七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 185話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 185話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」185話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 185話

 オーロラはエメルとの皇太子宮の見学が楽しかったようで、馬車で帰宅中、ずっとその話をしていた。楽しんでくれて何よりである。帰る前にはオーロラはエメルの膝に乗せてもらったりして、オーロラはずいぶんエメルと仲良く話をしていた。

「ミリィお姉さま、今日は皇太子宮へ連れて行ってくれてありがとう!」
「楽しんでくれて良かったわ。エメルと仲良くなれた?」
「ええ! エメルさま、とても優しいわね! 抱っこもしてくれて! 膝にも乗せてくれて! 今度行ったらまたしてくれるかしら?」
「してくれるわ。三日後が楽しみね」

 また皇太子宮へ遊びに行く約束をしてきたのだ。次は三日後である。

「ノアやレオみたいにはいかないと思うけれど、オーロラが甘えたらエメルも応えてくれると思うわよ」

 エメルとオーロラは九つ違う。エメルのオーロラを見る目は、私のもう少し小さかった頃を思い出しているような優しい目をしていた。

「そうかしら! 今度は頬にキスしてみようかしら!」
「いいわね!」

 皇太子宮への訪問は、少しはお互いの寂しさが紛らわせている。

 その次の日、オーロラは家庭教師の日で勉強中なので、私は部屋で本を開いていた。けれどあまり内容が頭に入ってこず、結局本を閉じる。

(ナナに会いたいなぁ)

 先祖返りのナナの存在をアカリエル公爵に知られる訳にはいかないので、ダルディエ邸にナナは置いてきている。ナナは生まれた時からずっと私と一緒にいるので、今頃私に会えなくて鳴いているのではないだろうか。私もナナを撫でることができなくて寂しい。一度ダルディエ邸に行きたいと思うけれど、それでは私が狙われているのを回避するために、アカリエル邸に隠れている意味がなくなってしまうので、それもできない。

 ふう、と息を吐く。
 私が狙われているせいでナナに寂しい思いをさせているのだ、私が我慢できなくてどうする。

 違うことを考えよう。私には考えなくてはならないことがある。

「ねえ、カナン。カイルお兄さまはミリィを妹としてだけでなく、女性として愛していると言っているでしょう。カナンから見て、カイルお兄さまは本当に女性としてミリィを愛しているように見える?」

 目の前のテーブルに紅茶を用意してくれたカナンに声をかけた。

「見えますよ。というか、八割方、女性としての愛をお嬢様に向けていると思います」
「そんなに!?」
「お嬢様観察が趣味の私が言うのですから、間違いありません」
「……」

 堂々と主人に対し、私の観察が趣味と言うのを止めて欲しい。まあ、もう慣れたけれど。

 でもそうか、カナンにもそんな風に見えるということは、カイルが私に女性としての愛を向けているのは間違いないのだろう。両親や兄も気づいていたというし。ということは、私だけが本当に気づいてないということである。

「どうしてミリィだけ、カイルお兄さまの気持ちに気づかなかったんだろう……」
「皇太子殿下はお嬢様の兄であることは間違いありませんから、兄からは兄としての愛情のみがもらえるはずだと、お嬢様は思い込んでいたのだと思いますよ」
「……でも、それが普通よね?」
「そうですね、皇太子殿下がお嬢様に恋をしなければ、それが普通だったでしょう」

 恋か。それには何かきっかけがあったのだろうか。

「カイルお兄さまはいつミリィに恋をしたのかしら?」
「さすがに私も侍女になる前のことは分かりませんが、私が侍女になった時には、すでに皇太子殿下はお嬢様が好きなのではと思うことがありましたよ」
「え!? そんなに前から!? カナンが正式に侍女になったのって、ミリィが十三歳くらいの時じゃなかった?」
「そうですね。ただ皇太子殿下は今ほど女性としての愛をお嬢様に向けているわけではなかったので、『お嬢様のことが好きなのではないか疑惑』程度です」

 ええ? さすがに十三歳では子供すぎて恋の相手にはならないよね?

「うーん、難しいなぁ。……カイルお兄さまがミリィに恋をしているなら、もうミリィはカイルお兄さまに、兄として接しては駄目なのかしら?」
「そんなことはないと思いますよ。私が思うに、皇太子殿下はお嬢様から兄としての愛情も、男性としての愛情も、両方もらいたいと思っていると思います。欲張りですねぇ」

 カナンの瞳がキラリと光った気がした。
 カナンの言うとおりなら、今まで通り兄として接することには問題なさそうだ。とはいえ、妹としての愛と女性としての愛の違いがいまだよく分からない。

「カイルお兄さまの言う、女性としての愛を確認するには、どうしたらいいと思う?」
「そうですねぇ……、皇太子殿下に口説いてもらえばいいのでは?」
「口説いてもらう? ……うーん、昨日ミリィの愛しているところを言ってくれたのだけれど、妹に対するものと女性に対するものの違いが、よく分からなかったわ」

