七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 155話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 155話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」155話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 155話

 テイラー学園の馬車乗り場にダルディエ家の馬車が停まる。馬車の扉が開くと、シオンが降りてきた。

「シオン?」

 少し呆れた表情のシオンは、私の鼻をむぎゅっとつまんだ。

「んっ」
「まったく。俺がどれだけ心配したと思っているんだ? いつもみたいにぽわぽわした顔して。怒る気も失せる」
「ごめん?」

 シオンは息を吐くと、私の手を取り馬車の中へ誘導してシオンも乗りこむ。カナンは馬車の中へ、アナンは護衛のために連れてきている馬に乗って付いてくるのだ。

 馬車が動き出す。隣に座ったシオンは、私を抱きしめた。

「バルトたちに聞いて驚いたんだからな。ウィタノスと和解したって」
「和解っていうか……うん、でもそうだよね。今日から親友になったのよ。現世では殺さないって約束してくれたもの」
「それ信用できるのか。いつ寝首を掻かれるか分からないぞ」
「それはないと思うの。シオンもウィタノスと会えば分かるわ」
「どういう意味だ?」

 今日親友となることになった後、講義は一つさぼってしまったけれど、その後の講義にはちゃんと出席したのだ。休み時間など一緒に過ごしたウィタノスの全身から発せられる私が好きですという意思をすごく感じる。恐々としていた時はまったく気づいていなかったが。

「今日、うちに招待したの。聞いてない?」
「聞いた。正気かと疑った」
「邸の中なら大丈夫でしょう? アルトが一応護衛を家の中にも配置するって言っていたし、影も配置するって。向こうは忍を連れて来るとは思うけれど」
「忍って、影か?」
「トウエイワイド帝国では影を忍って言うみたいね」

 家に着くと、双子から事情を聞いた家の者たちが、トウエイワイド皇女を迎えるべく準備が進められていた。そして普段以上に家の中も警護だらけである。今まで相手は私の命を狙っていたのだから、この警戒も無理はない。

 また忙しいはずの兄たちがエメル以外全員揃っていた。双子以外はピリピリとしている。

 ウィタノスが乗った馬車がやってきた。今日は私も出入口でお出迎えである。
 トウエイワイド姉弟が馬車から降りると、ウィタノスは冷たい印象の美貌の顔を満面の笑みにした。

「カルフィノス!」

 兄たちのピリピリ雰囲気もなんのその。ウィタノスは私に抱き着いてきた。

「いらっしゃい、ウィタノス」
「来たわ! 親友の家にお呼ばれだもの!」

 親友という言葉が気に入ったのだろうか。

「トウエイワイド皇女。ようこそ、ダルディエ家へ。ただ、あなたはミリィが招待しましたが、弟君は呼んでいないのですが」

 ジュードが初対面のウィタノスに笑顔で告げるが、笑顔が怖い。

「あら、そういえばそうね。エグゼ、あなた帰っていなさい」
「なっ! モニカ! 俺も行く!」
「招待もされずに勝手に来るとは、躾がなっていないようですね。聞きましたよ、うちのミリィをこの女呼ばわりしたとか。そんな輩をうちの敷地に足を踏み入れさせるとでも?」

 相手は一応トウエイワイド皇子なんだから、もう少しお手柔らかにお願いしますよ。皇子はぐぬぬと整った顔を歪め、ジュードを睨みつけている。君も皇子なんだから、もう少し表情筋を抑えたほうがいいと思う。

「ジュード、あまり意地悪しないで。ウィタノスがいるのだもの、皇子殿下も変なことはしないはずよ。そうでしょう? 皇子殿下。いい子にしているならウィタノスと一緒に来てもいいですよ」
「いい子……いいだろう」

 このやりとりの間、肝心のウィタノスは私に腕を絡ませたままである。弟を助ける気はないのか。

「まあ、いいでしょう。ただし、影……ああ、忍と言うのですか。彼らも入って構いませんが、見えるようになっていてくださいね」
「いいわ。三人とも、いいわね」

 忍が三人現れる。うちの影もだが、どうやって見えなくなっているんだろう。謎だ。

「じゃあ、行きましょう。美味しいお菓子を用意しているのよ」

 ウィタノスに手を出すと、ウィタノスは少し照れたような顔をした後、嬉しそうに手を繋いできた。なんだろう、拍子抜けするくらい可愛いのだが。

 それからピリピリの兄たちと、ご機嫌なウィタノスとの異様な雰囲気のお茶会が始まった。

「そうだ、ウィタノスに提案なんだけれど。ウィタノスとかカルフィノスって私たちしか分からないでしょう? 普段はモニカって呼びたいの。ミリィのことはミリィって呼んでいいわ」
「ミリィのことはミリィって呼んでいいわ?」
「あ! ……わたし、つい家ではミリィって呼んじゃうの……」

