七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 153話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 153話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」153話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 153話

 ウィタノスとの邂逅の次の日。
 テイラー学園へ向かっていた。今日は講義がある日だ。寝不足だったけれど、家にいても何も解決などしないのだ、だからいつも通りの生活をする。
 ただ、兄たちにより、今日から見えないけれど影が二名付けられた。アナンとカナンもいつも以上に警戒していた。
 学園に入り、とぼとぼと教室へ向かいながら、ウィタノスのことを考える。異国の服を着ていたのだから、どこか国外の人なのは間違いないだろう。隣にいた青年も異国の服を着ていた。見た目の容姿は前世の日本人のようだけど、着ていた服は中華風のドレスだった。
 宮廷舞踏会だから、国外からの客人は何人もいた。その中でもあの服装の国の人間を探すのは、そう難しくないだろう。兄たちが今調査してくれている。

 教室へ入る。挨拶をしながらいつもの席へ近づいて行っている途中、私たちに近づく人物がいた。それを見た途端、びくっとして持っていた鞄を落とす。

「ウィタノス」
「カルフィノス、昨日振りね!」

 ウィタノスの後ろには昨日もいた青年がいて、二人共学園の制服を着ていた。

「……どうして」
「ああ、これ?」

 ウィタノスは制服を指すと笑う。

「復帰したの。一年近く休学していたのだけどね」

 いま気づいたが、私とウィタノスの間にはアナンが立っていた。どうする? 昨日よりまずい状況だ。背中に汗がつたっていく。

「ミリィ、おはよう。どうした? あれ、トウエイワイド皇子と皇女? 休学明けたのか」
「ルーカス……」

 ウィタノスはルーカスを一瞥するだけで無視である。

「何? ミリィ、知り合いだった? 学園での時期はかぶってないよね」
「今はミリィっていうのね。まだ今回は調査不足だから、カルフィノスの自己紹介が欲しいわ」
「カルフィノス?」

 ルーカスが不思議そうな顔をしている。どうせ調べられたら分かるので、名前くらいなら言ってしまってもいい気がした。

「……ミリディアナ・ルカルエム・ル・ダルディエよ」
「私はモニカ・リィル・トウエイワイドよ。ウィタノスでもモニカでもどっちで呼んでもいいわ」

 ウィタノスが手を差し出す。なんだ? 差し出された手を見た。

「握手でしょう。はい、お手」

 条件反射で手を差し出す。ウィタノスは笑って私の手を取ると、上下にふった。

「そんなに怖い顔しないで。こんなところで取って食いやしないわ」

 そして先生がやってきたので、みな席に着く。

「あ、おい!」

 足の力が抜けて、ルーカスが支えてくれた。ルーカスに支えられながら、席に座る。

「大丈夫。ありがとう、ルーカス」

 困惑の表情を浮かべながらも、ルーカスも自身の席に戻っていった。
 カナンが心配そうにこちらを見ている。たぶん青い顔をしているだろう。

 ルーカスはトウエイワイド皇女と皇子だと言っていた。復帰したということは、私が入る前に自国に戻っていたということだろう。以前ルーカスが同学年で休学している女子が四人いると言っていたが、そのうちの一人がウィタノスだったのだ。

 さきほどウィタノスと握手をした手を見る。当然ながら人間の血の通った細い手だった。あの手が私の命を狙っているのだ。こんなところで取って食いやしないとは言っていたが、それは学園内では殺さないと言っているのだろうか。

 講義なんて頭に入ってこなかった。ぐるぐるとウィタノスのことばかり考えていた。
 そして講義の合間の休憩時間。ルーカスを誘い出し、空いた教室に入る。

「何? どうした?」
「ウィタノスのことなんだけど」
「ウィタノス?」
「あ、違う……モニカ、トウエイワイド皇女のこと」
「ああ、うん。さっきのやり取り、知り合いなの? 知り合いじゃないの?」
「知り合いじゃないけど、知り合い」
「どっちよ?」
「もう、どっちでもいいの! それより、トウエイワイド皇女は四年生の時はこの学園にいたのね?」
「トウエイワイド皇女も皇子も四年の時一年間はいた。その後帰国して、今回戻ってきたんだよ。ミリィと入れ違いだな」

