七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 190話 ジュード視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 190話 ジュード視点

このページでは小説を掲載しています。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」190話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 190話 ジュード視点

 帝都にあるレックス商会の一室、ジュードの目の前には国外の人物が二人にこやかに座っていた。一人は今回の商談により契約を結ぶ男性、そしてもう一人は男性が雇っている通訳だ。ジュードの隣にはミリィが座っていて、書類を真剣な顔で見ていた。

「うん、いいと思うわ。内容にも間違いない」

 書類には、半分はグラルスティール語、もう半分は商談相手の言葉で同じ意味の文章が記載されている。ミリィにはその商談相手の言葉をチェックしてもらっていたのだ。俺には商談相手の言葉は分からないが、ミリィは国外の言葉が全て理解できる。

 ジュードは書類にサインし、今回はこれで商談が成立だ。
 商談相手が帰ると、ジュードはミリィに声を掛けた。

「ありがとう、ミリィ。助かったよ」
「どういたしまして。他にも手伝えることがあるなら言ってね」
「うん。さてお茶にしようか」

 ミリィの好きなお茶菓子と紅茶を用意し、一緒に休憩をする。ジュードが帝都に戻ってきて七日ほど経った。ミリィを今一人にするのは危険なので、ジュードかシオンが一緒に行動している。ジュードと一緒にいるときは、護衛を増やし、シオンと一緒に戻ってきた影も付けている。

 ザクラシア王国での件はシオンに報告を受けた。ザクラシア王国関連に関するミリィを狙っていたものは、分かっている分はシオンが全て始末したという。メレソォ公爵は失敗も視野に入れてなのか、ミリィ誘拐を複数計画していた。メレソォ公爵はやはりミリィに子供を産ませたいなどと、自分勝手な理由でミリィを狙っていたと聞いて、何度八つ裂きにしても足りないほど頭にきたが、シオンが奴にとって死より苦しい制裁をしたのを聞いて、少しは気持ちも落ち着いたが。ザクラシア王国の件はとりあえず片付いたと見ていいだろう。ただまだスヴェニア男爵の件が残っている。警戒を解くわけにはいかない。

 ジュードが帰って来てからのミリィは落ち着いているように見える。しかしエメルやシオンの話では俺たち兄に会えない寂しさで不安定だったというから心配だった。昨日も少し様子が変だった。ジュードが添い寝をしていたのだが、ベッドに入ればいつもすぐに寝付くミリィが考え事をしているようでなかなか眠れないようだった。

「ねぇ、ジュード」
「何?」

 ベッドでジュードを向いてミリィが口を開く。

「ジュードが結婚した後もミリィの添い寝をしてくれるのは、エレーネさまと離れて暮らしているからよね?」

 ジュードと妻のエレーネは離れて暮らしている。エレーネはオクスロード領に普段はいるので、ジュードが十日に一度ほど向こうを訪ねるか、もしくは帝都に用事のあるエレーネがやってくるか。ただジュードの夫婦はそのくらいの距離感が丁度よく、夫婦仲は上手くいっているのだ。

「ディアルドはいつもユフィーナさまと行動が一緒だし寝室も一緒だから、結婚してからはミリィと一緒には寝ないようになったでしょう」
「確かにそうだね」

 ジュードもエレーネが帝都にいるときはエレーネがダルディエ邸に泊まるので、エレーネとジュードは一緒に寝ている。その時はミリィの添い寝はできない。

「今はアルトやバルト、シオンやエメルがいるから、一緒に寝てくれるけれど、みんな結婚したら、いつかはミリィとは寝てくれなくなるわよね?」
「……シオンは結婚しないかもしれないよ」
「そうかな?」

 ミリィの不安が分かった。先日の兄たちと会えない一ヶ月が相当堪えたのだろう。成長と共に、まわりの環境も変わっていく。俺たち兄が結婚することで大事なものが増え、今までよりミリィと一緒にいる時間も減るだろう。

