七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 163話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 163話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」163話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 163話

 週末で学園が休日であるため、私は皇太子宮へ向かっていた。カイルは最近忙しいとエメルに聞いていたため、カイルのことだから休憩も入れないのではないかと思い、今日のお茶の時間に訪ねるとエメルに伝えている。

 馬車が皇太子宮へ到着し、馬車を降りて皇太子宮の開いた入口のドアへ向かっていたところ、中から声が聞こえてきた。

「……だから、またカイルさまの婚約者候補に入れていただこうと思って」
「またか、エレノア。それに釣書は前にも貰っているが」
「前のは前のよ。今度は私の絵がさらに美人度が上がっているの。だから差し上げるわ」

 入口から中に入ると、話をしていた人物が確認できた。先日カイルに紹介されたカイルの父方の従姉弟サヴァルア侯爵令嬢である。カイルとその後ろにはエメルとソロソもいた。手に書類など色々持っているので、どこかから皇太子宮へ戻ってきたばかりかもしれない。

「カイルお兄さま」
「ミリィ、いらっしゃい。よく来たね」

 カイルは私に気づくと、笑みを浮かべた。そのカイルの笑みを見たサヴァルア侯爵令嬢は、器用に片眉を上げる。

「……カイルさま、変なものでも食べたの? 寒気がするわ」
「……」

 私はサヴァルア侯爵令嬢のカイルに対する口調に驚いた。従姉弟なだけあって、仲が良さげだ。

「え、えっと……ごきげんよう、サヴァルア侯爵令嬢。またお会いできて嬉しいですわ」
「ごきげんよう。わたくしもまたお会いできて嬉しいですわ。わたくしのことはエレノアとお呼びになって。よければ、ミリディアナさまと呼ばせていただいても?」
「ええ、もちろんです。エレノアさま」

 カイルに少し似ているエレノアは、雰囲気も少しカイルに似て冷たい印象はある。ただ、カイルとは違い普通に笑うので話しかけやすいし、美人なことも相まって完璧な女性に見える。

「ミリディアナさま、せっかくお会いできたのだからお茶でもと言いたいところなのですけれど、これから皇妃さまのところへ参上する予定がありますの。残念ですけれど、わたくしはここで失礼しますわね」
「……エレノア、本当に釣書を持ってきただけなのか」
「そうよ。最初に言ったでしょう、ここで会えてよかったって。わたくし忙しいの」

 エレノアは最後に私に笑みを浮かべ、去っていった。カイルの同年代の女性でカイルと対等に話す人を見たのは、初めてかもしれない。

「ミリィ、執務室へ行こう」

 カイルが手を差し出したので、カイルの手に手を乗せて歩き出した。

「エレノアさまは、カイルお兄さまと同じ年齢なのでしょう? カイルお兄さまがまだ学園にいた時、ミリィ一度も会ったことがないかも」

 私が学園に見学に行っていた時、女生徒のいる四年生以降も見学したことがあるが、エレノアはいなかったはずだ。

「ああ、エレノアはよく領地に戻るからね。学園を休むことが多かったんだよ」
「そうなのね。エレノアさまはカイルお兄さまの婚約者候補になるの?」
「いや、エレノアのはただの冗談みたいなものだ。俺には興味がないし、ここにも新しい釣書を見せに来ただけで、本来の目的は母上に会うことであったようだからね。ここに来たのは皇妃宮へ行く道すがらの次いでみたいなものだよ」

 冗談でカイルに釣書が渡せるなんて、エレノアは肝が据わっているというかなんというか。まあ、冗談が言えるくらい仲がいいということだ。エレノアが婚約者候補かどうかは冗談だったとしても、カイルの元にはひっきりなしに婚約話が舞い込んできていることだろう。

(結婚かぁ、ミリィには遠い世界だなぁ)

