七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 173話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 173話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」173話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 173話

 テイラー学園には学習室と呼ばれる自由に使える個室がある。貴族の子女が使うだけあって、まあまあの広さがあり、お茶会ができる道具も揃っているのだ。講義が入っていない時は私はこの部屋で卒業試験の勉強をすることがある。今日も学習室でアナンとカナンと共に勉強していたのだが、少し休憩をしようと立って窓際に寄った時だった。見知った顔を階下に見つけ、窓を開けて声をかける。

「ルーカス!」
「ミリィ! 勉強中?」
「そうなの、でも少し休憩。よかったら一緒にお茶はいかが?」
「いいね、すぐ行く!」

 ルーカスの近くにいた男子は呼びません、ごめん。ルーカスは気楽に話せるけれど、他の男子のいろんな意味を含めた視線がね、落ち着かないのだ。

 カナンがお茶と持ってきたお菓子の準備をしていると、ルーカスが入室してきた。

「ルーカス、次の講義は?」
「あるよ。けれどまだ時間はある」

 テイラー学園の講義と講義の合間の休み時間は長い。四十五分ほどはある。なので最大でも講義は一日に四講義しかない。昼休みはもっと長いし、せかせかと動くことがないのだ。たまに講義が伸びる時なんかは、少し移動に急ぐことはあるが、走ったりすることは厳禁なので、どんなに急いでも歩かなくてはならないというジレンマはある。

 ルーカスとお茶を楽しみながら、私はある企みを植え付けるためにルーカスに切り出した。

「ルーカスはまだ決まった女性はいないのよね?」
「うん。あ、お前自分が皇太子殿下と決まりかけているから、そういう話ふるのか?」
「ち、違うわ。それにカイルお兄さまの話は……、もう! 言えないの、そっちに話を持っていかないで!」

 危ない、色々と話をしてしまいそうになる。

「分かった分かった。んで? 俺に決まった相手がいないからどうしたよ?」
「あのね、ルーカスの嫌いな家目当ての女性じゃなくて、ルーカスに似合うな! と思う人がいるの」
「へぇ? 誰?」
「モニカ!」
「……えぇ? モニカは駄目だろう。ミリィ以外どうでもいいって思っているのが伝わるけれど」
「でも最近ルーカスも会話するようになったじゃない? ルーカスの家目当てもないし、背の高いルーカスともお似合いだし、ルーカスもかっこいいでしょ。美女のモニカとお似合いだわ」

 二人が並んで立つ姿を想像すると、それだけで楽しくなる。

「俺の家目当てはないのは分かるけれど、その前に俺にも興味ないでしょ」
「それはねぇ、これからルーカスが頑張るのよ」
「俺が頑張るのかよ」
「よく考えて? ルーカス以外の男子でモニカと話しているの、見たことある? ないでしょ? モニカは今はルーカスのことを意識していないかもしれないけれど、ルーカスが頑張れば意識しだすと思うのよね!」
「そうかあ?」
「そうよ! それとも、ルーカスはモニカが嫌い?」
「いや、嫌いではないけれど、好きとか嫌いとかそういう意識したことない」
「じゃあ今してくれる?」
「お前強引だなぁ」

 だって、モニカに行動を起こさせるのは無理である。ここはルーカスにかかっているのだ。

「モニカっていつもツンとしているでしょ、でも笑ったら可愛いと思わない?」
「うん、まあ可愛いよ。綺麗だしな。でも笑うのはミリィにだけだよね」
「そりゃあ今はね。でもルーカス次第よ。あの笑顔がルーカスに向くの、見たくない?」
「……まあね、俺には冷たい目しか向けないけれど」
「だから、それは今だけよ。ルーカス次第なの! 本当にモニカ可愛いのよ。時々一緒に寝るのだけれど、寝起きとか子供みたいにミリィにくっついてきて甘えてくるの。可愛すぎるわよ、想像してみて?」
「……いや、想像したら駄目じゃない!?」
「駄目じゃないわよ、もう想像したでしょ?」
「した! したけれど、いや、可愛いけれどね? そういうの、想像したらいけないような気が」

 でも想像したのよね、少し顔が赤いですよ。ルーカスはそういうところ、可愛いと思う。

「モニカの胸とか枕にするといい感じよ」
「おまっ、枕にするなよ! というか、想像するから言うの止めろ!」
「モニカったら頬にキスするとすごく喜ぶの。照れて可愛いわよ」
「うん、わかった、もういいから、言うの止めて。お願い」

 何をどこまで想像したのか。顔を赤くして、暑いのか顔を仰いでいる。うーん、ルーカスも可愛い。

「少しはモニカが気になった?」
「……」
「モニカは近寄りがたいけれど、男性に人気があるのは知っているわよね?」
「お前、俺たちをくっつけたいのか、そうでないのか」
「躊躇していると、すぐに他に取られちゃうわよって話をしているの! ミリィはルーカスを一番に応援しているからね! もし一緒にお茶とか出かけるとかなら、協力もするわ。心強いでしょう?」
「……そうだね」

 はああ、とため息をつくルーカスだったけれど、次に聞こえた声に私たちは驚いた。

「何が心強いの?」
「モ、モニカ!」

 部屋の扉の前で首を傾げたモニカは私の後ろまで歩いてくると、後ろから私を抱きしめた。モニカさん、胸があたってます。いつもだけれど。もちろんエグゼはモニカの後ろに付いている。

「ミリィ、待たせて悪かったわね。勉強は進んだ?」
「う、うん」
「俺、もう行くわ」

 ゆらっとルーカスは立ち上がると、ふらふらと入口へ向かっている。

「ルーカス、頑張ってね!」

 ルーカスは一度立ち止まると、こちらを振り向きもせず一言だけ発した。

「おー」

 うん、頑張る気はあるようである。

「何なの?」
「なんでもないわ。それよりモニカもお菓子はいかが?」
「いただくわ」

 そうしてお茶を楽しむのだった。

 その日の帰り。今日はモニカもうちで勉強しようということになり、一緒に馬車で帰宅していた。馬車の中には、私とカナン、モニカとエグゼの四人。会話を楽しんでいたところ、馬車の横で馬に乗って護衛していたアナンが近づく。そして四度窓を叩くと、また馬車から離れた。

「なに?」

 不思議そうにしたモニカに、カナンが答える。

「尾行のようです」

 アナンとは何かあった時のために、合図をいくつか決めてある。四度窓を叩くのは私たちをつけている者がいる、という合図だった。

 珍しいことではない。これまでも何度か尾行されたことはある。だから、そういう行為がある、ということさえこちらが認識しているだけでいい。もしこの後何かあっても、心構えがあるのとないのは大違いなのだ。

 尾行の場合、たいてい家まで尾行されて終わりだ。その後、何かしらの行動が起きたとしても、とりあえず、今、何もない事が一番大事なのだ。尾行する相手を捕まえられるならそれがいいが、まずは護衛される側の私が何事もないこと、それが第一優先なのである。だからアナン以外の護衛も尾行されていることは分かっていても、素知らぬ顔で普段通りの護衛をするだけである。

 それから家までは四人とも話さなくなったが、無事、ダルディエ邸に付いた。私たちが家に着いた後、護衛が尾行の相手を追ったけれど、やはり犯人は分からなかったそうだ。

 こういうことはよくある。だから気にしないようにしている。私とモニカは予定どおり、卒業試験の勉強をして過ごすのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。