七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 195話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 195話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」195話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 195話

 シオンが影と共にウロ王国へ潜入して十日が立った。何もなくても潜入して十日後には一度戻ると言っていたから、丁度十日で戻ってきたので情報がつかめなかったのかと思いきや、色々とつかんで帰ってきた。

 今回、友好国であるはずのウロ王国が戦争を起こした理由は、どうやらウロ王国の王子と王女がウェルド王国の王子に誘拐されたことが原因であったという。開戦より二か月ほど前に誘拐され、グラルスティール帝国と戦争をしないと王子と王女を返さない、下手すれば殺すと脅された。

 ウロ王国の王は女王である。王子と王女の母で、大変子煩悩らしい。また第一子である王子は王太子だという。本当は戦争など起こしたくないのだが、王子と王女を盾にされ、仕方なく戦争を仕掛けたというのだ。

 ただ戦争を仕掛けたものの、大事な国民である騎士たちをできるだけ傷つけたくない。そこで戦いをしかけても早々に後退した。それでもウェルド王国の言うように戦争を仕掛けたのだからウェルド王国の希望を叶えたことには間違いない。王子と王女を返せとウェルド側に交渉しているが、王子や王女など知らぬ存ぜぬで返されているという。

 シオンの話を聞いてエメルが口を開けた。

「これで戦争を仕掛けておきながら、ウロ王国がやる気がないのが分かりましたね。ですが、誘拐しておいて王子や王女を知らぬとはどういうことでしょう。もう殺してしまったのでしょうか」
「いや。どうやらウェルド王国の誰が王子と王女を誘拐したのかが分かっていないらしい。誘拐した側の代理人は、主人はウェルド王国の王子だと言っていたらしいが、ウェルドは王子が大量にいるからな。ウェルド王国に誘拐した王子と王女を返せと言っても、誘拐を実行した本人に言ってくれと返されるだけのようだ。ただ王子と王女が生きているのは間違いないらしく、ウロ側も必死に行方を探しているが見つからない」
「どこにいるか分からないのに、生きているのは間違いないのですか?」
「そのあたりがどうなっているのか分からなかったが、王家に伝わる何かがあるようだった。王族の生死を確認する手段のようなものがあるのだろうと思うが」

 何かとは何だろう。天恵や、ザクラシア王国のような神の恩恵とか、そういった不思議な力のことだろうか。
 疲れて帰ってきたシオンのために、紅茶やお茶菓子をシオンの前に置く。

「ただいつまで今の『戦争をしているのかしていないのか分からない状態』が続くかは分からない。現状でこの戦争での戦闘行為はまだ二度。あとは睨み合いばかりだからな。ウェルドのどの王子が黒幕か知らんが、戦況に満足しなければ、誘拐した王子と王女の命で脅してくるだろう。戦争をしろという条件だったのが、グラルスティール帝国に勝てが王子と王女を返す条件に代わるとも限らないからな」

 その通りだろう。黒幕のウェルドの王子が今の状況に満足するわけがない。
 カイルが考えながら口を開いた。

「ウェルドの王子たちは知っての通り後継者争いの真っただ中だ。その中でも一歩も二歩も抜きんでているのは、第二王子と第四王子、そして第七王子だろう。この三人が王位に近い。ただ第七王子は現在南にある国と戦争中だからな。こちらにまで構っている暇はないと見ていい。とすると、黒幕候補は第二王子と第四王子だろう」

 ウェルド王家の後継者争いは、その決め方が他国にとって迷惑千万なものだ。好戦的な王子たちに戦争を仕掛けられたり、他国同士を戦わせその国力を削がせようとするものだったり、とにかく他国を巻き込むことが常である。今回、我がグラルスティール帝国もそれに巻き込まれた形なのだ。ウロ王国と戦わせて、ウロ王国とグラルスティール帝国に傷ついた騎士を増やす。ウェルド王国の国民を使わずとも他国の国力を減らせるのだ。後継者争いのために、どんなことでもする王子たちなのである。

「第四王子というと、うちの妹に求婚したあの方ですね」

 今いる部屋には、現在カイルの世話係と称している私がエメルの妹だと知らない南部騎士団の上層部もいる。だからエメルは私がここにいないものとして口を挟んだ。それに対し、微妙に不機嫌な顔をしたカイルだった。

「そうだ。もしあの男が今回の裏にいるのなら、あの宮廷舞踏会に来たのは何か探りに来ていたのかもしれんな。……いや、ここで第四王子だと決めつけるのはよそう。とにかく第二王子と第四王子のどちらが今回の裏にいるのかを探ることが先だな。あとは戦争を終わらせるためにも、ウロ王国の王子と王女を救出せねばならない」

 またシオンと影たちが偵察のためにウロ王国へ向かった。

 そして開戦から一ヶ月が経とうとした頃、西側とタニア大公国の戦争が終戦したという知らせが入った。グラルスティール帝国側の大勝利だった。アカリエル公爵家と西部騎士団には心強い天恵遣いが多くいて、彼らが活躍したというが、それだけでなく、アカリエル公爵家に譲った恐竜三匹が大活躍だったらしい。また一角たちもいい働きをしていたという。西部側の戦争が早いスピードで解決できたことは、久しぶりの嬉しいニュースだった。