 夢は見るけれど、私にはまだ現実的ではない。まあ、まだ学園に通う間はそんなに難しく考えなくてもいいだろう。

 それから、私たちは予定通りカイルの執務室でお茶会をするのだった。

 その次の週の休日。

「いかがでしょうか、お嬢様」
「うん、いいと思うわ。少し体にあてて雰囲気を見たいのだけれど」
「かしこまりました」

 現在私がいるのは、帝都にあるレックス商会の一室である。現在新しいことを始めようとアンと打ち合わせ中なのだ。

 新しく始めようとしているのは、柄物の織物である。現代では柄物はほとんどなく、柄物に見えるものは大抵刺繍されているもの、もしくは均等にビジューを飾ったりというものがほとんどである。また色の違う布を重ね合わせたりして可愛いをデザインするのが一般的だ。

 布自体に柄が付いているものがほとんどないので、ジュードにお願いし、アンと一緒に製作中である。第一弾としては、今回作成したチェック柄だ。現在秋であるため、黄土色や茶色、暗めの赤色など、秋をイメージする色でチェック柄を作ってもらっている。数種類のチェック柄はどれも思った以上に綺麗で、ジュードの商会の職人はいい仕事をすると感心する。私の提案に一番興奮しているのは、やはりアンで、仕立て屋として人気のアンは忙しいはずなのだが、私の提案にノリノリだった。

 服の上から布を当ててもらう。

「うん、すごくいいわ。試しにこっちの布で一着仕立ててくれる? 凝ったデザインにしなくていいから、アンじゃない子に頼んでいいのよ」

 アンはすっかりベテランで、アンの下に部下を何人も抱えているのだ。最近ではアンの妹のラナも見習いとして入っている。ラナも姉妹だけあって、仕立てに関することだと目の色代わる勉強熱心な子なのだ。

「いいえ! お嬢様の仕立ては必ず私が!」
「お願いだから他の子に任せて頂戴。アン寝ているの? 目が血走っているのだけれど」
「もちろん寝てますよ! 今日はこの織物とお嬢様の調和具合が素晴らしくて、記憶に留めようと目をかっぴらいているだけで!」
「怖いから。瞬きしてくれる?」

 開いたドアを叩く音に振り向くと、ジュードが笑って立っていた。

「ミリィ、すごく似合うね」
「ありがとうジュード。この織物すごくいいの。職人さんを褒めておいてくれる?」
「まかせて。さ、そろそろ休憩にしよう。ミリィの好きなお菓子を用意しているよ。君たちも休憩を入れなさい」

 ジュードは職人や雇っている人に労いを忘れない良い上司だと思う。ちょいちょい差し入れもしてくれているようだし、レックス商会の従業員は賃金もいいため自ら辞める人も少ない。下着やハイヒールなど、流行を作り出すことで有名になっているレックス商会は大きくなった。店舗も増えているし、職人も多い。ジュードは私の提案にすぐに耳を傾けて作ってくれるので、女性ものの店のイメージは強いけれど、実はそれ以外にも手広くやっている。ジュードはすごく忙しいのだが、優秀な部下も多いので、そのおかげでうまく仕事も割り振れているようだ。

 用意されたお菓子を見て、私は目を輝かせた。

「栗餡じゃない! どうしたの? これ」

 小さいころディアルドと一緒にお茶会に参加して初めて食べた栗餡のお菓子は、モニカの国トウエイワイド帝国が主要のお菓子である。あの時もトウエイワイド帝国の職人を招待して作っていたと聞いていた。

「モニカさまに職人を紹介してもらったんだ。今うちに雇い入れていてね、新しいカフェでもトウエイワイド帝国のお菓子を出そうかと試作中だよ。これならミリィもいつでも食べられるでしょう」
「ジュードったら、嬉しい! ありがとう!」

