七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 172話 アルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 172話 アルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」172話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 172話 アルト視点

「すみません、遅れました」
「今帰ってきたのだろう。もう少し休憩してからでもいいよ」
「いいえ、大丈夫です。あ、軽食取りながらでもいいですか」
「もちろん」

 急いで入室してきたエメルに、ディアルドが答える。
 今から行われるのは、兄会議。時々行われるのだ。エメル以外は先に入室して、ワインを片手に談笑していたところだ。俺も二杯目のワインを口にしていた。

「そういえば、今日のミリィの担当はどなたですか?」
「今日はモニカ皇女が来られている。二人で寝るそうだ」
「そうですか」

 もう誰もモニカがミリィを殺すなどとは思っていない。俺たち兄とは違った風にミリィを愛でているが、まあそこはミリィとは同性であるし、大目に見ている。

「では急いで話さなくてもよさそうですね。今日の最初の議題はなんでしょうか?」

 エメルが軽食をパクつきながら話す。軽食といっても、一口に切りそろえられた数種類の果物なのだが、まさかあれが夕食だろうか。少しエメルが心配になるが、意識を前に向ける。

 最初の議題はザクラシア王から聞いたミリィを狙うウィル・ウェレ・ザクラシア、メレソォ公爵と名乗る男のことだった。情報が少なすぎるので、現在ザクラシア王国に影を潜入させたところだ。ミリィに子供を産ませたいとか、頭にくる理由でミリィを狙っているというが、どんな行動を起こすか分からない。単純な結婚の申し込みだけなら解決は容易いが、ミリィの意思を無視して強引にミリィを確保しようとする可能性がある。カイルからの求婚もあり、現在ミリィには護衛を増やしているところである。

 影からはまだ情報は上がってきていない。しかしシオンがまた少し違う情報を話し出した。先日、シオンとミリィはザクラシア王に会っている。その際に、シオンはザクラシア王側にいた聖職者に接触されたという。その時は詳しい話を聞けなかったが、最近その聖職者がまたシオンに接触を図ってきた。

 その聖職者が言うには、今のザクラシア王は王としてふさわしくない。それよりシオンの方が神瞳を持っており、王としてふさわしいため、ザクラシア王を討ってほしいという。ザクラシア王国内は決して一枚岩ではないのだ。母上の弟シャイロは元は聖職者である。今でも聖職者たちに影響は絶大だとは聞くが、シオンをそそのかそうとする聖職者を見る限り、内部は争いをはらんでいるのが見え隠れする。また、王位継承権を持つメレソォ公爵でもなく、わざわざシオンへ接触を図るのも何か裏があるはずである。

 またその聖職者はこうも言っていたらしい。今のザクラシア王はもって数年の命だろうと。先日の舞踏会では気づかなかったが、体調が良くないという。そのあたりは、ありえなくもない話だ。ミリィが誘拐された頃、彼は毒をくらっていた。今まで生きながらえたとはいえ、体が本回復し健康体でいるとは思えない。体調が良くないというのが本当なら、必死にその事実を隠しているのだろう。

 シオンは今のところ、その聖職者の言うようにザクラシア王を討つようなことはしないだろう。そもそもザクラシア自体に興味がない。

 どちらにしても、ザクラシア王国の件は、今のところ打つ手は打っている。もうすぐザクラシア王は帰国するというし、いったんは影の報告待ちをする、ということでこの議題は終わった。

 次の議題はウェリーナ・ル・バチスタの件だった。
 以前、俺とバルトでウェリーナ嬢とルビー嬢とお茶をした時、ウェリーナ嬢の反応が気になっていたのである。ウェリーナ嬢の父は南公、バチスタ公爵であるが、あの時ウェリーナ嬢は「父はミリィばかりを目にかけている」と言っていた。南公とミリィは会ったことがない。なのに、どう目にかけているというのか。

 南公は俺の知る限り、女と金が好きな男だ。それ以外の情報を知るために、南公のことを調べた。南公の子供はウェリーナ嬢より十四才年上の息子と十一才年上の息子、そしてウェリーナ嬢の三人。ウェリーナ嬢だけ正妻の子で兄二人は庶子だ。兄たちの母は、高級娼婦だか、正妻の侍女だかだったらしい。正妻を母に持つウェリーナ嬢には同腹の兄がいたらしいが、小さいころ病気で亡くなったという。その正妻も亡くなっている。