 その日の夜、エメルの手をマッサージしながらエメルと話をしていた。

「西部が終戦したなら、こっちに援軍を送ってくれるの?」
「いいえ、あちらはこちらと違って激しい戦いをしていますからね。後処理もありますし、戦争が終わってもやることは多いのですよ」

 エメルの掌をもみもみする。カナンにやってもらうと気持ちいいので、カナンにやり方を教えてもらったのだ。

「ミリィ、そろそろ俺の相手もしてほしいな」

 私はエメルの手をマッサージしていたので背を向けていたが、カイルは私の横に座っている。エメルと三人でソファーに座っていたのだ。カイルはお風呂に入った後で、すっかりくつろいでいる。私も風呂上りなので、カツラは取ってカナンが洗った髪を綺麗に整えてくれている。明日もカツラをするので、そんなに綺麗にしなくてもいいと言ったのだが、カナンは頑として譲らないのである。

「カイルお兄さまも手を揉んでほしいの?」
「いや、俺はいいよ。ミリィを膝に乗せたいだけ」

 仕方ないなぁ。カイルの膝に横に座ると、またエメルの手をマッサージする続きをする。

「ウロ王国の誘拐されている王子と王女は小さいの?」
「いや。王子はミリィと同じ年だったと思うよ。妹の姫が一つ下だったかな」
「そうなのね。きっと不安でしょうね。ミリィみたいに助けてくれるお兄さまがいたらいいのに」

 私がザクラシア王国に誘拐された時は、兄たちとパパが助けに来てくれた。

「そういえば、エメルはユフィーナさまの妊娠の話は聞いた?」
「ええ、聞くのは聞きました。こちらに来る直前の話でしたので、ディアルド兄上には何も言葉を伝えれていませんが」
「どっちかな? 男の子かな? 女の子かな? ミリィ楽しみなの! 早く生まれてこないかなぁ」

 アンには可愛い赤ん坊の服を依頼した。まだ性別が分からないので、全部白色でお願いしているが、きっと可愛いと思うのだ。
 カイルが私の髪を触りながら口を開いた。

「ミリィは今まで赤ちゃんと触れ合ったことがあるの?」
「あるよ! ナナとか! 一角とか! 恐竜とか! 赤ちゃんだった時も可愛かったよ!」
「全部人間ではないんだね……」

 化石の卵から孵った幼い顔の子たちは、本当に可愛かった。

「私は今でもミリィが生まれた時のことを覚えていますよ。ぷくぷくして小さくてすごく愛らしくて。あまりにも可愛いから、小さい頃はミリィが誰かに取られるのではないかとびくびくしていました」
「エメルはずるいな。俺はミリィと会ったのがミリィが五歳の時だったから。赤ちゃんの頃のミリィを見逃した」
「喃語を話すミリィは、それはそれは天使のようでしたよ」

 にこっと笑って言うエメルに、カイルは少しむっとした表情を向けた。

「そういう顔をしていられるのも今のうちだぞ。ミリィが産んだ子は俺が独り占めしてエメルには見せないからな」
「……うん? ミリィが産んだ子?」

 カイルは少しばつが悪い表情をして、私の頭に頭を付けてきた。

「ごめん。ミリィと俺の子なら絶対に可愛いと思って、つい」

 なるほど、今の会話の中で想像したということか。もしカイルと結婚したなら、カイルとの間に子供ができるだろう。私も少し想像してみる。カイル似の子なら、男の子でも女の子でも美形になるに違いない。

「それなら、ミリィはお兄さまがいて幸せだから、子供も同じ気持ちを味わってほしいなぁ。カイルお兄さまに似たお兄さまがミリィに似た妹と手を繋いでる姿とか想像すると可愛いよね! んー、でもカイルお兄さまに似たお姉さまというのも捨てがたい」
「……いいの?」
「ん?」
「結婚に承諾しているわけではないのかな」

 カイルの驚愕の表情に目をぱちぱちと瞬いてしまった。エメルも私を驚いた顔で見ている。え、今のはただ想像しただけだ。二人の子供というので、すぐにそんな未来が想像できてしまった。でも何だろう、恥ずかしいことを言ってしまった気がしてきた。顔が熱くなる。

「ち、違うよ!? きっと子供は可愛いだろうな、って思っただけで」
「でも、俺との未来を想像したのでしょう?」
「未来っていうか、結婚したなら、もちろん子供も欲しいでしょう。みんなそうよね!?」
「でもさっきの話だと、ミリィは俺似の子が欲しいのでしょう? 俺と結婚しないとできないよ」
「……そういえば、そうね?」