 改めて指摘されると恥ずかしいではないか。自身をいまだに名前呼びするところが子供だと自分でも思う。兄たちやルーカスなど昔からの知り合いでなければ、ちゃんと「わたし」や「わたくし」と言えるのに。自身でも意識していないが、どこかに切り替えスイッチがあるのだと思う。

「別に悪いって言ったんじゃないわ。私の知らないウィタノスを見た気がしただけ。いいわよ、ミリィ。そう呼ぶわ」
「ありがとう。それとね、お願いが一つあるのだけど。悪夢のことで」
「悪夢?」
「ウィタノスは夢の神なのでしょう? ミリィ、何日かに一度転生前の殺したり殺されたりする夢を見るの。見ないようにできないかと思って」
「ああ。そういえば、そんな設定にしていたんだったわ」
「前世では悪夢は見なかったんだけれど」
「前々世では私が殺されたのよ。殺された次に転生したら、カルフィノスに夢の影響はないよう、遊戯の前にそういう設定にしたから。その方が変化があって楽しいでしょう。遊戯だもの。まあ、殺されたら私は悔しいんだけれどね」
「そ、そうよね?」

 殺されたら悔しいというだけで済んでしまうウィタノスがすごい。怖いと泣いていた私がおかしいのか?

「カルフィノスは時の神だったわよね。ミリィにそんな力はないと思うのだけど」
「力も何も持っていない、愛だけあれば楽しく生きられる人間をやりたいんだって、カルフィノス自身が遊戯前に力の制限をかけてるのよ。まったくバカなんだから」
「ご、ごめん?」

 なぜか怒られた。

「私は力が使えるけれど、一応誓約があるのよね。この国にも教会はあったわよね?」
「あるわよ」
「だったら夢見の影響を変更できるわ。数日待っていて」
「あ、ありがとう!」
「仕方ないわね! 今回だけよ!」

 ふん! と鼻を鳴らしながらも得意げである。
 それから色々と話をして、談話室に場所をうつした。兄たちもぞろぞろと付いてくる。皇子も影も忍も護衛もいるので、談話室の人口密度がすごい。

「ソファーが一つ足りないわね?」

 いくつかある談話室の内、小さいほうの部屋だからだろう。大きい部屋はパパが使っていたのだ。忍や護衛は立つとしても、一つ座るところが足りない。

「ミリィは俺の膝に座るといいよ」
「兄上、俺がしようと思ったのに」

 私をいきなり抱き上げたディアルドはソファーに座ると私を膝に乗せる。ジュードは少し機嫌を悪くしている。

「な! どうしてここの兄たちは、妹を膝に乗せるわけ!?」

 イライラしたようにモニカが叫ぶ。

「モニカはされないの?」
「されるわけないでしょ!」
「モニカのお兄さまたちは優しくないの?」
「優しいわよ! いつも跪くわ!」

 やはり跪くのか。そっちのほうがおかしくないか。
 その時ピンときた。これはうちのように仲の良いブラコンシスコン人口を増やすチャンスではないかと。
 私とモニカのやり取りを見ていた皇子を動かしてみようか。

「トウエイワイド皇子殿下はモニカを愛している?」
「……もちろんだが」
「だったら、もっと抱きしめたりキスしたり膝に乗せたりしたほうがいいわ!」
「えっ!? い、いや、しかし」

 私とモニカを戸惑い気味に見比べている。

「……もしかして、モニカの体重が重いなんて、失礼なこと考えているんじゃ……」
「思っていない! 思っていないからな、モニカ!」
「じゃあ、モニカを膝に乗せられるわね!」
「もちろんだ!」
「ちょっ!」

 モニカを膝に乗せる皇子と、皇子の顔を押しやり離れようとするモニカ。

「あーあ。遊んでいるね、ミリィ」
「違うよ? お兄さまに愛されて幸せだって、モニカにも教えてあげたいだけなの」

 決してブラコンシスコン仲間を作りたいためだけではない。はず。

 ぎゃあぎゃあ騒ぐトウエイワイド姉弟を見ながら、笑みが浮かぶのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。