 くすくす笑うジュードの横で、さっそく栗餡をいただく。

「んー! 美味しい! 幸せ!」
「それは良かった。まだあるからね」

 美味しいので二つもお代わりしてしまった。

「小豆餡や芋餡なんかも作っているから、いずれミリィに食べてもらうからね」
「うん! 楽しみ!」

 味を想像するだけでニヤケてしまう。

「そういえば、エレーネさまはドレス見てくれたかしら?」
「ああ、気に入ったと言っていたよ。あまり見ないデザインだけど好きだって」
「そう! よかった!」

 実はジュードはもうすぐ結婚式を挙げる。去年紹介してもらったエレーネ・ル・オクスロード伯爵が妻となるのだ。国で数少ない女伯爵である彼女は、帝都に近いところに領地があり、普段はそこに住んでいる。エレーネはさっぱりとした性格で、服装なんかも男装や女性らしくないドレスを好む傾向があり、結婚式で着るドレスも可愛らしくないものがいいと言っていたのだ。そこで、私が一つ提案した。マーメードラインの細身のウエディングドレスである。一般的にスカートをふんわりさせることが流行っているため、マーメードラインは異質に映るかもしれないが、長身のエレーネにすごく似合うと思ったのだ。そこでアンに依頼して作成してもらい、先日ジュードに持って行ってもらったのだ。

「絶対にエレーネさまに似合うと思うの! 結婚式はミリィは早めに行って、色々と手伝うからね!」
「助かるよ。エレーネは着飾ったりだとか、そういったものに関心が薄くてね。結婚式も最初は普段の服で出ると言っていたし、ミリィがいて助かった」

 うん、そのあたりのやり取りは私も聞きました。招待客も多いのに、さすがに普段の服はねと思い、婚約者の妹がでしゃばるのはどうかとは思ったけれど、口出ししてしまいました。

「エレーネは兄妹がいないからね。ミリィが可愛いみたいで、ミリィの言うことはなぜか聞くんだ。俺が言っても聞かないのに」

 すでに尻にひかれている様子のジュードである。
 ちなみに、ジュードはパパの持つ従属貴族の称号の一つキャメロン伯爵を貰っていて、爵位持ちである。ジュードはジュードでレックス商会で忙しいので、結婚した後は通い婚のような形を取る予定だと言っていた。エレーネも領地経営で忙しいし、お互いこれくらいの距離感がちょうどいいと大人なことを言っている。

 そしてあっという間に結婚式となった。
 マーメイドラインのウエディングドレスを着たエレーネは本当に美しく、ジュードは惚れ直しているようだった。結婚式はエレーネの領地オクスロードで行い、両親や兄たち、そしてたくさんの招待客が祝いに駆け付けた。
 私は夏休み以降帝都にいたが、シオンはずっとダルディエ領の恐竜と戯れていたというから、ジュードの結婚式に来ないんじゃないかと不安だったけれど、同じくダルディエ領にいたディアルドがちゃんとつれてきてくれていた。何かに夢中になると他がどうでもよくなるシオンを連れてくるのは大変だっただろう。

 そして季節は冬休み。
 ジュードと夏休み振りに帰郷した私は、騎士団をいったりきたりしつつ、温泉に入ったり勉強したり体を動かしたりと、普段の生活をして過ごす。

 そして休み明け、ジュードと共に帝都に戻った。
 またテイラー学園に通い、いつもの生活が始まる。モニカとエグゼと遊んだり、カイルに会いに行ったりしながら、もうすぐ春という時期がやってきた。

 恐竜と毎日遊んでいたはずのシオンが社交シーズン前に帝都入りしたのである。

「シオン!」

 久しぶりのシオンが嬉しくて抱き着くと、私を抱き上げてくれた。

「恐竜と遊ぶのはどうしたの?」
「もうかなり仕上がったから」
「仕上がった?」
「いや、こっちの話だ。しばらく帝都を拠点にするんだ。時々遊びに連れて行ってやるよ」
「本当!? 嬉しい!」

 シオンの頬にキスをする。
 ああ、嬉しい。どこに連れて行ってもらおう。想像するだけで気持ちが上昇するのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。