七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 191話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 191話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」191話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 191話

 私は十九才となった。

 私も南部へ連れて行ってもらうこととなった二日後、シオンと私、カナンとアナン、そして複数の護衛と影と共に馬にて南を目指した。私たち自身は多くの荷物は持っておらず、カナンが準備したすぐに必要でないものは後から馬車で持ってきてもらうことになっている。その馬車にはナナも乗る予定だ。馬は基本的に一人一頭だが、私だけはシオンと同じ馬に同乗している。

 私とカナンは男装していた。二人共、髪は茶色の肩までのボブスタイルのカツラをかぶり、眼鏡をしている。一応、カナンと私は双子という設定である。そして、この格好の間は、私は昔のように「ルカ」と呼ばれることになっている。ちなみに、アナンはカツラはかぶっていないが、眼鏡はしている。多くはないが、アナンが私の護衛だと知っている人もいるので、それを誤魔化すために眼鏡で変装をしているのだ。

 カイルやエメルとは行きは別々に行くことになった。カイルたちは明日帝都を出発することになっている。

 私たちは一度ラウ領の南にある町を目指す。そこには内密に招集していた騎士たちがいるのだ。まだ開戦の知らせは届いていない。

 一日目は途中の宿に泊まり、次の日の早朝、すぐに目的地を目指した。早ければ、今日の夕方には到着するはずである。その日の昼過ぎ、ついに南部の開戦の知らせを聞いた。相手はウロ王国。カイルたちの予想通りだった。友好国であるはずのウロ王国がなぜ。やはりウェルド王国が裏で手を引いているのか。しかし今はそんなこと言っていられない。このままラウ領の南を目指すのかと思っていたら、シオンが行き先を変更した。もし開戦したら、ラウ領の南に集まっている騎士たちは、すぐさま南の国境を目指すことになっているらしい。いまから行っても目的地には誰もいないと思われるからだ。

 ウロ王国が戦争を仕掛けてくるかもしれない。それは開戦するまで表ざたにはしていなかった。まだ可能性の段階だったからだ。ただ裏では南部騎士団にいる近衛騎士や一部の南部騎士上層部、そして密かに招集していた騎士、そしてカイルたちが連絡を取り合っていた。伝書バトを使って、もちろん暗号である。

 二日目の夜はバチスタ領の手前の街で宿を取った。私は寝ていて気付かなかったけれど、影がシオンの元に情報を持って出入りしていたらしい。開戦後、武器が少なく、また麻薬が流行り戦える騎士の少なかった南部騎士団はその日のうちに籠城戦となったようだった。

 三日目の朝、バチスタの街を迂回し、南部騎士団の城が見える山の中から様子を伺っていた。城の外では我が国の騎士とウロの騎士が距離を取って睨み合っていた。

「籠城戦ではなかったの?」
「あれは……半分は招集した騎士だな。ラウ領から到着したのだろう」

 ラウ領に招集していた騎士が到着したからか、籠城戦を止めたようだ。互いに睨み合ったまま動かない。遠く離れているのに四角い塊が睨み合っているのがわかる。何万人集まっているのだろう。それでも我が国の騎士の数が少ないのが見た目で分かる。影が一人近寄ってきた。

「昨日、西も開戦したとの報告が来ました」
「何?」

 とうとう西の国境も開戦したのか。

「昨日ってことは、南部と開戦日が一緒なのね。こんな偶然ってある?」
「……偶然ではないのかもしれないな」
「どういうこと?」
「……」

 シオンは黙り込んでしまった。
 それから半日、国境付近の睨み合いはまだ続いている。我が国の騎士数が少なく、人数差は明らかだ。ウロ王国からすれば今が好機のはずなのに、なぜ仕掛けてこないのだろう。開戦初日は戦いがあったらしいが、今日はただ睨み合いをしているだけだ。

