七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 189話 カイル視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 189話 カイル視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」189話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 189話 カイル視点

 夏休みが終わった時期ではあるが、まだ暑い日が続くある日。
 カイルは執務室で一人チェス盤に駒を置きながら、頭を整理していた。

 夏休みのはじめ。
 南部の不穏な動きのため、近衛騎士団から信用できるものを数名南部騎士団へ向かわせた。その中にはダルディエ公爵家の双子も入っている。不穏な動きから、バチスタ領が国と戦争でも起こす可能性を念頭に置いていたが、調査するうちにそれも何か違うとほとんど結論を出している。では何が起きているのか。情報が足りなくてしっくりいく答えが導き出せない。ただ、南部騎士団で麻薬が流行っていることは分かっている。それがかなりの大人数になりそうだと推論し、そのために双子を含めた近衛騎士を向かわせたのだ。

 あやしい動きをしているのは南部だけではない。先日の報告を見た限り、西部の国境付近はすぐにでも戦争が起きそうだという。分かっていたことだが、その点は前々からアカリエル公爵家と西部騎士団が準備に費やしている。アカリエル公爵令息のノアとも先日会ったが、西部に関しては戦争が起こっても任せてくれていいと言っていた。頼もしい限りである。アカリエル公爵も南部がきな臭いのを分かっているのだろう。西部は任されるが、南部は任せたと言われているようなものだが、当然そちらはこちらで対処するつもりだ。

 その南部だが、バチスタ公爵は南部騎士団の団長のくせに、ほぼ騎士団へ顔を出さず、女と酒に明け暮れている。バチスタ公爵の息子二人もほとんど同じ。親子揃って飽きれるが、その娘ウェリーナはミリィを狙っていた。許しがたいが、双子のどちらかが対処したと言っているので、そこはいったんおいておくが。

 バチスタ公爵が毎日遊び明け暮れているが、よく金が回るものだと思う。湯水のように金を使い、女遊びをし、けれど仕事をしている風でもない。もちろん領地の金はあるだろうが、その領地の使ってはいけない金に手を出していると思われ、また、それでも足りていないと思う。金の流れを追わせているが、現在届いている情報にはこまごまとした不正くらいしか出てこない。こんな小さな不正ではないはずなのだ。

 それにスヴェニア男爵のこともある。先日もまた暗殺者がカイルの命を狙ってきたが、当然捕まえてどこのものか吐かせた。東公の領地出身のものだった。最近、こういうのばかりだ。暗殺者の出身に一貫性がない。北公の領地出身だったり、ザクラシア王国出身だったりと、もちろん、本当にその土地の縁のものたちが刺客を送っている可能性もあるが、カイルはスヴェニア男爵が裏で取引していると思っている。しかし証拠がない。

 刺客を送るにも金がいる。カイルのような皇太子が対象となれば、暗殺者を雇う金も高額となろう。スヴェニア男爵はどうやって生計を立てているかというと、物流関係だった。例えば大きい商会などは商会自身で物を運ぶこともやっているが、小さな商店だと物流を営む運送業者に頼むこともある。だが物流業だけであれだけの人数の暗殺者を雇うほどの金が稼げるものなのか。

 どうにもしっくりこない。何かを見落としている気がする。

 先日、南部騎士団へ送った近衛騎士から中間報告として連絡があったが、南部騎士の麻薬に手を出している人数が南部騎士団員の五分の一。途中の段階でそれなので、まだ増える可能性がある。なんと体たらくな。騎士ともありながら、そんなものに手を出すとは。

 とにかく、見逃しているものが何か分からない以上、保険は必要である。中央騎士団、北部騎士団、東部騎士団から一定数を内密に集まらせている。何かあればすぐに駆け付けられるよう、東のラウ領の南寄りの城で。それで予想外のことにも対応できればいいのだが。

 執務室にエメルが入室してきた。手には書類を持っている。

「整理はできましたか?」
「あまりうまくいってはいない。いつも同じところでひっかかる」

 チェスの駒の一つを手で弄びながら、眉を寄せた。

「たぶん考えがまとまらないのは癒しが足りないからだな。エメルはいいよな、ミリィに会えて」

 アカリエル邸からミリィがダルディエ邸へ戻って十日ほど。アカリエル邸にいたころはオーロラ嬢と三日に一度は顔を見せてくれていたのに、ダルディエ邸へ戻ってから一度しか来てくれていない。シオンやジュードが戻ってから、その二人にべったりとくっついて離れないらしい。寂しかった気持ちを穴埋めしようとしているのだろう。ただ、カイルはミリィに会う回数が少なくなって辛い日々を送っている。

「仕方ありませんよ。カイルさまはダルディエ邸を出禁ですし」
「……エメルがミリィにここに来るよう勧めてはどうだ?」
「それも、兄たちに禁止されているんですよ。あくまでもミリィの自発的なものならカイルさまも会えるのですが」
「……俺の話題を出すくらいならいいだろう。ミリィに俺の存在を思い出させてくれ」
「ミリィもちゃんと分かっていますよ。ただ今はジュード兄上とシオン兄上の補充に必死なんです」
「俺もミリィの補充がしたいんだ」
「……わかりましたよ。今日何気に会話に混ぜてみます」