 南公は女と金が好きで、いまだ女遊びと贅沢をする生活。そしてその血を濃く引いているのか、庶子の兄二人も女と金好きで遊び歩いているという。本来であれば南部騎士団の団長をしている南公であるが、騎士団にはほとんど顔を出さず、団長の代わりに騎士団を率いているのは、副団長のトリットリア侯爵、つまり、ウェリーナ嬢とよく一緒にいるルビー・ル・トリットリアの父である。

 庶子の兄たちも騎士団に席はあるらしいが、これまたほとんど顔を出さない。南部騎士団が崩壊しないのはトリットリア侯爵のお陰であろう。ウェリーナ嬢はそんな家族構成の中で暮らし、父や兄たちとも良好な関係とは言えないようだった。

 ただウェリーナ嬢の言うミリィが南公に目を掛けられている、という話がどこからも得られない。南公も社交界シーズンになると帝都にいることがあるが、そのどこかでミリィを見かけでもしたのか。ミリィ自身は南公とは会ったことがないと言っているし、接点が分からないのだ。

 そこで、ルビー・ル・トリットリアにバルトが接触することにした。ルビー嬢はバルトに気があるようだし、ウェリーナ嬢がうちの妹に危害を加えたりしないか心配だと告げると、ルビー嬢は戸惑いながらも話をしてくれたという。

 ウェリーナ嬢は小さいころから南公や兄たち、それに正妻とも仲が良くなかった。父や兄たちはウェリーナ嬢に興味がなく、正妻である母はウェリーナ嬢の同腹の兄にしか興味がなかった。その同腹の兄が亡くなってからも、母はウェリーナ嬢に興味を示さなかった。いつも両親の愛に飢えていたウェリーナ嬢を見ていたので、ルビー嬢は一緒にいれる時は側にいて過ごしたという。

 そのウェリーナ嬢も、時がたつにつれ、父からの愛は諦めたようにみえた。それよりも未来を見据え、バチスタ公爵令嬢である自分の夫は皇族こそ相応しいと、皇太子の婚約者になるために自分を磨いていたという。ところが、テイラー学園の最終学年である六年生になったとき、五年生にミリィが出席してきた。そこで初めてミリィを見たウェリーナ嬢は、急に人が変わったようにミリィを恨みだしたという。

 その頃から父はミリィに目をかけているとか、恨み言をルビー嬢にも言い始めた。ルビー嬢もそれには首を傾げたそうだ。南公はそもそも子供が好きな人間ではなく、女遊びも南公の同年代くらいの女性ばかりで、ミリィは南公の女遊びの範囲に含まれないだろうというのだ。ますます分からなくなった。どうしてウェリーナ嬢はそんな勘違いをしているのか。

 その話をしている時、考え込んだ様子のシオンが口を開いた。

「ミリィはモニカを始めて見た時、見てすぐモニカがウィタノスだと分かった。それに似ていないか?」

 つまり、ウェリーナ嬢はミリィを始めて見た時に神カルフィノスだと気づいたというのか。そうなると、それが分かったというなら、ウェリーナ嬢は神だということになる。それはおかしい。ミリィもモニカもウェリーナ嬢とは面識があるが、彼女が神だとは一言も言っていない。

 何だろう、おかしい話だとは思うが、引っかかるのは引っかかる。
 その件は、カルフィノスの時の記憶のないミリィではなく、ウィタノスであるモニカに話を聞くことにしよう、ということになった。

 ただウェリーナ嬢については、周りから探っても分からないことが多すぎる。一度接触してみようか。ウェリーナ嬢とは何度か舞踏会や夜会ですれ違ったことがある。ウェリーナ嬢はあの美貌のため、まわりの男がほっとかないのか、毎回違う男を連れていた。ただ俺を確認すると、俺の相手の女性を見ては嫉妬の色を浮かべる。皇太子を結婚相手と見定めているようだが、俺のことを気になっているのは見ていてすぐわかる。まあ、そんなところが可愛いといえば可愛いが。

