七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 204話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 204話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」204話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 204話

 ダルディエ領へモニカを訪ねてきていたルーカスは、いったんラウ領へ戻っていった。モニカとの婚約を進めるため、いろいろとやることがあるからである。モニカとエグゼはまだダルディエ領に留まっている。エグゼはというと、いつの間にかモニカとルーカスが婚約することになり、すごく拗ねている。エグゼがどれだけモニカに抗議してもモニカが聞かないので、すっかりナナにくっついてイジイジしていて湿っぽい。しかしこれはエグゼの問題である。自分で気持ちを整理するしかないのだ。

 冬休みの中頃に、まだ帝都にいたジュードがダルディエ領へ戻ってきた。戦争も終わり、レックス商会のこともひと段落したらしい。そのすぐあとに双子が帰ってきた。驚くことに、双子は二人共結婚が決まったのである。まずは婚約することが先だが、現在その話を進めているらしい。

 アルトが結婚するのは、なんとバチスタ公爵令嬢の娘ウェリーナだった。私を睨んでいた半神の子である。ただ、もう私を敵視することはないとアルトは言っていた。アルトが言うには、ウェリーナはアルトを好き過ぎているらしく、今後ウェリーナでどうやって遊ぼうか企んでいるところだと楽しそうに話をしていた。できればウェリーナで、遊ぶのではなく、ウェリーナと、遊んでほしいが、アルトが楽しそうだから、まあいいか。と思うことにした。

 バルトが結婚するのは、トリットリア侯爵の一人娘ルビーである。ウェリーナとよく一緒にいた令嬢ですごく綺麗な人だ。私も戦争の最初の方で、南部騎士団の城に入る前に会っている。父であるトリットリア侯爵は南部騎士団の副団長で、仕事をしない前南公に代わり、団長の役目をこなしていた人だ。だが南部騎士団で麻薬が流行っていたことに気づけず、また南公の武器の横流しにも気づけなかったということで、戦争後責任を取って副団長を辞めることにしたらしい。

 戦争中、バルトはトリットリア侯爵とよくやり取りをしていたそうで、その娘ルビーともバルトは仲が良く、バルトをぜひ娘婿に、と勧誘したらしい。ルビーはバルトのことが好きだったようで、うまくまとまったという。バルトはバルトで、戦争中もルビーの家で何度か会ってルビーがバルトを好きなのは知っていたらしい。いつも淑女なルビーがバルトの前だと緊張して反応が面白いらしく、ルビーを突くと面白いんだよね、とバルトは楽しそうに話をしていた。アルトにも言いたいが、ほどほどにね? まあ、バルトが楽しそうなので結構なことだ。

 つまり、アルトは今後バチスタ公爵となり、バルトはいずれトリットリア侯爵となるのだ。二人共、今までの生活とは程遠い生活になりそうだけれど、二人であれば大丈夫だろう。双子自身が納得しているようであるし、幸せになってほしい。
 モニカに続き、嬉しい話が続くものである。

 そして、冬休みの最後頃、エメルがダルディエ領へ戻ってきた。入口で外套を脱ごうとしているエメルに抱き着く。

「エメル、お帰りなさい!」
「ただいま戻りました。実はもう一人いるのですよ?」
「え?」

 その時、ちょうど入口の扉からカイルが顔を出した。

「カイルお兄さま!」
「ミリィ!」

 カイルに抱き着くと顔を上げた。

「どうして? 冬にダルディエ領へ来るなんて珍しいわね。でも会いたかったから嬉しい!」
「俺もミリィに会いたくてね。それに公爵に話があって」
「パパに?」

 とにかく長旅だったのだ、エメルとカイルをまずは労わらなければ。その日の夕食は賑やかなものになった。久しぶりに兄妹が全員揃い、両親そしてモニカとエグゼもいる。それにディアルドの妻であるユフィーナのお腹が少し大きくなっていた。なんだろうなぁ、楽しいなぁ、幸せだなぁと心地いい気持ちになる。

 夕食後、カイルが話があるというので、談話室に集まった。ただこの場にはモニカとエグゼ、それに身重のユフィーナはいない。あの三人を呼べない話とは何だろう? 私はカイルから一番離れた席で、パパとママに囲まれて座っていた。

「すでに察している方もおられるようですが、今日ここを訪問した理由は、ミリィへ婚約の申し込みをするためです」

 え、そうだったの? みんなの視線がカイルに向いている。あれ、ママとエメル以外の表情が険しいな?