 そもそも、カイルは普段から愛を伝える人なので、言われ慣れ過ぎて違いが分からないのかもしれない。

「でしたら、表情はどうですか? 皇太子殿下はお嬢様に対しては表情豊かですから。表情で比較してみるといいかもしれません」

 表情か。そう言われると、そこに注視していなかった気がする。うん、今度カイルに直接確かめてみよう。

「ありがとう、カナン。その案いただくわ」

 よし、次に考えるべきは、私のカイルに対する気持ちだろう。
 兄として愛しているのは間違いない。では男性としてはどうなのか。

 カイルと接しているときゅんとするときはある。でもそれは他の兄にもきゅんとする時があるので、これは兄に対しての気持ちだと思う。他の兄との違いで感じる感情といえば、口にキスされた時に胸が掴まれたような、キューとする時がある。ただそれはカイルしか口にキスしてくれないから他の兄とは比べられず、この気持ちが兄に対するものなのか男性に対するものなのか、検証できない。

 そこまで考えて、顔を手で仰いだ。今、口にキスしているわけでもないのに、それを考えただけで顔が熱くなってきた。なんだか恥ずかしいなぁ、と思ってカナンを見ると、じーと私を見ていた。

「な、何かしら!?」
「お嬢様、今、皇太子殿下とのキスのことでも考えていますよね」
「ど、どうしてそう思うの!?」
「お嬢様は考えていることが顔に出ますから」

 ここはプライベートだし表情を作っているわけではないから、分かりやすいといえばそうなんだろうけれど、でもカナンが鋭いんだと思う!

「もうやだ、恥ずかしい……」
「恥ずかしがっているお嬢様は、最高に可愛いです」

 真顔で言わないでくれませんかね! さらに恥ずかしくなるから!

「はぁ、どうしてカイルお兄さまとキスするの、恥ずかしくなるんだろう……」
「頬ではなくて口にキスするからではないですか?」
「……え!? どうして口にキスしているの、知っているの!?」

 カイルが他の人がいる前では、口にキスする時の私を見られたくないと言っていたから、していないはずなのに。

「以前、ダルディエ邸で皇太子殿下の口にキスされていましたよね。私もその部屋にいましたよ」
「うん、そんなこともあったけれど、あの時カナンは仕事をしていたでしょう!? 見ていなかったわよね!?」
「お嬢様観察が趣味の私が、見ていないはずないではないですか」

 そうだったぁああ! カナンはそういう子だった! 時々カナンの背中にも目があるのではと思う時があるくらいだ、私を見ていないはずがない!

 カイル、ごめん。もう見られた後でした。

「カイルお兄さまが口にキスする時の私を見られたくないみたいなの。カナンが見ていたこと、カイルお兄さまに内緒にしていてくれる?」
「もちろんです」

 ほっとする。カイルと約束してしまっているから、今後誰かに見られないようにしなければ。まあ、カナンはもう知っているからいいのかな。あ、駄目だ、私の顔を見られたくないと言っていたのだった。

 もうキスのことを考えるのは、今日はやめよう。カナンの目の前で恥ずかしがりながら考えるなんて、カナンに観察されつつ、どんな羞恥プレイかという感じである。

 他に考えることあったかな。
 そうだ、もう一つあった。もし、検証の結果、カイルと私の気持ちが一致したことが確認できた場合。

 そうなると見えてくるのは、結婚だろう。カイルは皇太子であるから、普通の結婚とは違う。もし結婚したら、私は皇太子妃になるわけだが、それが私に務まるのかどうか。愛という感情だけで成立するほど、その地位は優しいものではないと思うのだ。

 カイルには婚約話が大量にやってきているとエメルに聞いている。その中には他国の姫、我が国の貴族の娘など錚々たる人物が集まっているはずだ。その中に私も入っているとして、その中で私は皇太子妃に相応しい人物なのだろうか。そういえば、その中にはカイルの父方の従姉弟サヴァルア侯爵令嬢であるエレノアも入っているはずだ。カイルはエレノアは冗談で釣書を持ってきているとは言っていたけれど、それはカイルの考えである。エレノア本人は冗談ではなかったとしたら?

 エレノアとカイルは仲良さげであったし、皇太子妃候補としては筆頭に近いのではないだろうか。

「カナンはエレノアさま、サヴァルア侯爵令嬢のことを知っている?」

 どこからともなく噂を拾ってくるカナンだから、多少は知っているだろう。

「知っていますよ」
「どういった方なのかしら?」
「そうですね……、私も詳しくはないのですが、確かサロンの三大派閥の一つの中心人物だったと思います」

 サロンに派閥があるのは、私も知っている。私は派閥争いに興味がないし、そもそもそういったサロンに参加しない。私も詳しくはないが、サロンは知的な会話を楽しむ場である。その中心メンバーというなら、エレノアは頭も良く切れ者なのかもしれない。

 美人で社交に優れ、頭もいいエレノアに、私が勝てる要素などあるのだろうか。私は学園では勉強も頑張っていたし、そんなに悪い成績でもなかった。だから頭の良さは普通より上くらいだろうか。でもお茶会やサロンにはほとんど参加しないし、社交が得意かと言われると微妙な気がする。美人かどうかは、兄たちも可愛いと言ってくれるし、そこは張れる部分だろうか。他には?

