七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 193話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 193話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」193話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 193話

 南部騎士団へ入城して四日が経過した。
 カイルの側に紅茶を用意すると、カイルは紅茶を口に含む。

「うん、美味しいよ」
「よかった!」

 やっと飲める味にはなったらしい。紅茶なんて自分で入れたことがなくて、最初は茶葉を入れすぎて苦くなってしまったのだ。紅茶くらいカナンに教えてもらわなくても入れられる、という根拠のない自信は見事に打ち砕かれた。カイルは一口飲んで固まり、エメルは咳をし、ソロソは汚くも口の中の紅茶をカップに逆流させていた。大反省である。すぐにカナンに入れ方を教えてもらい、薄かったりと失敗しつつも、一応学習できているようだ。カイルの感想を聞いて嬉しくなった。すぐにエメルとソロソの側にも紅茶を置く。

 その時、シオンが入室してきた。シオンが一緒に連れてきた三尾を見て私は駆け寄る。

「三尾ママと三尾パパ!」

 三尾三兄弟の両親である。久々の三尾に嬉しくて、そのモフモフに顔を付ける。三尾の三本の尻尾が私に会えて嬉しいというように揺れている。

「北部騎士団の援軍が到着した。一角と恐竜は少し輸送に遅れてるからまだ到着していない。先に三尾だけ連れてきた」

 三尾の二匹は、私とカイルにぴったりとくっつく護衛となるのだ。
 ソロソが珍し気に見ている。興味深々に近づいてきたが途中で止まる。

「へぇ、これが三尾。狼だよね? 噛まれないの?」
「ソロソが悪い事したら噛むよ。でもママもパパもソロソを食べちゃだめだからね。美味しくないよ」
「えぇぇ、怖っ!」
「冗談よ。人間を食べるわけないでしょう。悪い事したら噛み殺すだけ」
「……」
「そんなに怖がらなくても大丈夫なのに。ママパパ、ソロソが触らせてって」
「言ってないけど!?」
「慣れておいたほうがいいでしょう」

 ソロソは怖がりながらそーと三尾を触る。そしてそのモフモフさに、早々にソロソも病みつきになっている。

 それからその日の昼過ぎ、さっそく三尾ママを連れて、私とカナンとアナンは夕食用の材料を貰うために部屋を出た。食物庫へ向かうのだ。見えていないが影も一人付いている。

 城の廊下を歩く道中、中庭の向こう側に知った顔を見た気がして後ろへ後戻りする。

「あれ、ルーカスじゃない?」
「そのようですね」

 他の騎士と真剣な顔で話をしているのは紛れもないルーカスだった。先日の東部騎士団の援軍と共にやってきたのだろう。私たちの視線に気づいたのか、ルーカスがこちらを見た。じーと観察されたような気がしたが、誰かに呼ばれたようでルーカスは去っていく。

「忙しそうだったね。今度会ったら話しかけてみよう」

 私たちもまた歩き出す。食物庫は食堂の近くにあって、何度か行ったので私一人でも行こうと思えば行ける。城はなかなか広く、私たちがいるカイルの執務室は一番上の階に作られている。途中、随所に騎士が立って見張りもしているので、下位の騎士なんかはカイルの執務室までは簡単には来られない。

「あ! あれは!」

 私のテンションが一気に上がった。ここに来てまだ会えてなかった双子のうち、バルトが向こうから騎士と二人で話しながらやってきている。

「バルト!」

 手をふりながら小走りで向かう。バルトは怪訝そうな顔をしていているが、まさかね? とでも言いたげな表情もしている。バルトと一緒にいた騎士は私たちを見て言った。

「あれ、皇太子殿下の世話係じゃないか? バルトの知り合い?」
「世話係? ……というか、その声」
「バルト! ルカだよ!」
「やっぱりか!」

 いつもの勢いで抱き着こうとしたが、思いとどまってバルトの両手を握った。

「何でいるの!? 三尾も、というかそっちの二人も」
「皇太子殿下の侍女代わりに世話係を仰せつかりました!」
「えー? もうどこから突っ込んでいいのか分からない」
「なんだ、やっぱりバルトの知り合いか」
「あー……俺の遠縁の子かな。ちょっとルカ来て」