「正式な申込はまだでしたから。書面も持参しています」

 カイルから一番近くに座っていたジュードが書面を受け取り、ざっと中を見た。そしてジュードは厳しい目でカイルを見る。

「こういう形式的なものは、どうとでもなります。まずはミリィの気持ちが大事では?」
「ミリィには結婚の承諾を受けましたよ」

 カイルは少しだけ笑って私を見た。それと同時に兄たちが全員私を見る。え、怖い。ついママの腕をつかむと、ママが歓喜の声を上げた。

「やだ、ミリディアナちゃん! 結婚を承諾したって、どうして黙っていたの!? ママには言ってくれなきゃ!」
「ご、ごめんね? すっかり忘れてた」
「忘れてた? なるほど、カイルさま、ミリィは承諾したことを忘れるくらいの気持ちしかないのです。ミリィを諦めては?」
「え!? ジュード、違うの。承諾したのは戦争中だったから、この話を正式にするのは先だと思っていたからで。ミリィはちゃんとカイルお兄さまと結婚したいのよ」

 兄たちが全員驚愕の目を私に向ける。一方、カイルは嬉しそうに私を見ていた。

「何を言っているの、ミリィ! カイルさまのことは兄として愛してるのではなかったの!?」
「そ、そうなのだけれどね? ミリィは、カイルお兄さまのこと、男性としても愛しているの。それにね、ミリィは、そのう……」

 なんだろう、これ、みんなの前で言わなきゃいけないのだろうか。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。けれど有無を言わさずな兄たちの目を逃れることはできない。顔が熱くなり、絶対に顔が赤いだろうなぁと思い頬に手を添える。

「カ、カイルお兄さまの、子供が欲しいなって……」
「「「「「はぁぁ!?」」」」」

 エメル以外の兄たちの絶叫が揃った。うう、やっぱり私は恥ずかしいことを言っているんだな。やだな、恥ずかしすぎる。

「だ、だって、カイルお兄さまが他の女性と結婚して、その女性がカイルお兄さまの子供を生むのが嫌だと思ったのだもの!」

 もう嫌だ、何を暴露しているのだろうか。公開処刑だろう、これは。ますます顔が熱くなる。

「……カイルさま、ミリィに何をしたのですか」

 ディアルドの低い声がカイルに向く。

「いや、この話をした時は、エメルもいた!」
「確かにいました! いましたけれど、私を売らないでくれます!?」
「俺の証明はエメルしかできないのだから仕方がないだろう!」

 慌てたカイルとエメルがわあわあ言っている。
 ジュードが頭を押さえながら、低い声で言った。

「俺は反対です。ミリィには相応しくない」

 相応しくない? やっぱり兄たちの目から見てもそうなのだろうか。カイルのことは好きだけれど、カイルの立場上、それだけで済まないことは多いだろう。カイルの妻になるということは、私は皇太子妃、ひいては、皇妃となることになる。その立場が私に相応しくないと自分でも思っていたから、なんだか悲しくなってきた。そうか、兄の目にも私は相応しくないと映っているのか。そうならば、家族以外にはもっと相応しくないと映るだろう。

「ミリディアナちゃん?」

 私の頬に流れる涙に気づいて、ママが困惑の声を上げた。

「な、何でもないの……」
「ジュード! ミリディアナちゃんを泣かせてはいけませんわ!」
「俺ですか!?」

 ママの思ってもみない抗議に、ジュードはたじたじである。

「違うの、ママ。やっぱりみんなミリィと同じこと思うんだなと思っただけなの。ジュードは悪くないのよ」
「何を思いましたの? ママは分からないわ。教えて頂戴」

 ママが私の涙をぬぐってから、両手で私の顔を包んだ。う、それも言わないとだめ? ママ以外みんな分かっていると思うのに。でもママの視線は私が言わないと外してくれそうにない。

「ミリィは何もできないから。お兄さまいないと寂しくなっちゃうし泣いちゃうし。お兄さまに甘えたいし。ミリィは役にたたないもの。だからカイルお兄さまには相応しくないのでしょう? 皇太子妃なんてミリィには大役すぎるもの」

 自分で自分の欠点言うのは辛いなぁ。言いながら声が震えてしまう。最近泣いてばかりだ。

「ち、違う! ミリィ、違うからね!? ミリィがカイルさまに相応しくないんじゃないからね!? カイルさまがミリィに相応しくないんだからね!?」

 え、どゆこと? ぽかんとした顔をジュードに向けると、兄たちが逆にうんうんと頷いていた。

「ミリィ、よく聞くんだ。カイルさまはミリィの匂いをいつも嗅いでいる!」

 ジュードの言葉にカイルがげほげほと咳をしだした。なんだ、カイルは唾でもひっかけたのか?

「う、うん。知っているよ?」
「知っているの!?」
「よく髪の毛や頭の匂い嗅がれてるなと思ってた……」
「気持ち悪くないの!?」
「うーん、ミリィもお兄さまたちの匂い嗅いでるよ? 安心するし、好きな匂いだもの」
「ミリィはいいんだよ、でもカイルさまは駄目でしょ!?」
「ミリィは気にしないけれど……」

 私が汗臭い時に嗅がれるのは嫌だけれどね。兄たちだって抱きしめてもらうと、兄特有の匂いがする。臭いなどとは思わないし、いつもの安心できる匂いで好きだ。カイルも私に対して、そういう気持ちなのだと思うのだ。

「そ、それだけじゃない! ミリィの髪の毛を拾っているところを俺は見た! ミリィの髪の毛を集めているに違いない!」
「そうなの? だったら言ってくれればいいのに。拾わなくてもミリィの切ってあげるよ」
「気持ち悪くないの!?」
「自分の髪の毛は思わないけれど、ミリィもママの髪の毛綺麗だから触りたいって思うもの。それと似たような感じかしら?」
「えぇぇ、ミリィの心が広すぎる……」

 そうだろうか。まあ、知らない相手なら気持ち悪いと思うかもしれないが、カイルだしねぇ。
 そのカイルは手で目を覆っている。よく考えれば、カイルも公開処刑っぽくなってきていないか?