 四年の時に会わずに済んでよかったけれど、結局今回会っているのだから、運がいいのか悪いのか。

「トウエイワイド皇女とルーカスは仲いいの?」
「仲いいも何も、あの二人、いっさい他の生徒と話さないよ。俺もいつも無視されるし。せっかく美男美女なのにな? あの皇子は皇女の弟らしいんだけど、皇女の言うことしか聞かないしな。女生徒にも人気なんだけど。皇女なんか他人を虫けら見たいな目で見るんだよ。それがクセになるって言っている男子もいる。だから今日ミリィと仲良さげでびっくりした」
「仲良くない。その反対なんだから」

 殺されようとしているのに、仲が良くてたまるか。
 私たちしかいないはずの教室のドアが開いた。トウエイワイド皇女と皇子が入室してくる。

「わあ!」

 驚いて何かに縋りたくて、ルーカスの腕をつかむ。

「やだ、そんなに意識してくれて嬉しい! でも、そんな男に私たちの情報聞かないで、私に直接聞いてくれればいいのに」

 アナンとカナンが警戒する中、扉を閉めるとウィタノスがこちらに近づいてくる。

「ねえ、そこの。いつまで私のカルフィノスに触れているの? 離れなさいよ」
「カルフィノスってミリィのこと?」
「他に誰がいるのよ。ねえ、カルフィノス、私とお話しましょう! もちろん二人っきりで」
「嫌!」
「……そいつがいるからね? いいわ、今すぐ始末し……」
「だめ! ルーカスを殺しちゃだめ!」
「殺すぅ?」

 ルーカスは何が何やら、と私とウィタノスを見比べている。

「昨日の黒装束の人も呼んじゃだめ!」
「黒装束? ……ああ、あれは忍よ」
「忍? ……とにかく、その忍も呼んではだめ!」
「ダメダメばっかりね」
「わ、私と話したいなら、ここでルーカスも、私とウィタノスの間に挟むのなら、いいわ」
「何言っているの。邪魔でしょ」
「邪魔じゃない」

 じーとウィタノスはこちらを見て、ふんと鼻を鳴らすと近くの席に座った。

「まあいいわ。最初だもの、許してあげる」

 ホッとしつつ、ルーカスは前に座ってもらい、私はその後ろからルーカスの腕を握って席に座る。ルーカスの腕は防波堤のつもりだ。
 ウィタノスの後ろには、トウエイワイド皇子とかいう弟が立ってこちらを見ている。威圧感があるな。

「ウィタノス、話って何?」
「いつもは現世でのカルフィノスを調査しきってから会いに行くのだけれど。今回は会うのが先だったから、調査不足なの。どうせ調べれば分かるけれど、カルフィノスから聞くのも一興かしらって思って」
「私から全て聞いたら、どうするの?」
「そりゃあ決まっているでしょう? 私自ら息の根を止めてあげる」
「もう殺されるのは嫌なの!」
「じゃあ殺せばいいじゃない、私を」
「……それも、嫌なの」
「あらあら、今回は甘ちゃんなのねえ。そういうカルフィノスも可愛いわ」

 余裕の笑みを浮かべ、ウィタノスはこちらの反応を楽しんでいる。
 結局、どうせ調べられれば分かると思い、家のこと、両親、兄たちの話をした。ウィタノスはトウエイワイド帝国の皇女で十六人兄妹の八番目らしい。グラルスティール帝国に私が絶対いるという気がして、やってきたという。どんな勘が働いているのか。恐ろしい。

「好きな人は? 婚約している人とかいるの?」
「……好きな人はいるけど?」

 なぜそんなことを聞く。
 ウィタノスの眉がぴくっと動いた。

「まさかその男じゃないでしょうね」
「ルーカスではないよ」

 ルーカスが私においでおいでと手をふるので、近寄ると耳打ちしてきた。

「さっきから殺すとか殺されるとか何なの?」
「ミリィが命狙われているの! ミリィが嫌いなら、ほっといてくれたらいいのに」
「……逆じゃないの?」
「逆?」
「ミリィを嫌いじゃなくて、好きなんじゃないかっていう話」
「……まさかあ」

 まさかね? 嫌いなんだよね? 嫌いだから転生しても追ってきて私を殺すのでしょう?

