七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 158話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 158話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」158話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 158話

 同じ教室に私の好きなオキシパル伯爵の息子がいる。オキシパル伯爵とはまだ直接接する機会がないので、先に息子に接触してみた。普段から周りとほとんど関りを持とうとしないオキシパル伯爵の息子は、私が話しかけても無視して何も返してくれず取り付く島もない。息子と仲良くなって、本命オキシパル伯爵に接触する予定なのに全く進まないのである。

 なかなかうまくいかないなと思いながらも、社交界シーズンのため夜会には参加していた。ウィタノスという脅威がなくなったので、夜会にも兄の誰かを連れて行く必要もなくなり、最近では一人で参加することもある。また同時進行で進級試験の勉強も頑張っており、ずっと忙しい日々を送っていた。

 しかし昨日とりあえず進級試験も終わったので、あとは結果待ちをするだけである。だから今日の夜会はいつもより気分は良かった。知り合いを見つけては、人脈を広げたりと順調である。今日の夜会には、カイルとエメルとソロソも参加していた。カイルと目が合った時に、視線が私を誘っていたのでカイルに近づくと、カイルの父方の従姉弟エレノア・ル・サヴァルア侯爵令嬢を紹介された。少しカイルに似た黒髪の美人さんで、カイルと姉弟のように見える。モニカを見ていつも思うのだが、サヴァルア侯爵令嬢も含め、黒髪の女性は妖艶で大人な雰囲気が素敵だ。その後カイルたちとは別れて、私は会場をウロウロとしていた。

 以前、どこかの夜会でお菓子の話で盛り上がったスヴェニア男爵とも会った。知人の付き添いらしく、今日はお菓子の話ができないと言われ残念だったけれど。

 この夜会にはカイルたち以外の兄は参加していない。他の夜会に参加すると言っていた。モニカとエグゼも今日は別の夜会で一緒ではない。

 男性にダンスに誘われて断っていたのだが、社交を広げる場なのに断りすぎるのもいけないような気がして、兄たち以外の男性と踊った。ダンスが終わると、次に私とダンスを踊ろうと待ち構えている男性に囲まれてしまった。一人受け入れるとこうなってしまうのか、と後悔するも遅し。全員と踊るのは難しいので断った。ところが断っても断ってもしつこく誘ってくるので、仕方なくダンスを受け入れた。しかしここであれを披露しようと思ったのである。

 双子に使う時が来るからと、一緒に踊る相手の足を踏む練習させられたのである。これが踊る相手にどれくらい効くのか分からないが、いい機会だ、試してみよう。
 ダンスが始まる。相手の足を踏む。痛い? ごめんね。男性は笑顔で受け流すが、また踏む。うんうん、痛いよね、ごめん。でもまた踏む。それを一曲終わるまでに十回ほど続けた結果、男性はダンスが終わったと同時に見事に逃げて行った。効くね! 私のこのダンスを見ていた、次に踊ろうと待ち構えていた男性陣は、私から視線をそらした。よし、諦めてくれたようだ。

 それから男性たちが追って来ないのを確認し、トイレに行ったあと化粧直しに向かう。化粧直しを手伝ってくれる使用人が雇われているのだ。貴族の女性はいろいろと気を遣うんですね。ついでに少し休憩を入れて、また会場へ向かう。その途中、男性がうずくまっていた。

「……どうされました? 体調が悪いのでしょうか。大丈夫ですか?」

 近くに人がいないので、恐る恐る声をかけた。体調が悪いのなら、誰か人を呼んできたほうがいいかもしれない。

「ありがとうございます。少し胸が苦しかったのですが、あなたのような美しい方に声を掛けられたら楽になりました」

 苦しそうにしていたはずの男が急に立ち上がり、私の手首を握ると、近くのバルコニーの扉を開けて外に出た。驚いて一緒にバルコニーに出てしまったが、腕を振って男の拘束から逃れる。少しの間だけれど、掴まれた手首が痛い。

「何をするのです!?」
「覚えていませんか? 私ですよ。以前学園で声をかけたのですけれどね」

 よく見ると、確かに見たことはある顔である。今年卒業する予定の六年生で、以前しつこく話しかけられたことがある。あの時はアカリエル公爵令息のレオが助けに入ってくれたのだ。

「何かわたくしに御用がありますの?」
「学園ではなかなか話しかけられないので。あなたの周りは邪魔が多い。ですが、さきほどあなたを見かけましてね。この機会を逃してなるものかと。私の気持ちには、もう気づいているのでしょう?」
「き、気持ち?」

 この男、少しずつ距離を詰めてくる。それに合わせて後ろに下がる。

「ダルディエ公爵家に繋がりを持ちたいということかしら」
「……何を言っているのですか。私が興味があるのは、あなただけですよ」

 一歩一歩後ろに下がっていたけれど、背中がバルコニーの枠に当たってしまった。これ以上、下がれない。

「一目見た時から、あなたから目が離せなくなった。輝く髪と瞳、甘そうな唇、可憐な仕草。最近のトウエイワイド皇女と話しているあなたの笑顔がとにかく眩しくて、あの笑顔を私に向けさせたいと思っていたのです」

 男は私を通せんぼするように、そして私を囲うようにバルコニーの枠に両手をついた。男の不気味に笑う顔が近づいてくる。気持ち悪い。

「あなたは私のものだ」

 いやいやいや、私は私のものですから!
 私は足の膝を思いっきり上へ動かした。

「うっ!」

 一撃必殺、金的攻撃である。こういう時は迷ってはいけない。正確に確実に、重い一撃を。
 男の顔が奇妙に歪み、男が屈みながら自身の手を私が攻撃した部分に持っていってそれを押さえた。両手が使えない男、いまが好機!
 今度は私が両手を広げると、男の首の側面を勢いよく打った。一撃必殺技第二弾である。男の黒目がぐるんと回ったかと思うと、男はそのまま床に崩れ落ちた。

