七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 164話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 164話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」164話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 164話

 帝都から馬車で一日ほどの街では、春の祭りが行われていた。シオンにねだって連れてきてもらっているのである。カナンとアナンも付いてきており、今日の私の恰好は貴族というより商家のお嬢様といった感じでいつもより軽めであった。髪の毛は金髪のカツラを被り、シオンと手を繋ぎながら祭りをまわる。

 投げ輪や的当てなんかはシオンの独壇場で、狙った獲物を全てとらえてしまうため、商売にならないと店のおじさんに追い出されてしまった。景品は可愛い木彫りのうさぎだけ貰い、あとはおじさんに返した。

 屈強な男と殴り合いをして勝ったらお金がもらえる、少し野蛮な催し物もやっており、掛け金などがかけられるため人気のようだった。お金はいらないけれど、参加しようとするシオンは止めておいた。シオンも加減はするだろうが、死人が出てしまったら困る。そこで、じゃあお前が出ろとシオンが護衛のアナンに言うので、アナンは仕方なく参戦していた。剣がなくとも余裕で勝ってしまったアナンに、さすが護衛なだけあると思う。しかもアナンは一度も相手のパンチを受けていない。

「すごいわ、アナン!」
「当たり前だろう。これぐらい勝てないならミリィの護衛は務まらない」

 シオンの厳しい言葉にも、アナンは淡々とそうですね、と答えるだけだ。頼りなく小さかったアナンが懐かしいくらい、今はシオンとさえ堂々と話をする。みんな成長しているのだ。
 アナンの勝利で得たお金を使って、その日はアナンのおごりで夕食をした。普段は入らない庶民的な居酒屋のようなところだが、すごく珍しくて楽しかった。シオンやアナンは慣れているようで、堂々としているが、私だけきょろきょろとしっぱなしだった。カナンは驚きを顔に出す子ではないので、内心どんな感情でここにいたのかが分からないが、表向きはこの場に溶け込んでいる表情をしていた。

 その日は祭りのあった街で一泊し、それから帝都に戻る馬車に乗っていた。アナンだけ馬に乗って護衛してくれている。ただなかなか馬車が前に進まない。帝都へ向かう道はなぜか馬車が混んでいた。

「何かあったのかしら?」
「事故かもしれませんね」

 ありえる。一度事故が起きると、なかなか撤去などが難しいのだ。
 動いては止まり、止まっては動きを続ける馬車の中は揺れが不規則である。少し気持ち悪くなりかけた時からシオンの肩にずっともたれかかっていたのだが、だんだんと馬車酔いが悪化してきていた。

(シオン)
(どうした)
(気持ち悪いの……)

 吐きそうになり口を開くのも億劫で、心の中でシオンに伝える。シオンが私を見て顔色を変えた。

「おい! 馬車を止めろ!」

 馬車が停まると、シオンは私を抱えて外に出た。左右に畑が広がる道の端に降ろしてくれる。

「お嬢様、こちらに吐いてください」

 カナンが寄越した布の袋のようなものに顔を突っ込む。ああ、気持ち悪い。朝から食べたものを全て吐いてしまった。もう吐くものはないはずなのに、気持ち悪くて目が回るのだ。

「シオン……ごめんなさ」
「謝らなくていい。こっちにおいで」

 シオンは私を抱えると、脇道に座って背中をさすってくれる。どれくらいそうしていただろうか、うちの馬車は脇道に止めているが、まだ帝都への道は混んだままだ。私の気持ち悪さは少しよくはなったけれど、また馬車に乗れば再び悪化するだろうということは予想できる。

 シオンやアナンとカナンにも、こんなところで足止めさせて申し訳ないという気持ちが胸の中を渦巻いていた。そんな時、帝都の方面からやってくる馬車から人が降りてきて、私たちの傍に立った。

「ダルディエ公爵令息のシオン?」
「……アレクか」
「何でこんなところに座っているの? ……そっちの子は?」
「妹だ。体調が悪い」
「え、例の妹? そんな髪色だったっけ」
「これはカツラだ」

 シオンとこんなふうに親し気に話す人は珍しい。私のことも見知ってはいるようである。

「もしかして馬車で酔っちゃった? 渋滞に巻き込まれたんでしょ。俺たち帝都から走ってきたのだけど、この渋滞続くよ、今日中に帝都入りは厳しいと思う。帝都近くで事故っていたし」

 ちっとシオンが舌打ちをする。

「仕方ない、一度前の街に戻るか」
「もしくは俺たちの家に来る? ここから馬車で十分くらいだから。ちょうどシオンにお願いしたいこともあるし」
「は? お願い毎?」

 アレクと呼ばれる青年が乗っていた馬車から、男性が二人顔を出していた。

「前の街に戻るにも時間がかかるでしょう。また馬車に乗って戻ると妹さんも辛いんじゃない? 俺たちの家ならシオンが歩いていける距離だし。で、うちに泊まらせる代わりに、一つお願い毎が」
「ダルディエ公爵令息。アレクの兄のフレッドだ。君の力を借りて探し物を手伝ってほしい」

