七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 154話 バルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 154話 バルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」154話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 154話 バルト視点

 今日はテイラー学園の剣技の指南役の担当ではなかったが、昨夜、ミリィがウィタノスと接触したと聞き、今日の指南役の担当と変わってもらった。ミリィには護衛だけでなく影も付けてはいるが、昨日の今日で真面目に学園に行くというからアルトと二人で様子が見たかったのだ。一時間以上早めに到着し、さっそくミリィの教室を目指していた時、ミリィの侍女カナンが走ってきた。

「カナン?」
「アルトさま、バルトさま。お嬢様がお呼びです。急いできていただいてもよろしいですか?」
「うん。何かあった?」

 歩く速度をアルトと一緒に速める。

「それが、同じ学年にウィタノスがいました。今お嬢様とお話し中で」
「「は?」」

 カナンの案内でミリィのいるところを目指し、ある教室に入ると、そこには少し緊張気味の顔をしてはいるものの、気持ち的には落ち着いてそうなミリィがいた。

 ほっとした。しかし俺たちは笑みは浮かべたけれど、ミリィの前にいる二人の異色の人物を警戒する。

「アルト、バルト」
「ミリィ」

 いつも嬉しそうに近寄ってくるミリィは、異色の二人を警戒してか、立ちはするもののこちらに来ない。代わりに俺たちが近づき、ミリィを抱き上げた。安心したのか、俺にぎゅうぎゅうに抱き着いてくる。頭を撫でながら、目線は異色の二人に向ける。

 ウィタノスというのはミリィと同性、つまり女性だ。黒髪の美人な女性が、こちらを睨んでいた。

「ちょっと! カルフィノス! 兄が来るのじゃなかったの!?」

 俺の腕の中で顔を上げたミリィが不思議そうな顔をした。

「そうよ? アルトとバルトはお兄さまなの」
「そんなわけないわ! 妹にそんなでれでれするわけないでしょ!」
「私のお兄さまはみんな優しいの。ウィタノスも自国に兄がいるでしょう? 優しくないの?」
「うちはみんな私に跪くのよ!」
「……それの方が変だと思う」

 少し動揺した黒髪の美女は、後ろの青年を振り向いた。

「おかしくないわよね!?」
「おかしくないです」
「ほら!」

 ふふん、と笑って見せるが、ミリィはルーカスを見た。

「跪く兄と、妹に優しい兄、どっちが普通だと思う?」
「俺に聞く!? ……跪く兄はちょっと情けないかな? ……いや、俺意見聞かれただけだから!」

 黒髪の美女に睨まれ、慌てるルーカスが面白い。

「お、俺、もう行っていいんだよな? な?」
「いいよ。付き合ってくれてありがとう」
「おう! じゃあ、アルトさんバルトさん、あとはよろしくお願いします!」

 ルーカスはそそくさと逃げていく。
 さて。アルトと顔を見合わせ、とりあえずミリィを抱えたまま椅子に座る。

「ちょ、ちょっと! 本当に兄なの? 普通、膝に妹を乗せる?」
「うちでは普通です」
「……モニカ、俺の膝に乗る?」
「乗らないわよ!」

 なんだろう、本当に向こうは敵なのだろうか。試しに俺がミリィの頭に顔を乗せると、イライラした顔をこちらに向けてくる。面白い。

「ミリィ、この二人は?」
「トウエイワイド皇女と皇子ですって。皇女がウィタノス。なんだか、ミリィのことが好きらしいの」
「うん。そんな感じするね」
「え? バルトにも分かる? ミリィ嫌われていると思ってたのよ。殺すって言うくらいだし」
「好きなのに殺すと言っていると」
「そうなの、その事情を聞きたくて。ルーカスは前世の話は知らないでしょう? だからこの場にルーカスがいるのはちょっと……。でもアルトとバルトは一緒に聞いてくれる?」
「もちろん」

 昨日のシオンの話から、宮廷舞踏会に参加した国外の人物の中で名前が上がっていた人物に、この二人トウエイワイド皇女と皇子の名前もあった。まさか昨日の今日で再び遭遇したとカナンに聞いた時は焦った。事情があるなら、当然聞く。それでミリィが助かるなら。

「その前にこちらから一つ。この部屋にうちのものでない影がいるね? いるのが分かっているのに隠れられるのは嫌いなんだ。せめて話する間、目の前に出ていてくれないかな」
「……いいわ。だったら、そっちも出しなさいよ」
「分かった」

 トウエイワイド皇女にうちの影がバレていたか。
 それからトウエイワイド皇女の影が三人、こちらから影が二人、教室に現れる。

「これでいいでしょう。カルフィノス、聞きたいことというのは?」
「私を好きなのに殺したい理由を聞きたいの」
「……仕方ないわね」

 意外とミリィの言うことは聞くようである。拒否するかと思ったが。

 トウエイワイド皇女の話はこうだった。
 カルフィノスとウィタノスは神だという。双子の兄弟。兄カルフィノスは時の神、弟ウィタノスは夢の神。神には両親とたくさんの兄弟姉妹がいた。

