七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 157話 アルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 157話 アルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」157話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 157話 アルト視点

 俺が目覚めると、隣では俺より先に目が覚めていたミリィがこちらを見ていた。

「……おはよう、アルト」
「おはよう、ミリィ」

 ミリィの頬にキスをして、欠伸をしながらミリィの顔を見ていると違和感を感じる。

「ミリィ、どうかした?」

 いつも寝起きで甘えたなミリィが今日は大人しい。

「お腹痛いの……」
「ええ? もしかしてそれで早く起きていた? 俺を起こしてよかったんだよ」

 慌てて起きると、よく見たら確かに青い顔をしているのが分かる。

「ううん、そんなに早く目が覚めたんじゃないから」
「昨日何か食べ慣れないものでも食べた?」
「そうじゃないの……その」
「……ああ、月のものか」

 毎月やってくるそれは、女性は本当に大変だと思う。ミリィは月のものが始まった日が一番お腹が痛くなるらしい。変わってあげたいが、こればっかりはどうしようもない。シーツごとミリィを抱えると、ミリィの自室へ連れて行く。ここからは俺よりも侍女に任せた方がミリィも気を使わなくて済む。

「じゃああとは任せたよ」
「かしこまりました」

 ミリィを侍女に任せ、俺は俺で用事があるので支度をしなければならない。
 今日は休日である。俺は添い寝のために帰ってきていたが、同じく本日休日のバルトは昨夜は彼女と過ごしているため、街中で待ち合わせをしている。今日の予定は、二人で午前中一緒に用事を済ませ、昼過ぎからはバルトと別れて女の子たちとデートの予定だ。

 家を出てバルトと会い、一緒に用事が終わってみれば、予定よりも早く用事が済んでしまった。まだ昼まで時間がある。

「どうする? 誰か呼びだす?」
「呼び出すほどの時間はないよ」
「だな」

 こういうちょっとした時間を使って呼び出せる女の子はいくらでもいるが、さすがに昼までの時間となると短すぎるだろう。ちょうどよく、誰か知り合いの子とでもすれ違えれば、そう思っていると、バルトが声を出した。

「アルト、あれ」

 バルトが示す先には南公の娘ウェリーナ・ル・バチスタ公爵令嬢と、彼女とよく一緒にいるルビー・ル・トリットリア侯爵令嬢がいた。侍女を二人連れているようだが、護衛はいない。午前中から酔っぱらった男に絡まれている。あの酔い具合を見ると、昨夜から飲み続けた結果だろうことは想像できるが、悪酔いしすぎだろう。ウェリーナ嬢とルビー嬢はかなりの美貌であるから、酒で気が大きくなって声をかけたのであろう。しかしウェリーナ嬢が気が強く、何か言い返し、男は頭にきているのも見て取れる。

「助けてやろうか」
「そうだね」

 ミリィは、俺とバルトは女性には問答無用で優しいと勘違いしている。まあ女性は好きだし可愛いし、俺たちにはない柔らかい肌や誘うような表情も好きだ。基本的には女性には優しくする、それが俺たちだけれど、厳密には違う。本能で面倒かそうでないかを見極めているし、いくら美人でも面倒な女性には手は出さない。それに面倒ではなくても、ミリィに黒い感情を持つような女性や危害を加える女性は排除対象だ。

 そういう点でいうなら、トウエイワイド皇女なんかはその筆頭だったはずだけれど、親友となったとたん、すっかり皇女はミリィ命になってしまった。バルトや俺は笑って見守っていたけれど、他の兄上たちは警戒していたが、それも最近ではかなり緩くなっている。皇女のミリィ好きを見ていたら、警戒するのが馬鹿らしくなるのだ。ミリィも心を許しすぎてお泊り会なんかも開催するし、一応ミリィの命を狙う敵だったはずなのに、すっかりそんな記憶が遠くに行くほどミリィも皇女に気を許している。

 皇女はカルフィノスに大事な人、つまり恋人や伴侶ができるのを嫌がってカルフィノスが転生するたびに命を狙っていた。しかし、ミリィの親友となりミリィと仲良くなったことで、親友という立場が思った以上に恋人や伴侶と同じくらいオイシイ立場だと気づいたと思う。同性であるため多少過剰にミリィを愛でても俺たち兄から何か言われることもないし、ミリィのたった一人の親友であるために、ミリィから親友としての愛情もたっぷり受けられるのだから。

