七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 146話 アルト視点

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 146話 アルト視点

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」146話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 146話 アルト視点

 今日はテイラー学園で剣技の指南役をするため、俺とバルトは学園入りした。学園の者は気づかなかったが、一緒にダルディエ公爵家の影が入っていた。

「俺らが帰る頃に集合ね」
「かしこまりました」

 姿は見えないが、どこからともなく御意の返事が聞こえた。
 実は指南役をするまでにはまだ時間がある。早めに学園内入りしたのは色々と理由があるからだ。ちらほらといる女生徒がこちらを見ていたので微笑んで手をふると、嬉しそうに手をふり返される。俺たちのいつもの光景である。

「アルトさま!」

 見知った令嬢が声をかけてきて、それから周りに女生徒が集まりだした。バルトと一緒に他愛もないけれど楽しく話していると、今日話を聞こうと思っていた人を見つける。

「ルーカス」
「あれ? アルトさんとバルトさんじゃないですか!」

 友人と思われる男子生徒から離れ、ルーカスが近寄ってくる。俺たちは周りにいた女生徒たちに残念がられながらも、ごめんねと言って離れた。

「どうしたんですか? 何でいるんですか?」
「剣技の指南役なんだ」
「そうなんですか! あとで俺と模擬戦してください!」

 ルーカスは相変わらずの剣技バカのようである。

「わかったわかった。それより聞きたいことがあるんだけど。ミリィを好きそうな男子生徒ってどれくらいいそう?」
「え? うーん、なんか護衛がいるし笑わないし近寄りがたいって言われていて、同学年では四人くらいかな。この前デビューしたところを見たって奴が、笑っているところが可愛かったって言って好きになったようでした。そういう奴が数名増えているかもしれないですね。ちょっと学年が違うと好きかどうかは分からないけど、何人かミリィのことを聞きに来た人はいますよ」
「ああ、やっぱり。思ったより釣れてるなあ」
「ミリィは無表情でも、あの可愛さは漏れ出てるからねぇ」
「相変わらずですね。まだ剣技の時間には早いですよね。ミリィの調査ですか?」
「分かってるね! さすがルーカス。お前は好きになるなよ」
「なりませんよ……恐ろしい兄が大量にいるのに」

 ルーカスがわざとぷるぷると震える様子をみせる。

「でも兄たちがミリィに構いすぎると、あいつ結婚できなさそうなんですけど」
「俺らはそれでもいいからね。あんなに可愛いミリィを誰かにあげるくらいなら、一生俺らの籠の中に閉じ込めておこうと思ってるくらいだから」
「……異常ですよ」

 ルーカスが引き気味に言う。

「大丈夫、異常なのは分かってて言っている」
「ルーカスは俺たちの敵とならないよう気を付けてね」

 俺たちの言葉に若干呆れた表情を浮かべつつも、ルーカスは逆らうつもりはないというように軽く手を挙げる。

「分かってますって。言っておきますけど、俺が面倒見れるのは同学年だけですからね。他は目が行き届かないし」
「それでいいよ。余計な虫は断ち切っておいて」
「それはいいとして。ミリィが学園に復帰してから、なんか様子が変なんですけど。あれ何なんですか? ミリィは笑ったら駄目とか、無表情とか言ってるけど。何か企んでます?」
「やっぱりルーカスには分かっちゃうかあ。ミリィが笑っちゃダメなの! って言って頑張っているところ可愛いでしょ」
「会うたびに、無表情頑張ってるの! って報告してくるところがたまんないよね」
「やっぱりミリィで遊んでるんですね……」

 そうなのだ。ミリィには笑顔を奪う天恵がいるらしいと言ってあるが、そんなものいるわけない。それなのに、俺たちの言うことを健気に守るミリィが可愛すぎる。

「ルーカスもさっき言ってたでしょ。宮廷舞踏会でミリィが笑っているところを見て可愛いって言っている奴がいるって。笑ってなくても可愛いのに、笑ったらどれだけ男をひっかけると思ってるの? 今の内に予防しておかないとね」
「うわぁ……その先読みが当たっているところが何とも言えない。そういえば、アナンとカナンは一緒になって無表情ですけど、あれは?」
「あの二人は分かっててやってる」
「……ミリィが不憫」

 そんな話をしていると、遠くからミリィとアナンとカナンが歩いてきている。

「お、うちの子がこっち来てるよ」
「まだ気づいてないね」

 言いつけを守って無表情で歩いている姿が可愛い。

「ルーカス見ててよ。ミリィがこっちに気づいたらどんな顔するか」

 ルーカスがミリィを見る。まだミリィはこちらに気づいていなかったが、カナンが俺たちに気づいてミリィにそれを伝えたようだった。ミリィはこちらを見ると満面の笑みになる。走ってこちらへ来たいところをぐっと我慢して早歩きしだした。

