七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 181話 アルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 181話 アルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」181話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 181話 アルト視点

「アルト、バルト、準備は?」
「「できたよ」」

 部屋の扉からこちらを覗き込んだミリィが顔だけ出している。俺とバルトは仕事でしばらく帝都を離れることになったため、最後に顔を見に来たのだろう。

「そんなところから見ていないで、こっちにおいで」

 ぱっと顔を明るくして小走りで走ってくるミリィを抱き上げた。俺の頬にキスをする可愛いミリィは、顔を見ると眉が垂れ下がっている。俺たちとしばらく会えないことが寂しいのだ。

「公にはできない任務なのよね? どれくらいで帰ってくる?」
「うーん、一か月か二か月か」

 少なく見積もってそれである。

「……みんないなくなって、寂しい」

 先日シオンがザクラシア王国へ向かった。ディアルドは領地へ帰り、ジュードも一時的に領地へ戻っている。俺たちもいなくなると、家にはエメルだけになってしまう。しかしエメルは夜にしか戻ってこないし、今回は影も出払っていてミリィに付けることができない。護衛はいるし、常にダルディエ邸を守っているが、どこの穴を突かれるか分からない。影がいないことは、そういった不安が付きまとう。ダルティエ領の本邸なら帝都の屋敷より警備がしっかりしているのだが、今回はミリィを領地へ戻す道のりの方が危険と判断し、ミリィは明日、アカリエル公爵家へ預けることになっている。

 アカリエル邸へ行く以上、しばらく会える兄がいなくて、寂しさが最高潮なのだろう。普段から泣くことの少ないミリィの瞳がうるうるしている。俺たちがイタズラして泣かせるのは好きだが、こういう涙は流させたくないな、と思いながらミリィの涙をぬぐう。

「俺もミリィと会えないのは寂しいよ」

 ぬぐったのに、また涙が出てきている。うーん、これは離れがたいな、と思っていると、バルトがこっちにも、と言うので、仕方なくバルトにミリィを渡す。バルトに抱かれたミリィにバルトが頬にキスする。そのバルトの顔にミリィは顔を付け、必死に涙を我慢するように眉を険しくした。

 ミリィの危険はまだ去っていない。先日、ミリィ誘拐を企てていた者たちをネロたちが捕まえたのである。ザクラシアのメレソォ公爵が送ったものとみられ、その対処のためにシオンと影たちがザクラシアへ向かった。ザクラシア王国関係の不穏な動きは、シオンが徹底的に潰してくるだろうと信じているが、まだ隠された皇帝の弟、スヴェニア男爵の件がある。ウェリーナはもうミリィに手をだすことはないだろうが、スヴェニア男爵がどう出るかが読めない。スヴェニア男爵は現在南部にいるようだが、こちらも動きが怪しい。そういえば、もうすぐウェリーナも帝都からバチスタ領へ戻ると言っていた。

 ウェリーナはあのラベンダー畑での一件以来、何度か夜会や舞踏会で会った。いつもやけにきょろきょろしていると思うと、俺を見つけて顔を明るくし、俺と一緒にいる女性を見て顔を暗くし、そして虚勢を張った強気の顔で話しかけてきた。ウェリーナは改めて見ると、幼いことがよく分かる。思ったことが全て顔に出るし、それを隠すために強気な表情でツンとすることが多い。その点、ミリィは無表情を練習させたこともあって、俺たちといる時は可愛くて幼いけれど、他人といる時は冷静な無表情を装えるようになった。ウェリーナにはそれを指摘して教えてくれるような人がいないのだろう。

 またウェリーナは近衛騎士団の訓練場に現れては、偶然を装い俺に話かけてきた。

「まあ、アルトさま! 偶然ですわね!」

 騎士団の訓練場の一般公開の近くにいて、偶然もなにもあるまい。

「ウェリーナ嬢。俺に会いに来たのですか?」
「そ、そんなわけありませんわ!」
「それは残念。では俺は仕事があるので、失礼しますね」
「あ……」

 笑って横を通る、そのすれ違いざまにウェリーナの手が俺を追っている。相変わらず素直ではないなぁ。会いに来たならそういえば、少しくらいは話をしてあげるのに。
 それからしばらくして、また別の日、訓練場近くでウェリーナと会った。

「アルトさま! 偶然ですわね!」

 だから、ここで偶然というのは苦しすぎる言い訳だというのに。

「こんにちは、ウェリーナ嬢。俺に会いに来たのですか?」
「そ、そういうわけでは……」
「そうですか。では俺は仕事があるので、失礼しますね」
「あっ、ま、待って!」
「どうされました?」
「……会いに来たの」