 正直、こちらに本気になりそうな相手と接触するのは気が引けるが、そうも言っていられない。ウェリーナ嬢と交流を図るべく、計画を練ろうと思うのだった。

 そして次の議題はカイルのことである。
 あの忌々しい求婚事件。カイルの求婚は書面で取り交わしたわけではなく口上によるものなので、正式なものではない。だから求婚についてはいったん保留という状態だ。今はミリィに結婚について考えてもらう期間というところだ。カイルの求婚など早々に断ってしまいたい。しかしミリィはまずはカイルの気持ちを考えようとはしているようだった。

 ミリィにはまだカイルへの恋心はない。またミリィはカイルの思いを妹への愛であるはずだと勘違いしているようだった。ただどこでどう間違ってミリィがカイルに恋をするかは分からない。カイルにはダルディエ邸へ来るなと言ってある。あとはミリィさえカイルに会いに行かなければいいのだが、ミリィに無理に皇太子宮へ行くなとは言えない。言ったらミリィは変な勘繰りをしだすし、あの兄大好き妹に悲しい顔もさせたくない。もしミリィがカイルに会いに行った場合はエメルが見張るしかないのだが。

「ミリィは先日皇太子宮へ来ましたよ」

 聞いてない。俺たち全員の視線を浴び、エメルは両手を上げた。

「ちゃんと見張ってましたから。ミリィはいつも通りでしたよ」
「カイルさまは?」
「カイルさまもいつも通りです」

 なるほど、いつもどおりミリィにべたべたしていたのか。イラッとする。エメルはずっとカイルといるだけあって、兄たちよりもカイルを優先することもある。この言葉を全て信じていいのか。

 カイルの思いに気づいた後、カイルには皇太子狙いの令嬢を幾人も送ったのだが、誰もカイルの傍に寄れたものはいない。ミリィが可愛いのは分かるが、他の令嬢でもいいと思う。というか、他の令嬢へ行ってくれ。

 先日のミリィの「口にキスして」というお願い。あれもカイルの気持ちを考えようとした結果の迷走だと思うが、あんなの、兄でもない男が聞いたら、それはすぐにころっといくに違いない。面白いから兄たちに試してみたらとは言ったが、あれをカイルにしないよう、ミリィにそういえば言い含めるのを忘れていた気がする。とそんなことを考えていた時、ちょうどこの話になった。ジュードがこちらを睨んでいる。

「そういえば、アルト、バルト、またミリィに変なことを吹き込んだな?」
「どれのことです?」
「どれって、いくつ吹き込んでいるんだ! ミリィはすぐに本気にするんだぞ。俺たちと口にキスしてって、言うように言ったな?」
「いやいや、吹き込んではいない。俺たちが先に言われたんだよ。俺たちはキスできないけれど、他の兄上たちはどうだろうね? みたいな話をしただけで」
「一緒だろう!」

 おっと、クッションが飛んできた。もちろん避けたが、すぐに避けた側に飛んできたクッションは食らう羽目になった。ジュードは美女面しているくせに、行動は過激である。

「あんなこと、ミリィがカイルさまに言ったらどうするんだ!」
「ええ? それは困るな、明日言い含めておきますよ。エメル、まだミリィはそんなことカイルさまに言っていないよね?」
「……」
「……もう言っちゃった?」
「言っちゃいましたねぇ」
「な!」

 それはしまったな。ジュードはわなわなと震えているし、ディアルドは頭が痛そうに手で押さえている。シオンの眉間にはシワが寄り、うん、俺もこれはまずいと思った。

「アルト、バルト、お前たちのせいだぞ!」
「エ、エメル? それでカイルさまはどうしたの? 口にキスしたのかな?」
「していませんよ。頬にはしていましたけれど。それはいつものことですよね」

 まあ、頬ならいいか。いつものことだ。腹は立つけれど、口よりマシだ。

「よかったですね、ジュード兄上。ミリィの唇はまだ死守です」
「よかったですね、じゃない! いいか、お前たちはいつもいつも」

 ああ、ジュードのお説教が始まった。これは逃げられない。バルトとやれやれと顔を見合わせながら、ジュードの怒りが過ぎ去るのを待つしかないのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。