「神って……神様の神?」
「そうよ。他に何があるのよ」
「ええ?」

 ミリィは首を傾げている。俺も傾げたい。話が初っ端から壮大になったな。

 兄弟姉妹でも性格は千差万別。人間のように気難しい神がいれば、優しい神がいて、イタズラ好きな神もいる。カルフィノスとウィタノスは双子だからか特に仲が良かった。カルフィノスはウィタノスのもの、ウィタノスはカルフィノスのもの、ウィタノスはずっとそう思っていた。しかしカルフィノスはウィタノスだけでなく、他の兄弟姉妹とも仲がいい。気難しかったり怖い性格の兄弟姉妹さえ、カルフィノスとは仲がいい。それがウィタノスは気に入らなかった。カルフィノスはウィタノスとだけ仲が良ければいい。カルフィノスにどれだけ訴えても、みんなと仲よくしよう、と笑顔でカルフィノスは言う。

 兄弟姉妹だけなら、まだ我慢できた。ところが、カルフィノスは今度は人間に興味を持ちだした。力も何も持っていないのに、愛があれば楽しく生きられる人間とは、なんて素晴らしいのだろう。そんな人間にあろうことか憧れ、カルフィノスはウィタノスを置いて、人間になると言い出した。

 人間になると言っても、神は神だ。本当に人間になれるわけないのだが、神にしか使えない遊びがある。それは人間の魂に乗り、疑似的に人間を体験すること。これを神の世界では遊戯という。

 カルフィノスは百回くらい遊戯をすると神の世界を飛び出して行ってしまった。頭にきたウィタノスは、カルフィノスの遊戯に乗っかる形で一緒に遊戯を開始した。百回遊戯をするならば、早くウィタノスの元にカルフィノスを返すために、百回カルフィノスを早めに殺せばいい。早く殺せば殺すだけ、ウィタノスの元にカルフィノスが早く戻ってくるのだから。

 カルフィノスを殺し、輪廻して転生を繰り返す。その度に、自分のカルフィノスが自分以外の特別な存在を作ることに腹が立った。自分以外が愛されることにイラついた。だから、いつからかカルフィノスが幸福に思う時を狙って殺すようになった。いつか特別な存在を作ることに嫌気がさしてくれればいい。
 特別な存在なのはウィタノスだけなのだ。そうでないといけない。

「だから前世で殺された場面が結婚式だったの? 一番幸せな時だったから? さっき好きな人はいるのか聞いたのも?」
「そうよ」
「前世の時、八九戦八二勝六敗一引分だと言っていたわよね。今回が九十戦目で、残り十戦あるのね。百回の遊戯が終わるまでに」
「そういうことね」

 ウィタノスの執着心は筋金入りだ。何度転生しても、カルフィノスの関心を自分にだけに向けたいのだ。さて、どうするか。

「ところで、トウエイワイドの皇子。君は姉のミリィ殺しに賛成しているのかな」
「モニカが望むなら」
「そっちの影三人も?」
「もちろんだ」

 ふむ、皇子はともかく、影三人はどのくらい皇女を大事に思っているのか。

「影三人に質問。皇女が三人で殺し合いをしろって言ったらする?」
「当然だ」

 おお。三人の影は間髪いれずに答えた。

「じゃあ、皇女が君たちに皇女自身を殺してって言ったらどうする?」
「それは……お受けできない」

 三人とも戸惑いの表情を浮かべた。これはいけるか?

「それはおかしいね。君たちは皇女の前世の話を知っているのだろう? 今回もし皇女がミリィを殺したら、皇女は自分で死ぬつもりだよ。いいの?」

 ミリィの前世の話では、毎回ミリィは殺された後、ウィタノスはすぐに転生するために後を追ってるのだ。
 皇子と影三人が皇女を見る。

「き、聞いてない! モニカ、違うよね?」
「皇女殿下!」
「べ、別に、そこだけ端折っただけでしょ! カルフィノスを殺した後、私をどうするかなんて勝手にするわ」
「だめだ、モニカ! それは看過できない!」
「そうですぞ、皇女殿下!」

 やはり知らなかったか。少し流れを変えられたならいいが。

「皇女が大事だろう。だったらミリィを殺すことを諦めさせたらどう?」

 ぐぬぬ、と皇子はこちらを睨み、そして皇女に向かって片膝をついた。

「モニカ、この女を殺すのはどうでもいいが、モニカが死ぬのは駄目だ。俺を置いていくのか? 俺にはモニカしかいないのに」
「私が死んだら、国に帰りなさい。あなたの居場所は、私が作ってあげたでしょ。戻ったからって誰もあなたを邪険にはしないわ」
「モニカ! 本当に死ぬつもりなのか!? それなら、この女を殺すのを協力しない!」
「なんですって!? もう少しなのよ? 目の前にいるのに! カルフィノスが大事な人を作る前に殺して私も死ぬの!」

