七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 168話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 168話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」168話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 168話

 求婚騒ぎのあった次の日から、私はテイラー学園を休んでいた。噂の的になることは分かっていたし、どう周りに反応を返せばいいのか分からないからだった。
 求婚騒ぎの次の日、テイラー学園からの帰宅途中にモニカとエグゼがわが家に寄った際に教えてくれた。

「すごいわよ、ミリィの話で持ちきり。一日に三人の王族から求婚されたとか、皇太子の大本命はミリィだったのかとか」
「やっぱり……」
「一番の問題はルーカスだわ! 同伴だったくせにミリィから離れるなんて! そのせいでミリィに男どもが群がっちゃったじゃない!」
「そういえば、ルーカス置いて帰っちゃったな。大丈夫だったかしら」
「知らないわよ、あんな奴! この恨み、どうしてくれよう!」

 そんなにルーカスを恨まないでほしい。これからモニカとくっつけよう作戦が破たんしてしまう。無理やり話を変えよう。

「それでね、一度ザクラシア王と話の場を設けてもらう予定なのだけれど、その際にモニカも一緒に来てほしいの」
「あら、ザクラシア王をぶった切ればいいのね!」
「違う違う。ザクラシア王と会ってほしいのではなくて、一緒にいるシャイロさまと会ってほしいの。ママの弟なんだけれど、今はザクラシア王の補佐をしているわ」
「……補佐と会う必要ある? ああ、ミリィに今後一切求婚なんてしないよう、ザクラシア王に首輪を付けてちゃんと見張っておけと言えばいいのね!」
「一度求婚から離れてくれないかしら。そうじゃないの、昔シャイロさまと会った時のことを思いだしてね」

 シャイロについては、変なことを言われた経験しかないのだけれど。

「あの時はモニカとまだ会っていなかったから、カルフィノスが神だとは知らなかったでしょう? でもシャイロさまはミリィに会うたびに、ミリィが神だとか、ミリィの兄弟が酒を飲もうと伝えろと言っていたとか、変なことばかり言っていたの。シャイロさまは今は国王の補佐だとしても、元々は聖職者だから。モニカのことも何か気づくかしらって……確かめたいな、と思うの」
「ふーん……兄弟が酒を飲もうねぇ。ザクラシア王国の神は誰なの?」
「女神ザクラシアよ」
「ザクラシア……ザクラシアね。ふーん……」

 なんだろう、モニカの目がきらりと光った気がする。

「いいわ、一緒に行ってあげる」
「ありがとう、モニカ!」

 そんな感じでモニカとは話が付いている。そして今日、これからザクラシア王と会うために、皇宮のザクラシア王が滞在している宮殿へやってきた。シオンと複数の護衛を連れているが、ザクラシア王と会う部屋には、私とシオンだけしか入室できない。それは最初から分かっていることだった。

 私たちが通された部屋には、長方形の丸みをおびたテーブルと椅子が四脚用意されていた。私はシオンと椅子に座って待っていると、ザクラシア王とシャイロ、そして何人かの高官、また聖職者も数名やってきた。私たちは席を立つと、一礼する。

「わたくしの訪問をお受けいただき、ありがとうございます」
「いや、願ってもない申し出だったのはこちらの方だ」

 それからザクラシア王は高官と聖職者を紹介する。聖職者の内、一人がやけに熱心にシオンを見ている。それはシオンも気づいているはずだが、シオンは顔色変えることなく前を向くばかりだ。
 そして高官と聖職者が立ち去り、部屋の中には私とシオン、ザクラシア王とシャイロの四名となった。

「改めまして、ザクラシア王。この度訪問しましたのは、先日の求婚の件ですわ」
「うん。ただその前に。この場では昔のように呼んでほしいのだけれど。ルカ」
「……ですが」
「いいんだ、ここにはシャイロしかいないし」
「……では、ヴィラル」
「うん」

 ヴィラルはにこっと笑う。本当に年月とはすごい。私は自分が変わった気はしないけれど、ヴィラルは大人になったと思う。

「それとこれ以降は可能であれば、ザクラシア語を使いたいのだけれど」

 ヴィラルはちらっとシオンを見る。自動翻訳機の付いている私とは違い、シオンは話せないはずだ。

「それはちょっと……」
「ザクラシア語で構わない」

 急にザクラシア語で話をしたシオンに驚いて横を向く。

「話せるの?」
「ああ」

(どうして? いつ勉強したの?)
(ミリィがザクラシアに誘拐された後。また同じことがあったら困るだろう)

 あの勉強嫌いなシオンが勉強とは。学校のテストさえ天恵を使ってまともに受けていないはずだ。なんだろう、私のためにそこまでしてくれるシオンに心臓が鷲づかみされたような感覚になる。

(今すごくシオンにキスしたい!)
(帰ってからな)
(抱きしめたい!)
(帰ってからな)