「ジュードは結婚して幸せ?」
「幸せだよ」
「ミリィも家族が増えて幸せよ。ユフィーナさまもエレーネさまも素敵な人だもの。それに、ユフィーナさまから生まれてくる子も楽しみ」

 先日ディアルドの妻のユフィーナの妊娠が分かったのだ。ミリィに教えると、アンに頼んで赤ん坊の可愛い服を作って贈るのだと張り切っている。

「ディアルドとジュードは結婚したけれど、今もミリィを可愛がってくれる。愛してくれる。みんなもそうよね?」
「もちろんだよ。シオンもアルトもバルトもエメルも。みんなミリィをいつまでも可愛いと思うのは間違いないよ」

 ミリィは「そうよね」と言って笑みを浮かべた。笑っているのに寂しいのが伝わってくる。ジュードはミリィを抱き寄せると、頭を撫でた。

「カイルお兄さまはどうかな? ミリィではない人と結婚しても、ミリィを可愛いと思ってくれるかしら」
「……あの人がミリィを諦めると言ったの?」

 カイルの話題にどきっとして、ミリィの顔を見る。

「ううん。けれどミリィがいつまでもカイルお兄さまとの結婚を決めないなら、周りの人がカイルお兄さまに他の人と結婚するようにすすめるでしょう」

 それはそうだ。カイルの気持ち関係なく、たぶん今も婚約者候補をカイルに大量に送りつけているに違いない。周りの気持ちはわかる。皇帝にはカイル以外跡継ぎがいない。だから早くカイルに跡継ぎを作ってもらいたいのだ。

「ミリィは……カイルさまと結婚したいの?」
「……分からないの。カイルお兄さまのことは大好きよ。とても愛しているわ。けれどそれは兄としての気持ちが強いと思うのだけれど、違うのかしら」

 少しほっとした。まだ前とミリィの気持ちは変わっていないようだった。

「カイルお兄さまの言う、ミリィを女性として愛しているというのは、理解できたの」
「え!? 理解できたの!?」
「うん。だから少しずつだけれど、カイルお兄さまを男性として意識したりしているところなの。ミリィももう少しカイルお兄さまに向き合いたいから」

 わざわざカイルを男として意識する必要はないのに。カイルを兄としてしか見れないと言ってくれれば、すぐにでも求婚を断る用意はある。しかし少し様子の違うミリィにそれを言い出すことができない。

「でもミリィに、カイルお兄さまに向き合う時間は残されているかしら」
「……時間って、カイルさまが婚約者を決めなければならない期限のこと?」
「うん。カイルお兄さまには期限のことなんて聞けないけれど、期限がないわけないでしょう?」
「そうだね……」
「その期限までにミリィが答えを出せないなら、たぶんカイルお兄さまは他の人と結婚を決めるでしょう? けれど、ティアママが言うの。カイルお兄さまが他の人と結婚したら、今までのようにミリィを抱きしめたりするわけにはいかないのですって。ミリィは妹だけど妹じゃないから。実際には従兄妹だから」
「……それはそうかもしれないね」
「やっぱりそうなのね……」

 他に妻がいるのに、妹でもなく妻以上に可愛がる存在がいるのは良くない。きっとカイルの周りがミリィをカイルに近づけさせないようにするだろう。

 ミリィの瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。

「大好きなのに、愛しているのに。カイルお兄さまを抱きしめることもできなくなるなんて」
「ミリィ……」

 これはどうなのだろうか。本当にカイルを兄としてだけ見ているのか。ミリィが気づいていないだけで、実はそれ以外の気持ちを抱いているのではないか。もしそうなら答えは単純だ。カイルの求婚に承諾すればいいだけだ。けれど、ジュードはそれを口にはしなかった。

 そんな昨夜の泣きそうな顔のミリィも、レックス商会で過ごす今はにこやかな表情に戻っている。大好きな栗のお菓子を口に含んでは、「今年の栗も美味しいわ」とニコニコしながら感想を告げていた。

