七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 171話 エメル視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 171話 エメル視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」171話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 171話 エメル視点

 一般的には休日となる今日。カイルさまは相変わらず忙しく、エメルも仕事をしていた。

「なんだ、これは。こんな中途半端な書類で決裁などできるわけなかろう。差し戻せ」

 そのカイルさまは自身の椅子には座らず、机に体重を預けるように少し尻を乗せ、次々と書類をチェックしていた。

「イライラしてますね」

 ソロソがこっそりと耳打ちしてくる。確かにカイルさまはイラついている。原因は分かっていた。ミリィに会えないからである。

 あの求婚騒ぎの後、兄たちが全員怒り、カイルさまはダルディエ邸へしばらく出禁の通達を受けたのだ。兄たちに言われれば、他家のカイルさまはいくら皇太子といえど逆らうわけにはいかない。兄たちのことだから、ミリィに皇太子宮へ行くことは禁止していないだろうが、エメルがミリィに皇太子宮へ行くよう伝えるのは駄目だと兄たちに固く誓わせられている。

 兄たちの気持ちもわかるが、そろそろカイルさまが限界な気がしている。帝都とダルディエ領で物理的に距離が離れているならまだしも、同じ帝都で近くにいるにも関わらず会えないのである。会える距離で会えないのは辛いだろう。おかげで、毎日ミリィに会えているエメルへの風当りが強い。時々エメルを睨んでは、口には出さないが、エメルはミリィに会えてずるい、という気持ちは伝わるのだ。エメルにはどうしようもなく、ため息しかでない。

 そんな時、待望のミリィの到着の知らせが届いた。執務室の扉が開くと、ミリィが満面の笑みでカイルさまに突進していく。カイルさまはというと、ミリィに思いを伝えてから始めて会ったからか、少し戸惑いがあるのか自分からミリィには行かない。しかし、ミリィの突進を抱きとめると、それは嬉しそうに顔がほころんだ。

「カイルお兄さま、会いたかったわ! 最近夜来れないのね? 忙しいのでしょう。ちゃんと睡眠取っているの?」

 ミリィは知らないけれど、カイルさまはダルディエ邸を出禁になっている。

「うん、睡眠はとっているよ。ミリィに会いたくてたまらなかった」

 カイルさまがいつものように頬にキスをすると、ミリィは嬉しそうに笑うのだ。そんなミリィを愛しそうにカイルさまは眺める。

「カイルお兄さま、休憩も大事よ。お菓子を持ってきたの、お茶にしましょう?」
「そうだね」
「あ! その前にね、カイルお兄さまにお願いがあるのだけれど、いいかしら?」
「うん、いいよ」

 ミリィの言葉にぴくっとエメルは反応した。もしかして、あれをするつもりだろうか。先日エメルがミリィにされたあれである。

 先日の夜を思い出す。あれはミリィの添い寝の日、お風呂に入ってからくつろいでいる時だった。他愛もない話をしている最中。

「そういえばね、エメルにお願いがあるの。いいかしら?」
「いいですよ、どうしました?」
「ミリィの口にキスして欲しいの」
「……口にですか?」
「うん」

 にこにこと笑うミリィをたっぷり三十を数えるくらい見た後、やっと答えを口にした。さすがに口にキスするのはどうだろうか。

「ミリィ、口にするのは止めましょう。私は兄ですし、頬にキスでは駄目ですか?」
「……やっぱりエメルも駄目なのね」
「やっぱり?」
「お兄さまたち、みんな口は駄目だっていうの」

 それはそうだろう。エメルが変だと思ったのは間違いではなかった。

「ディアルドとジュードはね、アルトとバルト、どっちに吹き込まれたんだって言うの。吹き込まれたわけじゃないのだけれど、確かに二人とそういう話をしてね。何で分かったのかしら?」

 それは長年の兄の経験からでしょう。

「シオンは、なんだ寂しいのかってぎゅうぎゅうに抱きしめてくれるだけだし。嬉しいけれど」

 うん、想像つきますね。

「アルトもバルトもエメルも口にキスしてくれなかった。バルトがね、兄は口にはしないものだって言うの」
「その通りですよ」
「そうなのね」

 その後も納得いくような、いかないような表情をしていた。これはたぶんカイルさまの求婚で、妹と異性の違いにでも考え込んでいるのだろう、ということは想像つく。考えるのは大いに結構ではあるが。

 エメルは現実に引き戻された。やはりミリィはエメルに言ったことと同じことをカイルさまに言うのである。

「ミリィの口にキスして欲しいの」

 ガシャガシャ。音を立てたのはソロソである。

「……口に?」
「うん」

 さすがに戸惑いの表情をするカイルさまと、にこにこと笑っているミリィの温度差がすごい。

「……いいの?」
「いいわよ」

(ミリィ、今の許可を求める言葉は、私に言ったんですよ)

 こちらを見ているカイルさまに、もう頷くしかない。ミリィから言い出したことである。これを止めろとは、兄たちには言われていない。

 身長差のあるカイルさまとミリィだが、カイルさまが机にわずかに座っており、今はそこまで顔から顔の距離がない。

 そこからはやけにゆっくりの動作にみえた。カイルさまが少し顔を傾け、その口がミリィの口へ近づく。カイルさまはエメルたち兄のように止めるようなことはしないだろう。あと数センチにまで近づいた時、ミリィの指が口と口の間に挟まった。

「えっと……少し待ってね?」

 かあっと顔を赤くしたミリィは、カイルさまと目を合わせようとせず少しだけ横を向いた。目をぱちぱちと動かし、動揺を落ち着かせようとしているように見える。

「きゅ、急に恥ずかしくなったの。少し待ってね?」
「……うん、待っているよ」

 それはミリィがカイルさまを兄ではなく異性だと意識した瞬間だったと思う。ただミリィ本人はそれに気づいていないようで、何で恥ずかしがっているんだ自分は、とでも言いたげな表情で混乱しているようだ。
 カイルさまといえば、そんなミリィの変化を敏感に感じたのだろう、恥ずかしがるミリィを嬉しそうに愛しそうに、そしてその可愛いミリィを一瞬でも見逃さぬようにじーと見ている。

 ミリィは頬を手で押さえ、大きく何度か深呼吸をすると、意を決したようにカイルさまに向き合った。

「うん、もう大丈夫! さ、カイルお兄さま、どうぞ」
「いいんだね?」
「いいわ!」

 カイルさまは笑み崩れると、また口をミリィに近づける。そしてゆっくりと近づく口は、やはりミリィの指に阻まれるのだ。

「やっぱり恥ずかしい……どうして?」
「どうしてだろうね? ああ、もう、ミリィがすごく可愛い」

 顔を赤らめるミリィは本当に可愛い。愛しさが溢れたのか、カイルさまはミリィの頬にキスの嵐である。恥ずかしがりながらも、カイルさまの頬のキスは大人しく受けるミリィは、自分の気持ちに混乱した表情だった。

「俺たち、何見せられてるんでしょうね?」

 ソロソがげっそりとした表情で横に立っている。

「あれで両想いではないとか、ないでしょう? ミリィも絶対カイルさまが好きですよね?」

 好きは好きである。今でもミリィは兄としてのカイルさまが大好きなのだ。けれど、今日をきっかけに、兄を愛する気持ちが違うものに変わる可能性は大いにある。

「あーあ、俺も好きな人が欲しくなったな」

 ソロソはぶつぶつ言いながら、お茶の準備を始める。
 エメルもすぐにお茶会の設置を開始するのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。