兄たちが皆ミリィを向いたため、さらに慌てだすミリィ。

「何もない! 何もないの!」

 そっとジュードがディアルドに近づくと、ミリィに顔を近づけた。

「ミリィ、何か恥ずかしいことがあったんだね。俺たちに話してごらん」

 ジュードの満面の笑みに、なぜかミリィは体を離そうとするが、ディアルドががっちりと逃げられないよう固定させている。

「何もないって言っているのにぃぃ」
「そんな風には見えないよ? さっきカイルさまが帝都に帰ったよね。何かされたの?」
「さっきは何もされてない!」
「さっきは?」

 はっとしたミリィは、かあっと顔を赤らめ、ディアルドの肩に顔を付けて皆に顔を見えないようにする。

「誘導尋問反対! 別に何もないのに! 何かあったみたいに聞こえるでしょう!」
「でも何かあったんでしょう?」
「何もないったら! ミリィが自分で言ったことが恥ずかしいことに気づいて、思い出して恥ずかしくなっただけなの!」
「何が恥ずかしくなったの?」
「みんなだって聞いていたでしょう!」

 みんな聞いていたとは。ミリィ以外で顔を見合わせる。ミリィは顔を上げた。恥ずかしいからか少し涙目になっている。「はあ、暑い」と言いながら顔を仰いでいた。

「何のこと?」
「……昨日、ミリィがカイルお兄さまの、その、子供が欲しいって言ったでしょう」
「……ああ」
「違うの! ミリィ、本当に子供が欲しかっただけなの! 結婚したら、すぐに生まれると思って! でもカイルお兄さまが変なことを言うから、ミリィの勘違いに気づいたの」
「……カイルさまは何だって?」
「え?」
「カイルさまは何と言ったの?」

 ぼっと顔をさらに赤くしたミリィは、恥ずかしそうに少しうつむいて小さい声で言った。

「ミリィを抱くのが待ち遠しいって……」

 バキっと音がした。見るとシオンが椅子の肘付きを折っていた。兄全員の気持ちを代弁したような音だったが、ミリィだけは何の音? と首を傾げている。

「そんなことカイルさま言ったんだ……」

 ジュードの声がかなり低くなる。

「ミリィがいけないのは分かっているの! 子供ができるって、どういうことか分かっているはずなのに! 何でか自分のことだと抜け落ちてて。やっぱりミリィは恥ずかしいこと言ったんだよね?」
「子供うんぬんは受け取り方次第だよ。カイルさまはミリィが言うことすべてに勝手に誑かされているだけだから」
「誑かしてないよぉ」

 ディアルドの腕をぎゅっと握りしめる。恥ずかしがる様子が可愛いが、これをカイルが見たらこの顔に見惚れて独り占めしたいと思うに違いない。ああ、イラっとするな。

「おかしいなぁ。ミリィ、アルトやバルトの話を聞いても恥ずかしくないのに。何で自分のことだと恥ずかしいんだろう」

 ふう、と悩まし気にため息を付く姿が色っぽいことに本人は気づいていない。ディアルドはアルトとバルトを見ると、二人は視線を逸らした。同じようにジュードも二人を見ていて、怒りの笑いを二人に向ける。

「やっぱりミリィに余計な事吹き込むのはお前たちか!」
「おっと、こっちに来た」
「俺ら、彼女との楽しかった話しかしていないけれど」
「それだろ、原因は!」

 わあわあ言い合いをしだした三人の声が部屋中に響いている時、談話室に使用人が入ってきた。

「お嬢様、モニカさまが呼ばれておりますが」
「あ! そうだった、モニカと約束していたのだったわ! ミリィ、もう行くね!」

 ミリィはパタパタと部屋を慌ただしく出ていく。双子がくすくすと笑っている。

「あはは、ミリィはいつまでも可愛いなぁ」
「本当に。何でカイルさまのことになると恥ずかしいと思うのかなんて、好きだからに決まっているよね」

 そうなのだ。男として意識しているからに他ならない。だから、俺たち兄だと恥ずかしくないことでも、カイルだと恥ずかしいのだ。

「あーあ、やっぱりミリィはカイルさまに取られるのかぁ」
「どうにかなんないかな。やっぱりミリィにカイルさまを嫌いになってもらうのが一番じゃない?」
「だよねぇ。でも、匂い嗅いでるとか、髪の毛集めてるとか、そんな話聞いてもミリィはまったく気持ち悪く思っていなかったよね」
「……」

 はあ、と全員で溜息をつく。

「でも、頃合いかもしれないな。ディアルド兄上や俺は家庭も仕事もあるし、どうしてもミリィを寂しくさせてしまうだろう。アルトもバルトも結婚が決まった。ますますミリィは寂しさを感じるようになる。でもカイルさまと結婚したら、カイルさまがミリィを寂しくさせることはないだろうし。カイルさまにミリィをあげるなんて嫌だけれどな。嫌だけれどな!」

 ジュードが眉を寄せて言う。そうなのだ。ミリィは可愛いしいつまでも傍に置いておきたいが、みな成長し、それぞれの役割があり、どうしても昔のようにミリィに割ける時間が少ない。寂しくさせたくないし、ミリィが幸せだと思うなら、結婚だって仕方がないとは思う。しかし感情はついていかないが。ジュードの言うように、カイルにミリィを託すなど嫌だ。どんな男でも嫌だが。

 再び全員で深々と溜息をつくのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。