七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 167話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 167話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」167話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 167話

 舞踏会の会場から離れ、カイルに別室へ連れ出されると、後ろから次々と兄たちが入室してきた。兄たちは苛立たしげにカイルを睨んでいた。

「あれは、どういうことですか?」

 この雰囲気だと、私とカイルが婚約しているというのは、まだ兄たちさえ知らなかったということなのだろうか。当事者のはずなのに口を挟む雰囲気ではなく、ただ兄たちの険悪ムードをオロオロと見ているしかない。カイルが口を開こうとしたときに、パパとママも入室してきた。

「パパ!」

 カイルから離れパパに抱き着き、そして顔を上げた。

「パパ、どうして婚約しているって教えてくれなかったの?」
「婚約などしていない」
「……ん? でもさっきカイルお兄さまが」

 パパはちらっとカイルを確認し、それからディアルドとジュードに言った。

「ユフィーナとエレーネはすまないが席を外してくれ」

 その時はじめて気づいたが、双子は今日の同伴相手はこの部屋に入る前に置いてきたようだった。当然結婚もしていない相手だ、ダルディエ家の事情を聞かせるわけにはいかないからだろう。ただディアルドとジュードの妻は二人共入室していたが、二人はすぐに頷いて部屋を出て行ってくれた。

 部屋には小さい丸テーブルが二つ、その周りをソファーが複数ぐるりと囲んでいたが、そこに両親に挟まれて座る私、そして全員の兄たちとカイルがソファーに座った。エメルはいるが、ソロソも部屋の外に出てもらっている。

 その時には私も少し冷静になってきていた。パパも兄たちも知らないということは、私はカイルと婚約などしていないのだ。そう考えると見えてくるのは、ウェルドの王子とザクラシア王の突然の求婚から、カイルが助けてくれるつもりで、カイルまで婚約していると言い出したのではないかということである。

「もしかしてカイルお兄さまは、ミリィを助けてくれたのね? ウェルドの王子とザクラシア王から」

 それなら納得できる。カイルはこの国の皇太子である。他国の王子と国王に対抗するにはうってつけではある。ディアルドが厳しい表情を崩さずに口を開く。

「ミリィ、これはそんな単純な話ではないんだよ。あの場を見ていた人がどれだけいたと思う? 今日中にはミリィがカイルさまの婚約者だと、あたかも事実のように広まるだろう」

 そうなのだ、それが問題なのである。たとえ事実でなくとも、カイルが口にしてしまえば、それは事実とほぼ同義なのだ。ジュードがディアルドの言葉を引き継ぐように口を開く。

「兄上の言うとおりです。あの場はいったん保留にして、ウェルドの王子とザクラシア王は後に断れば済む話です。カイルさまが入ったことで、事が大きくなってしまった」

 確かに、これはカイルにしては珍しい失態だろう。普段から瞬時に多くのことを考え、その場で一番正しい答えを導きだせる人だ。ただ、今回は私が関わっていることでシスコンが発動してつい間違った行動をしてしまったのだ。カイルも悪いとは思っているのだろう、わずかに気まずそうな表情をした。あまり責めるとカイルが可哀そうだと思う。

「もういいわ! 言ってしまったものは仕方ないもの! カイルお兄さまとのことは、もう少しほとぼりが冷めたら、婚約解消したと噂を流しましょう!」
「……ミリィ、それではミリィが嘲笑の対象になる」

 ディアルドが痛ましそうに顔を歪めた。

「婚約解消なんて、そこかしこにあふれているでしょう。でもみんな噂なんて数か月くらいじゃない」

 貴族同士が婚約し、解消した、という話は意外と多いのだ。五回婚約して四回解消して五回目で結婚した人もいるくらいである。

「それよりも、ウェルド王子は置いておいて、ザクラシア王の求婚って、あれ本気かしら? カイルお兄さまみたいに、ウェルド王子から助けてくれようとした、ということはない?」

 少し強引に話を変更する。カイルとはいつでも話ができる。ウェルド王子の求婚も冗談か本気か分からないので、また何かアクションがあるまでいったん保留でいいだろう。それより問題はザクラシア王だ。

「……あんな公の場でミリィを助ける方法が求婚というのはありえない。それだけザクラシア王が本気だととらえるべきだと思うよ」

 アルトがこれまた苛立たし気に言う。

「本気って……でもザクラシア王は子供がいるのでしょう? ザクラシア王家は一夫多妻制だとは聞いているけれど。奥さんと子供がいるって分かっているのに、ミリィが求婚に了承すると思うかしら」
「……今のザクラシア王には側室しかいないのですよ。ミリディアナちゃんを第一王妃に据えたいと言えば、こちらが考えてくれると思ったのでしょうね」

 今まで黙っていたママが私の手をぎゅっと握りしめた。

「王妃……」
「ザクラシアでは王妃と側室では権限がまったく違いますから。同じ子供でも王妃と側室の子では差があります。ましてやミリディアナちゃんは神髪神瞳ですもの。ミリディアナちゃんが将来生むかもしれない次期王に期待を寄せているのでしょう」

 そうだった、あの国の王は神髪神瞳が特に力を持つのだった。もしかして、親が神髪神瞳であれば、生まれてくる子も神髪神瞳となる確率が高かったりするのだろうか。ふむ、と考えながらママを見るとぎょっとした。ママがウルウルしている。え、泣くの?