 あれ、もしカイルと結婚せずカイルでない人と結婚したなら、私はカイルに似ていない子を生むのか? 全然想像できない。

「ミリィは俺が他の女性と結婚して、その女性が俺似の子を産んだら悲しくならない?」
「……」

 他の女性がカイルの子を産む? もし私以外の人と結婚するなら、それは当たり前のことだ。なのに、今まで考えたこともなかった。カイルと私以外の女性の子。なんだろう、想像するともやもやする。

「ミリィ、それは嫌かも」

 もやもやするどころではない。なんだか涙まで出てきた。そんな私をカイルが抱きしめた。

「泣かせるつもりはなかったんだ。でもごめん、俺は嬉しい。ミリィは俺を男として愛してくれているのでしょう?」

 カイルが体を離して顔を見てきた。

「そ、そうなのかな? 最近は男性としても意識するようにはしていたけれど、でもまだお兄さまとして愛しているのではないかしら?」
「だって、ミリィはディアルドの赤ちゃんの話は喜んでいたでしょう。ただの兄としてなら、俺にも同じ反応をすると思うんだ」

 そう言われれば、そうである。

「本当だね?」

 カイルのことは大好きだ。でも最近、今までの好きとは違った気持ちがあるのは分かってはいた。これまで何度も受けたはずのカイルの視線にドキドキしたり、カイルから抱きしめられた温もりに胸がきゅっとすることがあったり。男性として意識するようにした分、前よりそういう気持ちになることが増えたのは理解している。けれど、まだ兄に対する気持ちの方が比重が大きいと思っていたのだが、違うのかもしれない。カイルを男性として愛しく思う気持ちの比重が大きくなっていたのかもしれない。

 兄への愛と男性への愛は、どっちか一つでないといけないような気がすることもあった。兄としての愛が残るうちは、結婚に承諾するなんていけないことのような気がしたこともある。けれどティアママが言っていたように、わざわざ区別しなくても、両方の思いが混在していてもいいのかもしれない。

「……ミリィはカイルお兄さまを男性として愛しているのね。……エメルもそう思う?」

 エメルは苦笑しながら答えた。

「思いますよ。……ああもう、私がこう言ったこと、兄上たちには内緒にしてくださいね? 絶対に怒られますよ」

 そうエメルが言う最中、カイルは私の手にキスをした。その瞳が真剣だった。

「ミリィ、俺と結婚してくれる? ずっと一緒に生きて欲しいんだ。一緒に幸せを育んでいきたい」

 兄に対する愛と男性に対する愛、その混在する思いに戸惑いはするけれど、カイルを愛しているのは間違いない。それに結婚という言葉が急に現実味を帯びてきた。ここで頷けば、きっとカイルと結婚することになる。カイルとならば、その結婚が幸せなものになるだろうと思うのだ。

「はい」

 だから笑って答えた。あんなに悩んでいたのに、カイルとの温かい未来が想像できて、今はすごく嬉しいのだ。
 カイルは私を抱きしめた。その抱きしめられた隙間から、エメルが嬉しそうな顔をしているのが見えて、また嬉しくなった。

 なかなか私を離さないカイルに、エメルは呆れた顔で言う。

「いいですか、大丈夫だとは思いますが、まだ表ざたにはしないでくださいね。ミリィも。まだ言っては駄目ですよ」
「分かった。他のお兄さまたちには言ってもいい?」
「まだ言わないほうがいいでしょうね。今は皆ゴタゴタしていますし、せめて戦争が終結するまでは」
「うん、分かった」
「では私はお風呂に入ってきますから。カイルさまはその間に落ち着いていてくださいね」

 その言葉を聞いてカイルが私を離した。

「少しくらい喜びに浸ってもいいだろう」

 エメルが微笑みながら風呂へ行く。

「ねぇ、カイルお兄さま、ミリィはカイルお兄さまの子供を他の女性が生むのは嫌だなって思ったけれど、カイルお兄さまもミリィが他の男性の子供を生んだら嫌?」
「嫌に決まっているよ! そもそも、俺からミリィを取っていく男は八つ裂きにする予定だった」

 ええ!? ダメでしょう、それは。よしよし、八つ裂きにされる予定だった人の命が救えたな。

「八つ裂きは駄目よ」
「では一家共々国外追放」
「……」

 家族を巻き込んでいる時点で余計に悪くなった気がする。

「ミリィ、俺はミリィのすべてが愛しいんだ。ミリィの声が心地いい。俺を見てくれる瞳が綺麗ですごく好きだよ。いつも全身で俺を愛してくれる。その温もりも肌も唇も、全てを俺は手に入れたかった。ミリィ、覚悟していて? 俺は全力でミリィを愛するから。絶対に手離さないよ」

 なんだか、逃げたら地獄の果てまで追いかけると言われたような心地になるが、その重い愛が嬉しかった。なんだ、とうに私はカイルを男性として愛していたのだと確信してしまった。

「うん。ミリィを離さないで」

 笑って答えると、カイルも笑い、そして口にキスを落とすとまた私を抱きしめた。とても幸せだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。