 その日の夕方、ミリィは迎えに来たシオンと先に帰らせ、ジュードは仕事を終わらせてから帰宅した。帰ってから夕食を取り談話室へ向かうと、ソファーに隣り合わせに座ったミリィとシオンが話をしていた。ミリィの膝の上には、猫のナナが頭を乗せてくつろいでいる。ミリィがアカリエル邸に滞在していた一ヶ月の間、ナナをダルディエ邸に置いていたのだが、ミリィが帰ってくるとミリィから離れなくなってしまったらしい。ナナは生まれた時からミリィと一緒にいたため、ミリィを母だと思っているとミリィは言っていた。

 ジュードは一人用のソファーに座り、会話に混ざっていると、エメルが帰宅してきた。顔が少し険しく、食事もせずに話をしだした。その内容にその部屋にいる全員が険しい顔になった。

「戦争か……。南部が暴動を起こすより悪いな」
「はい。ただ先ほども言いました通り、そう遠くない未来だろう、ということしか言えません。ジュード兄上はご準備を。南部にも店舗を増やしましたよね」
「分かった」

 レックス商会は毎年大きくなっており、南部にも店舗を増やしていた。店舗は街中にあり、戦火がどれだけ広がるか分からない以上、最悪のことを考えて動く必要がある。物の移動だけでなく、従業員の生活や従業員の家族のことだって考えなければならない。

 ただバチスタ領の街は国境にある南部騎士団からは少し離れている。とはいえ、開戦を待って動き出すのでは遅い。これから忙しくなりそうだ。

 シオンが考える表情をしながら口を開いた。

「北部騎士団から一角を三頭、恐竜を三匹取り寄せよう。今から呼んも開戦には間に合わないかもしれないが。アルトとバルトは南部騎士団にいるのだったな?」
「はい」
「あいつらは一角に乗れるから。あとは俺も行こう」
「助かります。シオン兄上はこちらから依頼しようと思っていましたから」
「俺が行くだけでは、どちらにしても人数が足りないだろう。他の騎士団に招集はかけるのか?」
「内密に命令は出します。すでにラウ領の南に密かに招集して配置している分だけでは厳しいでしょうからね」
「とはいえ、北部からはもうそんなに出せないぞ。ザクラシア側の国境警備を蔑ろにはできない」
「分かっております。そこは東部と中央から多めに出してもらう予定です」

 いつ開戦するのか分からない以上、できるだけ早く、そして多くの準備をしなくてはならない。ジュードはエメルに聞いた。

「エメル、カイルさまたちはどうする予定なんだ?」
「まだ本決まりではないのですが……私もカイルさまも南部へ入ります。数日中には出発する予定です」
「やはりそうか……」

 色々と気になることはあるが、明日すぐに準備に取り掛かれるよう考えなければならない。みんないったん席を立とうとしていた時だった。

「ミリィはどうすればいいの?」

 ナナが目を開けて顔を上げた。

「ジュードは帝都から準備のためにいなくなるかもしれないのよね? シオンもエメルもカイルお兄さまも南部に行くのでしょう? ミリィは?」

 そうだった、ミリィをどうするのか考えなければ。しかし、こうなった以上、選択肢は一つしかない。

「ミリィ、少しの間、またアカリエル公爵家に世話になれるよう依頼を」
「嫌! またミリィを預けるの? もうアカリエル邸には行かない!」
「ミリィ、でもこの家には誰もいなくなるんだ。影も連れて行くだろうし、護衛だけではミリィを守り続けられるか分からないんだ」
「分かってる! でもアカリエル邸は嫌! けれど、この家にいたいわけでもないの。またお兄さま誰もいなくなっちゃうのでしょう? ミリィも一緒に行く!」
「何を言って……あっちは戦場になるんだよ?」
「分かってるもん。ねぇ、シオン。一緒に連れて行って? ミリィいい子にしているわ。だからお願い!」
「……だが」