 皇子の反対は予想通りだが、皇女はそれでも頑なである。
 ミリィが俺の手をぎゅっとつかんだ。

「ねぇ、ウィタノス。ウィタノスはカルフィノスの弟なのでしょう? 弟の時は仲がいいのではないの?」
「もちろんいいわよ! 当然でしょ!」
「仲が良いのなら、弟という立場では駄目なの?」
「それでは足りないの! カルフィノスは人間の時いつも弟以上に大事な人を作る。それが嫌なの!」
「大事な人って、例えば?」
「恋人や伴侶よ!」

 ミリィは首を傾ける。

「確かに恋人や伴侶って、大事な人だわ。でも、大事な存在であることが永遠に続くとは限らないと思わない?」
「え?」
「もちろんずっと仲が良くて大事だと思う恋人や伴侶は大勢いるわ。けれど、別れる人もいるでしょう。恋人や伴侶って、実はそんなに硬く結びついた存在ではない気がするの。だって嫌いになることもあるでしょう。嫌なことがあったら? 浮気されたら? 大事な存在だからこそ、もし裏切られたら好きだった以上に嫌いになる可能性もあるもの。憎むことだってあるかもしれないわ」
「……」
「そういう存在が、ウィタノスは本当に羨ましい?」
「……で、でも」
「恋人や伴侶は大事だけれど、同じくらい大事で最強の存在がいるの、知ってる?」
「最強?」
「友達よ」
「何よ、友達? そんな軽い存在……」
「軽いのは上辺だけの友達でしょう? 利害で繋がっているだけだったり、優劣を付けたがるだけの上辺だけの関係のことではないの。本当の友達、心が繋がった友達は、恋人や伴侶と同じくらい結びつきが強いと思うの。本当の友達なら、お互いを尊重するし、大事にするし、たくさんの時間を一緒に過ごすでしょう。お互いのことを相談したり一緒に悩んだり、一緒に大切な時間を過ごすのよ。そういう大事な友達なら、もし恋人や伴侶と別れてもずっと一緒よ。一番良いのは、お互い結婚したとしても、近くに住むの。そしたら、一緒にお茶したり遊んだりお話したり、時には旅行なんかも一緒に行ける。絶対に楽しいわ」
「……」
「おばあちゃんになるまで一緒にいれるのよ。素敵だと思わない?」

 なんか読めた。ミリィの思惑が。俺の手を握るミリィの手は震えているけれど。

「小さいころからウィタノスがいつか来ると思っていたから、女友達が欲しくても作れなかったの。今まで一度も女性の友達がいないのよ」
「……」
「ウィタノス、一度くらい殺し殺されで早死にしなくてもいいんじゃないかしら。私、女性の友達が欲しいの。恋人や伴侶と同じくらい、ううん、それ以上に結びつきの強い友達。そう、親友!」
「親友……」
「ウィタノスなら私の親友になれると思うの。だってウィタノス、ほとんど初対面なのに、私が好きでしょう? 私が好きなら、親友になっても私を大事にしてくれるわよね?」
「だ、大事にするわ」
「そうでしょう! 私だって、ウィタノスが親友になるのなら、すごく大事にするわ! 私の大事な親友になってくれる?」
「な、なるわ!」
「おばあちゃんになるまで、一緒に元気に遊びましょう!」
「分かったわ!」

 落ちた。皇女を説得したミリィには驚くばかりだ。

「じゃあ、もう現世では、私を殺さないでね? 約束よ? 約束するなら、今日親友のウィタノスをダルディエ邸に招待するわ」
「仕方ないわね! 約束するわ! 親友だものね! 初めて親友の家にお呼ばれするなら、手土産が必要よね!」

 皇女は嬉しそうに皇子に告げているが、皇子も影三人も態度が急変した皇女に唖然としている。
 ミリィはふーと息をつきながら、緊張状態だった体を俺に預けてきた。

「お疲れ様。がんばったね」
「うん……おうちに帰ったら、ミリィを甘やかしてくれる?」
「もちろんだよ」

 俺たちもほっとした。これで小さいころからの一番の憂いが取り除かれたことになる。正直、ウィタノスには、これで済ませたくない、という気持ちはある。これまでミリィを苦しませて怖がらせてきたのだ。それ相応の報復を受けさせる気だったけれど。

 ミリィは小さいころから殺されることに怯えながらも、だからといってウィタノスを殺したくないと思っていることも知っている。もしミリィが殺されそうなら、その前に始末する予定だったけれど、できることならミリィの殺したくないという希望も叶えてあげたいとは思っていたのだから。

 とりあえず帰ったら解決を兄たちに報告しなければ。そんなことを思うのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。