 うん、冷静なシオンにもきゅんとくる。もし私に尻尾があるなら、ぶんぶん振っていただろう。

「ルカ?」

 少しの間無言になった私に対し、ヴィラルが不思議そうな表情をする。

「あ、ごめんなさい。……では、ヴィラル。あの時の求婚は本気ですの?」
「もちろん本気だよ。あの時は先走ってしまったけれどね、結婚の申し込みの書状はすでに用意してある」

 やはり本気なのか。困るな。
 でも求婚理由は何なのだろう。さすがに久しぶりに会うヴィラルが、恋愛感情で私に求婚しているわけではないことくらいは分かる。

「どうしてわたくしなのかしら。神髪神瞳だから? 以前会った時にもヴィラルには求婚されたわ。けれど家族から離れたくないから断ったと思うの。今でもその気持ちは変わらないわ」
「確かに、あの時は断られた。けれど子供だったからでしょう。ルカには第一王妃の地位を約束する。ルカとの子は次期王となるだろう。悪い話ではないと思うのだけれど」

 うん、根本からヴィラルは間違っている。第一王妃の地位や子供が次期王になるのを約束されても、それは私が欲しいものではない。私の結婚第一条件は両親や兄たちから離れないことだ。少なくともグラルスティール帝国内でないといけない。それを伝えているのだけれど。

「……どうして今だったのかしら」
「うん?」
「どうして求婚が今の時期なの? 先日聞いたでしょう。我が国の皇太子とわたくしに婚約話があることを。わたくしに対して本気なら、もっと早く求婚をするべきだったのではないかしら。他の男性から申し込まれる前に」

 私は貴族だ。一桁の年齢から婚約者がいたとしてもおかしい話ではない。私は今十八才である。貴族の令嬢としては結婚適齢期のど真ん中。つまり一番婚約の申し込みが多い年齢なのだ。たまたま私は婚約者がいないが、いてもおかしくないのである。私に本気で結婚を迫るなら、一度断られたとしても、もっと今より早く求婚するべきだった。
 うん、それだ、もやもやしていたのは。ただ単純な求婚だとは思えなかったのはそれだ。

「ヴィラルと我が国の皇太子を比べたりするのは不敬だと思います。けれど言わせていただくわ。わたくしの立場ならば、同じ王族であればヴィラルより我が国の皇太子を選ぶのが普通ではなくて? ヴィラルの妻、それがたとえ第一王妃だったとしても」
「……ルカの言いたいことは分かる。ああ、不敬だとは思っていないから、そこは気にする必要はない。確かにルカに求婚するには遅すぎたね。ただ我々も皇太子がルカに求婚しているとは知らなかった。もし他の相手ならば、私を選んでくれると思っていたのだけれど」

 実際にはカイルとは婚約してませんけれどね。それは口にしません。

「……隠していてもルカのところにはフローリアさまがいる。いづれは気づかれてしまうだろうね。だから言うよ」

 ヴィラルはちらっとシャイロを見るが、シャイロは何も口にしない。

「温度が下がっているんだ。ザクラシア王国全体でね。ここ十年で約五度。それが何を意味するかは、ルカもザクラシアにいるときに学んだのではないかな」
「恩恵の話? 王の資質が問われるという」
「そう。私にはその資質がないようでね。ここ数年は民たちも気づき始めている。私は暗君だと言われているよ」
「……」

 恩恵が安定していれば明君、安定していなければ暗君と揶揄されるのだと、確か、ザクラシアで学んだ時にそう聞いた。民から見れば、ザクラシアの温度の低下は、王の資質を図る上で分かりやすい目安になるのだろう。

「うん、まあそれは本当のことだから仕方ないのだけれど。ただ温度は死活問題だからね。このペースでいけば、あと十年で五度は下がる。温度は我が国の農業にも多いに影響がある。だからさらに下がれば、民は飢え出す。私には民を守る義務がある。少しでも恩恵の弱まりを止められるなら……そこでルカ、君だよ。神髪神瞳の君が私の妻になれば、少しは止められる」
「わたくしがどうして止められるの?」
「ザクラシアでは結婚すると妻は神の祝福を受ける。王家の婚姻とはそれが恩恵にまで影響するものなんだ」

 こう聞くと、ザクラシア王国の王家と神は密接に関係しているのが分かる。民にまで影響すると言われて、何かが重く心に伸し掛かる気がして手をぎゅっと握った。そしてなるほどと思った。だから求婚がこのタイミングになったのだと。恩恵が安定していない今、神髪神瞳の私と結婚すれば、神の祝福を受け、そして恩恵の弱まりを少しは止めることができるから。