 うん、聞こえたけれど、声が小さすぎる。

「何か言いましたか?」
「あ、会いに来たと言ったの!」

 今度は声が大きい。顔が真っ赤である。つい笑ってしまいながら、ウェリーナの頭を撫でた。

「ちゃんと素直に言えたね」
「き、気付いてましたの!?」
「だって偶然じゃないでしょう。俺見た時の顔に、会いたかったって書いてあったよ」

 さらに顔が赤くなり、ふるふると震えている。ああ、面白い。

「それで? 何か用事があったのでしょう。俺に素直になるくらいだから」

 どうしても話をしたい事があるから、素直になったことくらいわかる。図星を言い当てられて、少しふんっと横を向くが、小さい声で口を開いた。

「最近、アルトさまを夜会で見かけないから、どうされたのかと思って」
「ああ、俺に会いたくて夜会にたくさん出たのかな?」
「ち、違っ!」
「ははは、ごめんね、最近仕事が忙しくて夜会には出ていなかったんだ」
「そ、そうですの。……いつも、違う女性を連れていますのね」
「ああ、夜会で? そうだね、俺かっこいいでしょう。同伴になりたい女の子たちが順番待ちをしているんだ」

 本当の話だが少し冗談のように話をしたのに、ウェリーナはむっとした顔をする。分かりやすい。

「ただ、しばらくは夜会や舞踏会には出ないよ。これから忙しくなるんだ。だから、ウェリーナ嬢は俺を探すためだけなら夜会に出る必要はないよ」
「……しばらく出ない? ここにはいるのでしょう?」
「訓練場ってこと? いや、あと数日はいるけれどね、仕事で忙しくなるから訓練している暇がないんだ。ここに来ても俺には会えないよ。ウェリーナ嬢だって、そろそろバチスタ領へ戻るでしょう? しばらくは会えないけれど、気を付けて帰るんだよ」

 しばらく会えないのが残念、というようにがっかりしている。表情は素直なんだよね。

「ど、どこかに、私を連れて行ってくれてもいいのよ!」
「えーと、それはデートのお誘いかな?」
「そ、そういう、わけでは」
「違うの?」

 顔を赤くして葛藤している。肯定するだけなのに、そんなに難しいのか。

「……そうよ」

 やはり声が小さい。

「せっかくのデートのお誘いは嬉しいのだけれどね、しばらく休みがないんだ」
「……そうなの」

 あ、しゅんとした。もう少しからかいたいな、とは思うが、そろそろ仕事に行かなければならない。

「しばらくデートはできないけれど、ウェリーナ嬢が今度帝都へ戻ってきた時にでも誘うよ」
「ほ、本当? 絶対よ!」
「うん」

 それからウェリーナの耳に口を近づけ、囁く。

「楽しみにしていて」

 顔を元の位置に戻すと、耳を押さえ、真っ赤な顔をしたウェリーナが可愛かった。

 そんなウェリーナを思い出し、つい笑みを浮かべる。
 目の前には、少し落ち着いた表情のミリィが、バルトから地面に降ろされているところだった。

 俺とバルトは腰を屈め、ミリィの左右から頬にキスをした。

「じゃあ、行ってくるね、ミリィ」
「行ってらっしゃい。時々はミリィのことも思い出してね」
「うん、ミリィも」

 それから馬でダルディエ邸を出た。
 これからバチスタ領にある南部騎士団を目指すのだ。
 南部の不穏な動きは、国を裏切り、国に対し南部が戦争でも仕掛けてくるのか、ということを念頭にさぐっていたが、バチスタの街の動きは平和そのもので、国と戦争というのはしっくりこない。ただ南部騎士団にあることが流行っていることが決定的なのは分かっている。俺たちはそれを指導しにいくのだが、はたしてそんな簡単な話なのか。嫌な予感がする。

 ただ、あちらこちらで不穏な動きがあり、ダルディエ家の兄妹はバラバラとなりつつあるが、ミリィはそれに対し口出しをしてこない。兄たちもミリィと別れる時は会って挨拶しているが、誰も何かを言われていない。一番危険そうなシオンさえも。

 だから大丈夫なのだ。これから何かがあったとしても、俺たちミリィの兄が死ぬようなことはない。危険はあったとしても、自分で対処できる危険しか起こりえないということだ。それが分かっているだけでも、気は楽だ。ミリィの家族に対する危機察知能力は今でも現役だ。あれがミリィ本人にだけは効かないのだけが悩ましいが、ミリィは俺たちが守れば済む話だ。

 そのミリィを一時的にでもアカリエル公爵家に預けなければならないのは辛いところだが、帝都のアカリエル邸は夫人と娘のオーロラを守るために、アカリエル公爵が警備を最高まで高めている。天恵を持つ人物による警備、影、そして護衛の三重の警備だ。シオンもアカリエル邸なら任せても大丈夫だと言っていた。ジュードが戻ってくるまでミリィに我慢させることはしのびないが、少しの間我慢してもらうしかない。

 早く俺たちも任務を済ませて帰ろう。外見が騎士に見えないよう外套をまとい、バルトと数名の騎士たちと共にバチスタ領を目指すのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。