 男ばかりの兄たちや、怖くて女の友人を作れなかったからの反動かもしれないが、ミリィが楽しそうなので、俺たちも皇女については特段とやかく言うつもりはない。ただ、時々ミリィに変なことを言うのは勘弁してもらいたいのだが。

 先日、ミリィが笑顔を奪う天恵はどうなっているのか聞いてきた。どうやら皇女がそんな天恵は変だと言ったらしい。余計なことを言ってくれる。このままミリィが騙されてくれれば、少なくとも学園でミリィが笑顔をふりまくこともなく、これ以上ミリィを狙う男を増やさずにいられたかもしれないというのに。ただミリィも何やら訝しんでいるようだったので、これ以上騙すのは無理そうだと判断した。

 ミリィには調査の結果、笑顔を奪う天恵を持つものはいたが、ミリィの学園復帰と入れ違いで卒業した生徒がその天恵を持っていたのが判明したと説明した。少し前に分かったので、ミリィに伝えるのが遅くなったねと謝ると、ミリィは誰か判明してよかったと安心していた。うん、そんな人いないんだけれどね、俺たちに騙されるミリィが素直過ぎて可愛いので、そのままにしておく。そんなこんなで、ミリィを無表情のまま過ごさせる作戦は消えてしまった。しかし社交界では無表情も武器になるから、このまま訓練のつもりで無表情を続けた方がいいよ、と助言すると、ミリィはそれもそうね! と笑っていた。ミリィが卒業まではあと一年ある。この助言がどれだけ効くかは分からないが、ミリィを好きになる男を少しでも排除できればいいのだが。

 そんなふうに皇女は面倒なことをしてくれる時もあるが、逆にミリィが今好きな人であるオキシパル伯爵のことは気に入らないようで、ミリィの邪魔をしてくれているので、皇女もいい仕事をする。そういうところは共同戦線を張りたいものだ。そういえば、カイルにこっそり送っている婚約者候補の令嬢たちに進展がまだない。エメル担当の時のミリィの添い寝に、カイルは忌々しくも相変わらずやってきているようだし、どこかでカイルに皇女をぶつけてみるのもいいかもしれない。皇女は勝手にカイルを邪魔してくれそうだ。

 とまあ、少し脱線したが、ルビー嬢はともかく、ウェリーナ嬢はミリィを睨んでいたのを俺たちは目撃している。ウェリーナ嬢はミリィに何か黒い感情を持っているのは確かだ。だから正直、酔っ払いに絡まれていようが、いつもなら助けたりはしないのだが、ウェリーナ嬢がなぜミリィをあそこまで睨むのか知る機会でもある。だから助けてあげることにしたのだ。

 ウェリーナ嬢の手首をつかんでいた男を引っぺがすと、俺はウェリーナ嬢、バルトはルビー嬢を背中に庇う。

「女性に強引な態度を取るのは許せないな。良かったら、俺たちが相手になるけれど」

 腰の剣に手をやる。もちろん今日は休日なので、近衛騎士の剣ではなく私物である。
 我に返った男は、俺たちには敵わないと計算したのだろう。青い顔をして慌てて逃げ去っていく。

「怪我はありませんか。ウェリーナ嬢、ルビー嬢」
「だ、大丈夫ですわ!」
「アルトさま、バルトさま、助けて下さってありがとうございます!」

 青い顔をしているものの、ウェリーナ嬢は強気に返事し、ルビー嬢は涙目で返事をする。
 ウェリーナ嬢の腕を優しく持ち上げ、男に握られていた手首を見る。

「痕が付いているね。痛くありませんか?」
「こ、このくらい! 何ともありませんわ!」

 ウェリーナ嬢はかあっと顔を赤くし、俺の手から自身の手を離す。うーん、俺のことは嫌いではなさそうだ。ウェリーナ嬢の俺への評価は前と変わらずである。ではなぜミリィを睨むのか。

 ウェリーナ嬢とルビー嬢とは、以前カフェでお茶をしたことがある。近衛騎士の仕事中、たまたま暴走した馬車から二人を助けた関係だった。仕事中のことなのでお礼などいらないと言ったのだが、それでは気が済まないと二人から招待されたお茶会だった。助けたことには本当に感謝しているのだろう、その時から、ウェリーナ嬢は俺たちにはツンツンしてはいるものの好意的だった。そんなところが可愛いと思ったものだが。