「わたくしはミリディアナちゃんを渡したくありませんわ! 男性ならともかく、ミリディアナちゃんは女の子なのですよ! 女の子はどんな立場でも、ザクラシアでは力が弱いのです。意見などほとんど通りません。ミリディアナちゃんはわたくしの大事な娘です。ザクラシアはわたくしが生まれた国ですから大事ですけれど、例え王妃といえどそれでも苦労すると分かっているのにミリディアナちゃんを渡したくありませんわ!」

 珍しく怒りながらさめざめと泣くママって、こんな時なのに綺麗だと思う。パパはそんなママの涙をぬぐいながら口を開く。

「もちろんだ、フローリア。私の娘はザクラシア王国には渡さない」

 とりあえず、両親の意見は一致したようでよかった。私もザクラシアに嫁ぐ気はさらさらないけれど。ただ、気になることはある。

「今回、わざわざザクラシア王がこの国に来た理由はなんなのかしら? いつもの国同士のやり取りなら、国王がわざわざ出てこなくても、他に高官などの代理人はいるでしょう? いつもそうしているのだもの。まさかミリィへの求婚が理由ではないわよね?」
「……それが理由かもしれないよ。例えば、高官がザクラシア王の代理として、ミリィへの求婚の書状を持ってきたとしよう。代理人であれば、俺たちは普通に求婚に対し断りを入れる。ただ国王自身が直接ミリィに求婚するなら、その本気度を示せるし、こちらの気持ちを覆せると考えたのかもしれない」

 確かにディアルドの言う通りかもしれない。ただ、どうして私なのだろう。

「ザクラシア王国には、ミリィのように神髪神瞳のご令嬢はいないのかしら?」

 涙をぬぐったママが口を開く。

「いない可能性は高いですわ。わたくしがまだザクラシア王女だった頃が一番ここ近年では神髪神瞳が多くいると言われていましたけれど、それでも神髪神瞳を持つ女性はわたくしと姉ティアルナ、妹メナルティ、そして母の四名だけでした」

 神髪神瞳の両方を持つ、もしくは片方だけでも持つ令嬢がザクラシアにはいないから、私を選んだということなのか。うーん、なぜかもやもやする。

「……一度、ザクラシア王と会うことはできるかしら」
「ミリィ!?」
「し、心配しないで! 求婚を受け入れるのではないの。ただ、なんとなく気になるの。ザクラシア王がわざわざ来たのは、ミリィに求婚するためだけなの? 他にも何かある気がして」
「他にも?」
「あ、もちろん一人では行かないわ。誰かお兄さまと一緒に行くなら、いいでしょう?」

 はい、もれなくみんな呆れた顔ですね。わがまま言ってごめんなさい。

「……わかった、俺が一緒に行く」
「シオン、何を」
「向こうがミリィに勝手に接触してくるよりマシだろう。俺が傍で向こうの動向を探る」

 それから兄たちや両親が話し合っていたが、とりあえず私はザクラシア王と会う方向で話が進んでいた時だった。黙っていたカイルが口を開く。

「今日の俺が愚かだったのは認めよう。他にもあの場で言いようはあった。でも俺はミリィを他の男に渡したくない。だからあの時とっさにあの言葉が出たのだ。俺は俺自身の気持ちを重々理解した。だから、このまま婚約の噂を解消で消したくない」
「……カイルお兄さま、それだと、ミリィとカイルお兄さまは結婚することになるわ?」
「そうしたいんだ」

 ついぽかんとした表情をカイルに向けてしまう。今日のカイルは変である。

「カイルお兄さま、兄妹は結婚できないのよ、ねえママ」
「そ、そうね?」
「ミリィ、パパとも結婚できないもの。兄妹もだめなの。ねえパパ」
「そうだな……」

 あれ、両親の表情が微妙な顔になっている。間違ったこと言っていないはずだが。

「ミリィ、カイルさまはミリィの兄ではありますが、そのう……皇太子です」
「エメル、そんなの、ミリィも知っているわ」
「そうですか? カイルさまはミリィの兄ですが、正確には従兄妹です」

