七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 159話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 159話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」159話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 159話

 事件のあった夜会の日から数日、私に迫った男とは学園の中では会わなかった。この時は知らなかったけれど、男はあと数日で卒業だったのに自主退学したということを後から知った。またカイルが何かをしたのか、もしくはダルディエ家が何かをしたのかは分からないが、あの男は家を勘当され、実家も何かしらの制裁を受けたと聞いた。その制裁内容を兄たちは誰一人何も教えてくれないところは相変わらずである。とにかく、もうあの男と会うことがない、というのは心が楽になるものだった。

 私は無事進級試験も受かり、夏休みのためにダルディエ領へ戻った。近衛騎士の仕事がある双子と皇太子側近のエメル以外の兄たちも一緒に帰ってきた。

 北部騎士団へ一角と恐竜と三尾の様子を見に行った。私が孵化した一角はすでに大人で、私を見てはしゃいでいたのが懐かしいくらい落ち着いて貫禄がある。そして恐竜だが、すごく大きくなっていた。私を見るとわらわらと集まってくるが、やはりこちらも大人になっており落ち着いている。

 恐竜は驚くことに、大人を三人乗せて走ることができるらしい。私が帝都に行っている間に、しっかりと騎士たちが世話してくれており、騎士たちにも懐いていた。

 この恐竜について、パパからある打診をされた。西公、つまりアカリエル公爵に恐竜のことが知られたのだ。それでアカリエル公爵が恐竜を八匹の内三匹もらい受けたいという。私が恐竜を孵したからパパは私に許可を得ようとするけれど、そもそも恐竜の化石はダルディエ家の庭にあったものである。私の物ではないし、パパが恐竜を三匹渡してもいいと思っているのは分かるのでパパに任せた。もちろんタダでアカリエル公爵家に渡すわけではない。私の知らない取引は行われているはずである。だからそれに私が口出すことではない。

 私が動物遣いの天恵があることは、まだアカリエル公爵にはバレていない。恐竜については、いつかはバレるだろうと思っていたのだ。同じ国の騎士団同士だから普段からやり取りはあるし、うちと同じでアカリエル公爵家も優秀な影を持っているとシオンは言っていた。隠しているならともかく、堂々と北部騎士団で育てている大きな恐竜をいつまでも知られずにいられるものではないのだ。

 夏休みの中盤頃、エメルとカイルがダルディエ領へ戻ってきた。皇太子としての仕事が山積みで、今回は十日ほどしかいられないという。皇太子は忙しい仕事だと改めて思う。ただこっちにいる間はゆっくりするというので、カイルとエメルがいる間はほとんど一緒に過ごした。

 ある日の朝。庭で腕立て伏せをするシオンを手伝っていた。いつものように私が背中に乗り、シオンは腕立て伏せをしていると、カイルとエメルがやってきた。二人共驚愕の顔をしている。

「何しているんだ?」
「腕立て伏せよ。ミリィは重しなの」

 カイルもエメルも呆れた顔をしている。シオンは二人を無視して、腕立て伏せを続けている。いつも思うが、これでバランスが取れるのがすごい。背中に乗る私も安定しているのだ。それを猫のナナがじーと見ている。

「シオン脱いだらすごいんだよ。お腹も背中もバキバキなの。腕も足もバキバキだけど」
「シオン兄上……どこを目指しているんですか?」

 シオンは無言である。

「エメルとカイルお兄さまは鍛錬してる?」
「私は時々しかしていません。カイルさまは毎朝されてますよね」
「日課だからな」
「そうなの? それが差かしら」
「差?」
「エメルは膝には乗せてくれるけれど、時々しかミリィを抱き上げないでしょう? ミリィが重いからかと思ってたんだけれど」
「ミリィは重くありませんよ。単純に私の力不足ですから」

