七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 202話 アルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 202話 アルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」202話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 202話 アルト視点

 南部の戦争関連の後処理で忙しい時、アルトは皇太子カイルに呼び出され、ある話を聞かされる。それの確認のため、アルトは本日バチスタ邸を訪問していた。訪問相手はウェリーナである。アルトが訪問すると知り、何の話か予想していたのだろう。ウェリーナは緊張気味にこちらを見ている。

 バチスタ邸の応接室では、アルトとウェリーナがそれぞれソファーに座り、テーブルを挟んで面と向かっていた。それから今回の話を任されている高官がアルトとウェリーナの横にある椅子に一人座り、こちらの話を聞く態勢でいる。

「ウェリーナ嬢。俺がなぜここに来たのか、分かっていますね。ウェリーナ嬢が俺を次期バチスタ公爵に指名したと聞いたのですが。その真意を聞きに来ました」
「そ、そのままの意味ですわ! アルトさまはわたくしの夫となり、バチスタ公爵となれるだけの力があると思ったまでですわ!」

 少し緊張気味に、けれど少し強気に答えたウェリーナ。

 ウェリーナの父である南公は先日公爵の爵位をはく奪され、監獄へ送られている。二人の息子も同じように監獄へ送られ、現在公爵の地位は空席で浮いたままだ。次期公爵となるのは、ウェリーナの夫となる人物ということまでは決まっており、国の中で話し合い、その席に相応しい人物を探しているところである。その件で、実際に結婚するウェリーナの意見も聞くこととなり、アルトの名前をウェリーナがあげたというのだ。

 ウェリーナの父はほとんど遊んで暮らしていたが、バチスタ公爵という地位は、本来そんな簡単なものではない。バチスタ領を束ね、南部騎士団の団長として国境を守らなければならない。ウェリーナの祖父の代まではちゃんと機能していたそれも、ウェリーナの父のたった一代でバチスタの名を地に落としたのである。これからウェリーナの夫となるべき者は、本来の職務だけでなく、地に落ちたバチスタの名誉回復もしなくてはならない。かなり大変な作業である。

 とはいえだ、やはりバチスタの名を欲しいと思う貴族の男は多いだろう。特に家の跡を継げない次男三男あたりは垂涎ものだと思う。それにウェリーナは美貌の持ち主だ。彼女自身を欲しがる男も多いだろう。実際、ウェリーナの夫となりたい男たちが、次期バチスタ公爵として大勢名乗りをあげていると聞く。

 アルトはダルディエ公爵家の四男である。家はディアルドが継ぐし、四男であるアルトはこういう指名を本来であればありがたいと思うべきであろうが。

「なるほど。俺を評価していただけたことには感謝します。ですがお断りします」
「ど、どうしてですの!?」
「だって面倒ですよ。公爵の地位なんて。俺は今までのように気楽に生きていきたい」

 ウェリーナだけでなく、高官まで驚愕の顔で俺を見ている。

「ウェリーナ嬢。俺は今から失礼なことを言いますね。君の父は本来の公爵の職務をまっとうしていなかった。あの姿を公爵のあるべき姿だと思わないでいただきたい。君の父だけ見ていれば、公爵など簡単と思うかもしれないけれど、そう簡単な話ではないんだ。本来であれば領地をまとめ、騎士団の団長も務め、社交界でも地位を築き、やることは多いんですよ。はっきり言って、すごく大変なんです」
「で、でも、アルトさまなら、できると思いますわ!」
「まあ、できるかできないかならできますよ。大変だとは思いますが、俺は器用なんでね。でも面倒です。やりたくない」

 そう、面倒すぎる。公爵の地位を得るというだけの話ではない。今まで好きに生きてきた自由と楽しい時間を手放すことになる。

「こ、公爵の地位が貰えるのよ! 財力だって、権力だって!」
「そういうものを欲しがる子息は大勢いるでしょう。俺はいりませんから、そういう方にお嬢りしますよ」

 愕然とした顔をこちらに向けるウェリーナは、高官とアルトを交互におろおろと見ている。

「俺からの話は以上です。もう何もなければお暇しますが」
「ま、待って!」

 必死の形相でアルトを引き留めたウェリーナは、強気の表情はすでに捨てたようだった。

「公爵の地位もお金も権力もいらないっていうなら、どうすればいいの? アルトさまが言ったのですわ、わたくしの地位を、公爵令嬢という肩書を、上手く使えって。でもアルトさまはいらないって言うなら、どうすればよろしいの?」

 そういえば、そんな話を以前したな。幸せになるために、使える肩書は使えとは言ったが。でも使いどころを間違えている。それに地位にそもそも興味のないアルトには使えない技だ。

「それはウェリーナ嬢が幸せになるために使えと言ったまでだよ。ウェリーナ嬢が幸せになることと、俺が公爵の地位をいらないと言ったこと、何か関係がありますか?」

 まあ、ウェリーナのことは、最初から本当は何が目的なのかは気づいていたけれど。本音を隠して欲しいものを手に入れようなどという行為は、アルトには効かないのに。
 
 アルトはここで席を立つことも考えた。今日は断りに来ただけで、ウェリーナの話を最後まで聞いてあげる親切心をアルトは持ち合わせていない。けれどウェリーナの必死な形相に、少しそそられた心地にもなっていた。だから少し話を聞いてみようと思った。聞いた結果、もしかしたらアルトは自由を手放すことになるかもしれないとも思ったが。