「あーあ。無表情をすっかり忘れて笑ってる。可愛すぎると思わない? ルーカス」
「思いますよ。アルトさんバルトさんが大好きって全身で言ってますね」
「でしょでしょ。俺には尻尾をぶんぶん振っているように見える」
「俺も。見てよ、横にいる男子、顔を赤くしてる。あとでルーカス釘を指しておいてね」

 ミリィが俺に抱き着いた。

「アルト! バルト! どうして? 今日来るって言ってなかったのに! 会えてうれしい!」

 腕の中から顔だけ上げたミリィは、相変わらず笑っていて可愛いので、バルトとルーカスに目くばせすると、二人はミリィを他から見えないように壁になるよう立ち位置を変えた。

「急きょ、今日指南役だった人と変わる事になったんだ。ミリィの顔が見たかったから、予定の時間より早めに来たんだよ」
「そうなのね。あ、でもこの後まだ講義があって、一緒にいれる時間があまりないの」
「そういう寂しそうな顔も可愛くて好きだけど、あまり残念そうにしないで。今日の夜は家に帰るからね」
「本当!? 嬉しい!」

 うん、すごく可愛い。最高。と、そんなことを考えていると、バルトが視線を外していた。

「どうした?」
「ん? いや、南公の令嬢がこっち見てるなと思って。すごい表情で」

 バルトの視線を追うと、確かに睨んでいる豪奢な美人がいる。

「ウェリーナ嬢がまた見てるの?」

 ミリィが俺の服を握っている手にぎゅっと力を入れた。

「また?」
「いつもミリィを睨んでるの。ウェリーナ嬢のこと、アルトとバルトは知っているの?」

 いつもミリィを睨んでいる? バルトと顔を見合わす。

「一度ウェリーナ嬢とはお茶をしたことがあるよ」

 しかしその時は俺たちに負の感情はなかった。ツンツンしてはいるが、どちらかというと俺たちに好感を持っているように感じたものだ。だがミリィを睨む理由は?

「ミリィ、ウェリーナ嬢のことは俺たちも気にしておくからね。他に気になる人はいる? 女性でも男性でもいいよ」
「え? えっと……」
「ああ、あれだね」

 言いづらそうにしたミリィの耳に口を近づけて小声で言う。

「イリス・ル・フラルバル伯爵令嬢のことは話は聞いてる。あと植木鉢の件は調査中」

 はっと俺を見るミリィに、安心させるように笑みを浮かべた。

「それらの件ならミリィは気にせずにいていいよ。俺たちに任せて」

 目をぱちぱちと瞬きし、少しほっとした顔でミリィは頷いた。

「それ以外で気になる事はある?」
「ううん、大丈夫」

 そろそろ行かなきゃ、というミリィに、無表情の注意を促し、ミリィは言いつけ通り無表情で手をふって去っていく。

「何かあったんですか?」
「いや。ルーカスは今まで通り、同学年については任せるからね」

 ルーカスも去っていく。
 俺たちは少し早いが剣技の訓練場へ向かう。

 ウェリーナ嬢、イリス嬢、そして植木鉢。ミリィの憂いは俺たちが取り除かなくてはならない。

 ミリィは今年十七才になるが、まだまだ子供である。ミリィと比べると、俺たちの十七才だった頃は、すれ過ぎていて全く可愛くなかった。ミリィは体はほとんど大人になってきているが、いまだ俺たちに何でも報告してくれるし、好きな人の話も素直に話してくれる。そうかと思うと、俺たちの彼女との大人な話を、恥ずかしげもなく聞いて楽しそうにしている。

 どこかちぐはぐなミリィであるが、前世の記憶があることを考えると、おかしな話でもない。時々前世の話をしてくれるミリィは、前世では婚約者がいたと言っていた。だから大人の関係的な話なんかも知識としては知っているのだろう。俺たちが小さいころに面白がって恋愛本を与えたけれど、その頃からこんな本恥ずかしい! そんなことを一欠片も思わないようだった。大人としての知識は持つくせに、恋に恋するようなことを言うかと思えば、すごく甘えたがりで子供で、純粋で素直で無邪気、そんないろんな表情を持つミリィから目が離せないのだ。

 あんなに可愛いミリィを泣かせていい権利を持つのは、兄である俺たちだけである。他でミリィが泣かされるようなことは、俺たちが許さない。

 学園に一緒に入ってきた影を後程回収することになっている。色々と分かるといいのだが。さあ、どうかたを付けようか。バルトと共に歩きながら思案するのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。