 馬車から一番年上に見えた男が降りてきていた。

「なに、君の力があれば、すぐに解決できることでね。危険も少ない。妹嬢のためにもいかがだろうか」

 考え込むシオンに涙が出た。

「シオンを巻き込まないで! 私を人質みたいにしてシオンを使うなんて許さないから」

 ぽろぽろと涙が止まらない。私のせいでシオンが使われることが悔しい。
 フレッドとアレクは戸惑いの表情を見せる。

「いや、確かに言い方がまずかった。謝ろう。少し困ったことになっていてね、君の兄上に助けてほしいんだ。君を人質にするつもりはまったくない」
「……わかった、手伝う」
「シオン!?」
「アレクの家とは多少やり取りがある。アレクはアカリエル公爵家の縁戚だ。俺の力も知っている」
「でも……」
「ミリィは心配するな。だいたいやるべきことは分かった。馬の先祖返りの角を探しているんだな?」
「……さすが、もう読まれたか。そうだ。やり取りしていた男が角のありかを吐かなくてね。君が来てくれるのなら、早ければ今日中に片が付く」
「ほら、ミリィ。大したことではない。俺のことは心配するな。ミリィがアレクの家で休んでいるうちに、俺もすぐに戻ってくる」

 結局、その提案を受けることになり、私はアレクの家までシオンに抱かれたままシオンが歩いて移動した。アレクはワイトナー子爵の弟で、フレッドがワイトナー子爵、もう一人馬車に乗った男が次男でアレクの兄のアーサーというらしい。ワイトナー宅に到着すると、私はカナンに着替えさせてもらった。まだ気持ち悪さは残るものの、吐いた時よりはましになっていた。

 ワイトナー三兄弟とシオンが今後の計画の話をしているなか、私はシオンに抱き着くと離れなかった。

「えっと……妹嬢? 我々はシオンに襲い掛かるつもりなどはないのだが」

 私が三兄弟から目を離さないので、フレッドが苦笑いで言う。シオンが私を抱えると、椅子に座った。

「このままでも説明は聞ける。話をしろ」
「いや、しかし」
「ミリィのことは気にするな」

 それからシオンと三兄弟は話をし、夕方前には家を出て行った。私はだいぶ体調が良くなってから風呂に入れてもらった。カナンに濡れた髪を手入れしてもらう。ワイトナー宅にも使用人がいるが、私はカナンにすべてやってもらっていた。

「食事の用意が出来ているそうですが、どうなさいますか? 少しは食べた方がよいですよ」
「うん……でもまだいらないわ。シオンを待ってる」

 夜になった。いつもなら寝る時間であるが、まだシオンは帰ってこない。たぶん心の中で声をかければ答えてくれるだろうが、邪魔になりたくない。窓際でじっと待っていると、シオンたちが帰ったと連絡をもらった。ワイトナー宅にあったガウンを上から羽織る。

「お帰りなさい、シオン!」
「ただいま」

 シオンに抱き着くと体を離し、シオンを見る。

「怪我は?」
「ないよ」

 その言葉にほっとする。シオンの後ろから三兄弟がやってくる。

「あれ、妹嬢。やっぱりその髪色だよね。すごく綺麗だから記憶に残っていたんだ」

 アレクが人懐っこい顔で言う。アレクはシオンと同じ年である。シオンはそんなアレクを無視して、私に言った。

「食事してないだろう」
「お腹空いていないの」
「少しくらい入れないとダメだ。果物を用意できないか」

 近くにいた使用人にシオンが言う。そっとアレクが私の横に立った。

「あのシオンが妹には優しいのは意外だな」
「シオンはいつも優しいわ」
「君にだけだと思うよ。俺はシオンと話をするほうだけど、いつも一匹狼でシオンは近寄りがたかったし、シオンに何か仕掛けたやつはもう学園に来なかったもんなぁ」
「それは仕掛けた人が悪いんじゃ」
「まあ、そうなんだけれどね。そういえば、弟にも優しかったな。学園に見学に来ていた子」

 あ、それ男装した私です。

「ミリィに懐くな」

 シオンが私を抱えると、部屋に向かうべく歩き出した。

「ああ、はいはい。すみませんねぇ」

 苦笑したアレクが手をふっていた。
 部屋に入ると、私が食べる用の果物と、シオンが食べる用の軽食が用意された。

「無理はしなくていいが、少しは食べるんだぞ」
「うん」

 果物は苺とリンゴだった。少し口に含むと、まだ食べれそうなので次々と口へ運ぶ。お腹が空いていたのかもしれない。

「うまくいった? 一角の角、見つかったの?」
「ああ」
「アカリエル公爵家の縁戚だったよね? やっぱり角集めは公爵家の命令なの?」
「そうだ。敵対するタニア大公国には西部騎士団の一角の数と同数程度の一角がいるらしい。少しでも一角を増やしたいのだろう」

 一角の角は、一角の化石を探すのに使えるのだ。
 それからシオンが風呂に入り、一緒に就寝する。次の日、私の体調はすっかり治っていた。今日は渋滞も解消されているようで、帝都にはスムーズに帰れそうである。

 ワイトナー宅を去る際、三兄弟から昨日の態度は悪気はないので怒らないでくれ、とまた謝られた。いや、私も体調が悪くなるという自分の不甲斐なさに頭に来ていたこともあり、三兄弟に当たってしまっている部分もある。もう気にしていない、と言って最後は笑って別れた。

 そしてその日は無事に帝都へ戻ることができたのである。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。