「シオンさま」

 影が男を一人捕えてやってきた。

「コソコソしながらこちらを目指していたようなので捕まえました」
「……その顔、国外のものだな」

 影が捕まえた男の顔を上向かせた。

「どこのものだ?」
「言うわけないだろう!」

 状況が分かっていないのか、こちらを馬鹿にしたような表情で男は叫ぶ。

「口に布を詰めろ。ルカ、後ろを向いていろ」
「あ、はい」

 私が後ろを向くと、くぐもった悲鳴が聞こえた。うーん、過激だなぁ。シオンのこういったところは久々に見る。

「俺は短気でね。満足に歩けるうちに話した方がいいぞ」

 男はその後すぐに口を割った。我が国の西にある隣国タニア大公国のものだった。現在タニアは西部騎士団と交戦中である。そのタニアが南部でも戦争があることを知っていて、その様子を見にきたのだという。それ以上の情報は持っていないようで、影が男を連れてどこかへ行った。

「タニア大公国はウロ王国、もしくはウェルド王国と繋がっているということ?」
「だろうな」

 今回のウロ王国との戦争はウェルド王国が裏で手を引いているという認識を我々は持っている。その日はそこで山を離れた。一日遅れで帝都を出たカイルとエメルと合流することになっている。

 合流場所はトリットリア領の領主の屋敷だ。裏口から内密に入れてもらうと、すでにカイルとエメル、そしてソロソが到着していた。カイルは二十名ほどの少人数である。トリットリア侯爵は現在南部騎士団の副団長をしている。侯爵とはカイルが連絡を取り合っており、この屋敷を使っていいということになったという。トリットリア侯爵令嬢であるルビーは屋敷に残っており、一度挨拶をした。私は変装をしているので、ルビーは私が誰かは分かっていなかったが。
 カイルたちがいる部屋に入ると、カイルは部屋の中にいたエメルとソロソ、そしてダルディエ家のもの以外の騎士たちを一度部屋から出した。

「ミリィ」

 カイルが手を出すので、カイルに抱き着いた。

「カイルお兄さま、私はルカなのよ?」
「そうだった、ごめん。まったく、本当に来るなんて。状況が変わるまでは、しばらく俺から離れてはだめだよ」
「はい、殿下」
「……殿下かぁ。他人行儀だなぁ」
「そういう役どころなのよ」

 ふふふと笑いながら顔を上げる。

「よくルカだと分かったね? 髪の毛茶色よ? 眼鏡よ?」
「俺が分からないわけないでしょう」

 今回カナンと服も一緒だし、どっちがどっちか分からなそうなのに。

 その後、今後の計画を兄たちが話し合っていた。シオンはタニア大公国と、ウロ王国もしくはウェルド王国が繋がっている可能性も話をしていた。

 カイルは南部の戦争を予想した時に、元々ラウ領に招集していた騎士とは別に、東部騎士団と中央騎士団と北部騎士団へ追加で騎士の招集を内密に命令している。準備をしていたために開戦と同時にこちらへ向かっているところらしい。一番駆けつけるのが早いと見込んでいる東部騎士団でさえ、到着までに急いでもまだ一日はかかる。その間、私たちもここも動けないため、情報収集と足りていない武器の収集に努めることになった。

 南部の国境で戦争が始まってから、バチスタ領の街や近隣の街では逃げ出す住人が出てきている。ただまだ大きな混乱がないのは、開戦日以来、戦闘らしい戦闘がないからだろう。結局開戦二日目は睨み合いのみだったという。

 そして開戦三日目、トリットリア邸で過ごしていると、夕方近くに南部騎士団の城に東部騎士団からの援軍が着いたと連絡があった。かなり早い到着だった。また東部騎士団は、武器も持ってこれるだけ持ち込んでくれているという。武器は足りていなかったので、おおいに助かる。ただ戦闘はなく、その日も睨み合いで終わったらしい。それどころか、我が国の援軍が来たことでウロ王国は若干立ち位置を後退したという。

 そのあたり、兄たちは首をひねっていた。戦争を仕掛けてきたくせに、積極的ではないのである。これも作戦の内かもしれないが、違和感しかない。ただ、ウロが後退したことで、私たちは南部騎士団の城へ入城できそうだと判断した。

 開戦四日目の早朝。まだ薄暗い中、南部騎士団の裏口から私たちは入城したのである。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。