 必死にシオンに告げるミリィに、シオンも歯切れが悪い。とうとうミリィは泣き出してしまった。

「もうミリィを寂しくしないでって言ったのに! またミリィを独りぼっちにするの!?」

 困惑と焦りを混ぜた表情でシオンはミリィを抱き寄せた。こればかりはどうしようもない。ミリィを戦場へ連れていくわけにはいかないのだ。ここにいる兄全員が同じことを思ったはずなのに、シオンが違うことを口にした。

「分かった。ミリィを連れて行く」
「シオン!? 何を言うんだ!」
「ジュードが連れて行くより俺が連れて行くほうがいいだろう。影は俺が連れて行くし。ジュードと護衛だけでは警護が不安だ」
「いや、どうして俺かシオンが連れて行く話になるんだ? どっちが連れて行っても危ないことには変わらないだろう!」
「だってミリィが泣いているじゃないか」
「それは、そうだけど……」

 めったに泣かないミリィが兄に会えない寂しさと、最近の不安とに押しつぶされそうになっているのは分かる。俺も心が痛い。できるならば傍にいてあげたい。しかし待ち受けているのは戦争の現場だ。ジュードがミリィを連れて行ったとしても、準備に忙しくてミリィに意識を向ける時間もないだろう。ミリィを連れて行くべきではない。なのに泣きじゃくるミリィに兄三人が何も言えなくなっている。

「アカリエル邸に迎えに行った時も泣いていたんだぞ。ジュードは見ていないからそんなことを言うんだ」
「いや、俺だって言いたくてこう言っているわけでは……」

 ただミリィを心配しているだけなのだ。一生危ない目なんて合わせずに楽しく生きてもらいたいだけなのに。けれど、そのミリィが俺たちと離れることを嫌がっている。

「わかりました、だったらこうしましょう。ミリィはカイルさまと一緒にいてもらえばいいのです」
「エメル!?」
「ご存じの通り、カイルさまは暗殺者に狙われ中ですからね。ですから南部へ行く際は護衛も影もカイルさまにたくさん貼りつきます。私も傍にいますし、シオン兄上の向こうでの拠点も我々と一緒の場所になるよう手配します。カイルさまとミリィは守らなければならない側ですから、一緒にいてもらう方が守りやすい」
「それは、そうかもしれないが」

 エメルまでとんでもないことを言い出した。ただ、今まで出た案の中では一番いいかもしれない。正直頷きたくない案だが。

「……分かった、そうしよう」
「良かった。でしたら、その方向でこちらも準備を進めます。ミリィ、ほらもう泣かなくていいですよ。目が溶けちゃいますから」

 シオンの胸から顔を少し横に向け、ミリィは泣きはらした目を向けた。

「ほ、本当?」
「本当です。あまり時間もありませんから、少し話を詰めましょう。ミリィは聞いていてくださいね」

 ミリィはこくっと頷く。

「ミリィにはカナンとアナンも付けましょう。ミリィとカナンは男装のほうが良いですね。身分は隠しましょう。髪色も目立たない色がいいでしょう。ジュード兄上、カツラを二人分用意できますか? 地味な色で」
「用意しよう」
「ありがとうございます。あと細かい部分は後でカナンに用意を依頼しますね。とりあえず、このくらい決まっていれば、あとはこちらで何とかします。他に何かあったりします? 私、また皇太子宮へ行かなければならなくて」
「……ミリィが行くなら、呼び寄せる先祖返りの中に三尾も二匹増やすか」
「ああ、それいいですね」

 そろっとミリィが手を挙げた。

「どうしました、ミリィ」
「ナナも、連れて行っていい?」
「ナナもですか……三尾も傍に置くなら、この際一緒ですね。いいですよ」
「ありがとう」

 とりあえず、大筋は決まった。エメルは皇太子宮へ戻り、ジュードも部屋に戻る。ミリィとシオンは今日は添い寝なのでシオンの部屋へ戻っていった。

 ディアルドや父上に言ったら、今回の件はかなり怒るだろう。しかしもう決まったことだ。これからどうするべきかを考えることに集中することにした。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。