 バルトが近くの部屋のドアを開けて中を確認する。会議ができそうな部屋であるが、誰もいない。

「少し待ってて」
「ああ、うん」
「アナンも廊下で待機」
「はい」

 バルトは一緒にいた騎士とアナンを廊下に待機させ、私とカナンと三尾だけ部屋の中に入れた。

「ルカ、ここがどこだと、わっ」

 バルトに抱き着いた。バルトとは一ヶ月以上会っていなかったのだ。

「ああ、もう」

 バルトは私を抱えると、頬にキスをした。

「ったく。相変わらず可愛いんだから」

 私もバルトの頬にキスを返すと、首に抱き着いた。

「……寂しかったのか」
「うん」
「でもここは戦場だよ」
「うん」

 バルトはため息を付き、「分かったよ」と告げる。顔を上げると私の状況を告げた。

「なるほどね。だいたい分かった。とにかく、いくら城の中だとしてもウロウロしすぎないこと」
「はい」
「それにしても、今付いてるの、うちの影じゃないよね。どこの?」
「皇太子殿下のだよ。分かるの?」
「うちのではないことは分かる。まあカイルさまのとこのなら大丈夫か。三尾もルカから絶対に離れないで」

 三尾は何も言わないが、じっとバルトを見ている。

「それにしても、暑くないの? 変なローブ着ているね?」
「ああ、これ? バルトちょっと降ろしてくれる?」

 私とカナンは男装の上にお尻まで隠れるローブを着ていた。ローブにはフードも付いているが、それとは別に肩から胸下までマフラーのように二重も三重も重ねているような変わった作りをしている。

 カナンにローブを取り外してもらった。

「ローブの中は胸を隠していないの。カナンがダメだって言うから。男装の時はいつもは胸を潰すのに」
「駄目ですよ。一日だけならまだしも、いつまで男装するか分からないのに。ルカさまが体調悪くなります」
「と、カナンが言うのでこういうローブをアンに急きょ一日で作ってもらったの。普通のローブじゃ胸が少し出ているように見えちゃってね。これね、お尻も隠れるの。男装でもお尻が女の子っぽいんですって。だから隠さないといけないって言われて」
「うん、確かにローブ脱ぐと女の子だ。あー、俺、最近女の子と戯れてないからね。ルカまた抱かせて」
「いいよ!」

 バルトに抱き着く。バルトがぎゅっと抱きしめてくれる。

「けれど、まだ夏の暑さが残っている時があるからね。カナン、ルカの温度調整も忘れないで」
「もちろんです。部屋ではもう少し薄手のローブなんですよ。これは廊下用です」

 バルトが抱きしめる手を緩めたのでバルトを見た。

「さっき廊下で二人を見た時は、同じカツラだし同じ大きい眼鏡だし服装も一緒だし。なのに声はルカなんだもん。脳が少し混乱したよ」
「せっかく双子設定だからルカが兄が良いって言ったのに、みんながルカは弟だっていうのよ」
「あはは、確かにね。ルカは生粋の末っ子だから」

 それからローブをまた着用し、私たちは廊下へ出た。

「じゃあ、気を付けるんだよ」
「うん。あ、バルト、アルトは?」
「ああ、俺とは別の任務に出てる。カイルさまの部屋へ行くよう言っておく」
「ありがとう!」

 バルトに手をふって、今度こそ食物庫へ。私は何が必要か分からないので、カナンが食物庫の管理の人と話しながら、持参した布袋に野菜や肉や果物を入れていく。カナンの頭の中には献立が出来ているのだろう。

 食物庫を出ると、私が持っている布袋の中を見てニヤニヤする。

「今日は! 葡萄! デザートは葡萄!」
「はいはい、ルカさま。嬉しいのは分かりましたから、前向いて歩いてくださいね」

 来た道を戻っていると、廊下の角からルーカスが三人の騎士と一緒に出てきた。

「……お前、さっきの」

 あやしいものを見るような目でこちらを見て呟いたルーカス。一緒にいた騎士たちは私たちとルーカスを見比べている。

「ルーカス! あやしいものじゃないよ、ルカだよ。ほら、三尾もいる!」
「……は!? な、お前!? 何でここにいるの!?」

 ルーカスがこちらに小走りで向かってくる。

「東部騎士団の援軍に混ざってきたの?」
「そう、って、俺のことじゃなくて! っあ、ちょっとこっちこい。先に行ってください」

 ルーカスは私の背中を押しながら、一緒にいた騎士には先に行けと促す。
 人気の少ない廊下で声を落としながら、ルーカスはまた同じことを聞いてきた。

「何でいるんだよ。危ないだろ!」
「色々あって。大丈夫、兄上たちは知っているから」
「そ、そうだろうけれど。……いいのかぁ? というか、どこに寝泊まりしているの?」
「皇太子殿下のとこ」
「……ああ、なるほど。うん、もう分かった。何も聞かない」
「何が分かったの? あのね、ルカとカナンは双子で皇太子殿下の世話係なの」
「世話係? お前が世話される側だろ」
「ちょ、ちょっとはできるようになったの! お茶入れれるし、パンも焼ける!」
「本当かぁ?」

 疑惑の目で見るんじゃない。失礼なやつだな。本当だとも!