 そりゃあ、厳密にいえばそうでしょうけれど。カイルは従兄妹であり、本当の兄ではないことは分かっている。一般的に従兄妹なら結婚できる関係だということも知っている。私だってボケで兄妹は結婚できないと言っているわけではない。けれど。

「でもお兄さまはお兄さまでしょう」
「はい、ですが私たちとは違い、カイルさまは結婚できる兄です」
「……それはそうかもしれないけれど」

 それくらい分かっている。なんだろう、エメルまで。これでは堂々巡りではないか。

「わざわざカイルお兄さまがミリィを選ぶ必要はないでしょう? 今日だってたくさん婚約者候補の王族の方がいらしていたじゃない。みんなすごく素敵だったわ。ウェルドの王女もとても綺麗だったでしょう。ミリィ以外でカイルお兄さまに相応しい方はたくさんいるわ」
「俺はミリィが一番美しいと思うよ」
「カイルお兄さまがそう言ってくれるのは嬉しいけれど……」
「それにミリィを愛しているんだ」
「うん。ミリィもカイルお兄さまを愛しているわよ」

 カイルは少し苦笑する。エメル以外の他の兄たちはカイルを睨みつけている。
 今日はカイルだけでなく、みんな変だ。
 ソファーの前にある二つの小さな丸テーブルの合間から、カイルは私の処へやってきて片膝をついた。そして私の両手を握る。

「ミリィの愛はすごく嬉しい。いつも気持ちが伝わってきているよ。けれど、それは俺の愛とは少し違う。俺はミリィを妹として愛しているけれど、女性としても愛しているんだ。いつからこんな気持ちが湧くようになったのかは覚えていないけれど」
「……女性として愛している?」
「そうだよ」

 いやいや、そんなはずない。どうしていいか分からず、ママを見ると、ママは驚愕と喜びと興奮が混ざったような顔をしていた。さっきの涙はどうした。パパを見ると、難しい顔をして黙り込んでいる。私はまた顔をカイルに向けた。

「カイルお兄さまはミリィを妹として愛しているのよね?」
「そうだね。けれど女性としても愛しているんだよ」

 その違いは何なんだ? 妹としても女性としても愛しているというのは、妹への愛を女性への愛と勘違いしているのではないのか。

 混乱して目の前がぐるぐるしだした。カイルはそれを見て苦笑し、私の指に口づけを落とすと口を開く。

「ミリィが混乱するのも無理はない。今まで伝えたことのない気持ちだからね。けれど、これから少しずつでいいから考えてくれないかな。俺との未来を」
「未来……」
「俺はミリィを愛しているから、ずっと側にいて欲しい。互いに年齢を重ねて、命ある限りずっとね。俺はミリィとならその未来が描ける」
「……」
「もちろん無理強いはしない。どうしても俺と結婚したくなければ、ミリィを……」

 少し葛藤の表情を浮かべたカイルだが、また口を開く。

「手放すのは難しそうだけれど……。それでもミリィを手放す努力はする。だからゆっくりでいい、俺との結婚を考えてみて欲しい」

 その真剣な顔に頷く以外の選択ができようもなかった。

「……わかったわ」
「ありがとう」

 カイルはもう一度私の手に口づけを落とすと、立ち上がった。

「俺は一度会場に戻ります。エメル」
「はい」

 カイルとエメルは部屋から出ていく。
 そのとたん、ママが小さな歓喜の悲鳴を上げた。そして私を抱きしめる。

「ミリディアナちゃん! カイルさま、素敵だったわね! ママは絶対にザクラシア王よりカイルさまがいいわ!」
「ママ、落ち着い……」
「いつミリディアナちゃんに伝えるのかしらって、ずっと思っていたのよ! ジルに申し込まれた日を思い出すわ!」
「ママ?」
「ジルもすごく素敵だったのだけれど! カイルさまのあの真摯な目が胸に来るわね!」
「ちょっと待って、ママ」
「なあに?」
「ミリィにいつ伝えるかと思っていたって、ママはカイルお兄さまがミリィを女性として好きだと知っていたの?」
「あら、見ていたら分かるわ!」

 そんなばかな。

「ミリィは近くにいたけれど、知らなかったわ!」
「ミリディアナちゃんは、ほら、他の男性が好きでしょう? 夢中だったもの」

 だから気づかなかったと? いやいや、ママの勘違いか妄想だと思う! ママは恋愛脳だから!

「パパは知らないでしょう? ママの勘違いよね?」
「……気づいてはいた」

 うそでしょ!?

「お兄さまたちは!?」
「……ミリィだけだと思うよ、気づいていないの」

 バルトが苦笑しながら告げる。
 うそでしょ、カイルから妹として以外の愛など受けた記憶はないのですけれど。

 とてもショックである。
 それから、私はこっそりと舞踏会会場である宮殿から抜け出し、馬車にて帰宅するのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。