七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 203話 ノエル視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 203話 ノエル視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」203話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 203話 ノエル視点

 俺はどこでどう間違えてしまったのだろう。

 ノエル・ル・スヴェニアは南部騎士団の城にある牢から出され、帝都へ移送される馬車の中にいた。馬車の中とはいえ、手には拘束具が付けられている。動く馬車の中から一人、窓の外を眺めていた。

 戦争が始まる前までは順調だったのだ。南部騎士団の騎士たちに麻薬を流行らせ、戦争が始まった時にグラルスティール帝国が不利になるようにした。南公とノエルは共謀していたわけではないが、南公が勝手に金銭目的でウェルドに武器を横流ししてくれたのもノエルにとって後押しとなった。ウェルドの第二王子と結託し、グラルスティールの情報だって流した。西部の戦争と同時に南部でも戦争を開始することで、国は混乱するはずだった。その最中に、第二王子から送ってもらった暗殺者を使い、皇太子だって殺す予定だったのに。

 最初に予定が狂ったのは、南部の戦争が大きくならなかったことだ。ウェルドの第二王子がどのようにウロ王国に話をしたのか分からないが、ウロは戦争を起こしたものの、その戦意は及び腰。すぐに後退し、それから膠着状態に入り戦闘などほとんどなかった。南部騎士団に他の騎士団から援軍が早々に到着したことも予想外だった。麻薬を流行らせることで使えない騎士をせっかく増やしたのに。ウロが後退したことで、南部騎士団もこれを機にウロへ攻め入ればよいものを、まったく動きもしない。予定では戦闘が激しくなれば、皇太子が戦闘に出てきて、その戦闘中のどさくさに紛れてうまく皇太子を暗殺する予定だったのに。結局、戦闘行為はほとんどなく、皇太子も城に籠ったままで、帝都の皇太子宮よりも暗殺が難しくなってしまった。

 本当だったら今頃、ノエルは皇族の仲間入りを果たし、いずれは皇帝となってウェリーナを妻とすることができていたはずなのに。

 正直、皇帝などどうでもよかった。ただウェリーナが皇帝の妻になるのを目指していたから、ノエルの持っている皇族の血筋という手札を使おうと思ったまでだ。皇太子のことだって、暗殺できずに忌々しいと思ってはいたけれど、別に嫌っていたわけではない。ただノエルが皇族になるために邪魔な存在だっただけなのだ。

 ノエルが欲しかったのはウェリーナだけ。ただそれだけだった。
 ウェリーナは小さい頃から可愛かった。なのに母の愛はウェリーナの兄だけに向き、父はまったく娘に関心を向けない。ウェリーナは愛に飢えていた。母が死に、それでも父の愛が欲しいウェリーナは、皇太子の妃となれば父の愛を得られると信じていた。そんなわけない。あの公爵が、皇太子の妃となったことでウェリーナを愛するようになるはずないのだ。分かっていたけれど、ウェリーナをそれでがっかりさせたくなかった。だからウェリーナを否定せず、そして俺が皇帝になればいいと思ったのだが。

 はたして上手くいったとして、皇帝になったノエルにウェリーナは微笑んでくれるのか。ノエルを愛してくれるのか。そんな思いが浮かばなかったわけではないけれど、ノエルはそれに目を向けるのが嫌だった。きっと皇帝になれば、ウェリーナはノエルを向いてくれる。ノエルを愛してくれる。そう信じたかったのだ。

 けれど、ノエルは間違っていたのだろう。ウェリーナが父の愛を求めても、そんなことは無駄だと教え、ノエルが愛を伝え続けたなら、もしかしたらウェリーナがノエルを向いてくれることもあったかもしれない。しかし、もうそれを確かめるすべはない。

 南公は捕まり、監獄へ送られた。ウェリーナと結婚した者が次期公爵となるということも聞いた。次期公爵という椅子とウェリーナの美しさで、その椅子をめぐり男どもが殺到するだろうということも予想できた。苦しかった。辛かった。あれだけノエルが欲したウェリーナは、今に誰かのものになる。例えその相手がどんなにいい人でも、ノエルは耐えられなかった。見知らぬ男の横で笑うウェリーナなど、想像したくなかった。

 そう思っているうちに、ウェリーナの伴侶となる相手が決まったと知った。まさかあの男とは。ノエルを捕まえた、ウェリーナが嫌っていた女の兄。ああ、あの男が愛しのウェリーナの夫になるのかと、発狂しそうだった。これ以上、ノエルと関わりのない世界でウェリーナが幸せになる、という情報を得るのも辛かった。

 ノエルの乗る馬車が橋に差し掛かった。橋の下に流れる川は、水が多く濁っている。ノエルは馬車に乗っている間に考えていた。どうせ帝都に着いてしまえば、ノエルは一生牢獄の中。二度とウェリーナに会うことも許されはしないだろう。ノエルは自分自身の身の振り方を自分で決めたかった。そしてそれができるのは、この場所が最後だろう。

 ノエルは馬車の扉を思いっきり蹴った。そして転がるように外へ出ると、橋の端に立った。ノエルの移送を任されていた騎士たちが、ノエルを囲む。

「ウェリーナ、愛しているよ」

 ノエルは笑ってつぶやき、背中から川へ身を投げた。川に落ちるまでの間がすごく長く感じる。その間に思い出すのは、幼いころに笑いあったウェリーナとの幸せな時間。

 願わくば、生まれ変われるなら、またウェリーナに会いたい。今度は愛したら嬉しがってもらえるように、他人ではなく家族として。何がいいかな。ああ、兄はどうだろう。ウェリーナの兄、うん、良い響きだ。兄としてなら、愛したらきっと喜んでくれる。嬉しがってくれる。

 ああ、それは良い――。

 ノエルは濁流の中に消えていくのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。