 自分のいいところなんて、他には思いつかない。
 急に目頭が熱くなって目に力を入れた。こんなことで泣いては駄目だ。

「お嬢様!?」

 急に私がウルウルしだしたものだから、カナンが慌てている。大丈夫、まだ涙は落ちてないから、泣いてない!

「……ごめんね、ミリィは何もできないただの子供だと思ったら、なんだか情けないなって思って」
「何を言っているのです!? お嬢様が情けないことなんてありません! お嬢様は私からすれば、女神のようなお人ですよ!」
「……ありがとう、カナン」

 カナンはいまだに私に助けられたと思っているから、こういう優しいことを言ってくれるのだ。

 ダルディエ家という後ろ盾を取ったら、ほとんど何も残らない私だけれど、家同士の結婚という意味なら、私の素地が大したことないことなどは関係ないのかもしれない。私自身が皇太子妃として相応しくなくても。こんなことを気にしているのは私だけなのかもしれないな。

 まだ何も分からないのに勝手に想像して自己嫌悪して、よくわからなくなって、結局何も導きだせていない自分にがっかりする。考えれば考えるほど迷宮に迷い込んでいる気がする。

 そしてまた皇太子宮へ遊びに行く日がやってきた。
 オーロラと一緒に皇太子宮へやってきて、ソファーで私がカイルの膝に座り、オーロラがエメルの膝に座っていた。

「そうだ、カイルお兄さまにお願いがあるの。いいかしら?」
「いいよ、何かな」
「ミリィの頬に、お兄さまとしての愛のキスと女性としての愛のキスをしてほしいの」
「……今?」
「うん」

 カナンのアドバイスどおり表情で比較するとして、これなら、妹としての愛と女性としての愛の違いが確認できるかと思ったのだ。
 カイルはちらりと横を見る。エメルはいつもの笑顔だけれど、オーロラがキラキラとした瞳を私たちに向けている。

「エメルもオーロラ嬢もいるのだけれど。……なんだか、オーロラ嬢ってミリィに反応が似ているな」
「いつもみんないても、しているでしょう?」
「改めて宣言されてからだと、俺も緊張はするんだよ」

 うーん、いつもカイルはエメルがいても関係なく頬にキスをくれるし、オーロラの前っていうのが気になるのだろうか。

「エメル、ちょっとだけオーロラと部屋を退出してもらえないかしら?」
「……三分だけなら、いいですよ」

 渋々っといった感じでエメルが答えると、カイルも頷く。オーロラは残念そうにしていたけれど、エメルと二人で廊下へ出てくれた。

「さあ、カイルお兄さま! まずはミリィに兄としてのキスをください!」
「わかった」

 カイルは優しい笑みを浮かべ、私の右頬にキスをくれた。うん、いつもの感じ。兄としての愛を感じました。

「ありがとう、カイルお兄さま。次は女性としての愛のキスをください」
「うん」

 また笑みを浮かべるカイルの瞳に色気のようなものが含んだ気がした。その視線が熱く感じてドキっとしているうちに、左頬にキスをくれる。いつもの感じ……ではない! え? こんな視線でいつもキスされていたの? なんだか、カイルではないような感じだ。

 その熱い視線のまま、カイルが口を開く。

「俺が女性として愛しているのは、ミリィだけだよ」

 顔が熱くなってきた。左頬を手で押さえる。頬のキスされた部分がさらに熱い気がする。口にキスされるのと同じ位恥ずかしくて、視線をカイルに向けることができない。

 笑う気配を感じ、ついカイルを見ると、愛し気に私を見ていたカイルが私を抱きしめた。

「もうミリィは……俺の心をつかんで離さないなぁ。こんなに愛しい存在は他にはいないよ」

 抱きしめるカイルの温もりを感じている間も、なんだか胸がきゅーとして胸がいっぱいいっぱいだった。確かにカイルが私に向ける、兄としての愛と女性としての愛は違う。やっと気づいたそれに、もう少し私も向き合いたいと思った。

「もう三分経ちましたよ」

 エメルとオーロラが戻ってきた。カイルの抱きしめていた力が緩み、カイルから体を離す。いまだカイルにキスされた左頬から手を離せない私を見て、オーロラが自分の口に手をあてた。

「なんだかミリィお姉さま、色っぽい」
「え?」

 カイルがまた私を抱きしめる。顔を隠されてしまい、エメルとオーロラが見えなくなってしまった。

「オーロラ嬢、少しの間、ミリィを見るのは禁止で」
「え!? 分かりました?」

 疑問的に返事をするオーロラの声が聞こえる。なんで私を見たら駄目なんだ?

「……カイルさま、頬にキスしただけですよね?」
「そうだ」

 エメルの疑いの声が聞こえる。私はどんな顔をしていたんだ? 顔が暑いから、赤くなっているだろうな、ということは分かるのだが。それからカイルは私の顔が元に戻るまで、離してはくれなかった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。