「そういえば、前にウェリーナ嬢にとって何が幸せなのか考えるように言ったよね。あれから考えた?」
「……考えましたわ」
「では、もし俺がバチスタ公爵となること受けたとしよう。地位や権威欲しさに俺がそれを受けて、ウェリーナ嬢はそれで幸せなの?」
「……わたくしは」

 ウェリーナはぎゅっとスカートを掴む。何か葛藤をしているようだ。

「ウェリーナ嬢はミリィのどういったところが好きなのか聞いたよね。俺が何と答えたか覚えている?」
「……素直なところ」
「そうだよ。ウェリーナ嬢の素直な気持ちをまず聞きたいのだけれど」

 ウェリーナはしばらく下を向いて無言で葛藤していたが、意を決したように顔を上げた。その顔は赤く染まっていた。

「わ、わたくしは! アルトさまが好きなのですわ! だからわたくしの夫となって、わたくしを愛して欲しいのです! で、でもアルトさまを好きな女性は多いでしょう! だから、彼女たちに勝てるのは、公爵の地位しかないと……思って」

 素直でよろしい。でも、もう少し。まだ素直になり切れていない。

「へえ。ウェリーナ嬢の幸せの答えは、俺に愛されて、結婚することだけなんだね。それで俺は公爵になったなら、今以上にモテちゃうね? でもそれでいいんだよね、それがウェリーナ嬢の幸せなんだね?」

 ウェリーナは俺の言葉を聞いて、勢いがあった表情がだんだんとしぼんでいく。そして目には涙を浮かべだした。

「ほ、本当は、わたくしだけを愛して欲しい。他の女性なんて見ないでほしいの」

 やっと全部言えたか。涙を浮かべたウェリーナは、色気たっぷりで美しい。可愛いなぁと思いながら、アルトはウェリーナを手招きする。するとウェリーナは素直に席を立ち、アルトの座るソファーの横にちょこんと座る。

「素直に言えた、ご褒美が必要だよね」

 アルトはウェリーナの手をすくい、その指にキスをした。ウェリーナはかあっと顔を赤くする。

「そんなに俺が好き?」
「好きですわ」
「俺の愛がほしい?」
「欲しいですわ」

 急に素直過ぎるウェリーナに、アルトは笑みを浮かべた。

「前にも言った通り、幸せでい続けるためには努力が必要だよ。愛はもらうばかりではなく、与えるものだ。それにたとえ愛していても、それだけではどうしようもない苦しいことだってきっとある。結婚は終わりではないからね。一緒に幸せを育んでいくものだ。ウェリーナ嬢にはそれができるかな?」

 アルトはウェリーナの涙を指ですくって舐める。ウェリーナはまた顔を赤くする。

「それに俺はかっこいいしモテるからね。そんな俺が他の女性に目が向かないよう、ウェリーナ嬢は俺を魅了させ続けなければならない」

 まあ、それは俺にも言えることだけれど。ウェリーナを魅了させ続けることには自信がある。

「俺と結婚するとなると、大変なことが多いと思うよ。それでも俺と結婚したい?」

 ウェリーナは瞬きをすると、その視線に強気が戻ってきていた。

「わたくしは努力しますわ! アルトさまをずっと魅了できるように! 公爵となったアルトさまを支えて、アルトさまが自慢に思える妻になってみせますわ!」
「あはは! それは頼もしいね!」

 アルトとウェリーナは笑いあう。

「分かった。ウェリーナ嬢の夫となりましょう」
「ほ、本当ですの!?」
「俺のことが好きすぎるウェリーナ嬢には負けました」
「す、好きすぎる……」
「そうでしょう?」

 顔を赤くするウェリーナの耳に口を近づけた。そして高官には聞こえない声で囁く。

「それに、泣き顔のウェリーナ嬢は可愛いからね。ベッドの上で泣かせてみたくなっちゃった」
「なっ!?」

 顔を離すと、さらに顔を真っ赤にしたウェリーナが見えて可愛い。頬に指を滑らせ、その肌質を楽しむ。

「そういうこと、俺にされるの楽しみでしょう?」
「は、破廉恥ですわ!」
「あはは! 破廉恥って!」

 ウェリーナの反応が可愛くて面白い。結婚する前から、いろいろとウェリーナの反応が楽しめそうだと企む。色々とじらして遊ぶのもいいなぁ。ウェリーナは言葉よりも表情や反応が素直なので、どういう反応をするのか楽しめることはたくさんある。

 その日はいったんそれで解散となった。アルトとウェリーナの結婚は、高官を交えて話を進めることになるだろう。

 ああ、これで自由な生活はお終いになる。楽しく遊んだ彼女たちとも別れる予定だ。

 本音を言うなら、本当に公爵には興味がない。面倒すぎる。しかし途中からウェリーナの素直な気持ちを言わせたくなり、誘導したとはいえ、ウェリーナにあそこまで言わせたのだから、その責任は取らなければならない。

 でも正直、ウェリーナは可愛い。あの素直でない子を素直にさせるのも楽しみであるし、笑った顔も泣いた顔も、幼さが消えて色っぽくて可愛いのだ。あの視線が一途にアルトを見つめる様子は心地いい。

 だから公爵の面倒な地位や職務を引き受けてでも、ウェリーナと結婚してもいいかと思い直した。アルトは愛情をたっぷりウェリーナに捧げて、今後もっとウェリーナが美しくなるのが楽しみである。

 バチスタ公爵家から帰りながら、アルトはウェリーナでどうやって遊ぼうか楽しく思案するのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。