 とにかくミリィの顔が見たい。抱きしめたい。それだけでいい。

 ふとエメルを見ると、エメルがじーとカイルを見ている。

「……以前ミリィがここへ来た時、カイルさまに頬にキスを貰ってミリィは顔を赤くしていましたよね。あの時は、本当に頬にキスしただけなのですよね?」

 まだエメルは気にしていたのか。

「そうだ。……あの時は頬にしただけだが、別の日に口にした」
「え!? 聞いていませんが!?」
「エメルは一度、口にしていいと許可しただろう?」
「あの時はミリィが自分で口にしてと言ったからですよ!」
「別の日に口にしたときは、ミリィにちゃんと許可をとった」

 エメルがジト目で俺を見ている。

「……本当にいつしたんですか。……あ! オーロラ嬢が初めて皇太子宮へやってきた時ですね!? あの時私がオーロラ譲と席を外したから!」
「うん、まあ……」

 その時も、というべきか。

「それよりも、聞きたいことがあるのだが、ミリィは兄たち全員に口にキスしてと言ったそうだな?」
「……ミリィに聞きましたか」
「どうしてそんな話になったんだ? また兄たちに言うのではないかと心配だ」

 おかけでミリィにキスできたものの、別の不安材料が浮上している。

「聞いたのなら、カイルさまのことですから、ミリィにもう兄たちに言わないよう言ったのでは?」
「言ったが……。その前に俺はそれを聞いて、ミリィは口にキスすると恥ずかしがりはするが、どうにも頬にキスすることの延長線上に考えている気がしてならない」
「どういう意味です?」
「兄たちに口にキスしてと言ったってことは、頬にキスも口にキスも、兄たちからはどっちも一緒だと思っているということではないか? 俺と口にキスしても、兄とキスしているのと同じと思っている気がしてならない」
「……」

 エメルの無言は同意を意味する。兄に言うなら、まだいい。いや、良くはないが、兄ではない男に言うよりは、まだいい。

「色々とミリィに確認したいが、余計な口出しをしてミリィが変な暴走をするのも怖くてな」
「……カイルさまとキスすることがなぜ恥ずかしいのかを確認するために、好きな男性のところに行って同じことをして確認してみたり……なんて、さすがにしないですよね」
「……しないと思いたい」
「……」

 ミリィならやりかねない、という表情をしてるエメルを見ると不安になる。
 最近ミリィがカイルの気持ちを考えてくれているのが分かるし、それは嬉しいのだが、ミリィは時々読めない行動を起こすから怖い。そしてミリィが考えた結果、最終的にカイルを選ばない可能性だってある。そうなったとき、カイルは本当にミリィを手放すことができるのか。もし手放したとして、もう二度と手に入らないだろう存在を、今後も傍で見ているだけなどできるのか。

 胸が痛くなって、カイルはそこで考えるのを止めた。まだ分からないことを想像しても仕方がない。ミリィのことになると、いつも不安で自信なんてどこかに飛んでしまう自分が情けないと思う。

 ため息を付いていると、今度はソロソが少し険しい顔で入室してきた。

「カイルさま! 南部にいる近衛からの連絡です。武器の数が合わないので調査したところ、武器が裏で横流しされていたようです」
「何?」

 ソロソから書類を受けとる。
 南部騎士団の武器庫にあるはずの武器の数と実際の数が大幅に違う。それを横流ししていた可能性の高い人物。それはバチスタ公爵だった。

「……これだったか、バチスタ公爵が得ていた金の材料は」

 カイルはその書類を握りしめた。こんなことをすれば、バチスタ公爵が持つ南部騎士団の力を弱めることになるだけなのに。よくもまあ、こんな自分の足元をすくわれるようなことをするものだ。

「……まさか」

 武器のない騎士団。そして麻薬でうまく機能しない騎士。誰が得をするのか。それが示すものは。

 ――戦争を起こすこと。

「なるほどな、売国とはやってくれる! バチスタ公爵かスヴェニア男爵かはわからんが、必ず尻尾をつかんで見せる。ソロソ! 近隣諸国の地図を出してくれ」

 ソロソが準備した地図を三人で見る。エメルが険しい顔で言う。

「他国が我が国に戦争を仕掛けるということですね」
「ああ……たぶん、ここだな。ウェルド王国」

 ウェルド王国はウロ王国を挟んだ南にある国である。国盗り合戦が好きな国で、数多くいる王子たちが後継者争いで王位に就くために他国に戦争を仕掛ける、はた迷惑な国だ。

 ソロソも険しい顔で言う。

「ですがウェルド王国と我が国の間にはウロ王国がありますよ。そちらが先では」
「……ウロがウェルドに協力するとしたら?」
「我が国の友好国なのにですか!?」
「もちろん、そう簡単にこちらを裏切るつもりがあるとは思わんが……」

 ウェルド王国が直接仕掛けてくるか、ウロ王国を使って仕掛けてくるか。どちらにしても、今戦争を仕掛けられれば、武器がなく麻薬が横行している南部騎士団では対処できない。我が国を不利にするために、バチスタ公爵かスヴェニア男爵、もしくはその両方がウェルドと繋がっている可能性がある。

 どちらにしても情報が足りない。情報を得る前に動かせる駒は動かしておくべきだ。カイルはまたチェス盤へ戻る。どれを動かすか。慎重に、けれど急ぐ必要がある。
 そして考えた末、カイルは駒を動かしたのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。