「それに私には王子がいない。子は女の子でね。早く次の王を作らなくてはならない」

 次の王を作る。それがまた心にずしりと伸し掛かる。

「知ったことではない」

 急にシオンが口を開いた。

「神の恩恵? 温度? 次期王? それがミリィに何の関係がある。ザクラシア王国の温度が下がろうが、滅びろうが、ミリィや俺たちには関係ない。自分たちの不甲斐なさを俺の妹に押し付けるな」
「……シオン」
「次期王がなんだ、本気でそれを求めているなら、シャイロ、お前が次期王になればいいだろう。神瞳でなくとも神髪を持つお前なら、その恩恵とやらの低下を止められるのではないのか」

 シャイロがわずかに表情を歪めた。

「ああ、母上に聞いている。王家にはいたくないのだったな。王にはなりたくないか。そう思うのに、俺の妹には押し付ける気なのか」
「……痛いところ、つきますね」

 シャイロは苦笑して呟く。ヴィラルも困った表情をした。

「それは私も何度もシャイロに言っているのだけれどね。私は私の子供が次期王でなくてもいい。ルカ、もし君との子が出来たなら神髪や神瞳の子を見込むこともできるだろうけれど、他の女性とでは難しいだろう。しかしシャイロは自身が神髪を持っているし、相手の女性が神髪神瞳でなくとも子供が神髪神瞳を持つ可能性はある」
「私は……それを望んでいません」
「と、シャイロは言い続けるのだからね。私がどうにかするしかないのだよ」

 困った人だ、とヴィラルはシャイロに目線を向ける。これではどちらが年上だか分からない。

「なんだか変ね? 神髪神瞳で生まれる王族はかなり少ないのでしょう。今までに神髪神瞳が一人もいない世はなかったの?」
「あるよ。そういう世ではたいてい国は乱れている。ただ突然変異のように、ある時王族の中に神髪や神瞳を持つ子が生まれるんだ。親がどちらも持っていなくてもね。こればかりは運となってしまうけれど」

 なるほど。そういうことなのか。それにしても、王家の後継者問題はいつの世も悩ましいものだと思わざるを得ない。

「だったら、そういう子を待つのだな。シャイロは次期王となるのは嫌で、うちもミリィをそちらに嫁に出す気はない。待つしかないだろう」

 ああ、今日一人で来なくて本当によかった。一人で来ていたら、ヴィラルたちに諭され王妃となることに頷いていたかもしれない。民にも影響するなどと言われて、それをすぐにあしらえるほど心が強くない。自らヴィラルと話したいとわがまま言ったくせに、それで気持ちが沈むなんて。シオンが頼もしい。

「それと結婚の申し込みの書状も不要だ。断るのはもう分かっただろう。何度もらっても断りの返答をするだけだからな」

 ヴィラルは苦笑し頷いた。

「分かった。もう結婚の申し込みはしないよ」

 ほっと小さく息をついた。しかし、その後ヴィラルが続けた言葉に驚愕する。

「あんな公の場で求婚して噂になっていることは理解しているからね。それを反省して、一つ情報をあげる。今回私がルカを諦めても、他にルカを狙っている人物がいる。ああ、私たちじゃないよ、私たちが今後ルカに接触することはないと約束する」
「ミリィを狙う人物?」
「今回私がここに来たのは、その情報を得たことも理由だった。今ザクラシア王族の男性で王位継承権を持つのはシャイロともう一人。ウィル・ウェレ・ザクラシア。メレソォ公爵を名乗っている。私の父、そして君たちの母の異母兄弟だよ。まだ三十才にはなっていないはずだけれど」
「……そいつがどうしてミリィを狙う?」
「正確な理由は分からない。ただルカを妻にして、ルカに男児を産んでもらいたいと思っているのだと思う」
「……自分が王になりたいからか」
「というより、メレソォ公爵が王になった場合の後のことを考えて動いているのだと思う。彼には男児の子がいないし、彼自身も神髪神瞳ではない。このままでは私のように王となっても暗君と言われることになるのを案じているのだと思う。シャイロは王位に興味がないと分かっているし、このまま私に男児が生まれないなら、彼はいずれは自分の手に玉座が舞い込んでくると思っているはずだから」
「……それで、わたくしに神髪神瞳を持つ男児を産ませたいと思っていると」
「私の憶測ではね。だから彼に狙われる前にルカが私の妻となれば、それを止められると思ったんだ」

 その憶測から考えられることは、私がもし男児を産んで、その子が神髪神瞳であれば、その子を王座に座らせ、恩恵が安定した後にメレソォ公爵が裏からいいように王を操ろうとでも思っているのだろうか。
 シオンからピリピリとした怒りを感じる。確かに私も、何で私が狙われるの! という気持ちでいっぱいだけれど。

 ただヴィラルも憶測以上は分からない、ということで、話はそれまでとなった。

「シャイロさま、この後のお話の方は」
「ああ、了解しているよ。また後程会いましょう」

 モニカを連れて行くことを前もって伝えてあるのだ。
 私とシオンはいったん部屋を出た。それからモニカとエグゼがすでに到着しているとのことで、彼らがいる部屋へ案内されるのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。