 よし、今が逃げ時である。男が倒れているので通れないが、気絶しているのでいいだろう、と男の上を跨ぎ、その場を逃げた。

 倒せた! 逃げる隙を得ることができた! 男に迫られたことよりも、シオンに教えてもらって練習した技が効いて、気分が変な風に高揚していた。高揚した気持ちと、とにかく誰かに会いたい気持ちが先行し、足早にその場を離れる。ゆえに、私がバルコニーを去ってからすぐにバルコニーを覗きに来た男に気づかなかった。

「あはは、これはすごい。あの令嬢もなかなかやるな」

 その呟きは、私には聞こえなかった。

 カイルかエメルかソロソか。とにかく誰かに会いたい。三人がいるのを見つけた。カイルは令嬢たちに囲まれていたため、その後ろに控えているエメルに向かう。エメルがこちらに気づいた。

「ミリィ、どうし――」

 エメルに抱き着いた。自分でも少し気持ちが高揚しすぎている気がする。息を吐き、そして顔をあげた。

「やっつけたの!」
「え? やっつけた?」

 ああ、駄目だ。まだ気持ちが落ち着いていない。ふう、と息を吐く。
 少し落ち着いてみれば、カイルはこちらを見ているし、その周りの令嬢たちもこちらを見ているのに気づく。
 おっと、いけない。ここで騒ぐわけにはいかない。

「エメル、少し話を」
「いいですよ、少し離れますね」
「分かった」

 エメルがカイルに言い、二人で少し離れて、それでも人に聞かれたらいけないのでエメルの耳に小さな声で告げる。

「金的攻撃がうまくいったの! とどめに首の側面も攻撃しておいた!」
「……それって」

 エメルは顔色を変えた。

「ミリィ、怪我は」
「ないと思う。……そういえば、掴まれた手首が痛いかも」

 気持ちが落ち着いてきたからか、痛みに気づきだしたのだ。手首を動かすと痛みが走る。
 痛ましそうな顔をするエメル。

「相手に何かされました?」
「ううん、される前に攻撃したもの」

 エメルは思わずといったように私を抱きしめ、そしてすぐに離した。

「それで相手はどこに?」
「あっちのバルコニー。まだ沈んでいると思う」

 エメルは私の背中を押し、一度会場を出る。廊下に控えていた近衛騎士ではなく、見知らぬ男が呼ばれると、男はエメルからの指示を受けて去っていく。

「何があった」

 いつの間にか後ろにカイルがいた。カイルが元いた場所には、まだ令嬢たちが立っており、こちらを見ている。その中に見知った顔がいるのに気づいた。

(ウェリーナ・ル・バチスタ公爵令嬢だわ)

 ものすごい顔でこちらを睨んでいる。カイルと楽しく話をしていたのだろう。私が邪魔してしまったのだ。他の令嬢もろとも申し訳ない。

 エメルに話を聞いたのか、カイルは怒りの表情を浮かべている。

「だ、大丈夫よ、カイルお兄さま。何かある前にやっつけたから!」

 一撃必殺技がああも綺麗に決まるとは思っていなかった。教えてくれたシオンに感謝である。

「練習の賜物ね! 上手に決まったの! お兄様たちにも見せたかったわ!」
「……ミリィが無事でよかったよ」

 カイルは少し悲痛な顔をし、エメルの指示でどこかに行った男が帰ってきたのを見て、また表情をいつもの冷静な顔に戻した。

「捕らえました。まだ伸びていますので別室で抑えております」
「案内しろ」

 ミリィは男の顔を見たくないだろうから離れていていい、とカイルたちは言うので、私は私で別室に案内されて休んでいた。私に迫った男が怖いかと聞かれると、怖いといえば怖い。気持ち悪かったし、あそこで私が攻撃しなければ、どうなっていたかと思うと震えそうだ。ただ実際には攻撃がはまり、怪我らしい怪我といえば掴まれた手首くらいである。運が良かったと言えよう。

 手袋を外す。どれだけ力を入れられていたのか、男の手の形がくっきりと残っていた。痛いはずだと思いながらさすっていると、エメルとカイルとソロソが部屋に入室してきた。

「待たせてすまないね、ミリィ。こっちは……」

 カイルが顔色を替え、私の腕を凝視している。

「ミリィ、それ……」
「ああ、これ? 手形が残っていて気持ち悪いでしょう。たぶん数日すれば消えるわ」
「……ミリィを助けられなくてごめん」
「やだ、カイルお兄さまがどうして謝るの? こんなの平気よ」

 手袋を慌てて装着する。そんなに思いつめた顔をするとは思わなかった。

「それより、どうなった? あの人目が覚めた?」
「ミリィは気にしなくていいよ。ミリィに悪い噂が立たないよう内々に処理するからね。それより、ミリィはもう今日は帰った方がいい。邸まで送らせるよ」
「う、うん、ありがとう」

 その処理内容を聞きたいのだが。また学園で顔を合わせるかもしれないのだし、心構えが変わってくる。カイルは私の隣に座った。

「抱きしめてもいい? あんな目にあった後だからね、嫌ならしないよ」
「嫌なはずないわ。抱きしめてほしい」

 カイルは私を抱きしめた。痛いくらいに。すごくホッとするし、落ち着く。
 それから心配するカイル達に見送られ、私はダルディエ邸へ戻るのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。