七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 145話

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 145話

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七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~」145話
 

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない~転生令嬢日記~ 145話

 社交界デビューが終わった後に学園へ通学すると、やたらと視線が私に向いていることに気づいた。学園に通うようになってから二か月近くは立っている。最初は見覚えのない生徒が歩いているからか、視線が集まっていたものだが、私に慣れたのか最近は注目を集めることもなかったのだが。

「なんだと思う? あれかな、ハイヒールが話題になっているとか?」

 一緒に歩いているアナンとカナンに聞いてみる。

「お嬢様のハイヒールの立ち姿は、とても美しかったですからね。ハイヒール姿だけでなく、ドレスがとてもお似合いで女神のようでしたから、そちらが話題なのかもしれませんね。もしくはダンスの……」
「アナンはどう思う?」

 カナンの賛美は止まらなくなるので、ぶった切る。

「俺は当日は会場に行かなかったから分からないけれど、ハイヒールは話題になったと聞きましたしね。ありえます」

 やはりハイヒールの件かもしれない。
 デビューした次の日、ティアママに早速呼ばれ、ジュードと共に皇妃宮へ参上したのだ。ティアママはいくつかハイヒールを注文し、また謁見でもティアママが話題にしたことで、ジュードのレックス商会には次の日から注文が相次いでいるという。またドレスも話題になっているようで、前が短くて後ろが長いドレスの問い合わせも来ているとジュードが言っていた。
 ママと二人で広告塔をした甲斐があるというものである。

 教室に入ると、同級生たちがわらわらと集まってきた。ハイヒールの件ならレックス商会へ問い合わせるようお願いしようかと思っていたのだが、話題は私がカイルと踊ったことにあるようだった。

「ミリディアナ令嬢、皇太子殿下と舞踏会で一曲ご一緒されたとお聞きしましたが、本当ですの?」

 先日の宮廷舞踏会に参加していない人もいるので、噂の真相を確かめたいようだった。興奮したように目をキラキラさせていて、令嬢たちが怖い。

「え、ええ」
「きゃあ! 本当の話なのですね! あの皇太子殿下と踊れるなんて! 羨ましいです!」
「皇太子殿下は令嬢をお誘いにならないって有名ですのよ! いつも踊るとすれば、従姉弟のサヴァルア侯爵令嬢くらいで」

 サヴァルア侯爵令嬢はカイルの父方の従姉弟である。皇帝の姉の子なのだ。私は面識がないのだが、カイルと同じ年だと聞いている。

「わたくしも母方の従兄妹ですから。いつもカイルお兄さまには妹として可愛がっていただいていますの」
「まあ! そのように親しくお呼びしておられるのね。お噂ではあの皇太子殿下が微笑まれていたとか! 見たかったですわ! 私も参加すればよかった!」

 すごいな、カイルの笑顔はレア度が高いようである。ちなみにだ、カイルと呼んではいるが、カイルの正式名はグレイムアンルイスカイル・フレイム・ル・グラルスティールという。カイルは通称なのだ。親しいものはみんなカイルと呼ぶが。

 しかし、まさかカイルと踊ったことが話題になっているとは。まったく思いつきもしなかった。

 結局、その日は何度かカイルの話題をふられた。みんなカイルとは年齢が違うため、まだ接触したことのない人もいるようである。また普段から無表情かつ冷静なイメージがあるらしく、宮廷舞踏会に参加した人の中には、あの笑顔が見られたことを幸運だと頬を高揚させて話していたものもいた。笑っていたとはいえ、若干口角が上がっていただけのような気がするが、確かに普段笑っている姿を見ないのだから珍しいと思うのも分かる。

 私からすると、他の兄たちと同様に甘やかしてくれるし、笑ってくれるし、無表情よりも笑っている印象の方が強い。しかし出会ったばかりのころは、確かに無表情だったと、懐かしく思う。

 それから数日もすればカイルの話題を聞かれることはなくなったものの、南公の娘ウェリーナがどこからか睨みながら見ているのが気になる。またもう一人、六年生の女生徒が私を敵対視するようになった。その相手はイリス・ル・フラルバル伯爵令嬢で、少しきつめの目をしているものの、美人な人で、私とは一度も話したことがないが、どうやら私のことを周囲に文句を言っているようだった。

「皇太子殿下の従兄妹だからって、その権威を振りかざす様なことをするのはどうかと思いますわ」
「まさか、あんなお子様が、まかり間違って皇太子殿下の婚約者になりたいなど厚かましい」
「綺麗などともてはやされているのは、公爵家の娘だからでしょう。それを自分が本当に美人だから褒められているなどと勘違いしているらしいわ」
「あの髪がキラキラして綺麗ですって? キラキラではなくてギラギラでしょう? あんな毒々しく光る髪なんて、眩しくて見られやしないわ。目に毒とはこういうことをいうのね」

 などなど。わざと私の耳に入るように言っているのではないかというくらい、私の側で分かりやすく陰口を言うので聞こえるときがある。

 私がカイルの件で周りに言ったのは、「カイルお兄さまには妹として可愛がってもらっている」くらいのことしか言っていない。皇太子であるカイルのことを私がペラペラと話すわけにはいかないからである。なのになぜ、いつ私がカイルの権威をかざしたのか、カイルの婚約者になりたいなどと言ったのか、もう色々と突っ込みたいところだが、私に直接言って来ない以上、言い返すこともできない。

(さすがに髪の毛が毒々しいと言われたのは、泣きそうになったけれど)

 私のママ譲りの神髪は確かにキラキラしていて目立つ。小さい頃は金髪のカツラをかぶって変装していたくらいだ。けれど髪自体は虹色に輝いて綺麗だし大好きなのだ。ママの髪を見ていると、本当に美しいと思う。そんなママから譲られた髪を誇らしく思っている。だからあんな言い方をされると腹が立つ。

「あの女、ちょっとしめてきましょうか」
「だめよ、カナン」
「大丈夫です、証拠は残しません」
「それでもだめ。気にするだけ無駄よ。ああいう人は、私がやってなくても、私がやったと騒ぎそうでしょう」

 そんな感じで、周りは若干騒々しかったものの、普通の毎日を過ごしていた日。別棟での講義のため、中庭を移動していた時、急に後ろからアナンが私の腰を引き寄せた。

「お嬢様!」

 そこに落ちてきたのは、植木鉢だった。地面にぶつかった植木鉢はバリっと割れ、咲いていた花と土が散らばる。一瞬前までそこにいた私の心臓がバクバクと大きい音を立てて耳の横で鳴っている。

「大丈夫ですか」
「う、うん」

 アナンの冷静な声に少しだけ落ち着き、支えを外してもらう。カナンが上を向くが、そこには開いた窓があるだけだった。

「すぐに見てまいります!」
「カナン! いいの!」
「でも!」
「お願いカナン。そばにいてくれる?」

 私と上の窓を見比べたカナンだが頷いた。
 どうせ今から上を見に行っても、犯人など逃げ去った後だろう。それよりも、誰かが見に来るかもと待ち伏せされている可能性を捨てきれない。そうなれば、カナンだって危ない。

「先生に報告だけしましょう」

 私はカナンとアナンを連れて、報告に向かうのだった。

まとめ

お読みいただき、ありがとうございます。
次回に続きます。