「ルカのことより、ルーカスは大丈夫? ルーカスはまだ戦闘はしていないのでしょう」
「ああ、交代で出たけれどな。ただの睨み合いはキツイわ」
「無理しないでね。ちゃんと元気に帰って、元気な姿をモニカに見せなきゃ」
「ああ……うん」

 一瞬きょとんとしたルーカスは、若干照れた顔で横を向いた。うーん、可愛いなぁ。
 そこでルーカスとは別れ、私たちはカイルの執務室へ戻るのだった。

 それから夕方前、部屋でくつろいでいた三尾がぴくっと顔を上げる。立ち上がって窓に近づくと、器用に前足を窓際に添え、下を見るような仕草をした。

「どうしたの?」

 そこの窓から見えるのは城の中庭である。騎士たちが慌ててわあわあ言っているように見える。何だろう、人間ではない何かがいる。とそこまで考えてはっとした。

「恐竜だわ! 到着したのね!」

 輸送が遅れているとシオンは言っていた。カイルとエメルが後ろに立つ。

「どうしたんだ?」
「何かおかしいわ……」

 騎士たちが狼狽している。

「ちょっと、ルカ行ってきていい?」
「……俺も行こう。エメルも来い」

 カイルも行くというので、影と護衛を数名、そして三尾も連れて中庭へ向かう。中庭には騎士たちが恐竜を遠巻きに見ていたり狼狽していたりしている。恐竜は興奮したように騎士を威嚇していた。恐竜の口には網目の囲いがしてあり、口が開けづらいだろう。

「何事だ」
「皇太子殿下! 申し訳ありません、到着したばかりの恐竜が興奮していまして。すぐに取り押さえますから!」
「無理やりは駄目! ルカに任せて」

 三匹いるはずの恐竜が一匹しかいない。と思ったら、残り二匹はまだ檻の中だった。檻の中で興奮していて、檻が揺れている。とりあえず外に出ていた恐竜の興奮を取らなければ。恐竜に近づきながら声をかける。

「もう大丈夫。檻が嫌だったよね。ほら、ルカを見て。誰か分かるでしょう」

 かなり興奮している様子だが、一度私を見ると視線が私から外れなくなった。

「ルカだよ。いい子だね、こっちにおいで」

 恐竜はくるっと一度周り、それから私に顔を付けてきた。少し勢いがあったので、恐竜の顔で私の身体が一瞬持ち上がったが、すぐに足は地面へ着いた。

「ルカ!」
「大丈夫です!」

 カイルの呼びかけに手を出して静止させる。まだ恐竜の鼻息は荒いが、興奮はかなり落ち着いている。私のことも認識していて、ぐるぐると甘えた声を出している。

「よしよし、いい子。これとってあげるね」

 恐竜の口の囲いを取りたいが、取り方が分からない。困っていると、恐竜の側にいた騎士が近寄ってきた。北部騎士団で見たことのある顔である。

「俺が取ります」
「ありがとう」

 囲いを取りながら、騎士がちらっとこちらを見る。そして小さな声で呟く。

「あの、まさか、うちのルカさまですか?」
「そのルカだよ」
「どおりで! 助かりました。道中ずっと興奮していて大変だったんです」
「こういうものに乗せての移動は初めてでしょう。恐竜には檻が小さすぎたのだと思う。でもよく檻なんてあったね?」
「以前アカリエル公爵家へ恐竜を渡す際に恐竜の数だけ作っておいたのです」
「なるほど」

 口の囲いが外れると、恐竜は自分の顔を私にすりすりとすり寄せてきた。

「いい子ね。長い距離の移動お疲れ様。あと二匹を檻から出してくるからね」

 じーと恐竜と目を合わせる。うん、大丈夫だ、もう興奮していない。もう一度恐竜の頭を抱きしめると、顔を離した。

「次の檻に行きましょう」
「はい!」

 北部騎士団の騎士と共に二匹目を閉じ込めている檻へ向かう。その私を見ながら、カイルが驚いてエメルに言う言葉は聞こえていなかった。

「俺のルカは猛獣使いなのか?」
「言い得て妙ですね。うちの兄たちもルカの言うことは聞いてしまいますし」
「ああ、確かに」
「カイルさまもその中に入ってますからね」
「……」

 三匹とも無事に檻から出し落ち着いたころに、城から出ていたシオンが戻ってきた。

「恐竜が暴れてたんだって?」
「暴れたわけじゃないの。ずっと檻に閉じ込められて辛かったのだと思う。帰りは大き目の檻に作り直すか、輸送の方法を変えましょう」
「そうだな」
「一角も到着しているのだよね?」
「一角は大丈夫だ。あっちで食事してた」
「良かった」

 その日は恐竜で少しざわついた城だったが、すぐに今まで通りの姿を取り戻したのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。