「少し気持ちを落ち着かせる必要はあるでしょう。俺たちも昼までは時間があるので、よければお茶をご一緒しませんか」

 柔らかく笑って言えば、ウェリーナ嬢もルビー嬢も少し顔を赤くして頷く。もれなく令嬢たちの後ろにいた侍女たちも顔を赤くしていたが。

 それから人気のカフェの個室へ入り、俺とバルト、そして二人の令嬢はお茶とお菓子を楽しむ。侍女たちは少し離れた席に座っていた。男性と令嬢を二人っきりにはしない配慮である。

「少しは落ち着きましたか」
「あれくらい、大したことありませんわ!」

 相変わらずウェリーナ嬢はツンツンである。

「お二方にはまた助けていただいて。本当にありがとうございました」
「たまたま近くを通っただけですから。お気になさらず」

 青い顔をしていたルビー嬢の顔色は戻って、人心地ついたようだった。それから少し他愛もない話をしていた時、バルトが口を開いた。

「そういえば、二人共今年は学園を卒業するのでしたね。卒業すれば一度領地へ戻るのですか?」
「ええ、そのつもりです。ただ様子を見ながら、帝都に戻ってこようとは思っているのですけれど。やはり領地より帝都の方が誘われるお茶会やサロンが多いですから」

 ルビー嬢が答える間、ウェリーナ嬢は眉を寄せて不機嫌そうな顔になる。なんだ、領地へ戻りたくないのだろうか。まあ、普通はそうかもしれない。帝都のほうが友人もいるだろうし、物も揃っているから特に若い女性は帝都を好む傾向にある。

「ですが、卒業前にまずは卒業試験に受かりませんと。すごく難しいと聞いていますから。毎年卒業できない方がいると」
「ああ、そうですね。俺たちの時も、卒業できなかった友人がいたな」
「やはりそうなのですね。勉強しているところなのですが、少し気分転換も必要でしょうと、今日はウェリーナさまとお茶をしに街へ出てきたところでしたの」
「ああ、なるほど。それは災難でしたね、せっかくの気分転換にあんな酔っ払いに絡まれて」
「いいえ、そんな……」

 ルビー嬢は顔を赤くしてうつむく。その酔っ払いのお陰で俺たちとお茶ができたと喜んでいるのだろうか。たぶん、俺のうぬぼれではない。

「そういえば、ミリィも勉強を頑張っていたな。卒業試験と同じ時期に進級試験があるのだったね」

 ウェリーナ嬢の反応を見るために、少しミリィの話題をふってみる。ウェリーナ嬢の表情がぴくりと動いた。

「夜遅くまで頑張らなくてもミリィなら大丈夫なのに。一生懸命なところが可愛いのだけど、寝不足にならないか心配だな」

 バルトが俺の話に乗ってくる。

「俺たちが寝不足にならないよう注意しておかないとね。進級試験が終わったらミリィをデートに誘おうか。何かねだってくれるなら、いくらでもご褒美あげるんだけれど」

 俺とバルトの会話に反応したのはルビー嬢だった。ちらっとウェリーナ嬢を伺っている。やはりウェリーナ嬢に何かあるのかと見ていると、ウェリーナ嬢が口を開いた。

「少し妹に優しすぎるんじゃないかしら。たかが試験くらいで、ご褒美だなんて!」
「……そうかな。頑張りには酬いがあるべきだと思うよ」
「あの子はいいわね、いつも家族に恵まれて! 私ばっかり、いつもいつもどうして!? お父様もあの子ばかり目をかけて! 私のことは見てもくれない!」
「……ウェリーナ嬢?」

 はっとしてウェリーナ嬢はこちらを見た。そしてすぐに席を立つ。

「も、もう失礼しますわ!」
「ウェリーナさま!?」

 ウェリーナ嬢が走って出ていき、慌ててルビー嬢はこちらにお辞儀をして出ていった。侍女もそれについて行く。
 しんっとした部屋でバルトと顔を見合わせる。

「お父様とは南公のことだよね? 何でミリィに目を掛けているの?」
「さあ? ミリィは南公と会ったこともないはずだけど」

 意味が分からない。
 ウェリーナ嬢がミリィを睨む理由は、南公に原因があるのだろうか。少し調べる必要がありそうだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。