 ――バンッ

 びくっとしてウィタノスを見ると、テーブルを叩いた後立ち上がり、ルーカスに指を指す。

「いい加減に離れなさいよ! 本当にカルフィノスの好きな男じゃないんでしょうね!?」

 私もルーカスも顔をぶんぶんとふる。これは逆らってはいけないやつ。でもね?

「確かめるべきかな?」
「何を?」

 こそっとルーカスに言うと、ウィタノスから目を離さないままルーカスが聞いてくる。

「ルーカス、ごめんね?」
「え?」

 ルーカスの頬にキスをする。ルーカスは驚き、そしてウィタノスが唖然とすると、鬼のような形相になりルーカスの胸倉をつかんだ。

「やっぱり! カルフィノスの記憶から消去……」
「待て待て待て! 違うから! ミリィも止めろよ!」

 あれあれ? 私が嫌いなのではないのか?
 ぎゃあぎゃあ言い合っているのを横目に、なんだか意味が分からなくなってきた。おっといけない。

「ウィタノス、ルーカスは今実験台になっただけだから、離してあげて」
「は? 実験台?」
「ルーカスが言うの。ウィタノスは私が好きなんじゃないかって。だからルーカスにキスしたら、どんな反応するかなって」
「おまっ、本当勘弁しろよ! この人だけじゃないんだからな怒るの! 睨んでくる人が多数いるんだぞ!」
「先に謝ったでしょ?」

 ウィタノスの顔は少し赤くなっていて、ゆっくりとルーカスの胸倉を外した。

「だから何よ……そうですけど!? いつもそうよね! いつも私ばかり!」
「えええ。私好かれてたの? 嫌われているんだとばかり」
「これだから記憶無しは! いつ私が嫌ったのよ! 好きだから早く私だけのカルフィノスに戻したくて殺してたんじゃないの!」

 え、理屈が分からん。
 もしかしたら、聞けばいろいろと答えてくれそうな気がしてきた。

「ねえ、ウィタノス。色々聞いたら、もしかして答えてくれる?」
「何が聞きたいのよ?」

 あ、答えてくれそうだ。

「じゃあ、私のお兄さまがもう少ししたら来ると思うの。一緒に聞いてもいいでしょう? そのかわり、ルーカスをこの場から外すから」
「お兄さま? ……まあいいけれど」
「ありがとう! カナン、もうすぐアルトとバルトが来るから、ここまで連れてきてくれない?」
「で、でもお嬢様」

 警戒心からウィタノスから目を離さないカナン。

「大丈夫、アナンもいるもの。お願い」
「……わかりました」

 ふーとため息をつく。私を殺す気満々のウィタノスだけれど、今は私のことを知りたいようだからすぐに殺されることはないだろう。昨日ウィタノスと会ったことを聞いた双子が、今日指南役を同僚に代わってもらって学園に私の様子を見に来ると言っていたのだ。
 それに少し希望が見えた気がする。説得次第では、ウィタノスに殺されなくとも済むかもしれない。こう考えてしまうのは、私が甘ちゃんだからだろうか。

「ところで、後ろのトウエイワイド皇子? は弟さんなのね?」
「そうよ、私の犬」
「犬……」

 トウエイワイド皇子は顔色一つ変えず、すごく冷めた目でこちらを見ている。

「あの、トウエイワイド皇子? お姉さんに犬と呼ばれてますけれど」
「だから何だ」

 姉の犬呼び、了承しているんですね。

「えっと……お姉さんの事情は全て知っているのですか?」
「当たり前だろう。でないと、いつでもどこでもモニカの言う通りに動けない」
「ふふん、ちゃんと躾てるの」

 得意げに笑うウィタノス。
 すごい、姉弟間で主従関係が出来上がっている。

「ルーカスのうちも、あんな感じ?」
「んなわけないだろ。俺は次期公爵だぞ? ……まあ、姉はうるさくはあるけれど」

 やはりルーカスの家も少しは姉が強いのだろうか。

 そんな少しだけ心が落ち着く会話をしながら、双子を待つのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。