 エメルは苦笑して答える。

「カイルお兄さまはミリィを抱き上げるものね。ジュードがよく言うの、今も鍛錬するのはミリィを一生抱き上げるためなんですって。シオンなんてバキバキだもの、ミリィが双子だったとしても、二人一度に抱えられそうだわ」

 シオンが双子の私を抱えているのが想像できて笑ってしまう。シオンは筋肉がすごいけれど、筋肉質過ぎることもなくて、礼装を着ると普通にスマートな素敵な男性になるので、着やせするタイプなのだと思う。

「俺も鍛錬するのは、ミリィを抱き上げ続けたいからだよ」

 まだシオンが腕立て伏せ中だというのに、カイルは私を抱き上げた。

「おい」

 急に重しがなくなって、シオンが怒っている。

「もうそろそろいいでしょう? 俺にもミリィを貸してください」

 イライラした表情で立ち上がったシオンは、何も言わずに去っていった。たぶん敷地内にある護衛の訓練場に行くのだろう。

「もう。シオン怒っちゃったわ」
「ごめん。でも一緒にいられる時間は少ないから。俺の相手もしてほしいな」

 そんな子犬のような視線は反則だと思う。

「カイルお兄さまは身長何センチ?」
「えーと、百八十八センチくらいだったと思うけれど」
「いいなぁ。百八十八センチの目線って高いわね」

 抱き上げられ、カイルと目線が同じなので高さを感じられる。

「ママもパパも背が高いのに。ミリィの身長百五十四センチしかないのよ。ママみたいに百七十センチを超えたかったのだけれど。今からはもうそんなに成長しないよね」

 ため息をつく私に、カイルは苦笑する。

「ミリィは昔から身長を気にしているよね。俺はミリィの身長がそんなに低いとは思わないけれど」
「だってパパとママが並んで立つ姿に憧れていたの。それに、この国の男の人って、みんな身長高いでしょう」

 ダルディエ家の兄の中ではエメルが一番小さいけれど、それでも身長百八十センチあるのだ。一般的に女性も身長は高い人が多い。

「ミリィは女性じゃないか」
「うん。でも男性と女性の理想の身長差って、十五センチくらいって聞いたことない?」
「理想の身長差?」

 どこで聞いたのだったか。前世の話だったかもしれない。

「一緒に歩いたり、頭を撫でてもらったり、キスしたりとか。身長に差がありすぎるとしにくいって言うでしょう?」
「……」

 カイルがにこっと笑う。笑っているのに少し怖い。どうした急に。

「俺はミリィの身長が好きだな。こうやって抱き上げるとちょうどいい高さだよ」
「そ、そう?」

 急に不機嫌か? ちょっと怖いので、笑ってごまかす。

「そうだよ。ほら、キスだってしやすい」

 カイルは私の頬にキスをする。

「ね? ちょうどいいでしょう」

 え、どうした、今度はデレか?
 つい嬉しくなって、カイルの頬や鼻の先にキスを返した。

「本当ね、キスしやすいわ」

 カカカっと顔を赤くしたカイルは、私の肩に顔を埋めた。何照れているんだ、自分からしてきたくせに。すっかり大人なカイルなのに、こういうところは可愛いのだ。きゅんとするので、すぐそばに見えている髪の毛の先さえ可愛く見える。

「あーあ、ミリィには負けるな……」

 いつもの顔で復活したカイルが顔を上げる。

「ふふふ。そうだ、カイルお兄さまそろそろ降ろして? ずっと抱えていたら重いわよ」
「重くないから、このまま湖まで行こう」
「ええ? ミリィ歩けるのだけど」
「うん、俺が降ろしたくないの」

 いくら痩せ型とはいえ、まあまあ体重はあるのだが。次の日手がプルプルするんじゃなかろうか。何度降ろしてと言っても降ろしてくれないので、結局抱かれたまま湖まで移動することになりそうだ。後ろにはエメルがついてきている。

 三人で話をして笑いあいながら、こんな穏やかな時間が続くといいな、と思うのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。