「じゃあ、これはどう? カイルさまは心が狭い! ミリィが俺たち兄と楽しそうにしていると、いつも俺たちを睨んでいる! ミリィのことが好きすぎて、兄にさえ嫉妬する!」

 え? そうなの? そういえば、私がエメルと抱き合っているとこっちに来てと言う時があるし、シオンと寝るというとしょんぼりしていた気がする。でも私も兄たちに甘える時間がないと寂しいというのがあるものなぁ。うーん、でも兄たちを睨んでいたのか。私がカイルと結婚せずに他の人と結婚することになったら、その相手を八つ裂きにするとカイルは言っていた。そこは釘を刺した方がいいかもしれない。

「ジュードはカイルお兄さまに睨まれたら怖い?」
「いや? 無視するけれど?」
「よかった! ミリィはお兄さまたちに甘えるの止められないもん。これからもカイルお兄さまに睨まれてください」
「え? うん……?」
「カイルお兄さま、他のお兄さまたちは八つ裂きにしないでね?」
「はい……」

 カイルは手を目から退けると、神妙に頷いた。よかった、これで解決。

「他には?」
「他? 他……いや、その前に心が狭いのはいいの?」
「ミリィのことが好きなら仕方がないもの。でも他のお兄さまに甘えたらだめって言われると、ミリィも困っちゃうけれど……」

 ちらっとカイルを見ると、カイルは少し疲れた顔で私に笑みを向けた。

「甘えたらだめだなんて言わないよ。けれど、俺がそれを見て俺のミリィなのになって思うのは許してくれる? ジュードの言うように、ミリィが好きすぎるから、つい嫉妬してしまうんだ」
「……なんか開き直ってません?」
「そんなことはないよ?」

 ジュードとカイルの交差した視線がバチバチとしているように見える。

「……ミリィは俺の欠点も笑って受け入れてくれる子ですよ。俺はそんなミリィを愛しています。ミリィのすべてが愛しい。ミリィを必ず大事にします。いつも笑いあえる家族になりたいんです。俺にミリィを託したくない気持ちはわかります。可愛いミリィを大事に手元に置いておきたいことも。けれど、俺だってミリィは大事だ。俺以上にミリィを大事にする男性はいないと自信を持って言える。だからミリィを俺にくださいませんか。必ず幸せにしてみせます。いつも笑みの絶えない夫婦になりますから」

 笑みの絶えない夫婦。それはきっと幸せだ。
 ずっと何も口を開かなかったパパが私の頬を親指で撫でた。思案気な表情で私を見て、口を開く。

「ミリディアナは小さいころから体が弱かったから、ミリディアナが元気に過ごしてくれるなら、私たちはそれだけでよかった。できるだけ傷つかないように、笑って過ごせるように、私たちの手で幸せにできると思っている。けれど、ミリディアナは見つけたのだな。自分で幸せになる方法を。カイルさまと一緒に生きていくことを。ミリディアナがそう決めたのなら、私たちはそれを支持しよう。娘の幸せを願わぬ親などいない。私たちの元でなくとも幸せでいてくれるなら、それでいい」
「パパ」

 私は涙ぐんでパパに抱き着いた。

「父上……本当にいいのですか?」
「仕方あるまい。ミリディアナがカイルさまと結婚したいというのなら。それが幸せであるのなら。ただし」

 私はパパに抱き着いているので、パパの顔は見えない。パパも私の頭に手を固定しているので、動けなかった。パパの声がかなり低くなる。

「少しでもミリディアナが泣いたら、悲しい思いをしたら、有無を言わさず私はミリディアナを連れて帰る」
「……肝に銘じておきます」

 パパの手の固定が解けると、私は顔を上げた。ママが涙ぐみながら歓喜の声をあげた。

「ミリディアナちゃん! 結婚が決まったわね! おめでとう!」
「ありがとう」

 パパはそんな私を寂しそうな顔で見て、頬にキスをくれた。

「いつか、こんな日が来るかもしれぬと思っていたが、存分に早かったな」
「ま、まだ結婚は先でしょう!? パパ、そんな顔しないで! ミリィも寂しくて泣いちゃうから」

 なんだろう、もう寂しくなって涙が止まらなくなってきた。
 遠くでは、カイルと他の兄たちが何やら言い合いをしている。

「少し兄同士で話し合いましょうか」
「……もう今決定したと思うのだが」
「まだ覆せますからね?」

 兄たちは全員どこかへ消えていった。あれれ、仲良くお酒でも飲むのかな。
 私はママにぎゅうぎゅうに抱きしめられながら、私も結婚が決まったのかと、少し実感がわくのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。